2023年12月25日公開
今オフ、ライオンズは宮川哲投手とのトレードでスワローズから元山飛優選手を獲得した。宮川投手がライオンズを去ってしまったことは本当に残念で寂しくもあるが、しかし宮川投手を出しただけのことはある素晴らしい選手を獲得することができた。
元山選手はショートが本職ながら、セカンドもサードも守ることができる。つまり、来季万が一源田壮亮主将や外崎修汰選手に怪我や体調不良があったとしても、元山選手がどちらもカバーできるということだ。
そして来季布陣としてはファーストアギラー選手、セカンド外崎選手、ショート源田選手という形になるわけだが、現状ではまだサードのポジションだけは埋まっていない。そのためまず元山選手が目指していきたいのはサードとして試合に出る形だ。
だがそのサードも決して完全に空白のポジションというわけではない。まず今季四番を打つことも多かった渡部健人選手の存在があり、さらには今オフ背番号が10番に変わった期待の内野手、佐藤龍世選手も今季終盤からはチームには欠かせない選手となっていた。つまりまだレギュラーが確定していなかったサードというポジションが、元山選手が加入したことでさらなる激戦区となったということだ。
渡辺久信GMは上手く複数の激戦区を作り上げたと思う。激戦区となるポジションでは、競争を勝ち抜いた最もレベルの高い選手だけがレギュラーになることができ、選手たちはレギュラーになるためには少しでもレベルアップしようと努力をする。そしてライバルが少しでもレベルアップすれば「自分も」と考える他の選手もさらなるレベルアップを目指し、素晴らしい相乗効果を生み出すことになる。
ライオンズでは現在、キャッチャー、サード、センターが激戦区となっている。キャッチャーに関しては、今季は怪我に苦しんだとは言え柘植世那捕手と古賀悠斗捕手の争いは熾烈だ。しかも今オフはここに、この2人がダメだったとしても問題ないというように、炭谷銀仁朗捕手が復帰した。 この熾烈な正捕手争いは、森友哉捕手が抜けた穴などまったく感じさせない正捕手を生み出すことになるだろう。
現在、サードもこの熾烈な捕手争いに似た状況になってきた。正捕手争いは上手く機能して、ライオンズの捕手のレベルは、森捕手が在籍していた頃以上に高くなったと言える。古賀捕手の今季の盗塁阻止率は.412で、パ・リーグではダントツ1位の素晴らしい数字だった。ちなみにこのラインキングに森捕手の名前は今季はまったく出てこない。
ライオンズのサード争いは、この正捕手争いと同じように今熾烈を極めている。来季、仮にレギュラー1人を固定できなかったとしても、併用していく中で三塁手の成績は来季は大幅に向上することになるだろう。そして万が一でも若手が全滅したとしても、炭谷捕手の存在同様、サードには中村剛也選手がいるため問題ない。
さて、もう一箇所。ライオンズは今季外野手をまったく固定できずにポジション争いの競走を生み出すことさえ叶わなかったわけだが、そこにまずフランチー・コルデロ選手を獲得してレフトを埋めた。コルデロ選手の本職はレフトではないと思うのだが、しかし守備力はお世辞にも高いとは言えないため、ここはレフトとして起用するのが無難だろう。
そしてライトには蛭間拓哉選手が入ることが濃厚だと言える。もちろん外野手は他にもたくさんいるわけだが、ルーキーイヤーの成長速度と思考能力の高さを考えると、やはり蛭間選手を常時起用してさらにハイレベルな選手へと育てていくのが最善だと考えられる。
するとライオンズの外野の穴は現状、センターだけということになる。だがこのセンター争いも来季は熾烈を極めるはずだ。今季は外野すべてのポジションが空白だったため熾烈な争いになることはまったくなかった。だが来季の外野陣は今季のようにはならない。
来季は蛭間選手の調整が順調に進めば、空白のポジションはセンターのみということになり、その一つのポジションを複数の外野手で競っていくことになる。しかも今オフは若林楽人選手も膝の金具を除去し、来季はいよいよルーキーイヤーのような躍動感を見られるようになるはずだ。
若林選手はパンチ力もあり、守備力は抜群で、走力に関してはあえて書く必要などないレベルの高さだ。若林選手の走力はまさに松井稼頭央監督が掲げる走魂に相応しい存在となるだろう。
だがセンターを狙うのは若林選手だけではない。鈴木将平選手や西川愛也選手も来季こそはレギュラー獲りを目指してくるだろうし、2軍には未完の大砲高木渉選手の存在もあり、金子侑司選手にしてもこのまま朽ち果てるつもりはないだろう。
メディアは未だに「山賊打線」という言葉を使いたがる。だが渡辺久信GMはすでに1〜2年前の時点で山賊打線はすでに解体されていて、今はまったく新しい打線を作り直していることを明言している。
そしてその打線が来季いよいよ仕上がりを見せようとしている。まず四番にはメジャーでの得点圏打率もなかなか高かったアギラー選手がどっしりと座ることになるはずだ。そして四番の得点圏打率が高ければ、打線としてはとにかく四番の前にできるだけ走者を貯めることだけを考えれば良くなる。
しかし四番の得点圏打率が山川選手のように低い場合、緊迫した試合になってくると打線のどこからでも打点を挙げなければならなくなり、打線のバランスが崩れやすくなる。すると大振りすべきではない打者まで大振りして、チーム打率もどんどん低くなっていく。これがまさに今季までのライオンズ打線が悪循環していく姿だった。
だが来季アギラー選手が得点圏でしっかりと.350程度の数字を残してくれれば、他の選手は無理してポイントゲッターを目指す必要がなくなり、とにかく次の打者に繋いで行くことだけに集中することができる。すると個々それぞれの役割も明確になり、打線がしっかりと線として機能するようになる。
来季、四番アギラー選手、五番コルデロ選手という並びは、そのような機能する打線を作り上げるためにも心強い存在となってくれるだろう。
そして元山選手の加入によりさらに熾烈を極めることになるサードから、20〜30本程度のホームランを打てる打者、もしくは.280以上の打率を残せるチャンスメーカーが誕生してくれれば、ライオンズの得点力は今季では考えられなかったくらい高くなっていくはずだ。
宮川投手を出してまで元山選手を獲った理由が分からないと考えるライオンズファンも一定数いるようだが、しかし機能する打線を作り上げるためには、元山選手は絶対に必要な選手だったと思う。もちろん宮川投手もライオンズにとっては非常に必要な投手だったわけだが、しかし投手力と打撃陣の現状を見比べると打撃陣の方に多くの不安要素があり、その不安を解消するためにも、やはり宮川投手を出してでも元山選手を獲得する必要はあったと思う。
元山選手にはレギュラーを目指してもらうということ以上に、来季素晴らしい三塁手を生み出すための熾烈な競走を、さらに熾烈なものにし、さらに素晴らしい三塁手を生み出すという役割も担っている。そして元山選手自身がそのような三塁手として活躍できるようになれば、このトレードはまさに大成功だったと言えるようになるだろう。
だが空白となっているサードの争いをさらに熾烈にしたという時点で、すでに元山選手の獲得は成功だったと見ることができる。そして来季、ライオンズの三塁手がどのような素晴らしい活躍を見せてくれるのか、筆者は今から本当に楽しみにしている。