2024年1月 5日公開
2021年のドラフトで2位指名受けライオンズ入りした佐藤隼輔投手は、当時先発左腕不足に悩んでいたチーム事情もあって、1年目から大きな期待が寄せられていた。
ただ、1年目のスタート時には中継ぎ調整を命じられていたのだが、オープン戦中の今井達也投手の故障により代役が回ってきて、佐藤投手はルーキーイヤーをそのまま開幕ローテーション投手として迎えることになった。
2022年の8月までは先発投手としてマウンドに登っていた佐藤投手だったが、コロナウィルスに感染(無症状)し、その後 一軍復帰した9月以降はリリーフとしてマウンドに登るようになった。その結果先発よりもリリーフ適正の方が高いと評価され、2年目以降もリリーフ投手としてマウンドに登り続けている。
ルーキーイヤーは12試合に登板し9先発、3リリーフ。2年目の2023年は47試合すべてでリリーフ登板を果たし、1翔2敗18Hで防御率は2.50という安定した成績を残し、もはや一軍には欠かせない左腕リリーバーとしての地位を確立させた。
しかし交流戦あたりから指先の血流不良に悩まされるようになり、それによって調子を落とし、7月3日に登録も抹消されてしまう。それでもその二週間後にすぐにまた一軍復帰すると、8月に2週間ほど再調整期間はあったが、その合計4週間以外ではシーズンを通して一軍で投げ続けた。
元々は先発としての能力を持っていた佐藤投手は、リリーフに回ったことでギアを一段階上げ、それにより自己最速となる155km/hという球速も出すようになり、完全に勝ちパターンのセットアッパーとして起用されるようになっていった。
ルーキーイヤーの先発時には佐藤投手はサングラスを着用してマウンドに登っていたのだが、リリーフに転向してからはサングラス姿は見られなくなった。これが何を意味するのかは筆者には分からないが、考えられることとすれば、先発としてはサングラスがずれない程度の落ち着きを持って投げることを心がけ、リリーバーとしてはサングラスがずれるほどの躍動感を持って投げることが意識されたためではないだろうか。そのためリリーフ専任となってからはサングラスを外すようになったのかもしれない。
先発からリリーフに転向した佐藤投手のボールは、スピードガン表示を見なくても明らかに速くなったと感じられるほど力強さを増した。もちろん先発時からボールの力強さは持っていたわけだが、リリーフになってギアを上げることにより、やはりその力強さは目に見えてアップした。
そしてマウンド上で冷静に打者に立ち向かう姿は飄々ともしており、まるで哲学者のような雰囲気さえも醸し出している。このように常に落ち着いたマウンド捌きを見せてくれると、首脳陣も安心して佐藤投手をマウンドに送り出すことができる。絶体絶命のピンチで登板したとしても、佐藤投手は決して冷静さを失うことなく投げ続けてくれるだろう。
近年のライオンズは本当に多くの即戦力先発左腕を獲得してきた。浜屋将太投手、隅田知一郎投手、武内夏暉投手、杉山遥希投手、そして佐藤隼輔投手だ。この中で隅田投手はすでに先発ローテーションの一角を担っており、佐藤投手はリリーフに適正を見出した。
野手の場合はポジションが被りすぎると余剰戦力ともなりかねないわけだが、投手の場合はいくらいても困ることはない。上記の中では浜屋投手がやや脱落してしまったような雰囲気があり、このオフ、背番号も20から40に変更させられてしまった。だが浜屋投手も今後自らの能力を最も活かせるポジションを見出せれば、十分一軍の戦力になることができるだろう。
そして佐藤投手に関しては、今季は指先の血流不良に悩まされてしまった。原因に関しては詳しく報じられていないため分からないのだが、ブルペンではカイロで指先を温めながら待機していたという。
今季以降怖いのはこの血流不良の再発や悪化だ。もちろんオフにはしっかりと検査を受けて再発防止に努めているとは思うのだが、血流不良というのはそれでも起こる時は起こってしまう。だがその心配さえなくなれば、佐藤投手は間違いなく勝ちパターンのセットアッパーとして不動の地位を築き上げていくだろう。
ライオンズにはかつて、星野智樹投手という名リリーフ左腕投手がいた。星野投手の場合は左横から投げる変則投法で、打者を幻惑するかのように大きく曲がるスライダーで一時代を築き上げた。佐藤投手は、その星野投手を上回る左腕リリーバーへと成長していくだろう。
先発もこなせる能力の高さはもちろんのこと、ボールの力も佐藤投手は星野投手を上回っている。これはもちろん星野投手のレベルが低かったという意味ではなく、素晴らしいリリーバーだった星野投手も、いつかは誰かが上回っていくという話だ。
佐藤投手が在学していた筑波大学は、筆者も仕事で何度も訪れたことがあるのだが、スポーツ科学においては日本トップクラスの大学だと言える。野球部門でも川村卓(たかし)先生という素晴らしい研究者がおり、さらにコンディショニング部門でも白木仁先生という素晴らしい方がおり、実際に白木先生は工藤公康投手の股関節のサポートを行っていた。
佐藤投手は筑波大学ではそのような超一流の先生方のもとで学んでおり、コンディショニングや理論的フォーム改善法の重要性は誰よりも理解している一人だと言える。今後、筑波大学で学んできたことをプロ野球の世界で生かすことができれば、佐藤投手は10年20年と一線で活躍し続けられる投手になっていくだろう。
そしてここまではまだ名前は挙がっていないが、冷静なマウンド捌き、ボールの力強さ、変化球の精度などを全体的に見ていくと、佐藤投手も守護神を目指す資格は十分にあると思われる。
今季から始まっていく熾烈な守護神争いを勝ち抜いた投手は、きっとリーグを代表する守護神になっていくだろうし、その守護神争いに敗れた守護神としての能力を持つセットアッパーたちがブルペンを固めていけば、ライオンズの投手力は今まで以上に上がっていくことになるはずだ。そしてその一角を担うのが若き左腕、佐藤隼輔投手なのである。