2023年12月 6日公開
全盛期は「おかわり君」として全国区の人気者になった中村剛也選手も、今や頭には白いものも増え、すっかり「おかわりさん」という風貌になってきた。
筆者は中村剛也選手に対しては本当に好感を持っている。その理由はコメントの端々に、個人記録よりもチームを優先するものが感じられるからだ。そこが、常に個人記録を優先するコメントを発してきた山川選手との違いだ。
もちろん中村選手も個人成績は大切にしている。あと29本に迫っている通算500本塁打に対しても意欲的で、渡辺久信GMから「来年20本打って、再来年500本を達成しよう」と言われると、「GMに30本打てないと思われている」と戯けてみせた。渡辺GMと中村選手の間に信頼関係があるからこそ出てきた冗談だ。
中村選手は天性の長距離砲であるわけだが、常にホームランを狙っているわけではない。状況を踏まえながら、確実に走者をホームインさせたい時は、反対方向を意識したバッティングを見せることも多い。
状況によってチームバッティングを見せてくる姿は、黄金時代の清原和博選手に共通する。そのような姿を見せられるからこそ、清原選手や中村選手は真の四番打者として評価されるのだ。
一方の山川選手は、自分がホームランを打てば勝てると常々口にしている。だがこれは誤りだ。実際山川選手がホームラン王になっても、CSではまったく勝つことができず、リーグ二連覇を果たしながらも日本シリーズにはまったく駒を進められなかった。
清原選手は言わずもがな、中村選手もチームを日本一に導いた打者だ。2008年に関しては、シーズンの前半ではブラゼル選手が四番を務めることが多かった。だがブラゼル選手が後半から一気に調子を落としていくと、中村選手が主軸を担うようになり、日本シリーズでは2本塁打を記録しチームを日本一に導いている。さて、ライオンズにはアレックス・カブレラ選手という最強助っ人もいたわけだが、カブレラ選手のバッティングは本当に見事だった。だがカブレラ選手は守備にやや手を抜く傾向があり、最強助っ人ではあったものの、そのような姿から真の四番と評されることは少なかった。
ちなみに中村選手は高校時代は「難波のカブレラ」と呼ばれていたそうだ。カブレラ選手はまさにパワーでボールをスタンドに運んでいくスタイルで、それはまるで打ったボールが破裂しそうな程だった。
一方中村剛也選手はパワーではなく、技術でホームランを打つタイプだ。これに関しては筆者は雑誌で、デーブ大久保コーチに並んで中村剛也選手がホームランを量産できる科学的根拠を解説させてもらったことがあるわけだが、中村選手はボールにバックスピンをかけるのが非常に上手い。これは球界ではダントツの巧さだ。
フライにバックスピンをかけられるとマグナス力が働き、ボールには揚力が加えられ、なかなか落下してこない飛球となってそのままスタンドインしていく。いわゆる美しい放物線を描くホームランがまさにこれだ。
中村選手にはこの技術があるため、本人も語っているように7割の力で打ってもスタンドインさせることができる。ちなみに本人曰く、全力で振った時ほど打球がフェンス前で失速するとのことだが、その理由は、全力でバットを振ってしまうとバットには目に見えないピッチング(上下の波打ち)が生じ、その波動がボールに伝わりスピンが弱くなるからだ。
逆に7〜8割の力で振るとバットはピッチングしないため、フライになれば最大限のバックスピン、ゴロになれば最大限のトップスピンをかけられるようになる。ゴロにトップスピンをかけられると球足が速くなり、あっという間に野手の間の抜けていくヒットになりやすい。
そしてそのような技術を中村選手に指導したのが熊澤とおるコーチであり、熊澤コーチの理論的指導ががあったからこそ、中村選手は偉大なスラッガーへと成長していくことができた。
中村選手も、あと10年現役でいられるかと言えばそれは難しい。来季は41歳となるため、数年後には引退という文字がちらついているか、もしくは実際に引退することになるだろう。
だがライオンズはこの中村選手の技術をそのままリリースしてしまってはいけない。中村選手には自身が身につけた打撃技術を後進たちに伝え、引退後もライオンズのユニフォームを着続けて、自らを超える和製大砲の育成に尽力してもらいたい。
だがそのような未来はまだまだ先の話だ。まずは中村選手には怪我をすることなく、できれば中村選手の言葉通り、2024年のシーズン中に通算500本塁打を達成し、将来的には清原選手の525本を超えていって欲しい。
来季、おそらく中村選手が四番に座ることはほとんどなくなるだろう。なぜならライオンズは現在、左打ち外野手の大砲候補の獲得を目指しており、その交渉が合意に至れば彼が四番を務める可能性が高くなるからだ。
すると中村選手は6〜7番を指名打者として打つことが多くなり、相手バッテリーからのマークが緩くなる分、ホームランは増やしやすくなるだろう。そうなれば来季中に29本打てる確率も高まっていく。
そしてそのためにもまずはコンディションを優先させ、疲れを残さないペースでの起用が求められる。このあたりに関しては栗山巧選手や炭谷銀仁朗捕手にも共通して言えるわけだが、中村選手と栗山選手に関しては相手投手の左右を見ながら、ふたりを指名打者として併用していくことになるのだと思う。
500本塁打を達成し、さらには清原選手の記録を追い抜いていくためにも、中村選手には怪我することなくまだまだ元気に頑張ってもらいたい。そして栗山選手と共に背中でチームを牽引し、来季こそは2008年以来の日本一を達成してもらいたい。