2021年11月17日公開
松井稼頭央2軍監督が来季2022年は1軍ヘッドコーチを務めることになった。シーズン終了間際の報道ではチームが最下位に転落したことを受け辻発彦監督が退任し、松井稼頭央1軍監督が誕生するのではとも報じられていたが、これはただの空騒ぎで終わった。
スポーツ紙は来季監督に関してチーム内で二転三転していると下世話な報じ方もしていたが、果たしてそうだろうか。確かに報道陣に情報がリークされることによって人事が覆されるケースもあるわけだが、今回のライオンズの監督人事はそうではないと筆者は感じている。
まず第一に渡辺久信GMの考えがあったはずだ。自身は2軍監督を経て2008年に1軍監督に就任したわけだが、あの時1軍ヘッドコーチを経て1軍監督になっていれば、もっと違っていたかもしれない、という思いもあったのではないだろうか。
同じ監督業であっても、1軍監督と2軍監督とでは求められるものがまったく異なる。2軍監督は確かに勝つことも大切だが、それ以上に求められるのは若い選手を育成し、どんどん1軍に送り込むことだ。一方1軍監督はとにかく勝つことが使命となってくる。
もし渡辺GMが2008年、1軍ヘッドコーチや1軍投手コーチなどを経て1軍監督になっていたら、もう少し余裕を持ち、中長期的視野を持って1軍を率いられたのではないだろうか、という思いは0ではなかったと思う。その経験を踏まえ、渡辺GMはまず、松井稼頭央2軍監督を1軍ヘッドコーチとして起用したのではないだろうか。
流れとしてはもちろん、将来的な辻監督の後任は松井稼頭央ヘッドコーチになるのだと思う。この人事に意外性などは必要なく、ライオンズとしては今、松井稼頭央ヘッドコーチを1軍監督として育成している最中なのだと思う。監督・コーチをしっかりと育てていくというのは渡辺GMの方針の一つで、これはチーム力を長期的に維持していくためには非常に重要な要素だ。
渡辺GMが就任する前のライオンズは、特に投手コーチが長年チームを任されるケースが少なかった。そのためになかなか安定した投手陣を形成することができなかったわけだが、渡辺GM就任後はコーチ陣がそれぞれ責任を持ち、腰を据えて指導ができているように見える。これは渡辺GMが成功させたチーム改革の一つだと言える。
今季は松坂大輔投手が引退したわけだが、チームとしては当然松坂投手には2軍投手コーチなどのポストで残ってもらいたかったはずだ。
だが松坂投手は家族思いであると言う。長年大変な思いをさせていた家族と過ごすための時間を求めたのかもしれない。しかし長い現役生活を終えたばかりなのだ。まずはゆっくりと休んでもらいたい。
そして1年ほど外から野球を見た後で、コーチとしてライオンズに戻って来てもらいたい。松坂投手自身はコーチという肩書きに拘りは持っていないようだが、しかし将来的にライオンズの監督としてチームを率いるのであれば、コーチ経験は確かなアドバンテージとなる。
今ライオンズには松井稼頭央ヘッドコーチ、西口文也2軍監督、松坂大輔投手という将来の監督候補たちがいる。3人とも東尾修監督の元で野球を学んだ選手たちだ。野村克也監督の人材育成力には及ばないものの、東尾監督の育成力も目を見張るものがある。
そして辻監督はこれまで、あらゆる名将の元で帝王学を吸収してきた監督だ。怪我人の続出や外国人選手の不調という想定以上のものがなければ、今季だって優勝争いに加わっていたはずだ。現にシーズン開幕直後は怪我人が続出するまで、順調に首位争いを繰り広げていた。
そう考えると辻監督の辞任の可能性はあったとしても、解任前提の人事ではなかったと思う。スポーツ紙が来季の監督人事に関して二転三転していると書いたのは、おそらく自分たちが先走って報道した「辻監督辞任・松井新監督誕生」が完全に外れてしまい、それを正当化させようとした悪あがきだったのではないだろうか。
今も昔も報道は事実だけを伝えているわけではない。多くのケースでは他紙を先行しようと予測報道をしている。そしてその報道によって野球人生を狂わされてしまう選手、監督、コーチもいる。そう考えると報道の自由には時々大きな疑問を抱いてしまう。
とにかく来季以降の陣容は固まった。辻監督と松井ヘッドコーチのコンビに加え、松井ヘッドコーチのサポート役にも回ってくれる平石洋介打撃コーチ。そして2軍を率いるのはチーム内でも最も人望がある人物である西口文也2軍監督。
コーチングスタッフを見るだけでも、来季はワクワクするような野球を見せてくれるような予感がする。今季のリーグ優勝はセパ共に前年の最下位チームだったわけだが、一年後にはライオンズが最下位からリーグ優勝を果たし、念願の日本一を奪回しているのだろう。