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2021年12月19日公開

栗山巧選手はイチロー選手と同じカテゴリーに入るプロフェッショナル

栗山巧

誰よりも1球1球を大切に打っていく栗山巧選手の姿

もう10年以上前だったと思う。筆者はある番組でデニー友利さんと共演させていただき、栗山巧選手について長い時間お話をさせていただいたことがある。栗山選手がまだ1,000本安打さえも達成していない頃の話だ。

その時筆者は、栗山選手は将来必ず2,000本安打を達成できると言い切った。その根拠は栗山選手の練習に対する姿勢にあった。何度か栗山選手の試合後練習を拝見したことがあるのだが、ティーバッティングや素振りを、本当に誰よりも丁寧に行っているのが印象的だった。

一般的に若い選手は、ティーバッティングを雑に行ってしまうことがよくある。例えば強い打球を打てればそれで良いという感じで、フォームの細かい部分などはあまり気にせず数だけをこなしてしまうことがよくある。もちろん現在のライオンズにもそういう打者が何人もいる。

だが栗山巧選手は違った。その時筆者が見た栗山選手はまだ20代中頃で、片岡易之選手と1・2番コンビを組んでいた頃だった。チーム内ではまだまだ若手駆け出し中の選手だったわけだが、練習に対する姿勢はまるでベテラン選手のようだった。

ティーバッティングをしているところを拝見させていただいても、1球1球本当に丁寧にフォームを確認しながら打っていた。筆者自身その頃は、まだプロフェッショナルコーチになったばかりだったのだが、それでもプロコーチである筆者が見ても、ほとんどすべてのスウィングがまったく同じフォームであるように見えた。

あの若さで、あれだけバッティングフォームが固まっている選手を見たのは、筆者個人としては今なお栗山巧選手だけだ。もちろんしっかりとフォームが固まっている若手スラッガーは何人もいるが、しかしあの時見た栗山選手のフォームは、すでに完成されているとも言えるくらい、振るごとに寸分違わぬスウィングをしていたのだ。

その姿を見て筆者は、栗山選手は間違いなく将来2,000本安打を達成すると確信した。現役選手の中で筆者が最も尊敬しているのは打者では栗山巧選手、投手では涌井秀章投手なのだが、二人とも練習の質の高さが他の選手とはまるで違うのだ。1球1球、1振り1振り、意図を持って本当に丁寧にフォームを確認しながら練習をしている。筆者が今まで間近で見てきたプロ野球選手たちの中で、この二人はまさに「プロの職人」と呼べるレベルの選手だった。

 

まったく同じ打音で打ち続ける栗山巧選手

その栗山巧選手が今年2,000本安打を達成した時は、筆者はファンとして本当に嬉しかった。決して体格に恵まれているわけではないし、ここまでの18年間でスランプに陥ったことも、プラトーに迷い込んでしまったこともあった。決して何もかも上手くやってきたわけではないのだが、1球1球を決して無駄にしないその姿勢により、必ずトンネルを抜け出してきた。

選手によってはスランプが長引くことにより戦力外になってしまうことだってある。だが果たしてそういう選手たちの練習の質は、栗山選手と比較すればどうだったのだろうか。果たして栗山選手と同じレベルの質で練習をできていただろうか。

打撃練習をサポートする際、筆者は時々目を閉じることがある。それは打音を聞くためだ。筆者は今では、打った時の音を聞けばスウィートスポットに当たったかどうかや、ストレートを打ったのか変化球を打ったのかを聞き分けることができる。

普通の選手のバッティング練習では、いつも同じ場所にボールが置いてあるティーバッティングでさえも、1球ごとに打音が変わることがある。しかし栗山選手の打音は手でティーアップされたボールでさえも、まるで常にピアノの同じ鍵盤を叩き続けているかのように、まったく同じ音が何度も何度も続いていくのだ。そう、まるで丁寧にチューニングされた楽器のように。

日本のプロ野球では、残念ながら打音を耳にすることは滅多にできない。応援団のトランペットの音にかき消されてしまうからだ。だがごく稀に行われる「球音デー」に立ち会うことができたなら、ぜひ打音に耳を澄ませて欲しい。例えばまったく同じ140km/hのストレートを打った時でも、打者によって打音が変わるのだ。楽器経験がある方であれば、比較的簡単に聞き分けることができると思う。

栗山巧選手はイチロー選手と同じカテゴリーのプロフェッショナル

さすがに3,000本安打は現実的には見えてこない数字だとは思う。だが2,500本安打であれば、何年か後に十分達成していくことができるだろう。

選手としての実績はまったく違うのだが、しかし栗山巧選手はイチロー選手と同じ部類のプロ野球選手だと思う。誰よりも入念な準備をして毎回打席に立っている。

良い成績が続かない選手のほとんどが結果を追い求めてプレーをしてしまい、時としてプロセスが疎かになってしまっているケースが少なくない。しかし栗山選手やイチロー選手は、プロの中でも誰よりもプロセスや準備を大切にしている。そして論理的なプロセスの積み重ねにより、自然と結果が付いて来ている。

逆に結果を追い求めてしまいプロセスや準備が疎かになってしまうと、打てるものも打てなくなってしまう。例えば調子が良ければ打てるけど、調子が悪いとほとんど打てないというタイプのバッターは、プロセスや準備に対する意識がやや低いことがプロ野球でも意外と多い。

準備に対する意識に関しては、早速ライオンズの練習を見届けた新任平石洋介コーチも苦言を呈していた。今ライオンズで、平石コーチが求めるレベルで準備を整えられているのは、栗山巧選手くらいではないだろうか。だからこそ栗山選手はほとんど怪我をすることなく18年間試合に出続けることができている。

ライオンズの若手打者たちはただ我武者羅にバットを振るだけではなく、栗山巧選手のようにもっと1振り1振りを丁寧にし、1球1球をももっと大切にしていくべきだ。プロ野球に入ってなおアマチュア野球のような我武者羅さで練習をしていても、本当のプロフェッショナルにはなれない。

しかしそれほど体格に恵まれていなくても、準備やプロセスに決して手を抜くことがなければ、栗山巧選手やイチロー選手のような一流選手になることもできる。栗山選手はまさにプロフェッショナルの鏡だと言えるだろう。

2,000本安打は、栗山選手にとっては通過点でしかなかった。そのため2,000本を達成した後でもまったく燃え尽きたような姿を見せることがない。栗山選手自身、2,000本を達成したあとの1本1本がとにかく大事だ、という趣旨のコメントを残している。

ちなみにこの栗山巧選手にプロフェッショナルの打撃技術を教え込んだのは熊澤とおるコーチ(熊澤コーチの野球塾)だった。熊澤コーチは、筆者が尊敬する数少ないコーディネイターの一人だ。
※コーディネイターとは、バイオメカニクス的観点(スポーツ科学的観点)から選手の動作改善をサポートするコーチのこと。筆者の職種も正確にはコーディネイターとなる。

栗山巧選手の頭の中には「引退」という文字はまだまったくないはずだ。来季は39歳となるわけだが、まだまだ生きるレジェンドとして中村剛也選手と共に、ライオンズを背中で引っ張っていってくれるはずだ。そして2022年は最下位からの挑戦者としてリーグ優勝を果たし、2008年以来の日本一になった姿を必ずや見せてくれるはずだ。ライオンズが日本一になるためには、来季も決して栗山巧選手の存在を欠くことはできない。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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