2021年12月18日公開
3年契約を結んでいる十亀剣投手は今季2年目を終え、来季は3年契約の最終年となる。十亀剣投手に関しては以前高すぎるストライク率について書いたのだが、このピッチングスタイルに今なお変化は見られない。
ストライクゾーンで勝負をするというのは、ピッチャーとしてはとても大事なことだ。だが十亀剣投手の場合、打たれる時は総じてストライク率が非常に高くなる傾向がある。これはライオンズに入団した頃から変わっていない。
プロの先発ピッチャーの場合、理想のストライク率は60〜65%だと言われている。下位打線や長打の心配がない場合はもう少し上げて、クリーンナップに対しては少しストライク率を落とし、平均して60%程度にしていくのが理想だ。
だが十亀投手の場合、調子が悪い日はストライク率が70%前後になることがある。バッターからするとボール球を使って来ないため、的を絞りやすくなる。つまりコースさえ絞っておけば、どんな球種が来ても対応できてしまうということだ。打者にそう思わせてしまうことが十亀投手最大の弱点だと言える。
増田達至投手がまだ守護神として一本立ちする前、筆者は十亀投手を守護神に据えるのが良いと考えていた。その理由もやはりストライク率の高さにあったのだが、1イニング限定登板となれば力のあるボールをどんどん投げ込んで行ってもスタミナが切れる心配はない。力のあるボールをどんどんストライクゾーンに投げ込む十亀投手のピッチングスタイルには、リリーフの方が合っていると筆者は昔から考えていた。
十亀投手は2015年に一度だけ先発として二桁勝利をマークしている。もし十亀投手がもっとボール球を使うのが上手い投手であれば、先発として何度も二桁勝利を挙げられていただろう。
十亀投手はいわゆるツーレーンピッチャーだ。スライダーと、シンカーなどシュート系のボールを使い、左右両方にボールを曲げていくことができる。だがこの武器もあまり使いこなせていないように筆者には見えていた。つまり外角に逃げていくボールで勝負をしにいく場面が多いのだ。
せっかく素晴らしいシュート系のボールを持っているのだから、それをもっと右打者の胸元にどんどん投げていけば良いと思う。もちろん左打者にはスライダーを食い込ませていきたい。だが十亀投手はきっと優しい性格をしているのだろう。打者を退け反らせるような内角球を投げることは少ない。
今季の死球の数を見ても40イニングスで2つ(2つとも左打者)だけで、与死球率は0.45だった。ちなみに今季11個死球を当てた今井達也投手の与死球率は0.62で、山本由伸投手の場合は0.09だった。
山本投手は別次元だったとしても、十亀投手は今井投手レベルでもっと内角を抉っていくべきだと思う。筆者は時々今井投手がライオンズの中では最も投手らしい性格をしていると書くことがあるのだが、この与死球率もその一つのバロメーターとして見ている。死球を当ててしまうのを厭う投手は大成できないからだ。
なおかつて背番号21番を背負っていた大エース、東尾修投手の与死球率は意外と高くはない。通算与死球165個というのは今だに破られることのない日本記録であるわけだが、通算の与死球率を見ると0.36という数字で、実は今季の十亀投手よりも率としては低い。
だがこれは数字のマジックで、東尾投手はとにかく投げているイニング数が半端ではなく多かった。シーズン300イニングス以上投げたことも三度ある。
十亀投手はもう少し東尾修投手のようなケンカ投法を取り入れた方が良いのではないだろうか。例えば今季の40イニングスで考えるならば、2つではなく3つ当てていたら0.65という今井投手と同水準の数字になっていた。そして4つなら0.90という数字になっていたわけだが、これくらいの数字だって良いのではないかとさえ思う。
与死球が増えれば、単純に今季1.50だったWHIPも悪化すると考えがちだはそうはならない。10イニングスに1個死球を当てるような全力投球リリーバーに対しては、打者は踏み込むことができなくなるからだ。
だが十亀投手は制球力が安定しているし、与死球も少ないため、打者は死球を恐れることなく踏み込んでいくことができる。そのため十亀投手の今季の被打率も.287(右:.203、左:.377)という数字で、これは源田壮亮主将の今季打率.272を大きく上回り、.284だった4番中村剛也選手の打率さえも上回っている。
十亀投手がもしあと5年、40歳まで現役を続けたいのであればもう少し与死球の数を増やすべきだろう。と言ってももちろん狙ってはダメだ。あくまでも内角を抉ることにより、エルボーガードやレガースなどに変化球が軽く当たる程度の死球が良い。打者に怪我をさせてしまうような、投球を制御できていないような死球ではダメだ。そんな死球を当ててしまえ、1つだけでも乱闘を引き起こしかねない。
十亀投手はとにかく怪我をしない投手だ。これは本当に素晴らしいと思う。怪我に強い十亀投手だからこそ、もっと打者の内角を抉ることにより、少なくともあと5年以上はライオンズの優勝に貢献していってもらいたいのだ。
ライオンズの主要な背番号21番の投手と言えば、東尾投手以降だと渡辺智男投手、西崎幸広投手、石井貴投手と錚々たる顔ぶれだ。石井貴投手はまさに東尾投手の系譜を継いだと言えるだろう。与死球率こそ最高勝率投手だった1998年でも0.43と平均的だったとは言え、どんどん内角を攻めていく投球スタイルはまさに投手性格そのものだった。
石井貴投手は肩痛もあり通算68勝に終わってしまったが、しかし怪我をしていない十亀投手がまだ通算53勝に留まっているのはファンとしては少しもどかしい。もっとガンガン内角を突いていき、打者を震え上がらせるような投手になっていかなければ、怪我をしなかったとしてもあと5年続けることは難しくなるだろう。
来季年俸も推定7,000万円となっている十亀投手だが、もし今季よりも数字が落ちるようなことがあれば、7,000万円に対する費用対効果も見合わないと見なされてしまう。さらに平井克典投手がリリーバーとして復調すれば、十亀投手の出番もこのままでは減ってしまうだろう。
平井投手が復活をしても、若手の突き上げを受けても出番が減らないように、十亀投手にはもっと、牙剥く獅子の如く打者の内角を抉るピッチングを見せて欲しいと筆者は今なお期待を寄せている。そして十亀投手がもしそんな投手へと、35歳になってもまだなお進化していけるのならば、40歳を越えても21番のユニフォームを若手投手に譲る必要もなくなるだろう。