2023年11月29日公開
2023年11月28日の契約更改後、與座海人投手の背番号が44から15に変更されることが発表された。これは渡辺久信GM流の、「地位が人を育てる」という考えに基づく変更だと思う。
佐藤龍世選手が背番号10に変わったことにしても、與座投手の15番にしても、このふたりはまだまだそれぞれの背番号に相応しい実績は残せていない。與座投手こそ昨季は10勝をマークしたものの、今季は2勝のみでシーズンを終えている。佐藤選手にしても今季終盤は不可欠な選手となったが、まだシーズンを通して活躍したという実績はない。
だが渡辺GMはふたりに対し、10番・15番にそれぞれ相応しい選手になって欲しいという期待も込めて背番号を変更させた。ちなみにライオンズの背番号15と言えば、黄金時代に112勝を挙げたアンダーハンドスロー投手、兄やんこと松沼博久投手が背負っていた背番号だ。
そしてこの15番は與座投手にとってもう一つ意味を持つ。與座投手は大学時代、同学年に中野宏紀投手というチームメイトがいた。與座投手と中野投手はふたりで全国大会で活躍して、ふたりで一緒にプロになろうと誓い合った仲だった。
しかし2014年5月2日、中野投手は原付バイクで銭湯から下宿まで戻る途中に電信柱に衝突してしまい、その一週間後の5月10日に帰らぬ人となってしまう。彼らがまだ大学1年生の時の出来事だった。この事故まで中野投手が背負っていた番号が15であり、後年岐阜経済大学が全国大会に駒を進め勝利した際、與座投手が掲げた15番のユニフォームが中野投手のものだった。
このような出来事もあったことから、與座投手にとって背番号15というのは、我々ライオンズファンが往年の選手を彷彿する以上に大切な番号なのである。渡辺久信GMももちろんそのことを知った上で、この世を去った友のため、更なる奮起を促そうと15番への変更を伝えたのだろう。
2022年、與座投手は10勝7敗という好成績を挙げたことにより一皮剥けたかのように思えた。だが2023年は再び2勝6敗という数字に低迷してしまう。渡辺GMもこのまま放っておいてはダメになると感じ、飛躍への良いきっかけとなるよう15番という特別な背番号を与えたのかもしれない。
では與座投手はどうすれば安定して活躍できるようになるのか?これは牧田和久投手のケースと酷似しており、アンダーハンドスロー全般に言えることでもあるのだが、アンダーハンドスローというのは左打者からボールが見やすくなる傾向がある。そのため対戦チームも與座投手が先発の日は、左打者を多く並べてくることもあった。
数字だけ見てみると2023年は、対右打者は125打席、対左打者は178打席となっており、対戦相手がいかに左打者を多く與座投手にぶつけて来たのかがよく分かる。だが被打率を見てみると対右が.256なのに対し、対左は.225と比較的よく抑えている。ではなぜ與座投手は今季、2勝6敗と低迷してしまったのだろうか?
その理由は左打者に対し丁寧に行き過ぎ、大胆さを失ってしまったことに原因があったように筆者には見えた。もちろん調子が良い時はその大胆さが見られることもあったのだが、今季に関しては見られない試合の方が多かった。
例えば右打者には3つしか四球を与えていないのに対し、左打者に対しては慎重になりすぎたのか18個も四球を出している。交わしにいくようなピッチングを見せることも多く、攻め切れなかった分右打者からは29個奪った三振も、左打者からは10個しか奪えていない。
與座投手がもう一段上のレベルの投手になるためには、スライダーをもう少し有効に左打者に使っていく必要があるだろう。だが理想的には左打者は、外に落ちるシンカーで勝負できるとすごく楽になる。そう考えると左打者の内角高めに、カッター気味の速めのスライダーを投げられるようになれば、もっと外角低めのシンカーが生きていくはずだ。
来季以降も、他球団が與座投手に対し左打者を多くぶつけてくることは十分予想される。そこで今年と同じ失敗を繰り返さないためにも、いかにして上手く左打者の内角高めにボールを見せられるかが来季の鍵になってくるのではないだろうか。
上述した通り、アンダーハンドスローから投げられるボールは左打者からすごく見やすくなる。その見極めを少しでも難しくさせるためにも、ストレートに近い球速で小さく曲げることにより、空振りを取ると言うよりは、ファールなどでカウントを稼ぐボールとしてカッター気味にスライダーを投げられると良いと思う。
そのような小さなモデルチェンジを見せられるようになれば、與座投手は間違いなく毎年のように二桁勝てる投手になれるはずだ。そして松沼博久投手のように、いつかレジェンドと呼ばれるアンダーハンドの使い手となるだろう。
松井稼頭央監督からすると、與座投手がローテーションに入って来てくれると非常にやりやすくなるはずだ。3連戦ではとにかく相手チームの目線を変えることが重要になってくる。例えば1戦目が右投手なら、2戦目では左投手を先発させて、3戦目で今度は右下から投げる投手が先発として出てくると、打者はなかなか目慣れさせることができない。
これが逆に、3連戦すべてで右上から投げる投手が先発してくると、打者は容易に目慣れさせることができ、相手打線が活発になる確率が高まってしまう。首脳陣からすると相手打線に目慣れさせないためにも、バリエーション豊富な先発陣を揃えたいのだ。
来季先発が予想される投手としては髙橋光成投手・今井達也投手・松本航投手・平良海馬投手が右上、ボー・タカハシ投手が右ロースリークォーター、隅田知一郎投手と武内夏暉投手が左上、そして右下の與座投手。もしエンス投手の契約が合意に至れば、サウスポーがもう一枚増えることになる。
やはり理想としては3連戦の先発投手は右左を交互にし、相手打線を目慣れさせることなく戦っていきたい。そのためにも重要な役割を果たすのが絶滅危惧種とも言われるアンダーハンドスローの與座投手なのだ。與座投手自身、例えば左上から投げる投手が先発した後、3連戦の3戦目に毎週投げられるようになれば、これは與座投手自身のアドバンテージにもなる。
チーム、そして與座投手の双方がこの左右ジグザグローテーションのアドバンテージを得ていけるようになれば、少なくとも簡単にBクラスに沈んでしまうことはなくなるだろう。
ちなみに往年のレジェンド松沼博久投手は、ルーキーイヤーの1979年に16勝を挙げている。與座投手にはぜひこの数字に追いつき追い越すような活躍を来季は見せてもらいたい。左打者に対する大胆さを失わなければ、與座投手のポテンシャルからすればまったく不可能ではない数字だと言える。