2021年3月 7日公開
オープン戦が始まり、ライオンズの若き先発陣を見ていて思うことがある。それはボール以上に、自らのメンタルを上手くコントロールできていないように見える、という点だ。かつてヤンキース往年の名捕手ヨギ・ベラは言った。「野球は90%がメンタルで決まり、残りの半分がフィジカルだ」と。この言葉は未だに野球界で語り継がれているアフォリズムのひとつだ。
10年ほど前だろうか。実はライオンズにもメンタルトレーナーが在籍していたことがあった。筆者自身、そのメンタルトレーナーがライオンズを去ったのちにその方と数回お話をさせていただく機会があった。果たして現時点でライオンズにメンタルトレーナーは在籍しているのだろうか。もし在籍しているのであれば、あまり効果が表れていないように感じられるし、在籍していないのであればすぐにでも雇うべきだ。
ちなみにメジャーリーグの場合は各球団にメンタルコンサルタントという役職の専門家が在籍している。つまりアメリカでは、日本以上にメンタルを重視した野球をしているということだ。しかし日本は未だに「根性論」が根強く残っている割には、メンタルトレーニングを疎かにしているケースがほとんどだ。これはプロでもアマチュアでも同様だろう。
今季ローテーションの軸として期待されている松本航投手、今井達也投手、浜屋将太投手らは皆素晴らしい能力を持っている。普通に実力を発揮できれば全員が二桁勝利を目指せるようなレベルだ。だがその肝心の実力を発揮できる確率がなかなか上がって来ない。3人とも調子が良い時は素晴らしいのだが、その良さがなかなか続かない。
これはもちろんフィジカルの疲労度なども影響してくるわけだが、それ以上にメンタルが影響していると考えられる。オープン戦での上記3投手を見ていると、「ローテーションに加わらなければならない」「結果を残さなければならない」「試合を組み立てなければならない」というように、「〜しなければならない」と考えながら投げているようにしか筆者の目には映らない。だがこの考え方はスポーツメンタルを強化するためにはタブーとなる。
そしてもう一つ思うのが、3人とも集中力が欠けているように見えるのだ。と言ってももちろん、小さな子どものように注意力が散漫になっているという類のものではない。あくまでもスポーツメンタルという意味に於いて集中力を欠いているように見えるのだ。
ではプロ野球選手に必要な集中力とは?ここではハービー・ドーフマン氏の言葉を引用したい。ドーフマン氏は現在は辣腕エージェントであるスコット・ボラス氏のクライアントらをサポートしているメンタルコンサルタントで、それ以前はアスレティックスやマーリンズでメンタルコンサルタントを務めていた。その彼曰く「選手がメンタルな鍛錬を築くことができるようサポートし、次の1球に集中するタスク限定型のアプローチに取り組ませる」ことが、彼が選手たちの集中力を高めるために行なっていることだと言う。
そしてさらに、エンゼルスなどでメンタルコンサルタントを務めているケン・ラビザ氏も「マイナーリーグにも、余計なことに気を紛らわされずにプレーできれば、メジャーでプレーできる選手は大勢いる。故にメンタルスキルトレーニングの最重要テーマは、日々、タスクを限定し如何に1球1球に集中してプレーすべきかを学ぶこと」と語っている。
だがライオンズの若き先発陣はどうだろうか。マウンド捌きを見ていると、あれもこれもやろうとしていてバッターとの勝負の前に、自分自身との勝負に手こずっているように筆者の目には映っている。野球はプロセスが非常に重要なスポーツだ。だがこのプロセスとは、目指している明確な結果があるからこそプロセスとして機能していく。だがライオンズの若き先発陣は時々、目指したい結果の形が有耶無耶な状態で、プロセスだけを良くしようとしているように見えるのだ。言い換えれば、目的地がないのに地図を眺めていても仕方がない、ということだ。
野球のフィジカルスキルに関しては、チームの投手コーチに相談をすればほとんどのことは解決法を見出せるはずだ。だがメンタルに関しては監督やコーチは専門外であり、メンタルスキルトレーニングの方法を選手たちに指導することはできない。そのため若き選手たちは、タスク限定型の取り組み方が必要であるという結論まで辿り着けずにいる。
オープン戦に入ってからまだローテーションが内定するようなピッチングを見せられていない投手たちに足りないのは、フィジカルでの技術ではないと思う。もちろんフィジカルももっともっと上のレベルを目指せると思うが、しかし開幕までにいきなりそこに辿り着くことは難しい。だがメンタルスキルであれば、今まではメンタルスキルの基礎が身に付いていなかった分、開幕までの期間で基礎を身につけるだけでもパフォーマンスが変わっていくはずだ。なぜならば、野球は90%がメンタルのスポーツだからだ。
ライオンズの若き先発陣は、すでに二桁勝利を目指せるだけのフィジカルは備わっている。あとはタスク限定型の取り組み方をマウンドでできるようになれば、実際すぐにでも二桁勝利を挙げられるようになるだろう。そしてメンタルという意味では現在、髙橋光成投手が一歩リードしている。髙橋投手は昨年から上手くメンタルを制御できるようになり、調子が悪くても冷静さを失わず、どうすればアウトカウントを増やせるのかと、ある程度タスクを限定できるようになってきていると思う。だからこそ開幕投手に選ばれたのだ。
理想を言えば髙橋投手、松本投手、今井投手、浜屋投手の若き先発カルテットで50勝以上を挙げることだろう。そして残りの30勝を他の先発陣やリリーバーで稼いでいくことができれば、ホークスとも互角以上の戦いができるはずだ。だがそのためにも若き先発陣はフィジカル以上に、今はメンタルを一段も二段もレベルアップさせていく必要があると、筆者はオープン戦を見ながら感じたのである。