2023年8月25日公開
8月23日にライオンズでの初登板を迎えていたブルックス・クリスキー投手はこのデビュー戦でも、2試合目となる8月25日の登板でも1イニングをしっかり三者凡退に抑え、上々のライオンズデビューを果たすことができた。
現在ライオンズのブルペン事情はと言えば、守護神増田達至投手と平井克典投手が勤続疲労によりやや不安定な状態となっており、前半戦のブルペンを支えてきた森脇亮介投手は今季中の復帰は絶望的で、佐藤隼輔投手にしても後半に入り、やや疲れを見せ始めている。
決してブルペン陣が崩壊寸前というわけではないのだが、綻びが見え始めていたのは確かであり、それを補うために緊急補強されたのがクリスキー投手だった。
渡辺久信GMは今年6月の時点ですでにクリスキー投手の調査を行なっており、それがあったからこそ森脇投手が離脱した僅か一週間後にクリスキー投手と契約を結ぶことができた。
もちろん本来であれば、クリスキー投手の今季のアメリカでの登板をシーズンを通してしっかりと観察し、今オフに入ってから、来季に向けて獲得を検討したかったはずだ。だがオールスター前後というタイミングで森脇投手、佐藤隼輔投手が立て続けに離脱する形となってしまい、まさに緊急的に獲得せざるを得ない状況となった。
緊急的だったと言っても、6月の時点ですでに調査は行われていたため、慌てて契約を結んだという形ではない。いつでも獲得できる状態まで準備は整っており、そこで森脇・佐藤両投手が離脱してしまったため、獲得に至ったというのが経緯だった。
急遽ライオンズに加入し、まさに急遽来日を果たしたクリスキー投手だったわけだが、ファームで投げ始めたあたりのピッチングはやや不安定だった。だがそこから少しずつ調子を上げてくると8月23日に1軍デビューを果たし、そこから中1日で2試合目の登板を迎えた。
そして2試合とも三者凡退に抑え、球数も12球・14球と少なく、課題だった変化球の制球も今のところはまだ不安定さはほぼ見せていない。もちろんここから永遠に無失点が続くわけではないが、しかしこれだけのパフォーマンスを見せられることが分かっただけでも、クリスキー投手の獲得は正解だったと言える。
クリスキー投手はとにかく奪三振率(昨季は11.14)が高い。投球の約40%がスプリッターなのだが、このスプリッターが高めに浮くことが続かなければ、クリスキー投手は守護神を任せられるだけのボールを持っている。
クリスキー投手は、まるで好調時の西口文也投手のようなクロスフィニッシュ(一塁ベース側に体が流れていくフィニッシュ)で投げている。そして重心に関しては外国人投手としては低い場所で使っていると言え、これはメジャーの傾斜がきついマウンドよりも、日本のマウンドの方が合っている可能性を示唆する。
傾斜がきつく粘土質で硬いメジャーのマウンドの場合、上から投げ下ろしたり、体幹主導で投げるフォームが一般的だ。だがクリスキー投手の場合は、一般的な長身投手よりもリリースポイントが低い。
そのため傾斜がきついマウンドだとボールが上ずりやすくなるのだが、そうではない日本のマウンドの場合、この低いリリースポイントが非常にフィットしているように見える。
DeNA時代はまずコロナにより来日が遅れてしまったり、実際にコロナに感染してしまったり、右前腕の軽度の炎症を起こしてしまったりと、決してベストな状態でプレーし続けることはできなかった。そのためパフォーマンスにもやや不安定さがあったのだが、今季はその不安定さはまだ見られない。
もちろんまだ2試合しか登板していないため、これだけですべてを判断することはできない。しかし少なくとも、DeNA時代よりはずっと良いパフォーマンスを見せてくれることは間違いないだろう。
クリスキー投手の球種はフォーシーム、スプリッター、スライダーの主に3つとなる。まずフォーシームをメインにしている時点で、日本の野球にプレースタイルがフィットする可能性が高いと言える。
その理由は、日本のNPBの公式球の方が革のなめしが丁寧で滑りにくく、フォーシームのバックスピンが多くかけやすくなるためだ。
逆にMLBの公式球はなめしが甘く、日本の公式球よりも僅かに重く滑りやすい。そのためどうしても投げる際に僅かに強く握る必要があり、それにより投球時に肘がロックされやすくなり、アメリカでは投手が肘を痛めるケースが増えている。
クリスキー投手も2016年にトミージョン手術を経験しているわけだが、肘への負荷をより小さく抑えられるのは日本の公式球であり、肘への負荷を感じずに投げられるというのは、クリスキー投手にとっては大きなアドバンテージとなるはずだ。
DeNA時代にはまだ慣れないNPBの公式球を上手く扱いきれなかった面もあったが、今季に関しては日本のプロ野球の情報がしっかりと揃った状態で来日しているため、マウンド上の姿を見ていてもどこか安心感を感じさせてくれる。
言い換えると、自分自身と格闘しているような姿を昨季はまだ見せていたのだが、今季はしっかりと打者と対戦できているように見えるのだ。これがDeNA時代とライオンズ時代の最大の違いではないだろうか。
ライオンズが今季Aクラス入りする可能性は限りなく低い。もはや絶望的と言っても良いくらいで、もし今週末のファイターズとの3連戦で負け越せば最下位にさえ転落してしまうような状況だ。
そのような現状を踏まえるならば、クリスキー投手は来季以降の守護神候補としてテストしていくのが望ましいのではないだろうか。もちろん将来的な守護神の座に意欲を見せている豆田泰志投手や、青山美夏人投手も含めての競争になるわけだが、奪三振率の高さと球威を見る限りでは、この調子で行けばクリスキー投手が一歩リードしていくような気がする。
豆田投手もここまで非常に素晴らしいピッチングを続けているわけだが、経験値という意味ではまだクリスキー投手の方が実績は上であり、豆田投手や青山投手が今後伸びていくまでの間、増田投手が不安定になったらクリスキー投手にスイッチするという起用法も考えられるのではないだろうか。
いずれにせよデビュー2試合に関しては、クリスキー投手は守護神の適性を感じさせるだけの素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。あとはここから制球難で崩れることなく、逆に奪三振率を少しずつ上げていければ、いつでも増田投手の代役を務められるだろう。
次期守護神の育成も急務となっているライオンズだけに、まずはクリスキー投手がそこに名乗りを上げてくれそうなのはライオンズファンにとっては朗報だ。あとは今後、80%以上の確率でリリーフに成功できるかどうかが鍵となってくる。
その確率を実現させるためにも、ベルーナドームのマウンドはクリスキー投手に非常に合っているように思える。恐らく今後の数字を観察していくと、他球場よりもベルーナドームでの成績の方が良いという形になっていくのではないだろうか。
ホームのマウンドに上手く馴染めることも主戦投手には必要な能力であるため、クリスキー投手にはぜひ、ベルーナドームを我が家(ホーム)と思えるようになってもらいたい。