2024年1月30日公開
ライオンズは近年、育成契約から這い上がって来て一軍で活躍する選手が増えて来た。本来であれば四軍まであるホークスが続々とこのような選手を出していきたかったわけだが、実際のところホークスの育成事情は近年かなり停滞しており、育成選手からスターを生み出すというお株はすっかりライオンズのものとなっている。
そんな育成のライオンズにおいて、2023年に大きな期待を抱けそうなのが長谷川信哉選手だ。長谷川選手は2020年の育成ドラフト2位指名でライオンズ入りし、2年目の2022年7月に支配下契約を勝ち取った。
だが支配下契約を勝ち取る直前、長谷川選手はSNSの不適切利用によって処分を受けてしまった。もちろんこれは違法性の疑いがあるような事柄ではなかったため、処分そのものは軽く済んだわけだが、しかしまだ無名の頃だったとは言え、プロ野球選手がSNSを出会い系サイトのように利用するのはいただけなかった。
しかも当初長谷川選手は西武球団からの追及に対し、アカウントを乗っ取られていたと嘘の証言をしていた。だが西武球団が警察に被害届を出すと言うと、あっさりと嘘をついたことを認めたようだ。このあたりは、20歳にしてはやや子どもっぽいことをしているなという印象を受けたものだ。
だが間違いなど誰でも犯すものだ。この一度の過ちを決して忘れることなく、同じような過ちを繰り返しさえしなければ、ファンとしてはまったく気にする必要はないと思う。長谷川選手もこれに懲りてSNSを不適切に使うことはなくなるだろうし、ましてや球団に対して丁稚な嘘をつくことも今後は決してしないだろう。
山川穂高選手のように違法性がある可能性が高いような問題ではないことから、長谷川選手の場合はまだ「若気の至り」という言葉で片付けてしまって良いと思う。だが二度目はそれで済まされることはないため、今後はぜひともプロ野球選手として相応しい言動を心がけてもらいたいというのがライオンズファンの総意だ。
さて、そんな長谷川選手の2024年の目標だが、最低でも打率.280以上という数字を目指していくようだ。確かに長谷川選手の目標としては現実的とも言えるこの数字であるわけだが、しかし.280以上を目指すのであれば、目標は.280ではいけない。
これは野球選手によくあるパターンなのだが、打率3割を打ちたい選手が打率3割を目標にしてしまうと、得てして打率3割が近付いて来た時に平常心を失ってしまい、打撃フォームが少しずつ狂い出し、結果的に3割どころか.270〜.280まで落ちてしまうことがよくある。
そのため筆者はプロコーチとして、選手が打率3割を目標とした際には、3割を打ちたいのであれば.310を目標にしなさいと伝えるようにしている。目標が.310であれば、.300という数字は通過点でしかなくなる。だが目標を.300にして、実際に.300というゴールが近づいてくると、どうしても力みが生じてしまうのが人間の
だからこそ長谷川選手も.280以上をマークしたいのであれば、.280という数字が通過点でしかなくなる目標を設定すべきなのだ。ここで仮に長谷川選手が.290という目標を設定したとして、今年の秋に実際には.280しか打てなかったとしても、一人のファンとして長谷川選手を責めることはしないだろう。
それどころか.280という数字は、クリーンナップではなかった場合、9人のうちの1人だった場合は十分に誇れる数字だと言える。ただしこのような理屈で考えて行った場合、長谷川選手はもしかして実際には.270以上を打ちたいと考えていて、.270という数字を通過点にするために.280と公言したという可能性もある。
このあたりの真実に関しては、筆者は長谷川選手のインタビュー等をすべてチェックしているわけではないため分からないのだが、もし.270を通過点にするために.280という目標を作ったのであれば、長谷川選手はすでに一軍のレギュラーになるための資質を備え始めていると言っていいだろう。
ちなみに長谷川選手はオフには、2年連続でジャイアンツの坂本勇人選手を師事してトレーニングを積んでいる。そしてこのオフは坂本選手の指導により、どうやらステイバックを身につけたようだ。長谷川選手はインタビューで「ずっと右足に体重が乗っているイメージ」というコメントをしており、これによりステイバック打法に変更したことが窺える。しかし正確には「イメージ」ではなく、実際にしっかりと右に乗り続けることになる。
日本のアマチュア指導の現場では未だに体重移動をする打ち方が徹底して指導されているわけだが、メジャーリーグでは体重移動をする打ち方をしている選手は非常にレアだ。日本でも近年、毎年のように安定した成績を残している打者で体重移動に頼って打っている選手は非常にレアだと言える。
筆者はプロコーチとしてプロアマ選手にステイバックを指導する立場にあるわけだが、ステイバックが身につくと結果的にミート力も長打力も同時にアップさせることができる。だからこそそれを知るメジャーリーガーたちはもう体重移動をしようとはしないのだ。
例えばライオンズで言えばプロ5年目に浅村栄斗選手が打点王を獲得したわけだが、浅村選手は熊澤とおるコーチの個人指導を受けたことによりステイバックを身につけ、若くして球界を代表するスラッガーに成長していった。
残念ながら今のライオンズには、ステイバックを理論的に指導できる熊澤コーチのような有能かつ理論派の打撃コーチはいないように見えるのだが、ステイバックを正しく身につけられると熊澤コーチを師事した浅村選手や、金森コーチを師事したアレックス・カブレラ選手のように幾度もタイトルを獲得できる選手になることができる。そしてもちろん長谷川選手が師事する坂本選手もタイトルホルダーだ。
もし長谷川選手がステイバックを正しくマスターすることができていれば、2024年はキャリアハイどころか、チーム内でもトップクラスの成績を残せるようになるだろう。ステイバックという技術はそれくらい成績を押し上げてくれるわけだが、残念ながらライオンズでステイバックをマスターしている選手は多くはない。現状では熊澤とおるコーチの指導を受けた栗山巧選手と中村剛也選手くらいではないだろうか。
さて、長谷川選手の打撃フォームは、ベイスターズの宮崎敏郎選手のフォームを参考にした左足の上げ方に特徴がある。実際にふたりのフォームを並べてみると非常によく似ていて、タイミングの取り方に関しても長谷川選手はよく参考にしているようだ。
だが長谷川選手と宮崎選手には少なくとも一点、大きな違いがある。それは体幹の強度だ。体幹に関してはフォームを見る限り、宮崎選手の方が圧倒的に強いと言える。
長谷川選手のスウィングを見ていると、多くのスウィングで腰が反ってしまっているのだ。これはバッティングでもピッチングでも同じことが言えるのだが、腰が反ってしまうとスウィング中に体幹を使えなくなってしまう。
体幹というのは軸のスタビリティ(安定感)を向上させる役割を持っているのだが、体幹が弱いと軸が不安定になり、バットを出したいところに正確に出せなくなることでミート力が向上せず、しかも軸の動きが不安定になると回転運動も鈍くなり、スウィングスピードも上がらなくなってしまうのだ。
今年長谷川選手が一軍で規定打席に届くような活躍を見せるためには、今からでも人並み以上に徹底して体幹を鍛えていくべきだろう。ちなみにメジャーリーグではアーリーワークが主流となっており、多くのメジャーリーガーたちがチームの合流時間の1時間前にグラウンドに出て、その1時間を体幹を鍛えたり、体幹をアクティベートすることに費やしている。
日本ではアーリーワークはただの早出練習と捉えられていることがほとんどだが、本物のアーリーワークとはこのように、体幹のアクティベートに時間を費やすことを言う。長谷川選手もメジャーリーガーに倣ったアーリーワークに取り組んでいけば、2024年は規定打席に到達できる可能性もぐんと高まっていくはずだ。
そして一軍のレギュラーとして活躍できるようになれば、長谷川選手のルックスであれば一気にスターダムにのし上がれるだろうし、バランスの取れた体と動きを見る限り、将来的には宮崎敏郎選手のように毎年のように3割以上の打率を残せるようにもなるだろう。
長谷川選手は2023年にはプロ1号も含めて59試合で4本塁打を記録し、パンチ力を持っていることも証明して見せた。このことから長谷川選手も近い将来、宮崎選手のように毎年のように打率3割以上をマークしつつ、ホームランも15〜20本程度打てる打者になれる可能性を秘めていると言える。
だが可能性だけではプロでは食べてはいけない。この可能性を現実にしていくためにも、腕や脚を太くするのではなく、長谷川選手はまずは体幹を徹底的に鍛えるべきだ。上述したステイバックを身につけるためにも、実は強靭な体幹が必要になってくる。体幹を鍛えて上手く使えるようになればスウィング中に腰も反らなくなり、それによってさらに体幹を使えるようにもなり、ミート力も長打力も目に見えて向上していくことになるだろう。そしてそうなれば文字通り近い将来、長谷川選手が外野手として不動のレギュラーを掴み、タイトル争いに加わってくる日もやってくるだろう。