2024年8月 5日公開
さて、今回のコラムでは投手陣で予想される整理リスト入り選手について書いていこうと思う。整理リストとは各球団が作成する、いわゆる戦力外通告をされる可能性がある選手のリストのことだ。
まず筆頭候補に挙げられるのはかつての守護神、今季36歳の増田達至投手だろう。ただし増田投手の場合は戦力外というよりは、ライオンズにとっては大功労者となるため任意引退という形になるはずだ。そのためもしシーズン中に引退の決断がされた場合は、西武球団も盛大な花道を用意してくれるはずだ。
ちなみに戦力外と任意引退の違いは、戦力外というのは合同トライアウト終了後は国内外どの球団とも入団交渉をすることができる、いわゆる完全フリーエージェント状態になることだ。一方任意引退というのは現役引退後も籍はその球団に残る。そのため、例えば引退を撤回して「やっぱり現役を続ける」ということになった場合、その選手は前所属球団に保有権が残っているため、仮に他球団でプレーする場合でも、前所属球団の合意が必須になる。
増田投手の場合は戦力外と言っても、任意引退扱いになるため後者ということになる。そしてその増田投手だが、今季は4年契約の4年目となっており、年俸は2億4000万円となっている。しかしここまでは僅か12試合の登板で0勝2敗、防御率4.09という成績にとどまっている。
ちなみにファームでも10試合の登板で1勝0敗、防御率3.60となっており、奪三振率も4.50とかつての輝きは完全に失われている。ただしファームで投げられている限り、どこか怪我をしているというわけではなさそうで、そのような情報も今のところ耳にすることはない。そのため純粋に戦力的に一軍に上がれていないということを現状と見るべきだろう。
筆者個人としては増田投手には、バファローズの平野佳寿投手のようにライオンズを三連覇に導く大ベテランの活躍をまだまだ期待したいわけだが、しかし年俸2億4000万円で今季ここまでの成績を考えると、常識的には球団からすでに引退勧告が出されていても不思議ではないだろう。
ただしファームでも、かつての守護神レベルの活躍ではないものの、決して大崩れしているわけでもない。そのため一軍のブルペン陣の崩壊が続いた場合、この大ベテランにも一軍昇格のチャンスが巡ってくる可能性は0ではないと言える。しかしファームではルーキーの糸川亮太投手が22試合で防御率1.33と活躍しているため、順番的には糸川投手の昇格の方が先になるだろう。
あくまでも常識的に考えれば増田投手が今季限りでユニフォームを脱ぐ可能性は高い。しかし筆者個人としては来季の年俸が例え2億円減の4000万円になったとしても、最後にもう一花咲かせてもらいたいというのが正直な思いだ。
そして二人目として名前を挙げなければならないのは、やはりベテランで今季34歳の平井克典投手だ。昨オフはFA宣言をしてかなり長い時間をかけて残留を熟考した平井投手だったが、結果的には「年齢的に活躍できる時間はもう長くない」という球団の評価通りになってしまっている。
平井投手は昨オフ、今季の年俸9000万円で2年契約を結んでいるわけだが、今季13試合で防御率4.66という数字を踏まえると、契約破棄される可能性も否めない。もちろん2年契約であるため基本的には来季もユニフォームを着ることになるはずなのだが、しかしFA交渉の席であれだけ時間をかけた割に今季は仕事ができていないことを考えると、球団からの心象は決して良いとは言えない。
ちなみにファームでは17試合に登板して防御率は3.32となっており、一軍クラスのリリーバーとしては、非常に一軍に上げにくい防御率になっている。ただし19イニングスに投げて21奪三振というのはまだまだ元気な証だと言えるため、今後一軍で通用するボールのキレが戻ってくれば、来季も当然ライオンズのユニフォームを着ていることになるだろう。
だが逆にファームでもピリッとしないピッチングが続けば大幅減俸や契約破棄という可能性も出てくるため、平井投手に関してはまさに瀬戸際に立たされていると見るべきだろう。
また、平井投手は今季序盤、一軍でチームの連敗が止まらなかった際にマウンド上でもダグアウト内でもニコニコと談笑している姿がよく中継に映されていた。平井投手が良いピッチングを続けていれば問題になることはないのかもしれないが、しかし平井投手自身も安定したピッチングをしていたわけではないため、この姿が渡辺久信GMの目にどう映っていたかは気になるところだ。
三人目としては伊藤翔投手の名前が考えられる。伊藤投手は2021年にトミー・ジョン手術を受けて育成契約となるわけだが、2022年、2023年、2024年と術後3シーズンで支配下契約選手に戻ることはできなかった。そして年齢も今季は25歳となっており、ファームでも9試合で12イニングスを投げ、防御率は3.75という数字にとどまっている。
術後3シーズン目のリリーバーでファームでも9試合ということを考えると、さすがに育成4年目の契約はないだろう。同じく手術組の育成リリーバー赤上投手が23試合で28イニングス以上を投げ、防御率が2.51ということを考えると、伊藤翔投手を残留させるよりは、新たな育成契約投手をドラフトで獲得するという判断がなされるはずだ。
個人的には昨オフに戦力外となっていても不思議ではなかったと考えていたのだが、それでも球団の温情だったのか今季も育成選手として契約してもらうことができた。しかし先発としてではなく、リリーバーとしてファームで9試合の登板にとどまっているということを考えると、さすがに2025年の再契約はないと見るのが自然だ。
野球選手の場合、肘痛を公傷と見るべきかどうかが大きなポイントとなってくるわけだが、仮に公傷扱いになっていたとしても、術後3シーズンを面倒見たということになれば、ドラフト指名前の所属球団である徳島インディゴソックス側から厳しい目で見られることもないはずだ。
これが逆に、20代前半の選手が術後1〜2シーズンのみで戦力外となった場合、前所属球団、もしくは前所属校から厳しい目を向けられることになり、「当球団(当校)から西武ライオンズさんに選手を送り出すつもりはありませんので、ドラフトでは指名しないでください」という通達が出されるケースもある。阪神タイガースなどはある学校からこのような通達を受けた経験があるわけだが、西武球団としてはこうなることだけは絶対に避けなければならない。
それを確実に回避するためにも、西武球団は今年も伊藤投手と育成契約を結んだという経緯も少なからずあったはずだ。これが20代後半の選手であれば話も変わってくるのだが、しかしまだ若い選手の場合は、簡単にクビにしてしまうと上述のようなことにもなりかねないのだ。
例えば高卒2年目の山田陽翔投手は今季ファームで4試合に投げて防御率は11.77と散々な成績になっている。しかし仮にこの選手を今オフ解雇してしまった場合、近江高校が「ドラフトではうちの選手はもう指名しないでください」と西武球団に通達を出すことになってしまう。
もちろん常識的に考えて、特別な理由(本人が退団を望んだ等)がない場合は高卒2年目での解雇はまずありえない。そのためどんなに成績が伴っていなくても、高卒2年目の山田投手が解雇される可能性は1%程度しかないと言える。しかし術後3シーズン目で入団7年目の伊藤翔投手の場合はそうはいかない。残念ながら、この投手がシーズンオフに行われる12球団合同トライアウトに参加している可能性は非常に高いと言わざるを得ないだろう。
今回は引退勧告がなされるであろう増田達至投手、2年契約の1年目の平井克典投手、そして術後3シーズン目の育成伊藤翔投手という、まったく状況が異なる3人の名前を挙げさせてもらった。だが筆者は決して「彼らをクビにしろ!」というスタンスではない。増田投手にも平井投手にももう一花咲かせてもらいたいし、伊藤投手にも術前に掴みかけたチャンスをもう一度掴んでもらいたいというファンとしての思いがある。
だが彼らの現状を踏まえて冷静に考えると、増田投手と伊藤投手に関しては来季もユニフォームを着ている可能性は非常に低いと言わざるを得ない。しかし本当にそうならないよう、彼らには勝負の8月以降で何とか持てる力すべてを出し切ってもらいたいと筆者は願っている。