2021年12月 4日公開
昨オフに栗山巧選手が3年契約を結んだのに続き、今オフは中村剛也選手が新たに2年契約を結んだ。体力的衰えが加速していくベテラン選手と複数年契約を結ぶのはリスクも高いわけだが、この二人に関しては、渡辺久信GMもその心配は不要だと踏んだのだろう。
これで中村選手、栗山選手共に、少なくとも40歳までは現役を続けることになった。一昔前であればこの年齢で複数年契約など考えられないことではあったが、しかしこの二人を見ていると、技術的衰えを感じることがまるでない。
こと中村剛也選手に関して言えば、確かにホームランの数は年々減ってきている。2019年は30本打ったが、昨季は怪我もあり9本、今季は18本に終わっている。
しかし打率はどうだろうか。2019年はキャリアハイの.286をマークし、今季も.284と自己三番目に高いシーズン打率をマークしている。そして38歳という年齢で4番を打ち続け、打線全体が振るわない中で打点は74まで増やした。
ホームランの減少に関しては、恐らくは年齢に伴いバットスウィングのスピードが僅かに落ち、ボールに与えられるバックスピンが減ってしまったからなのだろう。
逆に近年打率が上がってきているのは、スウィングスピードの低下を実感した中村選手自身が、パワーよりもテクニックを重視したバッティングをしたからだと想う。
そして何より38歳という年齢で打席に立ち続け、得点圏打率は.317という数字を記録している。ちなみに満塁での成績は8打数4安打、1本塁打、11打点で打率は.500だった。一方山川穂高選手の今季の満塁での打率は.230だった。
中村剛也選手は2022年は30本塁打打ちたいと言いつつも、チームが勝つバッティングを優先できる打者なのだ。ホームランを狙うべき打席と、そうではない打席をしっかりと分けて考えている。
必ずしもホームランを打たなくても良い場面では、投手が失投した時以外はコンパクトなバッティングを見せることが多い。これは恐らく、ベテランの域に入って来てから特に強く意識し始めたことだと想う。
山川選手のコメントを聞いていると、まず個人成績の話が耳に入ってくる。恐らくは自分がホームラン王になればまた優勝できると考えているのかもしれない。しかしもしそうだとすれば、筆者はその考え方では真の4番打者にはなれないと思っている。
一方中村選手のコメントを聞くと、インタビュアーなどからホームラン数の話を振られればもちろんそれに対しこだわりも見せるのだが、しかし全体的にコメントを聞いていると、チームのことを最優先に考えたコメントを残すことが非常に多い。
中村選手は常々、自身と栗山選手がチームの中心にいるようではいけない、という主旨の話をしている。確かにその通りで、38歳のベテランコンビが打線の軸を担っているようでは、チームを勢いづかせ、軌道に乗せることはできない。
山川選手も中村選手の考え方をもっと見習うべきだろう。ホームランバッターとしてホームラン数にこだわることは決して悪いことではないのだが、メディアを通して聞こえてくる山川選手のコメントは、個人成績が最優先になってしまっているように聞こえるのだ。
しかしそれはメディアの伝え方が悪いわけではない。現に中村選手の場合は、チームを優先にしたコメントがメディアを通して伝わってくる。
それでも山川選手からは個人成績の話ばかりが伝わってくるということは、実際山川選手に話を聞いている記者の方々も、山川選手がそこに主眼をを置いて話していると感じたからだと思う。
中村剛也選手からは、清原和博選手が築き上げた系譜がまだ残っているように感じられる。つまり個人成績を犠牲にしてでもチームの勝利を最優先にする4番打者としての在り方だ。
清原和博選手がFA移籍した後の主な4番打者は鈴木健選手、カブレラ選手、中村選手、山川選手となるわけだが、カブレラ選手は別として、鈴木健選手と中村選手からは清原選手のDNAを感じることができる。
だがこの顔ぶれの中で唯一清原選手と同じ背番号を背負っている山川選手から、そのDNAを感じることができないのだ。しかしそれは筆者だけの話なのかもしれない。
現役選手が伝えることができ、コーチでは伝えられないことがある。このDNAなどはまさにそうだと思うのだが、中村選手には現役のうちに、このDNAを若き選手たちに伝えてあげて欲しい。
そしてそれは山川選手だけに対してではなく、呉念庭選手やブランドン選手など、今季得点圏で勝負強さを見せてくれた将来の4番打者候補たちにも伝承していって欲しい。
10年後はおそらく、中村選手や栗山選手らがライオンズの監督コーチとしてチームを率いているのだと思う。その時に絶対的4番打者を確立させるためにも、来季39歳となる彼らはそろそろその辺りのことも少しずつ意識していくのも良いのではないだろうか。
もちろん選手としてさらに高みを目指してもらい、今のチームを日本一に導くことが最優先ではあるが。