2021年11月16日公開
松井稼頭央ヘッドコーチは、山川穂高選手に対し、来季も4番打者としてしっかり準備をするようにと指示を出したようだ。もちろん復調してもらわなければならない山川選手に対しては、ごく自然な指令だったと思う。
だがチームを優勝に導くための戦術をヘッドコーチとして辻発彦監督に提案していくためには、「4番山川」以外のオプションもしっかりと準備しているはずだ。もちろんそこは外国人選手に頼ることにもなると思うのだが、現時点ではブライアン・オグレディ選手と、テーラー・ジョーンズ選手の獲得調査が進められているようだ。
さて、山川選手だが来季は前でボールを捌く打ち方に戻すようだ。今季の終盤はその打ち方に戻して3試合連続ホームランをマークし、復調の気配を見せていた。だがこの3本はいずれもソロホームランだった。もちろん打線の巡り合わせもあるわけだが、山川選手は得点圏で打っているホームランが多くはない。2021年今季の得点圏打率は.172で、得点圏で打っているホームランは全24本中7本(29%)という数字にとどまっている。
一方中村剛也選手の2021年の得点圏打率は.317で、得点圏で打ったホームランは全18本中7本(39%)となっている。
筆者が気になるのは、山川選手がホームラン数にこだわっているように見える点だ。もちろんホームランを打てるというのは非常に大きな魅力であるわけだが、4番打者に求められるのはホームラン数以上に、回ってきたチャンスでどれだけ走者を生還させられるかという点だ。
例えば黄金時代の4番打者だった清原和博選手はホームラン王になった経験はないが、チームを優勝に導く勝負強いバッティングを見せ続けてくれた。もし清原選手がホームラン王という称号にこだわりを見せていたら、ライオンズの黄金時代はあそこまで輝かしいものにはなっていなかっただろう。
そして清原和博選手が4番としての仕事に徹してくれたため、3番秋山幸二選手と5番デストラーデ選手が伸び伸びと打てる状況にあった。この二人のタイトルは、清原和博選手のサポートあってこそだったと言えるだろう。
チャンスで、清原選手が体を左打席側に傾けながら反対方向に打つ姿は、未だ筆者の脳裏に色濃く残っている。やはり4番打者というのは、自分を犠牲にしてでもチームを勝利に導くバッティングができることが重要ではないだろうか。
話を山川選手のフォームに戻すと、この1〜2年の山川選手はポイントを体の近くに置いて打っていた。いわゆるステイバック打法になるわけだが、しかし山川選手はこれが上手くいかなかった。
その理由は単純だ。ステイバックというのは軸足に体重を乗せて、軸の鋭い回転で体の近くで強烈にバットを振っていく打ち方なのだが、山川選手は体重移動をしながらポイントを体の近くに置いていた。つまり技術的にチグハグだったのだ。
このチグハグさに関しては、野球動作を科学的に学んでいる筆者のようなプロコーチや専門家であればすぐに気がつくところだと思う。そしてこの動作によりスウィング中の頭も大きく移動してしまい、目線もブレることによってミート力も低下していた。その結果泳ぐようなスウィングを幾度となく見せていた。
体重移動をするウェイトシフト打法でポイントを前に置くと、当たれば飛ぶがなかなか当たらない、という打者になりやすい。つまりホームランを打てても打率は残せないというタイプだ。しかし果たして4番打者がこれで良いのだろうか。
昭和であれば打率.270で30本塁打打てれば凄いと賞賛された。だが現代野球では打率.330で30〜40本打てる打者が何人もいる。山川選手はこの秋、12球団で一番の4番打者になると公言しているが、そうなるためには打率.330程度でホームラン王争いに加わる必要がある。
だが筆者は個人的にはこの考え方は好きではない。野球はチームスポーツであるため、まずは優勝するために自分が求められていることを優先し、個人成績は二の次にすべきだ。日本一になった結果、タイトルも獲れたというのがベストだ。
山川選手が打てば優勝できる、と言うこともできるが、しかし山川選手がホームラン王になった2年はリーグ優勝はできたが、日本シリーズに進出することはできなかった。ライオンズの使命はリーグ優勝ではなく、日本一であるはずだ。
現状の山川選手の考え方を踏まえ、復調したと前提しても、山川選手には6番あたりを打ってもらうのがチームのためではないだろうか。左右の外国人打者が上手く機能すれば、3番森友哉捕手(左)、4番ジョーンズ選手(右)、5番オグレディ選手(左)、6番山川選手(右)というジグザグオーダーを組むことができる。すると相手チームも継投策を取りにくくなる。
やはり山川選手には4番の座を与えるのではなく、4番の座を奪わせるようにした方が良いと筆者には思える。そして山川選手が4番の座を奪取するために必要なのはホームラン数ではなく、やはり低すぎる.172という得点圏打率を何とかすることだろう。チャンスに打てないのでは4番打者としては失格だ。
山川選手にはライオンズの主砲として、やはり12球団ナンバー1の4番打者になってもらいたい。かつて同じ背番号を背負った清原和博選手や、4番ではなかったものの中島宏之選手や浅村栄斗選手のように、チャンスで打てるバッターになってもらいたい。
4番打者の役割は、とにかく走者を生還させることだ。チャンスならば反対方向を意識して確実に走者を生還させ、走者がいなければ一発で得点が入るホームランを狙っていけば良いと思う。このような打者になれた時こそが、山川選手が12球団ナンバー1の4番打者として、他11人の4番打者に賞賛される時ではないだろうか。