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2022年10月 4日公開

戦力外通告第一報は6選手、そしてプロ野球チーム運営の裏事情

ページ更新:2022年11月30日(水)

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本来の趣旨からかけ離れた育成システムの使われ方

※ 本記事に取り上げた6選手はすべて、2022年11月に育成選手として再契約されました。

今季もまたこの時期がやって来た。西武球団の戦力外通告に関する第一報が届いたのだ。齊藤大将投手、粟津凱士投手、伊藤翔投手、上間永遠投手、出井敏博投手、牧野翔矢捕手の6人だ。だが当然戦力外通告がこれだけで終わるはずはなく、これから第二報、第三報と届いてくるのだろう。

今回戦力外となった出井投手以外の5人に共通しているのは、いずれもトミージョン手術と呼ばれる内側側副靱帯再建術を受けているという点だ。牧野捕手は今年6月で、4人の投手は昨年すでに受けている。恐らくこれは球団が費用を負担しているのだとは思うが、筆者は近年のこの傾向にいささかの疑問を抱いている。

一昔前までは、契約更改で揉める原因のトップ3に入っていたのが怪我が公傷扱いになるかならないかだった。公傷として認められれば、怪我によって成績が下がっても年俸が大幅に下がることはない。だが公傷と認められなければ、税金を払うのが困難になるほどの減俸を受けることになる。

一応NPBには年俸の削減率の上限がガイドラインとして定められてはいるが、選手が合意すればその上限を気にすることなく減俸が可能となる。このガイドラインに関してもあまり機能しているとは思えず、選手側からすれば大減俸か戦力外か好きな方を選べ、と言われているようなものだ。

さて、近年は育成契約制度が登場したことにより、怪我をした選手は一旦育成にしてしまえばいいという考え方がNPBに浸透しつつある。もちろんルール上可能なのだからこれを責めるつもりはないのだが、筆者個人としてはこの考え方に賛意を示すことはできない。これは本来の育成システムの趣旨に反した利用法だ。怪我をしたからと言ってすぐにクビを切れば風当たりが強くなる。だから1年間は育成で様子を見ている、というふうに筆者の目には映ってしまっている。

ちなみに今日戦力外となった4投手も肘を怪我し、トミージョン手術を受け、育成契約に変更され、そして1年後に戦力外という流れとなっている。そもそも一球団で同じ年に4投手もトミージョン手術を受けること自体がおかしい。そしてプロ入り後酷使もなく、まだこれだけ若い年齢で肘を痛めてしまうというのは、これはスカウト陣の失策だとも言える。

筆者は野球動作分析の専門家であるため、その投手の投げ方を2〜3球見ただけでどこが怪我しやすいのかをかなり高い確率で予測することができる。だがこれは経験がなせる技ではなく、勉強でなせる程度の技だ。筆者にできて、百戦錬磨の元プロ野球選手だったスカウトマンたちにできないはずはない。

殻を破る前に肘が壊れてしまった若獅子たち

近い将来肩肘を痛める可能性がある程度高い投手は、いくら高校大学で活躍していたとしてもドラフト指名は避けるべきだ。例えば筆者は大石達也投手の肩痛を入団当初から予測しており、全力で投げ続ければ必ず肩を痛めると考えていたため、先発投手として力を抜いて投げる技術を身につけるべきだ、と書いたことがある。

投手の場合、酷使されることにより肩肘を痛めるケースと、酷使されていなくても痛めるケースがある。後者に関してはかなり高い確率で予測することができる。野球医学を学べばそれが可能になるのだが、筆者のようにそこまで学ぶコーチはプロフェッショナルコーチでも多くはない。

だが今日戦力外通告された若い投手たちのように、成長する前に若くして怪我により球界を去る選手を減らすためには、プロ野球のスカウトマンやコーチも野球医学を多少なりとも学ぶ必要があると思う。これをトレーナー任せにしているだけではチームは強くはならない。

筆者は上間投手の将来にはかなり期待していたのだが、しかし彼は内旋型トップポジションで投げていたため、肘を痛めるリスクが非常に高かった。だが同時に投手としての資質も非常に高かっため、こんなに早く肘を痛めてしまったことが本当に残念でならない。

粟津投手にしても、ドラフト指名された当時の潮崎哲也コーチを師事してシンカーに磨きをかけたいと話していただけに、将来は潮崎二世になってくれるのではとも期待していたが、1軍での登板は僅かに1試合のみに終わってしまった。

伊藤翔投手に関してはリリーフとしても先発としても時々1軍で良い働きを見せていただけに、今後の成長が期待されていたわけだが、やはり殻を破る前に肘を痛めてしまった。

そしてかつてのドラフト1位である齊藤大将投手だが、ドラフト1位だけあり球団もなんとかきっかけを与えてあげようとし、2019年にはアメリカのドライブインベースボールにも派遣されていたのだが、残念ながら齊藤投手もまた、そのきっかけを掴みかけたところで肘を痛めてしまった。

牧野捕手は今季はプロ初出場で岸孝之投手からヒットを打っていたのだが、しかしその直後にトミージョン手術を受けることになってしまった。

出井投手は育成選手としてBCリーグに派遣されていた時期があった。そこで経験を積んでNPBで活躍して欲しいという球団の親心だったわけだが、筆者はこのようなやり方もあまり好きではなかった。育成とは言え西武球団が指名したのだから、西武球団内で最初から最後まで育成することを目指して欲しかったのだ。

球団運営の裏事情

皆あまりにも若くして肘を手術している。現在、トミージョン手術が失敗する確率はほとんどない。それこそ99%以上の確率で成功するというのが現代医学の実力だ。

ライオンズの上記選手たちも、トミージョン手術が失敗に終わったという報道はされていないし、再手術したという情報もない。ということは肘は良くなったけど、単純に期待値に近い活躍を見せられなかったということなのだろう。

だが彼らのこれまでの能力をしっかりと把握していれば、手術が成功したとしても、いきなり1軍でバリバリ働けるようにはならないということは最初から分かっていたはずだ。それでも西武球団が彼らに手術を受けさせたというのは、コンプライアンスのためだろう。

一昔前であれば、酷使やプレー中の衝突などを除けば、公傷になるかならないかは非常に微妙なところだった。実際のところ公傷扱いされずに年俸を下げられたり、戦力外になった選手たちは非常に多い。

だがそうなると現代のコンプライアンスに於いては選手を使い捨てにしているという印象を与えかねない。そのような印象を与えないためにも西武球団は彼らにしっかりと手術を受けさせて、育成選手として1年間の猶予も与えたのだろう。

このように書くとネガティブな印象を与えてしまう気もするが、しかしプロ球団はあくまでもビジネスであるため、球団社長やGMはそこまで考えてチームビルディングをしていかなければならない。渡辺久信GMも監督退任後に独学でスポーツマネジメントを学んでいらっしゃるとのことなので、このあたりは重々承知した上での対処法だったのだろう。

スポーツビジネスは本当に難しい。ある種の広告業でもあるわけだから、球団の印象が悪くなればベルーナドームに掲載される広告出稿も減ってしまう。そして堤義明前オーナーの粉飾決済事件があって以来、西武球団は特にコンプライアンスには注意して来た球団でもある。

今回のコラムは少し穿った見方での締めくくりとなってしまうが、これが球団運営の裏事情ということで軽く読み流していただければ幸いです。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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