2021年4月 1日公開
東京ヤクルトスワローズにコロナウィルス感染者が出てしまい、その濃厚接触者と思われる6選手と合わせ、スワローズでは現在7選手が試合に出られない状況になってしまっている。そしてこの影響でスワローズの2軍戦は中止となっている。これはまったく対岸の火事などではない。ライオンズでこのような状況が起こったとしてもまったく不思議ではない、実際プロ野球と同じレベルで感染に気をつけているJリーグでも活動ができなくなるチームが出ている。
スワローズのこの状況が、今ライオンズに起こっていたらと思うとそれだけで背筋が凍りつく。現在は主砲山川穂高選手が左ハムストリングスの肉離れで離脱し、好調栗山巧選手も軽症とは言え、下半身の張りで登録抹消となっている。もしこのような状況でスワローズのように7選手も追加で試合に出られない状況になってしまったとしたら、とてもじゃないが優勝を狙うことなど難しく、毎日行われる試合を無事消化するだけで手一杯となるだろう。
コロナウィルスの流行はまったく収まる気配がない。日本は他国に比べてワクチン接種の状況が異様に遅れている。実は少し前にロシアが、日本に対して「スプートニクV」というロシア製ワクチンを提供できるという旨のアプローチをしてきてくれていた。だが日本政府はその救いの手をあっさりと断っている。その理由はロシア製のワクチンを日本でアメリカ製よりも先に使えばアメリカが良い顔をしないということ、そして北方領土問題などの地政学的問題が影響していると考えられている。
つまり日本でワクチンを摂取できるのはまだまだ先であり、とてもじゃないがオリンピックまでに間に合うような状況でもない。そんな状況であるため、ライオンズにコロナ感染者が出たとしてもまったく驚くべきことではない。ちなみにメジャーリーグでは、選手の85%以上がワクチン接種を行えば、コロナウィルスの感染防止策をほぼ撤廃してリーグ運営が可能になるとコミッショナーからアナウンスされている。NPBでも今後、MLBより大幅に遅れて同様の指針が出されるのだろうが、しかし日本ではワクチンそのものがなかなか手に入らない。ちなみにMLBでは、開幕までの近日中にメジャー登録選手のほとんどがワクチン接種を終えられそうな球団も数球団ある。
SARSなどが流行した頃より、プロ野球では感染症が流行り出すとジェット風船の利用が禁止されるようになった。筆者個人としてはジェット風船は好きではないため、コロナウィルスが収束した後でもジェット風船を飛ばす必要はないのではないかとさえ思っている。少し気にし過ぎかもしれないが、筆者はいつもメットライフドームでジェット風船が飛ばされる時間帯にはトイレや売店など、風船が飛んでこないエリアに出るようにしていた。
西武球団は昨年若獅子寮がリニューアルされてから育成選手を多く獲得できるようになったが、それでもスワローズと同じ状況になれば、2軍戦を中止せざるを得なくなるだろう。こんな時、心情的には現在独立リーグに派遣されている出井敏博投手を、スワローズに派遣してあげて欲しいとも思ってしまう。だがそれは簡単なようで簡単ではない。なぜなら、繰り返しになるがいつライオンズでも感染者が出るかどうか分からないからだ。もし感染者が出た場合は、井出投手をすぐにチームに戻さなければならない。このような事情があるため、ライオンズだけではなく、他球団も含めて今スワローズに選手をレンタル移籍させることは非常に難しい。
考えられる方法としては、よほど選手が余っている球団から金銭トレードで選手を譲ってもらうか、浪人や昨年のトライアウトで声がかからなかった選手を呼び戻すことくらいしかできないのではないだろうか。例えば井川慶投手はまだ引退を宣言していなかったと思うのだが、まだ41歳だし、井川投手には失礼ながら間に合わせとしてスワローズは呼んでもいいのではないだろうか。
だがスワローズの状況はもう一度言うが対岸の火事ではない。ライオンズも感染に気をつけるだけではリスクマネジメントを行なっているとは言えない。スワローズのように感染者が出てしまったとしても何とか持ち堪えられるように準備をしておく必要がある。例えばライオンズでは2019年に星孝典コーチを、急遽育成選手契約に切り替えて2軍の試合に出てもらったことがあったが、このような引き出しを今のうちに増やしておく必要があると思う。
例えば鬼崎裕二コーチや上本達之コーチなどは、2軍であればまだ一応は試合には出られるのではないだろうか。それかファンやプロ野球を勇気付けるためにも、松井稼頭央監督が一時的にプレイングマネージャーになれば良いと思う。松井監督が「代打オレ!」をやれば、2軍の試合だったとしてもプロ野球は大盛り上がりになるはずだ。結果的に三振に倒れてしまったとしても、2軍の指揮官自らが最先鋒に立つことで多くの人に勇気を与えることができる。
もはや「感染者を出さないようにする」と考えるだけでは事足りる状況ではない。「感染者は必ず出る」という頭でチーム運営をしていかなければ、それこそペナントレースそのものが中止に追い込まれる可能性だってあるだろう。そうならないためにも他球団の選手たちは「スワローズは可哀想に」などと同情している場合ではない。
ライオンズの場合は1軍と2軍の本拠地が同じ場所であり、1・2軍の選手が室内練習場を共有することも他球団に比べると遥かに多い。つまり一度感染者が出てしまうと、最も1軍に影響が出る危険性があるのがライオンズなのだ。スワローズの場合は1軍は神宮で、2軍はそこから少し離れた戸田を本拠地にしている。そのため2軍の選手を今のところは安心して1軍で起用できる状況ではあったようだが、しかしライオンズの場合同じようにできるのかは分からない。それが1・2軍の本拠地が同じ場所であるという、今のところの唯一のデメリットと言えるかもしれない。
ライオンズは昨季、コロナウィルス関連では金子侑司選手や森友哉捕手が脇の甘いところを見せてしまっているため、さすがに今季は昨季以上に厳重に、チーム活動時間以外の生活も管理されている。だがそのような管理など、スワローズだってやっていたとは思う。どれだけ気をつけていても、感染者は出てしまう時は出てしまうのだ。
だからこそ渡辺久信GMには感染対策だけではなく、「感染者は出る」という前提でリスクマネジメントをしっかりと敷いておいて欲しい。スワローズには大変申し訳ない気分だが、しかし今はどの球団もスワローズを助けている場合ではない。「感染者は必ず出る」と考えた上での球団運営が今季はこの先特に必須であると、筆者は考えている。