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2024年5月22日公開

西武の選手の多くが試合直前に昼寝をしているが、これが今の弱さを招いている!

今井達也投手でさえも勘違いしている自信と強化されたメンタルとの違い

西武の選手の多くが試合直前に昼寝をしてこれが負け戦を生んでいる

今のライオンズに最も足りていないものはメンタルの強さだ。これは間違いない。昨日のコラムでも少し書いたわけだが、今日のコラムでは野球選手とメンタルについてもう少し掘り下げてみたいと思う。

「野球は90%がメンタルで、残りの半分がフィジカル」というヨギ・ベラ捕手のアフォリズムからも読み取れるように、野球はとにかくメンタルが重要なスポーツなのだ。基本的に「間」のあるスポーツはメンタルが特に重要になる。野球以外ではゴルフがまさにメンタル競技であり、次いでアメフトも間がある分メンタルがより重要だと言われている。だが特に野球とゴルフに関してはどの競技よりもメンタルが重要になってくる。

今井達也投手は昨年、メンタルトレーニングを軽視するような言葉を自らのインスタグラムに残している。だがメンタルトレーニングを軽視していることこそが今井投手の安定感を低下させている原因だと言って過言はないだろう。

今井投手は強化されたメンタルと自信を同じものだと考えてしまっているのだが、これはスポーツ心理学的には誤りだ。今井投手曰く、誰よりも多くの練習をすればそれで自信がつき、強いメンタルで試合に挑めるということらしい。だがこの考え方は前半部分だけが正解だ。誰よりも質の高い練習を、誰よりもたくさんすれば「試合開始前の自信」を培うことはできる。これに関しては今井投手の言葉に間違いはない。

しかしそれとメンタル強化は別物であり、強化されたメンタルというのは、上手くいかずに自信を失いかけている時に自らを立ち直らせることができる能力のことだ。つまり自信を持っているだけでは、自信を失いかけた時に歯止めが効かなくなってしまうということになる。

そもそもメンタルが強化されるとどのような状態に至れるかと言うと、常に冷静で、かつ平常心でいられるようになるのだ。打たれたとしても抑えたとしても、ホームランを打ったとしてもチャンスで三振をしたとしても。

ちなみに冷静であることを、テンションが低い状態と一緒くたにしてしまっている方も多いが、これもスポーツ心理学的には誤りとなる。冷静な状態とは常に自分がどのような状態に置かれていて、次にどのようなことが起きるのかをだいたい予測できている状態のことを言う。これができていればテンションが高かろうが低かろうが関係ない。

例えばライオンズで言えば少し前まで山田遥楓選手という内野手が在籍していた。彼は不必要なほど常に声を出して元気いっぱいを装っていた。だがプレーで上手くいかないとあからさまにガッカリした表情も見せており、気持ちのムラが非常に激しい選手だったと言える。このような選手はもちろん冷静だとは言えない。

一方元気印の代表格でもある元ホークスの松田宣浩選手の場合は、あれだけテンションが高そうなキャラクターでありながらも、常に自分の立場と状況を把握していた。そのため山田選手同様にいつでも元気いっぱいだったのにも関わらず、山田選手のように空気を読まない声出しをすることはほとんどなかった言う。さらには次の1球でどのようなことが起こりうるのかもしっかりと予測しながらプレーをしていたため、球界を代表するスター選手へとなっていった。

15年前のライオンズにはあって、今のライオンズにはないもの

今ライオンズで最も冷静にプレーできているのは栗山巧選手だ。ただ栗山選手はすでに全盛期を通り過ぎており、今現在では15年前と同じレベルのパフォーマンスは発揮できなくなっている。これは仕方のないことであるわけだが、しかし全盛期の栗山選手はチームで最も冷静にプレーしている選手の一人だった。ちなみに投手で言えば涌井秀章投手が同様に冷静な選手だった。

栗山選手は全盛期に長らく二番を打っていた。二番というのは(ベースボールではなく)野球では一番から九番の中で最も制約がある打順で、最も頭を使わなければならない打順で、最も野球を学べる打順でもある。栗山選手は元々冷静な選手だったから立派に二番を務められたのだと思うが、しかし同時に二番を打つことでさらにクレバーな選手へとなっていったとも言える。

例えば渡辺久信監督時代の一番は片岡易之選手で二番が栗山選手だった。通常二番打者というのは右打者が望ましいとされている。その理由は俊足の一番打者が盗塁を仕掛ける際、左打者では一塁走者の動きを見ることができず、上手くアシストできないためだ。

だがグリーンライト(いつ盗塁しても良いというサイン)が出されていた片岡選手に対し、栗山選手はアイコンタクトだけで片岡選手がいつ盗塁をするのかを正確に把握することができていた。もちろんそこには試合前の段階での入念なコミュニケーションもあったわけだが、しかし片岡選手と栗山選手はお互い目を見るだけで次の1球で何をするのかを理解し合っていた。

例えば栗山選手の打撃が好調な時などは、栗山選手が「自分が打って返します」という合図を目で送ると、片岡選手がそれを察知して走る振りだけをして実際には走らず、栗山選手に対しストレート系のボールが多くなるようにアシストすることがあった。逆に片岡選手が「ここで走る」という合図を目で送ると、栗山選手は空振りをしてその盗塁をアシストしていた。常に冷静に次の1球に起こりうることを想像しながらプレーできるようになると、片岡選手と栗山選手のようなコンビネーションを発揮することもできるようになる。

だが今のライオンズでそのようなコンビネーションを発揮している選手は皆無だ。トノゲンコンビの二遊間のコンビネーションという意味ではずば抜けた巧さがあるが、しかし守備の場合は次の1球を予測してアイコンタクトを送るケースはほとんどない。牽制や盗塁阻止で二塁ベースに入る際も、基本的には状況によって入る選手は決まっているため、アイコンタクトを取る必要はない。

さらに時代を遡れば黄金時代のAKD砲にも似たようなことが言える。通常は三番秋山幸二選手、四番清原和博選手、五番デストラーデ選手という並びだったわけだが、三番秋山選手は清原選手の勝負強さを理解していた。そのため自分が塁に出て二盗すれば清原選手が自分を生還させてくれると考え、清原選手のカウントが追い込まれる前の早いカウントで走ることが多かった。

一方の清原選手も秋山選手が早いカウントで走ってくることを知っていたため、秋山選手が走れる状況である場合は早打ちすることは少なかった。そしてトドメの一発に関しては五番デストラーデ選手がスタンドに叩き込んでくれると分かっていたため、清原選手は得点圏では無理にホームランを狙いにいくことはしなかった。より高い確率で得点圏の走者を返すことができるチームバッティングに徹していた。

ただし状況が違えば秋山選手も清原選手もホームランになるようなバッティングを見せてくる。特に秋山選手の場合は左中間に力強く引っ張るバッティングをよく見せていた。一方の清原選手はバッティングが狂うのを嫌い無理に引っ張ることはそれほどなく(ライオンズ時代は特に)、逆方向にホームランを打つのが非常に巧い打者だった。

ただ、もちろん黄金時代と今とでは状況がまるで違う。AKD砲の場合は他のチームでは間違いなく四番を打てる打者が三人続けて並んでいた。そのため相手投手も四球を出すことが許されず、どうしてもストライクゾーンで勝負せざるを得なかった。その結果三人が三人ともしっかりとストライクゾーンを振ってヒットを打っていくことができた。

しかし今年のライオンズは四番こそ開幕してしばらくはヘスス・アギラー選手が務めていたが、三番・五番がなかなか安定しなかったことから、相手投手も無理してアギラー選手と勝負する必要がなく、アギラー選手を歩かせたとしても安定感のない五番打者を打ち取れば良いという考え方でいられた。その結果アギラー選手に対し投げられるストライクゾーンのボールが減り、振りにいけるボールが少ないためアギラー選手もなかなか日本人投手のボールにアジャストしていくことができなかった。

戦う直前に眠るなど言語道断とは言えないだろうか?!

野球選手がメンタルを強化していないとどうなるかと言うと、練習で身につけた実力を本番で発揮できない選手になってしまうのだ。例えばどの球団にも少なくとも一人くらいはファームでは大活躍しているのに、一軍に上がると途端に活躍できなくなる選手がいると思う。このような選手がもしメンタル強化をしっかり行えば、間違いなく一軍でも活躍できるようになるはずだ。

筆者は職業柄、メジャー球団のメンタルコンサルタントの知り合いも数人いるのだが、メンタルコンサルタントやメンタルトレーナーたちが皆口々に言うのが、「もし彼がマルチタスキングではなく、シングルタスキングでプレーできるようになれば、間違いなくメジャーで活躍できるはずだ」という言葉だ。

これは言い換えると1球1球に対し集中できているかできていないかと言うこともできる。マルチタスキングというのは、頭の中であれもこれもと色々なことを考えながらプレーしている状態のことだ。例えば打者で言えば「走者が二塁にいるからまずはファーストストライクをしっかり振って走者を返せるようにしよう。でも得点圏に走者がいるし、初球のストレートはないかもしれないな。でも変化球よりもストレートが来てくれると打ちやすいんだよなぁ」というような具合だ。

一方これがシングルタスキングだとどうなるかと言うと、「次の1球がもしストレートだったら思いっきり振り抜いていこう」、となる。メンタル強化に力を入れていない選手の場合、得てしてマルチタスキングでプレーしてしまっていることがほとんどであり(ネクストバッターズサークルなど、プレー中以外ならもちろん色々なことを考えるべき)、ライオンズの選手たちのほとんどもマルチタスキング状態だと思われる。極端に言えば「ストレートを狙いに行きたいけど変化球が来るかもしれないなぁ」ということだけでもこれは十分マルチタスキングだと言えるのだ。

野球というスポーツでは、配球に関してはチェスのように先の先の先を考えながら次の1球を選んでいく。投手ありきの野球というスポーツの場合、このように配球のみに関しては先々を予測していくことになるわけだが、しかしそれ以外の選手の場合は次の次を予測することはほとんど不可能に近い。もちろん当てずっぽうが当たることはあるが、そこに理論が存在していなければそれは予測とは言わない。

つまり投手がボールを投げるのを待たなければならない相手打者と味方守備陣に関しては、ある程度予測できるのは次の1球だけなのだ。だからこそ次の1球で何が起こるのかをしっかりと考えた上で、ただそれだけに集中して打席に立つ必要があり、ベンチにしても1球ごとに厳密なサインを出していくべきなのだ。しかしそれができていないのが今のライオンズ打線だ。中村剛也選手栗山巧選手炭谷銀仁朗捕手といった大ベテランは別として、30代中盤未満の若い選手たちのほとんどがマルチタスキングでプレーしてしまっているように筆者の目には映っている。

だからこそ筆者は常々、今のライオンズに必要なのはかつての鋒山丕コーチのような存在だと言い続けているのだ。正しいやり方で正しくメンタルを強化できれば、ライオンズは間違いなく首位争いに加われているはずなのだ。しかし昨日のコラムで書いたようにライオンズの選手たちは試合前に仮眠をしてリラックスをしてしまっている。スポーツ心理学においては、戦う直前にこのようにリラックスしてしまうことはマイナスになるケースがほとんどなのだ。

ちなみにリラックスすることと気持ちを落ち着かせることは似て非なるものだ。リラックスというのは言わば脱力状態になることで、これは戦う前に行うべきことではなく、戦った後に行うべきことだ。一方気持ちを落ち着かせるというのは、試合直前に好きな音楽をイヤフォンで聴きながら、どのように試合に入っていこうかと冷静に準備を整えることだ。例えばこれまでの自らのメモ帳などを開きながら、相手投手との過去の対戦の記憶を紐解いていくこともその一つだと言える。

このようにライオンズの選手たちは今、試合前に仮眠や昼寝をしてしまっていることから、そもそも試合への入り方を間違えてしまっていると言える。もしメンタルトレーナーがライオンズに在籍していたならば、よほどのケースじゃない限りは試合前に昼寝をさせることはしないだろう。

例えばこれが昭和であれば、東尾修投手や加藤初投手のように二日酔いでマウンドに登ることも許されていた。いや、許されていたわけではないが、少なくとも通用はしていた。さらに言えば西鉄ライオンズ時代の四番、ポンちゃんこと大下弘選手のように、球場に一番乗りして長時間走って汗を流し、前夜に浴びるように飲んだ酒を抜くことから始めることも許されていた。だが今はスポーツ科学もスポーツ心理学も進歩した2024年なのだ。スポーツ科学という分野がまだ存在していなかった昭和のように、試合前に昼寝をするなど現代スポーツ科学ではあり得ないことだ。

これが例えばただ仰向けになってタオルを顔にかけて、まるで眠っているかのように瞑想したり、試合への入り方を考えているのならば話は別だ。しかし髙橋光成投手の話によれば、髙橋投手も含めライオンズの多くの選手が試合前に眠っているとのことらしい。もちろんそれでパフォーマンスが上がるのであれば、それはそれで良いのかもしれない。しかし実際にチーム全体でパフォーマンスが上がっていないのだから、その昼寝がプラスに働いているとは考えにくい。

残念ながらスポーツ心理学や栄養学など、他の競技では当たり前にように取り入れられているスポーツ科学も、日本の野球界ではスルーされていることが多い。その証拠にライオンズの一軍選手にも未だに喫煙者がいるし、シーズン中に日常的にお酒を飲む選手もいる。

喫煙のデメリットについては言うまでもないが、飲酒に関してもアスリートにはデメリットが大きく、まずアルコールは利尿作用が高いため、たくさん水を飲んだとしても体が脱水状態になりやすい。そして野球選手の筋肉量は一般人よりもはるかに多いため、日常的にアルコールを摂取して体を脱水状態に近づけてしまうと、筋肉がどんどんパサパサになっていき、疲れやすくもなり、しょっちゅう怪我もしやすくなる。

例えばライオンズ時代の涌井秀章投手はよく試合中に足をつっていたわけだが、ベルーナドームの高温超多湿ということを踏まえたとしても、シーズン中に炭谷捕手を連れてよく銀座に飲みに出かけていた影響は小さくはなかったはずだ。結婚されてからは涌井投手のコンディションは明らかに良くなっていったため、やはりお酒の影響はあったと見るのが妥当だろう。

これが陸上界やサッカー界など、スポーツ科学を存分に取り入れている競技になると、酒は飲まない、水は毎日3リットル以上飲む、揚げ物は食べない、食事の最初には必ず生サラダを完食する、砂糖は摂らない、運動量に見合った睡眠時間を確保する、毎日2時間以上ストレッチングに時間を使う、などなど、普通の人には耐えられないような生活を当たり前のように続けている。そしてそれを続けられるのもやはり、それが必要であると理解できる知識とメンタルの強さを手に入れているためだ。ちなみにビールのCMに出演しているイチロー選手やダルビッシュ選手でさえも、シーズン中にお酒を飲むことはない。

今のライオンズの選手にはかつての木村文紀選手のような練習量も必要だし、スポーツ心理学の専門家であるメンタルトレーナーからの専門的なアドバイスも必要だ。たくさん練習をすれば気持ちも強くなる、と考えているようではライオンズはいつまで経っても再建させることはないだろう。

かつて故星野仙一監督は、「心技体」という言葉を「体心技」と表現されていた。これはつまり、たくさん練習してまず体を強く健康にし、その次に心もしっかり鍛えれば、試合で確かな技を発揮できるようになる、という考え方だ。星野監督がスポーツ心理学を勉強されていたのかは筆者には分からないのだが、しかしこの星野監督の言葉はスポーツ心理学的にはまさに的を射た表現であり、それを聞いた瞬間、筆者は思わずなるほどなぁと唸ってしまったのを今でもよく覚えている。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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