2021年1月21日公開
2021年1月21日、ライオンズに第五の助っ人選手が新たに加わることが発表された。昨季はダルビッシュ投手が所属したシカゴ・カブスでプレーをしていたサウスポー、マット・ダーモディ投手だ。アメリカでは2014年、マイナーリーグで多少の先発経験があるがメジャー・マイナーキャリアではほぼリリーバーとして投げていた。だがライオンズでは先発として起用される予定となっている。
ダーモディ投手の特徴としては、196cmという長身からアヴェレージ150km前後のストレート(ツーシーム&フォーシーム)を投げ、スライダーやチェンジアップを投げ分けるタイプだ。常に力一杯投げて四球で自滅するようなタイプではない。
右打者への外角低めへの制球力は高く、ガンガン三振を取るというより、巧く打たせて取るタイプの投手で、ボールの出どころが非常に見にくい。アメリカでは150km前後という球速のリリーバーが活躍できる可能性は非常に低いが、日本であれば、この球速で制球力も安定しているダーモディ投手は活躍することができるだろう。
ライオンズにはニール投手という日本で実績のある投手もいるだけに、ニール投手のサポートがあれば1年目から二桁勝利を期待することができそうな雰囲気だ。ただ見た感じでは、左打者への制球は、右打者への制球よりも精度が低いように見えた。
パ・リーグにはホークス柳田悠岐選手やバファローズ吉田正尚選手という左のスラッガーがいるだけに、二桁勝利を目指すためには如何に左打者に対していくかが鍵となるのではないだろうか。ただ、左打者の外角低めへ逃げていくスライダーが決まっている時は、空振りを取れることも多いようだ。
ダーモディ投手はなかなかの苦労人であるようだ。高校・大学時代を合わせて4回ドラフト指名されているのだが、メディカルチェックで肘の靭帯に大きな損傷が見つかるなどして、最初の3回はなかなか入団合意には至らなかった。ようやく合意に至ったのは2013年のドラフト28巡目でトロント・ブルージェイズから指名を受けた際だった。
メジャーデビューは2016年、26歳の時だったのだが、実はダーモディ投手はまだこの時メッセンジャー(自転車配送業)としてアルバイトをしながらプレーをしていた。仕事で自転車を走らせていると前を走るバイクが急ブレーキをかけ、ダーモディ投手の自転車が追突してしまい、その勢いでダーモディ投手は宙を舞うほど飛ばされてしまったらしい。だがさすがはアスリートなのか、なんとこの事故では無傷だったらしい!
ライオンズはとにかく先発サウスポーの補強が急務だった。ライオンズはこのオフ、ファイターズから吉川光夫投手を獲得し、さらにはベテラン組には内海哲也投手と榎田大樹投手も控える。若手先発左腕としては昨季ブレイクの兆しを見せた2年目浜屋将太投手、社会人上がりのルーキー佐々木健投手の存在もある。
渡辺久信GMの、必要なポイントは徹底して補強していくというやり方は、非常に理に適っていると思う。一見同じポジションの選手が多く被っているようにも見えるが、しかしそこは確率の問題だ。ダーモディ投手、吉川投手、内海投手、榎田投手、浜屋投手、佐々木投手のすべてが1軍で活躍し続けられるわけではない。特にベテランやルーキーは1年を通しての活躍を期待することは難しい。
先発サウスポーは基本的にはダーモディ投手を中心に回し、先発6番手やローテーションの谷間などに調子の良い順番に使っていくという起用法をしていけば、競争力を維持しながらも、好調な選手の良いとこ取りをすることができる。ダーモディ投手が10勝前後の活躍を見せてくれれば、サウスポー陣の軸が安定することにより、他のサウスポーたちも上手く回していくことができるだろう。
例えばライオンズの先発ローテーションを実績だけを見て予想していくと、高橋光成投手、今井達也投手、松本航投手、ニール投手、平井克典投手というところの名前を挙げることができる。ここにダーモディ投手が加わって6人になるわけだが、誰か右投手の調子が落ちてきたら、調子の上がってきたサウスポーとすぐに入れ替えるという戦い方になっていくのだと思う。
特にまだまだ安定感を見せられていない今井投手や、本格的な先発転向が今季1年目となる平井投手などは、下からの突き上げが今まで以上に厳しくなっていくだろう。やはりチーム内競争が弱いとチーム力を上げていくことはできない。サウスポーだけではなく、先発陣全体の底上げを目指すためにも、今季見えてきた渡辺久信GMの競争を促す補強策は、今後のライオンズを占うに当たって大きな指針となるはずだ。
涌井秀章投手、岸孝之投手、牧田和久投手が抜けて以来、ライオンズは先発投手で負けることが年々多くなっていった。菊池雄星投手にしてもメジャー移籍前は、ホークスにはまったく勝つことができなかった。やはり今ライオンズに必要なのはかつての涌井投手のように、ホークスのエースピッチャーと互角以上に渡り合えるエースの育成だ。
それが高橋投手になるのか、今井投手になるのか、それとも松本投手が抜けていくのかはまだわからない。だがこのオフはトレード、ドラフト、新外国人選手による先発補強を繰り返した影響で、三本柱となっていかなければならない高橋投手・今井投手・松本投手でさえもうかうかしてはいられなくなった。今井投手などは特に、昨季のような状態を繰り返せばすぐに新戦力やベテランと入れ替えられてしまうだろう。
近年のライオンズの先発陣は本当に脆弱であったが、今季に関してはその脆弱性がかなり薄まったと思う。それどころか渡辺久信GMの的確な補強策により、今まで完全に手薄だった先発陣が少し豪華にさえ見えるようになってきた。
やはり、できれば表ローテと裏ローテに一人ずつの先発サウスポーは欲しい。ダーモディ投手がその一角を担うとして、果たして次に続くのは誰になるのだろうか。昨季のピッチングを見る限りでは、浜屋投手がローテーション最後の一枠に入ってくる可能性も高いように感じられる。
今季は外国人選手4人体制で挑むのかとも思われていたライオンズだったが、ここに来てダーモディ投手の獲得はファンとしては明るいニュースとなたた。これで外国人選手は5人となったわけで、昨季のようにコロナ特例により5人の1軍登録が可能にならなければ、誰か一人は必ず2軍にいなければならないことになる。
そう考えるとやはり外国人選手は4人よりも5人の方が競争力が激化して断然良い。そういう意味でもダーモディ投手の獲得は大きかったと筆者は感じているのである。