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最新記事:怪我を防ぐための取り組みを始めた甲斐野央投手と来年は背水となる渡部健人選手

2024年11月02日 02:53公開

度重なる怪我を防ぐためにプロ入り後初めて筋トレをする甲斐野央投手

度重なる怪我を防ぐためにプロ入り後初めて筋トレをする甲斐野央投手

今季のライオンズが開幕当初イマイチ波に乗れなかった原因の一つが、甲斐野央投手の不調だった。開幕前は守護神の座を狙えるほどの位置におり、チーム内外からの期待値も非常に大きかった。だが右肘の違和感によってなかなかパフォーマンスが上がらず、ライオンズ1年目の今季に関してはシーズンの大半を棒に振ってしまった。

その甲斐野投手はこのオフ、プロ入り後では初めて本格的なウェイトトレーニングに取り組んでいると言う。ただしウェイトトレーニングに対する考え方は髙橋光成投手平良海馬投手とは違い、球速アップが目的ではなく、自らのパフォーマンスに耐えられる体を作るために行っている。

甲斐野投手のストレートの最速は160km/hで、その回転数は2400RPMを超える。ちなみにこの数値はメジャーリーグの投手の平均値を大きく上回っている。見方を変えると、ウェイトトレーニングを一切することなく160km/hのボールを投げていたというのは、投球フォームがそれだけ理に叶っていたということであり、自らの体をしっかりと使いこなせていると言うことができる。

だが全スポーツ選手に共通する注意点として、パフォーマンスが上がれば上がるほど怪我のリスクが高まるというものがある。例えば160km/hを投げるピッチャーと、140km/hのボールしか投げない投手であれば、球数が同じだった場合、前者の方が圧倒的に怪我をするリスクは高い。甲斐野投手がこれまでのプロ野球人生で怪我に悩み続けていた理由がこれにあたる。

筆者はこれまで数え切れないほどのプロアマ選手の動作改善をサポートしてきたわけだが、指導現場で常々選手に伝えていることは、筋トレは球速アップを目的にしてはならず、フォーム改善によって向上したパフォーマンスに耐えられる体を作るために行いなさい、というものだ。

もちろん筋トレだけでもある程度は球速をアップさせることは可能なのだが、筋トレで球速を上げようとするとかなり高い確率で球質が低下してしまう。まさに今季の髙橋光成投手のように。だからこそ筆者はプロコーチとして、球速アップは球速をアップさせられるモーションを習得することにより目指し、筋トレは球速がアップした際の負荷に体が耐えられるように行うよう選手たちには伝えている。

ちなみにライオンズで筋トレに頼らず球速をアップさせていた投手の代表格は渡辺久信投手、西口文也投手、松坂大輔投手、涌井秀章投手、岸孝之投手らだ。もちろん彼らも筋トレは行っていたのだが、球速アップを目的として筋トレをしているわけではなかった。だからこそ長年怪我することなく第一線で投げ続けることができていた。

しかもこの中で西口文也投手に関しては、現役時代はまったく筋トレを行うことはなかった。例外として晩年の1〜2年だけは筋トレを少しだけ取り入れていたのだが、それ以外では西口投手は筋トレは一切行っていなかった。それでも全盛期には細身の体から150km/hのボールを投げ続け、現役時代にはほとんど怪我することがなかった。

初めて筋トレを導入したことで怪我が減ることが予想される甲斐野央投手

現代のピッチャーたちは肩肘を怪我することが非常に多く、90年代までに活躍してきたプロの投手たちと比較すると圧倒的にその数は増えている。ちなみにこれはプロだけではなくアマチュア選手にも同じことが言えるのだが、その大きな原因となっているのが90年代までと比べると飛躍的にアップしたピッチャーたちの球速だ。

G.G.佐藤世代である筆者が中学3年生の時というのは、130km/hを投げられる中学3年生は公式には全国に3人しかいなかった。だが現代では130km/h以上のボールを投げられる中学生は全国を探せばいくらでもいる。そして松坂大輔投手が横浜高校でプレーしていた頃は、150km/hを投げられる高校生などほとんどいなかったわけだが、しかし現代では150km/h前後の球速を投げられる高校生は珍しくなくなった。

これはもちろんスポーツ科学が進歩して球速がアップしやすい投げ方が周知されるようになったことも関連しているわけだが、それ以上に現代は中高生のうちからガンガン筋トレをするようになったことが大きく影響している。しかしその結果、上述のように球速は上がってもそれと比例して怪我をするリスクも高まって来ている。ライオンズの選手だけを見ても、ポジション問わず肩肘の手術を受ける選手が毎年後を絶たない。

そういう意味でも筋トレせずに160km/hを投げられるようになった甲斐野投手のフォームは、本当に高く評価することができる。だが筋トレをまったくすることがなかったために、そのハイパフォーマンスに体が耐えられず、今までは怪我が尽きないプロ野球人生だった。しかし今、ライオンズのトレーナーが作成したウェイトトレーニングメニューをこなすことで、来季以降はハイパフォーマンスが原因で肩肘を痛めるリスクは間違いなく下がっていくはずだ。

もう一点筆者が選手たちに伝えている筋トレに関する話として、筋トレは必ず野球の練習をする前にやるように伝えている。その理由は、例えば午前中に筋トレして午後野球動作のトレーニングをすると、筋トレで鍛えた筋肉が野球動作にフィットされた状態で発達していくからだ。

逆に野球の練習を終えてから筋トレをその日の最後に行ってしまうと、筋肉が筋トレをするための筋肉として発達してしまう。そして野球動作にアジャストされていない筋肉でプレーし続けることによってフォームのバランスは崩れ、怪我もしやすくなってしまうのだ。甲斐野投手がどのタイミングで筋トレを行っているのかは不明だが、もしピッチングの前に筋トレをやっていたとしたら、それが最高のタイミングだ。

なお筋肉というのは睡眠中に発達するため、「今日の練習後に筋トレをして明日の朝から野球をやればいい」、という理屈は科学的には通用しない。ライオンズには筋トレが大好きなピッチャーが何人もいるわけだが、果たして彼らは筋トレに関する科学をしっかりと学んだ上で行っているのだろうか。そのあたりは正直なところ筆者には、一部の選手を除いてはどうしているのかは分からない。

だが筆者が近年見ているライオンズの選手たちのやり方を見ていると、「どの筋トレがどの筋肉を大きくするのか」、ということばかりを気にして筋トレをしているのではないかと感じることが非常に多い。もちろんそれを知ることも大切であるわけだが、それ以上に大切なのが筋トレに関する生理学や解剖学をもっと学ぶことだ。

2025年は背水のシーズンとなるかつてのドラ1渡部健人選手

なおライオンズでまったく筋トレをしない選手として有名なのは現役時代の西口文也投手だけではなく、中村剛也選手もそうだ。それでも中村選手は現役選手の中では他の追随を許さない数のホームランを打ち続けてきた。そして昨オフに中村選手の自主トレに初めて参加した渡部健人選手は、そのやっている内容のレベルの高さにまったく付いていけなかったとコメントしている。

ただ、中村選手もある程度怪我のある選手なだけに、もしもう少し筋トレをしてプロテクションを増やすことができていれば、もしかしたらこれまで経験してきた怪我のいくつかは回避できたのかもしれない。もちろんこれに関しては憶測の域を出ることはないわけだが、とにかく間違いなく言えることは、筋トレをしなくても上背がそれほどなくても、技術さえ伴えば478本(2024年現在)のホームランを打てるということだ。

渡部選手に関しては2025年は背水とも言えるシーズンとなる。もし来季も今季のように低迷することがあれば、一年後に整理リストや現役ドラフト要員に加えられる可能性も出てくる。だがそうならないためにも、まずは渡部選手はプライベートで余計な気を起こすことなく、少なくとも一軍の不動のレギュラーとして試合に出続けられるようになるまでは、下手な遊びは封印して野球だけに集中すべきだ。例えば大谷翔平選手のように。

渡部選手は昨季は飛躍のきっかけを掴みかけたかとも思われたが、しかし今季は体調不良などもあり、一軍では僅かに11試合の出場に留まった。大卒の即戦力ドラフト1位と期待されながらも、4年間は期待を裏切り続けてしまった。だからこそ5年目となる来季は背水となるわけだが、この渡部選手もやはり、まずは怪我をしない体づくりが求められている。

ファイターズの清宮選手ほどではなくとも、やはり渡部選手もある程度は体を絞るべきだろう。176cmの身長で115kgというのはやはり重すぎる。渡部選手は非常に発達したふくらはぎを持っているのだが、それでもこの重さに耐えられず、毎年何かしら細かい下半身の怪我やコンディション不良を繰り返している。

筋トレというのは実はやればやるほど体重が増えていくだけではなく、やり方を変えれば筋肉の強さを向上させながら体重を減らしていくことも可能なのだ。ダイエットと言えばダイエットなのだが、アスリートレベルで考えるとこれは、筋肉の質を変える作業となる。ただしこれは専門的な知識を持ったトレーナーの指導のもとで行う必要がある。

筆者は何も渡部選手に対し、「中村剛也選手のように筋トレはするな」、とはまったく思っていない。逆に筋トレはやるべきだと考えている。ただし筋肉を肥大させるためだけにガシガシとウェイトトレーニングをするのではなく、筋肉の柔軟性や強度、関節の可動域を広げる種類の筋トレを行うことで怪我をしない体づくりをすべきだろう。

ライオンズには一年前の村田怜音選手だけに留まらず、今年のドラフト会議でも複数の和製大砲候補が指名された。だが渡部選手にはその後輩たちに負けることなく、大卒ドラフト1位の名に相応しい活躍を来年は期待したい。

なお秋季キャンプでの渡部選手のバッティングフォームを観察していると、非常に良い形のステイバックで打てていることが多かった。マシン相手だけではなく、生身の投手が投げるボールに対してもこの形で打てる精度を高めていければ、来季は30本塁打を打つことだってまったく不可能ではない。そのためにも渡部選手には今は下手な遊びには目もくれず、野球にだけ集中して欲しいと筆者は願っている。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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