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2022年10月 9日公開

日本シリーズに縁のなかった辻発彦監督だが、この6年は次の西武に必要だった!

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短期決戦ではホークスに完膚なきまでにされた辻発彦監督

ライオンズはクライマックスシリーズでホークスにまたもや連敗し敗退が決まってしまった。そしてそれに伴い辻発彦監督の勇退が正式に発表された。辻監督はとても良い人であり、良い監督であったと思う。だが良い人だからといって勝負を制することができるとも限らない。

筆者も他のライオンズファン同様に辻監督のことが大好きだ。辻監督がライオンズで5番を背負ってプレーをしていた大型遊撃手だった頃から大好きで、その人が監督としてライオンズに帰ってくると知った時は本当に嬉しかった。辻監督であれば黄金時代のような緻密な野球を復活させて、チームの調子が悪くても簡単には負けないチームを作ってくるだろうと期待していた。

だが結果として辻監督は勝てるチームを作ることはできなかった。通常新監督の考え方がチームに完全に浸透するには3年かかると言われている。だが6年間チームを指揮して、なかなか辻監督らしい野球ができるチームにならなかったということは、7年目に期待してもそれは難しかったと思う。それならばやはり奥村球団社長が仰る通り、ここで一度若返りを図ることはタイミングとしてはベストだったのだろう。

後任の最有力候補は松井稼頭央ヘッドコーチだと言われている。基本的には来季は松井稼頭央監督-平石洋介コーチを主軸に組閣されていくのだろう。

さて、ここで辻発彦監督の短期決戦での戦績を振り返っておきたい。

2017年 クライマックスシリーズファーストステージ
○ 10-0 イーグルス戦@メットライフドーム
● 1-4 イーグルス戦@メットライフドーム
● 2-5 イーグルス戦@メットライフドーム

2018年 クライマックスシリーズファイナルステージ
● 4-10 ホークス戦@メットライフドーム
○ 13-5 ホークス戦@メットライフドーム
● 4-15 ホークス戦@メットライフドーム
● 2-8 ホークス戦@メットライフドーム
● 5-6 ホークス戦@メットライフドーム

2019年 クライマックスシリーズファイナルステージ
● 4-8 ホークス戦@メットライフドーム
● 6-8 ホークス戦@メットライフドーム
● 0-7 ホークス戦@メットライフドーム
● 3-9 ホークス戦@メットライフドーム

2022年 クライマックスシリーズファーストステージ
● 5-3 ホークス戦@ペイペイドーム
● 8-2 ホークス戦@ペイペイドーム

短期決戦通算成績
14試合2勝12敗 勝率.142
※ 1位通過時のアドバンテージは含まず

辻監督はこのように、短期決戦ではホークス相手に手も足も出なかった。勝率.142という数字は、西武ライオンズ史上最も低かった1979年(西武ライオンズとして1年目)のシーズン勝率.381を大きく下回り、さらには楽天球団初年度2005年の.281をも下回る。これがもし143試合で勝率.143だったとすれば、21勝122敗という成績になってしまう。辻監督率いるライオンズは、短期決戦ではこれほどまでに屈辱的な数字を残してしまった。

短期決戦の戦い方をしたホークスと、いつも通りの野球をしたライオンズ

黄金時代のライオンズや近年のホークスのように勝てるチームというのは、調子が良い時に勝つのはもちろんのこと、調子が悪くても簡単には負けない試合運びをすることができる。例えば負けたとしても反撃の姿勢を見せて常に相手の隙を突こうとしたり、敗れても僅差だったり、どこか光るものがある試合を見せてくれる。しかし辻監督率いるライオンズは、調子が悪くなるとまったく勝てなくなり、チームも空中分解状態に陥ってしまう。その結果が繰り返された大型連敗というわけだ。

クライマックスシリーズでのライオンズの戦い方を見ていると、レギュラーシーズンとほとんど大差ない戦い方をしているように見える。だがレギュラーシーズンと短期決戦では同じ戦略は通用しない。レギュラーシーズンで短期決戦の戦い方をすればチームはすぐに息切れしてしまうし、短期決戦でレギュラーシーズンと同じ戦い方をしていては常に後手後手で戦う羽目になる。

辻監督の敗因としてはやはり、絶対的エースと真の四番打者を育てられなかったことにある。今回のCSのように、ホークスの四番打者は勝負所で試合を決めるホームランを打ち、一方山川穂高選手は試合にまったく影響しないソロホームランを1本打っただけだった。

投手にしてもホークスのエースは絶好調じゃなくてもビッグイニングを作らないピッチングをしたが、ライオンズの髙橋光成投手今井達也投手は共にビッグイニングを作ってしまった。全体的にシリーズを俯瞰していくと、やはり強化されたメンタルを持っているのはホークスであり、ライオンズナインのメンタルは鍛えられていないように感じられた。

実はCSの直前に今井投手が「メンタルなんてない」という趣旨の発言をしていて、筆者は非常に大きなショックを受けてしまったのだ。今井投手曰く、メンタルなんて関係なく、結局はどれだけ練習をしたかで決まるとのことらしい。だがこれは大きな間違いだ。なぜならホークスの選手だってライオンズの選手と同様にたくさん練習をしているわけであり、この練習量に差などほとんどない。

だがメンタルとなると話は別だ。ホークスにはこれまで、幾度となくCSを勝ち抜き、幾度となく日本シリーズで勝って来たという経験値があり、その経験が短期決戦でも本領を発揮できるメンタルを培っている。だが今のライオンズで日本一を経験しているのは栗山巧選手中村剛也選手のみだ。この二人に関しては二度日本一の経験がある。ただし2004年に関してはまだ二人ともレギュラーではなく、1軍にも定着していなかったが、それでも翌年以降は日本一になった選手たちと共にプレーをしていた。

今回のCSを見ていても、ホークスは短期決戦の戦い方をよく心得ているように見えた。だからこそライオンズの敗退を決定づけたホークスは、東浜巨投手の体力をファイナルシリーズに向けて温存することができた。そして戦略としてもホークスの方が明確で、ライオンズの方はこのCSをどう戦いたいのかがよく見えてこなかった。

戦略を立てるのは監督の務めで、その戦略に対する戦術を立てるのが各コーチの役割だ。例えばホークスの藤本監督は2戦目に関しては、とにかく今井投手のスライダーを狙うように徹底させて来た。そして満塁で迎えた2打席目の柳田選手に対し、今井・森バッテリーは2球続けてスライダーを選択した。

その結果、1球目は内角を突く厳しいコースでファールを打たせた。そして2球目は低めいっぱいのスライダー。2つともこれだけを見れば素晴らしく制球されたスライダーだったと思う。しかしレギュラーシーズンであればこれでよかった。レギュラーシーズンであれば、先週の今井投手のようにこれで十分な快投見せられたはずだ。だがレギュラーシーズンの戦い方は短期決戦では通用しない。

藤本監督からスライダーだけを狙うようにと言われていた柳田選手は、低めに素晴らしく制球されたこのスライダーを、やや泳ぎながらもライトのラッキーゾーンに放り込んでいった。その瞬間今井投手は、昨日の髙橋光成投手同様にマウンドに座り込んでしまう。それはまるでデジャブのようだった。

恐らくライオンズバッテリーとしては、今日の今井投手のスライダーなら打たれないと自信を持っていたのだろう。そして藤本監督も先週の今井投手の登板を見て以来、スライダーに自信を持っていると確信したのだと思う。だからこそのスライダー狙いという戦略だった。

ちなみに藤本監督が今日見せたこのような采配を以前ライオンズでも行っていた人物がいた。それは2008年の日本一に大きく貢献したデーブ大久保コーチだ。デーブコーチはデータやその日の相手の状態を見極めて、どのボールを狙って欲しいのかを打席に向かう直前の打者に耳打ちしていた。その結果が2008年のチーム198本塁打だったというわけだ。そしてそのデーブ大久保コーチは来季はジャイアンツでコーチを務めることがすでに報道されている。デーブコーチとは幾度かお話をさせていただいたことがあるのだが、理論的で本当に素晴らしいコーチだ。このコーチならば、きっとジャイアンツ打線を上手く甦らせるはずだ。

そしてライオンズにはやはり短期決戦でレギュラーシーズン同様の戦い方をしようとして大失敗した監督がいる。2002年の伊原春樹監督だ。この年のライオンズはレギュラーシーズンはぶっちぎりの強さで優勝した。しかし伊原監督はレギュラーシーズンは和田一浩選手の活躍で勝ったのだから、日本シリーズもその形で挑むことに固執し、不振に陥っていた和田選手の起用法を変えることなく、ジャイアンツに4戦4敗という屈辱的な敗北を喫してしまった。辻監督の短期決戦での戦い方を見ていると、筆者はいつもこの時の伊原監督の采配を思い出してしまう。

辻発彦監督の6年間は、今後のライオンズには必要な6年だった

辻発彦監督は、結果としては勝てなかった。もちろん二度のリーグ優勝はあったわけだが、一度も日本シリーズの舞台に立つことなく勇退となってしまった。いや、もしかしたら現役時代に日本シリーズの舞台に立ちすぎたせいだったのだろうか。とにかく監督としては日本シリーズには無縁だった。

それでも辻監督は守備の要である源田壮亮主将を立派に育て上げ、髙橋光成投手に関しても我慢して起用し続けることでエースらしい姿を見せるようにもなって来た。

ただセンターラインは二遊間コンビを除いてはまだまだ不安定ではあるし、外崎修汰選手や森友哉捕手に関してはFA移籍の可能性も0ではない。

森友哉捕手は現時点で果たして何%の確率でFA移籍しそうなのか?!

チームとしてはまさに今が若返り、そして立て直しのタイミングだと思う。一度チームを解体してもう一度作り直す必要があるだろう。そして来季のライオンズに絶対的に必要なのは絶対的エースの育成と、チームを勝たせられる打力を持った外国人打者の獲得だ。流石にこのまま山川選手に四番を打たせ続けるのは厳しいと思う。

もちろん今季二冠に輝いた山川選手は素晴らしいのだが、しかし自身の調子が奮わずともチームを勝利に導ける柳田選手に対し、山川選手は自身が打てなくなるとまったく貢献できない試合が続く。やはり山川選手には5〜6番あたりで自由に打たせて40本塁打くらい打ってもらうのが良いと思う。

ライオンズに必要なのは、とにかく得点圏で打てる四番打者だ。山川選手の今季.278という得点圏打率は、四番打者としてはあまりにも低い。通算打率が.278であっても、得点圏打率が.380前後でなければ、真の四番打者とは呼べない。そういう意味では辻監督は山川選手と森捕手の3・4番コンビに固執し過ぎたのではないだろうか。

このあたりの打順に関しては一度解体して、まずは得点圏で打てる四番打者と、その四番打者の前にチャンスメイクできる上位打線、特にリードオフマンの固定が必要だ。それを実現できなかったのが辻監督の大きな敗因の一つだったと思う。

しかし辻監督は良い人だった。これは疑いようもなく事実だ。だがその反面辻政権下のライオンズにはチームに厳しさが足りていなかった。辻監督はあまりにも選手を信頼し過ぎていた。だが監督という立場においては、選手を信頼することは大事だが信用し切ってはいけない。

「この選手はきっとやってくれるだろうが、しかしダメだった時のために次の手も用意しておこう」という考え方を常に持っておかなければ、近年のライオンズのように勝負所で勝てないチームになってしまう。

辻監督が仕えていた野村克也監督や落合博満監督は、その次の手をしっかりと用意されていたからこそ勝てるチームを作ることができた。だが辻監督は、野村監督や落合監督が見せたような厳しさのある采配を見せることはほとんどなかった。もちろん0ではなかったわけだが、しかしあまりにも少なかったように思う。

だが辻監督はこの6年間で、阪神・楽天時代の野村克也監督や、西武時代の根本陸夫監督のような役割を全うされたと思う。チームの下地は作ってくれた。あとは采配に厳しさを兼ねた後任監督が、辻監督が下地を作ってくれこのチームを上手く活用していくことができれば、来季はまた違った戦い方を見せてくれるはずだ。

日本シリーズに一度も進めなかったことは本当に残念だったが、少なくとも辻監督はBクラス続きだったライオンズをAクラスに引き戻してくれた。この功績は讃えられて然るべきだ。もし辻監督じゃなければ、あのままずっと万年Bクラスに沈んでいた可能性もあっただろう。

だが辻監督はチームに決して蓋をすることなく、選手を自由に伸び伸びをプレーさせることによって個を伸ばし、チームをAクラスに引き戻してくれた。あとはこれまで勝手気ままにプレーをして来た選手たちをよく制御し、後任監督が個を和にすることができれば、ライオンズは必ず勝てるチームになり、根本監督後のような強さを取り戻すことだって可能なはずだ。

そして6年間かけてチームにその可能性を培ってくれた辻監督には、筆者は本当に心からお疲れ様でしたと言いたい。そしてライオンズファンにいつも、良い意味でも悪い意味でもハラハラドキドキさせる野球を見せて下さり、本当にありがとうございました!

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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