2023年8月14日公開
埼玉西武ライオンズは今年も入団テストを行うと発表した。9月2日に実施される2回目の今季は、昨年よりも1ヵ月以上も早い日程となっている。これはドラフト会議までもう少し日程的な余裕が欲しかったという去年からの改善点なのかもしれない。
ちなみに昨年の入団テストからはモンテル選手が合格し、育成ドラフトで指名された。今年も将来に期待できそうな選手が見つかれば、同じように育成ドラフトで指名していくのだろう。
なおモンテル選手はライオンズ入団前は琉球ブルーオーシャンズ、徳島インディゴソックスでプレーしており、独立リーグとは言え職業上は一応プロ野球選手だった。だが独立リーグの選手で、野球一本で安定して食べていける選手はまずいないため、モンテル選手も恐らくは他に収入源があったのだろう。
実は筆者もその昔、まだ現役でプレーをしていた頃、入団テストらしきものを受けさせてもらったことがあった。都内のとある人工芝の野球場に数人の選手が集められ、当時のスカウト担当にプレーを見てもらうという簡潔なものだった。ちなみにそのスカウトマンは、筆者が中学生の頃よく試合を見に来てくれていた方で、その縁もあり運良くプレーを見てもらうことができた。
筆者の場合、打つ・守る・走るではプロ野球レベルの合格点をいただいたのだが、残念ながら野球肩を患っており強いボールを投げることができず、それが理由で合格することはできなかった。
そしてその時一緒にプレーした他の選手たちも、その後ライオンズや他球団でプレーしているのを見なかったことから、合格者は0人だったのだろう。
そんな経験を持っているため、入団テストや合同トライアウトで合格する難しさは僅かながら身をもって知っていた。恐らく昨年行われた入団テストも、一次選考から数えていけば合格率は0.5%にも満たなかったのではないだろうか。
東大の合格率が34%前後だと言われているが、この数字を見るとプロ野球選手になることがいかに難しいことかがよく分かる。
もちろんその時筆者が受けたテストと、9月2日に実施されるテストの内容はまるで異なる。去年のやり方を参照すると、まず論文と動画により一次選考が行われ、その中から20〜30人が二次選考へと進む。
そしてライオンズの入団テストで非常に興味深いのが、実技選考の前半は野球は一切行わず、フィジカルの数値測定に終始することだ。いくつかの特殊なマシンを使いながら数値を出していくのだが、その中で2軍の選手たちよりも高い数値を叩き出したのがモンテル選手だった。
モンテル選手の兄はご存知の通り、元東京ヤクルトスワローズのジュリアス投手なのだが、兄弟揃ってNPB入りしたというのは快挙だったと思う。残念ながらジュリアス投手はNPBでは活躍することはできなかったが、モンテル選手にはぜひ一日でも早く支配下登録してもらい、1軍で活躍してもらいたい。
ライオンズのこの入団テストを希望する選手というのは、基本的にはプロ志望でありながらも、「ドラフトで指名する可能性がある」とは言われていない選手たちだ。
モンテル選手もやはり、インディゴソックスでプレーをしながらNPB入りを目指していたが、独立リーグの成績によってドラフト指名候補に挙げられることはなかった。だがライオンズの入団テストがきっかけで、育成契約とはいえNPB入りを果たすことができた。
今季ここまで、モンテル選手はファームで17試合に出場し、41打席に立ち、打率.300、本塁打1、打点2、盗塁1という好成績を残している。この数字を見る限り、モンテル選手を指名したことは正解だったと言えるし、モンテル選手が支配下登録される日も間近であるはずだ。
入団テストのことをもう少し詳しく書いておくと、参加できるのは2024年4月1日時点で18歳以上、24歳以下という年齢のみとなる。つまり高校卒業後の年齢ということになり、来年も高校生である学年の場合はこの入団テストを受けることはできない。
年齢に関しては確かに、G.G.佐藤氏が出演された番組でも語られているように、もう少し上の年齢まで広げてあげてもいいのでは、という印象だ。しかし24歳以下にしたということは、ライオンズとしては育成契約を前提にしていると考えることができる。
育成契約が前提になるのであれば、24歳以下という設定は確かに現実的だ。だがアメリカのジム・モリス投手のように、35歳で入団テストを受けて合格し、その後2年間メジャーで投げたというケースもあり、このサクセスストーリーは『オールドルーキー』という映画にもなった。
そういう意味では年齢は引き上げてもいいと思うし、ある一定のルール下に於いて、ドラフト外入団を復活させるのも悪くはないアイデアのような気もする。
ドラフト外入団というのは、もうしばらく聞かなくなった言葉ではあるが、ドラフト会議後に「プロ志望は出さなかったけど、気が変わってやっぱり俺もプロに行きたい!」と表明した選手を、ドラフト会議後に獲得する制度のことだ。
だがこれは裏金の温床にもなり、脱法的だったということもあり、この制度は現在では撤廃されている。ちなみにライオンズの主なドラフト外入団選手は西鉄時代の基満男選手(通算1500安打)、加藤初投手(新人王、最高勝率など)、西武時代は松沼兄弟、秋山幸二選手、小野和幸投手、羽生田忠之選手など、まさに錚々たる顔ぶれだ。
ちなみに現在のルールでは、日本国籍の選手はドラフト会議を経ない限りNPBでプレーすることはできなくなっている。そういう意味では公平性は増したが、選手獲得の妙を楽しむことはできなくなってしまった。
だがライオンズのように独自の入団テストを行うことにより、スカウトマンが追い切れなかったポテンシャルの高い選手を見つけ出し、競合を避けながら単独指名できるようになる。
そういう意味では、プロで活躍できる資質はアマチュア時代の成績だけがすべてではないと言い切ることができる。
今季もまた9月2日に行われるライオンズの入団テストだが、ここで第二第三のモンテル選手を発掘し、ファームでどんどん活きの良い選手を育てていってもらいたい。そしてそんな後進たちに遅れを取らないように、モンテル選手には一日でも早く1軍でプレーできるようになってもらい、目標である30盗塁をクリアしてもらいたい。