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2021年1月 4日公開

優勝したホークスにはあって負けたライオンズには足りなかった物

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ホークスにはあってライオンズには足りなかった厳しさ

新年、辻発彦監督がライオンズのコーチ・選手間の仲の良さに釘を刺した。筆者個人としては「ようやく」という感想だったのだが、ライオンズが2018年、2019年と2年連続CSでホークスに敗れ、2020年は優勝も叶わなかった原因はそこにあったと思う。ホークスにはあり、ライオンズには足りなかった現場の厳しさだ。

コーチと選手が仲が良ければそれだけ風通しの良さには繋がる。しかしその仲の良さが、本当に言わなければならないことを言える状態なのかと言えば、実際にはそうではないことが大半だ。

例えば昭和のプロ野球を経験されている名指導者たちは、よくこんなことを言う。「ピッチャーは、相手チームのバッターとは絶対に仲良くするな」「バッターは、相手チームのピッチャーには愛想良くしておけ」と。

理由は単純で、敵同士のピッチャーとバッターが仲良くなければ、ピッチャーはそのバッターに対しては死球も厭わず厳しいコースに投げることができなくなってしまう。その結果配球が甘くなりやすく、対戦打率を低く抑えることができなくなってしまうのだ。

ではチーム内のコーチと選手とではどうなのか。これも同様だと思う。コーチには、選手に嫌われたとしても言わなければならないことが多々ある。選手に気持ちよくプレーさせることと、選手の嫌がることをさせないことは似て非なるものだ。

監督・コーチは、グラウンド外では温情を持って選手やその家族に接するべきだ。しかしグラウンドでは温情は抜きにしなければ、本当にその瞬間に必要な采配を、感情に流されてできなくなることもある。「この選手は普段頑張っているから、ぜひ代えずに使ってやってください」とコーチが感情任せに言っているようではダメだ。もちろんそこに戦術上の根拠があれば話は別だが。

ホークスの工藤公康監督の采配を見ていると、この2〜3年は特に、勝負に徹した厳しい采配を振るうことが多くなった。指導者としての有能さだけではなく、監督に必要な、優勝するための戦略・戦術を貫く厳しさを見せてくれるようになった。この工藤監督の貫き通す力こそが、ホークスを今12球団最強チームへと育て上げたのだと思う。

ライオンズに必要なのは日本一を最優先にできる選手たち

辻監督は就任した過去4年間で2回リーグ優勝を果たしている。この数字だけを見ると名将と呼ぶに相応しいと思うのだが、しかし辻監督自身は、チームに対して大きな物足りなさを感じていたのだろう。

例えば辻監督自身、現役時代は肉離れを起こしていてもレギュラーを奪られまいと試合に出て活躍し続けた。もちろん怪我をしてまで試合に出ろ、ということではなく、それくらいの覚悟を持ってプレーしなければならない、ということだ。辻監督は、そのような覚悟をコーチや選手から感じることができなかったのだろう。

ホークスはソフトバンクグループの資金力によって勝つ力を得ているとも思われているが、現場は王貞治会長を中心にし、常に日本一になるという目標に対し皆が同じ方向を向いているように見える。しかしライオンズの場合はチーム全体が日本一という目標を持っているようには見えないことも多々あった。

個人成績は、チーム成績よりも優先されるべきではない。例えばライオンズ時代の全盛期の清原和博選手は、チームの勝利を最優先にしたが故にタイトルとは無縁の選手だった。無冠の帝王とも揶揄されたこともあったほどだが、しかし清原選手の、個人成績を後回しにしたチームバッティングがなければ、ライオンズは黄金時代を築くことは到底できなかっただろう。

しかし今のライオンズは球速やタイトルにこだわりを見せる選手が多い。山川選手にしてもホームラン王へのこだわりや、将来への三冠王へのこだわりを見せているが、優勝できなければ意味はない。例えば同じホームラン王にしても、日本一になったチームで獲得したホームラン王と、優勝できなかったチームで獲ったホームラン王とではその価値はまるで異なる。

今ライオンズに必要なのは、個人成績よりもチームの日本一を最優先に考えられる選手たちだ。そしてライオンズにとっての優勝とはリーグ優勝のことではない。日本一になるということだ。そのためには現役時代の辻発彦選手や石毛宏典選手のような、厳しさを持った若きチームリーダーの出現が必要なのではないだろうか。

キャプテンは2021年も源田壮亮選手が務めることになっているが、源田選手にはまさに辻選手、石毛選手のように、先輩選手にも物怖じせずに何でも言えるリーダーシップを発揮してもらいたい。年上の選手に気を遣っているようではキャプテンシーなど発揮できない。

強いキャプテンシーが求められる源田壮亮選手

野球はショートやキャプテンが変わるだけでもガラッと変わる。特に守備のフォーメーションは常にショートストッパーを中心に敷かれていく。源田選手はその両方を担っているため責任は重大だ。

特に今季は辻監督自身がチームに厳しさを強く求めた。それにいち早く反応しなければならないのがキャプテンである源田選手だ。源田選手が厳しさへのこだわりをチームに見せていけば、チーム全体もすぐに変わっていける。

去年までのライオンズであれば、渡部健人選手も「良いチーム入ったなぁ」とほのぼのと思えただろう。しかし新人選手たちにそう思われるようなチームの雰囲気はそろそろ卒業してもらいたい。「とんでもないチームに入ってしまった!」と思われるようなチームになっていかなければ、ライオンズはいつまで経ってもパ・リーグ止まりのチームになってしまう。

もちろん個人タイトルは獲れないよりは獲れた方が良い。しかしタイトル以上に優先されるべきなのは日本一という称号だ。ホークスの場合、リーグ優勝と日本一を達成した2020年の打撃部門のタイトルホルダーは、盗塁王を獲得した周東佑京選手だけだ。投手部門では最多勝2人、最多奪三振、最優秀防御率と獲得したタイトルが多いが、打撃部門では盗塁王だけだった。

そう考えるとやはり野球はディフェンス中心で行かなければ勝ち続けることはできない、ということだ。しっかりと守り、攻撃では少ないチャンスをモノにできる戦略と戦術の徹底、この基本こそが日本一になるためにホークスにはあって、ライオンズには足りなかった要素だ。

必要なのは大勢が決まった段階でのホームランではなく、勝利打点が付くホームランやヒットだ。

コーチと選手が仲良しであれば、どんな場面であってもコーチはホームランを喜ぶだろう。しかしそれでは日本一にはなれないということはすでに証明されている。

今必要なのは、打たなければならない場面で打てなかった選手との厳しい確認作業や、打たなければならない場面で送られる、的確かつ徹底されたコーチからの指示だ。そう、まるで2008年にデーブ大久保コーチが打席に向かう選手によく耳打ちをしていたように。

デーブ大久保コーチは体調を崩されるほど睡眠時間を削って勝つための戦略、戦術を練り渡辺久信監督を支えた。しかし今、デーブ大久保コーチほど野球に身を捧げるコーチはいるのだろうか。もしくは伊原春樹コーチのように、スター選手に対しても容赦のない厳しさを見せるコーチはいるのだろうか。

辻監督は現役時代からコーチ時代に渡り、広岡達朗監督、森祇晶監督、野村克也監督、落合博満監督と、日本一になれる名将たちの元で勝てるチームのあり方を見続けてきた。その自身の経験から、今のライオンズのままでは日本一にはなれないということをこの4年間で実感されたのだろう。

勝てるチームには、厳しさを厳しさと感じない成熟した大人の雰囲気がある。しかしその雰囲気は、我々ファンから見ても久しくライオンズからは感じられない。それならば現場を指揮する辻監督からすれば尚更だろう。

今季のライオンズにはコーチ・選手間の仲良しクラブ感はなくし、日本一になれる雰囲気を醸し出すチームへと変貌してもらいたい。他球団から「どうせ勝つのはライオンズだろう」と思われるような雰囲気を醸し出せるチームになってもらいたい。昨年の日本シリーズではホークスがそう思われていた。「どうせ勝つのはホークスだろう」と。今季は、ライオンズにその雰囲気を醸し出してもらいたい。

かつて、他球団の選手がライオンズのユニフォームを見ただけで戦意を失っていた頃のように。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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