2021年12月 2日公開
今季8年目の岡田雅利捕手がFA権を行使し、ライオンズと新たに3年契約を結んだ。大阪桐蔭高校を卒業後、大阪ガスで社会人野球を6年経験した後に西武入りした岡田捕手は来季は33歳となり、年齢的にはもうベテランの域に入っている。
渡辺久信GMが就任する前のライオンズは、毎年のように球団本部長の心ない言葉に胸を痛める選手が出ていた。それによりFA移籍してしまった主力も少なくない。だが渡辺GMになってからは、選手とフロントが衝突することが一切なくなった。
岡田捕手にしても、ライオンズへの強い愛着を口にした上で3年契約を結んでいる。以前の西武球団であればまず、FA宣言した選手を強く慰留しようとはしなかった。そのため選手たちは「自分は必要とされていない」と感じるようになり、他球団に活躍の場を求めるようになる。
だが岡田捕手は渡辺GMとの交渉の席で、「必要とされている」と強く感じたようだ。選手としてはもちろんのこと、プレー以外の部分でも評価されての円満契約となったようだ。
岡田捕手の今季の推定年俸は3,000万円で、もしFA宣言をすれば獲得を目指す球団は確実に出てきただろう。ここ2年は打率1割台に低迷しているとはいえ、二連覇した際は打率.272、.262と、打席数は少ないもののそこそこの数字を残している。
岡田捕手は非常に明かるい性格だが、弱気になっている投手を叱責し、立ち直らせることができるリーダーシップも持っている。そのためチーム全体が岡田捕手に対し厚い信頼を寄せている。
そして誰よりも練習熱心で、近年はピンチバンターとして登場する機会も多いのだが、バント練習を欠かさない日は一日もないという。その努力の賜物として、岡田捕手は練習ではライン際に置いたカゴに正確にバントの打球を入れていくことができる。平野謙選手のような、まさに職人技だ。
その努力、その技術の高さを知っているからこそ今季終盤戦、サヨナラの場面でピンチバンターとして登場し、まさかのキャッチャーファールフライに終わってしまった時も、岡田捕手を責める者は誰一人いなかった。総意として「岡田が失敗したのなら仕方ない」という言葉でチーム全体が一致していた。
また、岡田捕手は森友哉捕手の兄貴分として良き相談相手にもなっている。
森捕手は順調にいけば来季中(2022年シーズン)には国内FA権を取得する。この森捕手の流出を防ぐためにも、渡辺GMは岡田捕手と3年契約を結んだのだろう。もし森捕手が慕う岡田捕手が万が一でも冷遇されたならば、来オフは森捕手をFAで失う危険性もあった。
渡辺GMとしては、岡田捕手その人に対し高い評価をしただけではなく、来オフの森捕手のFA流出をなんとしても阻止するためにも岡田捕手の存在は欠かせないと考えていたはずだ。なぜならそれがチームビルディングの総指揮を執るGMの仕事だからだ。
岡田捕手はライオンズでは今まで一度も正捕手になれたことがない。常に炭谷銀仁朗捕手、森友哉捕手の二番手・三番手捕手としてサポートに回ることが多かった。そしておそらくは、今後も森捕手の怪我などがない限り、岡田捕手が正捕手の座に就くことはないだろう。
しかしそれでも岡田捕手の存在はライオンズには絶対不可欠だ。岡田捕手という絶対的なサポートがいるからこそ、森友哉捕手や柘植世那捕手を育成しやすくなるし、彼ら自身思い切ったプレーができるようになる。
正捕手である森捕手にしても、捕手としてはまだまだ成長過程だ。森捕手が今後球界ナンバー1捕手になっていくためにも、岡田捕手のサポートは必要不可欠だ。
数年前までは、本当に毎年のように主力をFAなどで流出し続けていたライオンズだが、渡辺GMが就任してからは「生涯ライオンズ」を宣言する選手ばかりになってきた。
渡辺GM自身としては「根本陸夫にはなれないけど、目指すのは根本陸夫」という考えを持っているようだ。親父と呼ばれて慕われた故根本陸夫ー。
根本の親父が選手たちから愛されたように、今渡辺GMが選手たちから愛されるGMとなりつつある。根本の親父が礎を築いたあとに黄金時代を迎えたように、どうやら今、ライオンズの夜明けは近そうだ。
その夜明けを象徴しているのが、FA権を行使し「生涯ライオンズ」を誓った岡田雅利捕手の朝陽のように輝く笑顔だと言って間違いないだろう。