2021年1月 5日公開
山賊打線の復活を実現させるためには、やはり1・2番の出塁率を上げていく必要がある。昨季2020年は実に7人の打者たちがライオンズ打線の1番を務めたが、どの選手も固定には至らなかった。だがやはり理想の形は金子侑司選手が1番打者として定着することだろう。
辻発彦監督自身、2021年の1番打者の筆頭候補は金子選手だと明言している。その理由としてボールをしっかりと呼び込んで打てるようになって来たことと、凡打の質が向上している点、そして日々誰よりも努力していた姿を挙げている。
2020年に関しても、理想を言えばやはり金子選手が1番を務め続けることが理想だった。しかし首の怪我によるしびれに悩まされ、6月19日に開幕した直後の7月5日に登録抹消となってしまった。オープン戦では順調な姿を見せてくれていただけに、コロナウィルスによる開幕の延期とこの怪我が残念で仕方なかった。
だが今季はよほどコロナウィルスの状況が悪化しない限りは、開幕戦も予定通り行われる見込みのようだ。金子選手自身昨季の秋以降は良いプレーを見せてくれていて状態も良さそうだったため、今季は「1番金子」とういポジションには大きな期待を寄せられそうだ。
辻監督は金子選手に対し、バットを短く持つようにアドバイスをするなどしていた。だが野球専門のパーソナルコーチである筆者個人としては、常にバットを短く持つことに対しては肯定的ではない。もちろん状況によってはそれが必要な時もあるわけだが、やはりバットはノブまで使うことによって最大限その機能を活かすことができる。
例えば2cmバットを短く持つくらいなら、2cm短いバットを使った方がバットの機能を活かせるようになる。通常プロ野球選手のバットは85cmが一般的だが、例えば栗山巧選手のバットなどは83cmと2cm短い(2021年現在も83cmなのかはわからない)。
バットを短く持つことによりスウィートスポットにボールを当てやすくなったのであれば、一度栗山選手の83cmのバットを借りて打ってみるのも良いのかもしれない。
野球のバットはひとえにバットと言っても、その性格はバットによって本当に異なってくる。同じ長さ、同じ重さのバットであっても、バットによって性格は変わる。金子選手も何人かの選手にバット借りて、本当に自分のスウィングに合ったバットを探してみるのも良いのかもしれない。
さて、2020年の山賊打線は本当に不発に終わってしまった。それは1・2番の不振も大きく影響したと言える。例えば単純に1・2番が出塁することができなければ、3・4番だけで得点していかなければならず、どうしてもスウィングは無意識下に大振りになりやすくなる。すると2019年は首位打者を獲得した森友哉捕手のように一気に打率が1割近くも下がってしまうことにもなる。
4番打者を最大限活かすためには、1・2番の出塁と3番打者によるチャンスメイク、そして安定した5番打者の存在が重要になる。4番の前にチャンスメイクできなければ上述したように、4番打者が独り相撲で点を取りにいかなければならず、打線が繋がらない。
そして安定した5番打者がいなければ、4番打者にはなかなか打てる球を投げてはもらえず、ボール球にも手を出すようになってしまい、スランプに陥ってしまう。
中村剛也選手がまだ20代で全盛期だった頃、やはり5番打者が安定しなかったことでストライクを投げてもらえず、ボール球に手を出しているうちにスランプになってしまったこともあった。そうならないためにも5番打者の安定感は重要なのだ。
金子侑司選手が1番に定着し、3割近い打率を残し走りまくれば、1番打者ひとりで出塁とチャンスメイクを実現させられる。単純に考えて金子選手が出塁し二盗すれば、2番源田壮亮選手が送って初回からいきなり一死三塁というチャンスを作ることができる。
すると3・4番は内野ゴロでも外野フライでも打点を挙げられる状況となり、心理的にリラックスした状態で打席に入ることができる。そしてリラックスした状態で打つことができれば長打やホームランも出やすい。
金子選手はもう一度50盗塁を目指せるポテンシャル、脚力を持っている。今季は4月に31歳を迎えるわけだが、まだまだ衰えが見えてくるような年齢ではない。昨季のような怪我さえなければ、高い確率で出塁して初回から塁上を引っ掻き回すことができる。
そしてバッテリーが金子選手の脚力に意識を持っていかれれば、配球もストレート系が多くなり、後続打者は的を絞りやすくなる。もし金子選手がしっかりと1番打者としての役割を果たせるようになれば、筆者個人としては、秋山翔吾選手以上に驚異的な1番打者になれると考えている。
秋山選手の場合は打率がかなり高く、そこは金子選手が追いつくのはなかなか難しいと思うのだが、しかし秋山選手には盗塁を量産できる走力はなかった。俊足ではあったが、盗塁数は年間18個が自己最多だった。18個と言えば、3番打者として24盗塁をマークした高木大成選手を下回る。
かつてライオンズを率いた東尾修監督は投手としての経験から、投手が一番嫌がることが「走者に塁上でチョロチョロ動かれること」だと知っていた。そのため1番松井稼頭央選手、2番大友進選手、3番高木大成選手、9番小関竜也選手という俊足カルテットを組み、塁上から投手の集中力を削ぎ、打者が打ちやすくなる戦略を敷き、リーグ2連覇を達成した。
現在のライオンズは昨季までの打線で見ると、クリーンナップトリオを2つ置くようなオーダーになっている。その脅威が山賊打線と呼ばれ恐れられたわけだが、このように打者のみで投手と勝負をしなければならなくなる打線を組んでしまうと、昨季のように打者が不振に陥るだけでチーム力がガクンと低下してしまう。
しかし金子選手が1番打者としての役割を果たすことができれば、上述したように、クリーンナップは内野ゴロや外野フライを打つだけで打点を挙げられるようになる。しかも金子選手が塁上にいれば変化球を投げにくくなり、後続打者は的を絞りやすくヒットが出る確率も高まる。
1番打者というのは、ただ塁に出て走れば良いというものではない。例えば盗塁をしない方が良い場面だってある。すぐに二盗を決めてバッテリーが盗塁に対するケアをあらかた解除できる状況になると、当然バッテリーは変化球も心置きなく配球に織り交ぜることができる。
金子選手の場合は盗塁に関してはグリーンライト(自身の判断で好きに盗塁をして良いという指示)が出ている可能性も高いが、もしそうであれば、状況によっては盗塁をしないという判断も必要になってくる。その判断は、もちろん金子選手自身すでにできる選手なのだと思うが、そこまでの判断をしてこその1番打者としての役割となる。
あとは2番源田選手とのコンビネーションも重要だろう。例えばかつて1・2番コンビを組んだ片岡易之選手と栗山巧選手だが、ふたりはアイコンタクトだけで片岡選手が盗塁をするか否かを確認し合っていた。打線をしっかりと繋げていくためには、後続打者とのこのようなコンビネーションも重要だ。
だがこのようなコンビネーションは定着していない選手にはできない。昨季のように1番打者が7人で入れ替わるような状況では、いくら源田選手が2番に座り続けていたとしても、1・2番コンビによるコンビネーションを強化することはできない。
だからこそ今季金子選手がまず目指さなければならないのは金子選手自身の言葉通り、全試合出場という記録だろう。金子選手が全試合で1番に定着できるようになればこのコンビネーションも強化され、後続打者が的を絞ってヒットを打ちやすい状況を、金子選手の脚力によって作っていくことも可能だ。
ライオンズはいつまでもイケイケの山賊打線頼みでいるわけにはいかない。それではホークスには勝てないとすでに証明されたのだから、今季は辻監督も今までとは違った戦い方を魅せてくれるはずだ。そしてその象徴になるのが金子侑司選手になるのだろうと、筆者は大きな期待を抱いている。