2022年12月13日公開
埼玉西武ライオンズも獲得を目指したFAの目玉、北海道日本ハムファイターズの近藤健介選手のホークス入りが決定した。報道によれば6年契約の総額35億円、もしくは7年契約の総額50億円であるようだが、この金額は常識的ではないように思えてならない。
前者だとすれば年俸は5億8000万円、後者なら7億1000万円となる。近藤健介選手は素晴らしい選手だと思うが、果たして本当にこの年俸に見合うだけの選手なのだろうか。これが例えば三冠王を獲得した東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手であれば来季の年俸は10億円だったとしてもそれに見合うと思う。だが実際には今オフ村上選手が結んだのは3年契約の総額18億円で、年俸は6億円ベースだ。
確かにプロ11年目だった近藤選手と、プロ5年目だった村上選手を純粋に比較することはできないわけだが、筆者個人としては、近藤選手が6〜7億円の年俸に見合う選手だとは思えないのだ。今季の推定年俸は2億5500万円だったため、年俸4億〜4億5000万円程度であれば成績と、良い額の年俸は見合っていると実感することはできる。だが打率、本塁打、打点という主要3部門で一度もタイトルを取ったことがなく、今季は怪我での離脱も長かったことを考えると、流石に7億円は行き過ぎであるように感じる。
ライオンズファンとしては近藤選手には是非ともライオンズに来て欲しかったわけだが、推定年俸が6〜7億円ベースということを考えると、ライオンズはこのマネーゲームに参加しなかったことは正しい判断だったと思う。もちろん今の西武HDにそれだけの資金を捻出する体力があるのかは分からないが、仮に出せたとしても、近藤選手1人に7億円を出すべきではない。
繰り返して言っておくと、近藤選手は本当に素晴らしい選手だと思う。だがNPBにおいて年俸7億円の価値があったのは、イチロー選手や松井秀喜選手らだ。イチロー選手がオリックス時代にもし7億円もらっていたならば、7億円でもまだ足りないとも思える。それこそ上述した村上選手の話ではないが、10億円出してもその価値があった選手たちだ。
近藤選手のことで気掛かりな点もある。近藤選手が本格的にレギュラーとなったのは2018年以降なのだが、2018年こそファイターズは3位(1位西武とは13.5ゲーム差)になったものの、2019年以降は5位、5位、5位、6位と最下位争いが定位置となってしまっている。個人成績を上げたい場合、当然だが下位チームの方が断然有利となる。
近藤選手は優勝に飢えて、優勝したくてホークスに移籍したとのことだが、果たして優勝争いをしている状況の中で、近藤選手が今まで通りの数字を残せるのかどうかは未知数だ。優勝争いというプレッシャーに打ち勝つことができるのか、それとも慣れない優勝争いしている状況の中で平常心を維持できなくなってしまうのか。こればかりは実際にそうなってみなければなんとも言えない。
ライオンズは今オフ、森友哉捕手をFAで失ったことで主軸打者の補強を急いでいたわけだが、しかしだからと言って近藤選手に7億円を出す必要はないし、筆者個人としては出して欲しくはない。それならば現在ライオンズで頑張ってくれている選手たちの年俸をもっと上げたり、年俸2〜3億円かけてでもアレックス・カブレラ選手やエルネスト・メヒア選手のような大砲を連れて来てもらいたい。
ちなみに今回ホークスに移籍した近藤選手のエージェントは、バファローズ時代の金子千尋投手が沢村賞を獲得した直後に4年総額20億円という契約を結んだ際のエージェントと同一人物だ。だがこの4年契約を結んだ直後、つまり沢村賞を受賞した翌年から金子投手の成績はみるみる下降していった。
エージェントの報酬は一般的には年俸の10%が相場となっている。つまりこのエージェントは金子投手の4年20億円という契約をまとめた際には総額2億円、今回近藤選手の契約をまとめたことで3億5000万円〜5億円の報酬を得ることになる。このようにエージェントの報酬も選手の年俸に比例して上がっていくため、契約交渉にエージェント(代理人)を立てるとそのエージェントが必死になって交渉し、年俸が釣り上げられるケースが増えていく。MLBではまさにこれが顕著だ。
仮に今回の近藤選手の契約が7年50億円だったとすれば、近藤選手はエージェントに5億円支払い、約20億円を税金として納め、手元にはだいたい25億円が残る計算となる。税金を差し引かれても25億円残るのだから、今回の契約が如何に莫大なものだったかがよく分かる。
さて、ライオンズとしては少し困った状況だ。森捕手を失い、近藤選手を獲得することもできなかった。ただし森捕手の今季の3番打者としての成績は芳しくなかったため、森捕手が抜けたと言っても、現状では補い切れないほどの穴ではないと言える。例えばカブレラ選手ほどじゃなくても、打率.280で25本塁打、70打点程度以上の数字を残してくれる外国人選手を連れて来れれば、それだけで簡単に森捕手の穴を埋めることができ、さらにはお釣りも返ってくるほどだ。
捕手に関しても柘植世那捕手と古賀悠斗捕手は、経験さえ積めばすぐにでも安心して1軍のマスクを任せられるだけのレベルにある捕手たちだ。特に柘植捕手は打撃に多少目をつむってあげれば、正捕手として立派に働いてくれるだろう。そして万が一この2人がミスをしたとしても、それをカバーしてくれる岡田雅利捕手の存在があるから安心だ。
このように外国人打者の選択さえ間違わなければ、森捕手が抜けた穴はすぐにでも埋まるはずだ。そのためにも近年続いていたユーティリティータイプや、中途半端な中距離砲の獲得は避けなければならない。打席に立っているだけでも威圧感がある強打者を連れて来てもらいたい。正直言って近年のライオンズの外国人打者たちは、スパンジェンバーグ選手以降怖さがまったくなかった。やはり少なくともエルネスト・メヒア選手のように、打席に立った時に威圧感があるスラッガーを探す必要があるだろう。
例年の流れだと、早ければ今週中くらいには新外国人選手の名前が挙がり始める頃で、遅くともクリスマスまでにはある程度新外国人選手たちの名前が聞こえてくるはずだ。そしてここまで外国人選手の名前が聞こえて来なかったのは、近藤選手の獲得の成否により使える資金が変わってくるからだ。
例えば近藤選手を獲得できていれば外国人選手に対し大型契約をすることは難しくなるが、近藤選手がホークスに行ってしまった今、渡辺久信GMは近藤選手に対する獲得資金を外国人選手に向けていくことができる。そう考えるとこれから挙がってくる外国人選手たちの名前は、少なくともスパンジェンバーグ選手やオグレディ選手らのように、怖さのない打者の名前ではないはずだ。
あとは蛭間拓哉選手が、ルーキーイヤーの高木大成選手程度以上の活躍(80試合、打率.278、本塁打4、打点24)をしてくれれば、チームとして大きな不安が残るのはセットアッパーとリードオフマンのみということになってくるだろう。だが西武球団はセットアッパーとして機能する外国人投手を探すのは上手いし、リードオフマンに関しても来季は若林楽人選手や鈴木将平選手らが目の色を変えてくるはずだ。
つまりライオンズは森捕手を失い、近藤選手を獲得することも叶わなかったが、外国人打者が最低限今季の森捕手以上の成績を残してくれれば、大きな戦力ダウンはないと言っていいのではないだろうか。だが果たして森捕手の流出により、一体何人の選手たちがFAによりライオンズから国内他球団に移籍してしまったのだろうか。そしてそれは何故なのか?
理由は簡単だ。西武球団は良い選手をドラフト指名できるスカウンティング部門と、その選手たちを育成するコーチング部門の能力が他球団よりも圧倒的に高いからだ。つまり良い選手が多く集まるライオンズの場合、比例して流出してしまう人数も多くなってしまうのはどうしても避けられないのである。