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2023年12月27日公開

育成のライオンズで常勝時代を築き上げるために加わった二人の専門家

北海学園大学14年振りの優勝を支えた加藤拓光新任アナリスト

加藤拓光氏&土井一生氏

ライオンズには数年前からバイオメカニクスチームが設置されている。バイオメカニクスとは投球フォームや打撃フォームの映像をソフトやアプリに乗せて専門スタッフが分析し、「ここがこういう動作になっているから、こういうパフォーマンスになっている。ここをもう少しこうすると、パフォーマンスもこう変わる」というアドバイスを選手に送る作業のことであり、まさにこれが筆者の職業でもある。

ライオンズの場合、今季まではバイオメカニクスチームに武隈祥太氏と榎田大樹氏が在籍していたが、榎田氏は来季からはコーチとなるためバイオメカニクスチームからは離れる。現時点で武隈祥太氏の他にどのような顔ぶれがバイオメカニクスチームに在籍しているのかは分からないが、少なくとも二人の専門家が来季からこのチームに加わることになっている。

一人目は、今季までは札幌六大学野球一部の北海学園大学で2シーズンアナリストを務めていた加藤拓光氏(23歳)だ。加藤氏も元々は野球選手を目指していたのだが、学生時代に起立性調節障害(自律神経の働きが悪くなる疾患)を患ってしまい選手としての道が絶たれてしまった。

その後は独学で勉強されながら北海学園大学4年生の時に当大学の野球部にアナリストとして加わり、卒業後は北海道教育大学岩見沢校の研究生として、体の仕組みや人体力学などバイオメカニクスへの知見を深めていった。ちなみに加藤氏が得意とするのは「ラプソード」という分析機器で、髙橋光成投手平良海馬投手が所有していることでも知られる。

そしてその加藤氏のサポートもあり、北海学園大学は14年振りの優勝を果たした。その実績を携えて今年の10月に西武球団の面接を受け見事合格し、アナリストとしてライオンズのバイオメカニクスチームに加わることになった。ちなみに加藤氏の夢は日本代表チームのアナリストになることであるようだ。きっと彼ならライオンズが日本一になる大きな助力となり、いつか日本代表からも声がかかるアナリストとなるだろう。

若獅子寮で選手の生活指導を行いながら分析にあたる土井一生氏

そしてライオンズにはもう一人異色のスタッフが加入する。今季までは広島東洋カープでデータ分析を担当されていた球団職員、土井一生氏(61歳)だ。土井氏は西武球団側のオファーによりカープからライオンズに移籍することになった。移籍に際しカープの松田オーナーも「良い話じゃないか。この世界は移籍も多いのだから気にしなくていい」と話しているようだ。

土井氏は来季からライオンズで若獅子寮の副寮長とデータ分析の仕事を兼任する。ちなみに土井氏は元教員という肩書も持っており、若い選手たちの扱いには非常に慣れている。その土井氏がカープに加わったのは2021年9月で、それ以前は佐賀県伊万里商業高校の教頭先生で、専門分野は数学と電気工学だった。

近年ライオンズでは若い選手、中堅選手による不祥事や風紀を乱すような出来事が続いていた。それを引き締めるためにも西武球団は若獅子寮に土井氏を在籍させ、選手たちの生活指導などにも当たってもらうために招聘したという。12球団の中で最もコンプライアンスを重視する西武球団にもかかわらず不祥事が続いていたことで、西武球団も再発防止のため、素晴らしい人材を呼ぶことができたと言えるだろう。

その土井氏の専門はホークアイの利用で、ホークアイもラプソードやトラックマン同様、動作解析やボールの回転数などを分析する機器だ。そしてこのホークアイはSONY製ということも特筆しておくべきだろう。動作分析や弾道分析機器は元々は軍事機器だったため、どうしてもアメリカがこの分野では常に先行していた。だが日本のSONY社も負けじと素晴らしい危機を開発しているのだ。

そしてホークアイは、2020年シーズンからMLB全球団の本拠地に設置され、そのデータを中継などでファンに提供されるようになった。メジャーリーグ中継を見ていると球速だけではなく、回転数やホームランの飛距離も表示されることがあるが、これらはホークアイによって分析されたデータとなる。

ラプソードにしても、トラックマンにしても、ホークアイにしても本当に素晴らしい機器だ。筆者ももちろん仕事柄それらのデータに触れる機会が非常に多いのだが、今やプロコーチはこれらの機器を扱えないようでは仕事が成り立たなくなっている。

そしてこれらの機器も、数値だけを見ていてはまったく役に立たない。例えば髙橋投手や平良投手はラプソードを自主トレに取り入れているわけだが、フォームをこう変えたら数値がこう変わった、筋肉が何%増えたら球速がこれくらい変わったという、基本的な数値はデータとして役立てることはできる。だがバイオメカニクスとなると専門的な学習が必要になるため、選手がそこまで理解するのは非常に難しい。

だからこそ一部のプロ野球選手は筆者のようなパーソナルコーチと個人契約を結んだり、ライオンズのように加藤氏や土井氏のような専門家をチームに招聘し、データの活かし方や、バイオメカニクスに基づく動作改善法を的確に選手にアドバイスしていける環境を整えようとしている。

ちなみに動作分析ソフト、パフォーマンス計測機器などを使いながら動作分析をし、科学的根拠に基づいて選手にフォーム改善法をアドバイスしていくことをコーディネートと言い、それを行うコーチのことをコーディネーターと呼ぶ。筆者の厳密な職業名はこのコーディネーターに当てはまる。

育成のライオンズで始まっていく新たな常勝時代

西武球団の来季の合言葉は「ノーモア山川」であることに間違いない。もうこれ以上大小問わずチーム内から不祥事を出すわけには行かないし、こんなことをこれからも続けていては黄金時代の再来など夢のまた夢だ。

だからこそ西武球団はこの現状を改善すべく土井氏をカープから招聘し、さらには一部他球団のように金に任せてチーム強化をするのではなく、ドラフトで指名してきた選手たちを丁寧に育て上げるためのバイオメカニクスチームを強化するため、専門家である土井氏と加藤氏をチームに加えることになった。

ホークスは近年4軍まで設けることにより、第二の千賀投手、甲斐捕手を生み出そうとしているがこれが上手く機能しなくなってきている。逆にライオンズはバイオメカニクスチームを強化したことで、特に投手陣のレベルが一段と上がってきた。

実はバイオメカニクスというのは、成績面で見ると投手指導よりも打者指導の方が難しい。なぜなら投手は自分のタイミングのみでボールを投げることができるが、打者は投手が投げたボール次第でパフォーマンスが変わってくるためだ。

だが元選手のアナリストだけではなく、土井氏や加藤氏のような専門分野を学んだアナリストを加えていくことで、そのデータをさらに上手く活用できるようになり、今後は投手陣だけではなく、打者陣もその恩恵を大きく受けるようになるだろう。

特にここ2〜3年以降にライオンズに入団した、いわゆるバイオメカニクスネイティブとも呼べる選手たちは、中堅・ベテラン選手以上に速い吸収速度でデータを生かしていくようになるはずだ。

するとスポーツ科学的に正しくない動作を繰り返して成績がなかなか上がらなかったり、怪我を繰り返してしまうということも減っていくことが予想される。専門家である筆者に言わせれば、野球選手の怪我というのは「体の構造に則した動作ができていない」から起こるものなのである。

もちろん衝突などは話は別だが、野球肩、野球肘、腰痛、手首痛、下半身の故障などは、フォームを体の構造に則した動きに微調整していけば防げるものがほとんどだ。実際筆者のクライアントたちも筆者のコーチングを受けた後は、野球肩野球肘が再発しなくなった選手がほとんどだ。

ライオンズでは投手を見れば毎年複数人がトミー・ジョン手術を受けているし、野手陣も小さな怪我を繰り返す選手が多い。このような現状を打破するためにも、専門家である土井氏と加藤氏は大きな存在となるはずだ。

優勝をお金で買おうとするのではなく、ドラフトで指名した選手を大切に、そして着実に育成していくことにより新たな常勝時代を築き上げようとしている、それが今現在の埼玉西武ライオンズなのだ。

今やライオンズは科学面においては、すっかり12球団の中でもリーディングカンパニーとなりつつある。そしてその効果も着実に見えてきているため、ライオンズが育成により常勝時代を築き上げる日が、早ければ来年からでも始まっていくことになるだろう。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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