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2024年10月13日公開

フロントの反対を押し切ってまで西口文也監督を誕生させた渡辺久信GMの功績

西口文也二軍監督の誕生に反対していた西武球団のフロント陣

フロントの反対を押し切ってまで西口文也監督を誕生させた渡辺久信GMの功績

西口文也新監督は、現役選手としては2015年のシーズンを限りにユニフォームを脱いでいる。通算勝利数は182勝で、共に一時代を築いた松坂大輔投手の日米通算170勝を上回っている。引退後はすぐに編成部に所属しながら、台湾や韓国で臨時コーチを務めることでコーチとしてのキャリアをスタートさせた。

そして引退から1シーズンを経た2017年に、ライオンズの二軍投手コーチに就任した。だが同年6月に森慎二一軍投手コーチの体調不良を受けて急遽ブルペン担当コーチとして一軍に異動し、2018年から正式に一軍投手コーチとしてブルペンを預かり、2020年からはベンチ担当の投手コーチとなった。

引退後はこのように紆余曲折を経ながらも着実に指導者としての実績を積んでいき、2022年からは二軍監督を務めるまでに至った。だがこの時、西武球団内には西口コーチの二軍監督就任に反対する声が強かったのだ。つまりフロントにいる一定数の人間が、西口二軍監督の誕生に懐疑的だったのだ。

その理由は西口文也という人物があまりにも飄々としていて掴みどころがなく、監督としてチームを任せるにはあまりにも心許ないというものだった。だが西口文也という野球人の勝負師としての顔を見抜いていた渡辺久信GMがフロント陣を説得し、すったもんだの末に誕生したのが西口文也二軍監督だったのだ。

だが実際に監督を任せてみると渡辺久信GMの見立て通り、西口二軍監督はファームの若手選手たちをどんどん成長させていき、チームも優勝争いに絡むほど強化させて見せた。つまり西武球団の西口文也という人物に対する見立ては完全に外れていたということになる。

そして一軍の松井稼頭央監督は選手たちの自主性を重視するやり方を貫いたが、西口二軍監督は意外と松井監督以上に厳しい顔を選手たちに見せている。松井監督の場合は最後まで松井野球を具現化することができなかったわけだが、西口二軍監督は選手たちに監督が求めるプレーを伝え、それをしっかりとこなすことを要求していった。そこでその要求に応えられない選手に対して厳しい練習を課すのが西口文也二軍監督だった。

これまで成功よりも失策の方が多かった西武球団フロントの判断

恐らくだが、引退後の松井稼頭央選手を将来の監督候補として育成しようとしたのは球団主導だったのではないだろうか。黄金時代以降の西武球団は、生え抜きのスター選手を監督に据えることにこだわりを見せ続けた。森祇晶監督以降の名前を上げると、エースだった東尾修監督、伊東監督誕生までの繋ぎ役を務めた伊原春樹監督、正捕手だった伊東勤監督、エースだった渡辺久信監督、そしてまた短期間伊原監督を挟んで正遊撃手だった田邊徳雄監督、正二塁手だった辻発彦監督、そしてずば抜けたスター性を持っていた松井稼頭央監督と続いていく。

西武球団としては客を呼べる監督にこだわりを見せているようにも思える。繋ぎ役だった伊原監督や監督代行から正監督となった田邊監督は別として、その他の面々はスター性のある人物ばかりだ。もちろん田邊監督も現役時代は正遊撃手として黄金時代のライオンズを長らく支えたわけだが、華やかさという意味ではどちらかと言えば地味な選手だった。

そして西口文也投手も地味な選手だった。地味と言っては大変失礼なのだが、西口投手はタイトルを獲得していた頃の全盛期に、お子さんと週末に西武ドーム近くの西武園ゆうえんちに行っても、誰にも気付かれないような人なのだ。17勝を挙げるような大エースだったのにもかかわらず、本拠地球場のすぐ近くの週末で混雑した遊園地に行っても誰にも気付かれないのだから、これはもう地味であるとしか言いようがない。

恐らく西武球団のフロントはそのような面も踏まえて西口文也二軍監督の誕生に反対したのだろう。だがその見立てが的外れだったことを考えると、かつての西武球団のフロントにはいかに人を見る目がないかということがよく分かる。そもそも名将渡辺久信監督の後任に伊原春樹監督を据えてチームを崩壊させたのも西武球団のフロントの大失策であり、その伊原監督の後任を務めた田邊監督も、やはり監督タイプの指導者ではなかった。田邊監督は、打撃コーチとして好々爺を演じてこそ生きる名指導者だった。

ちなみに渡辺監督後の伊原政権発足時は、西武球団にはほとんどパイプがなくてコーチ人事で非常に苦労している。さらに言えば渡辺監督の後任として、西武球団には伊原監督を再登板させるくらいしか選択肢がなかった。実は近年の西武球団のフロントには、その程度の実力しかないのである。

だがそれが、渡辺久信シニアディレクターがGMに就任してから一気に変わっていく。かつて西武球団のフロントに嫌気がさしてライオンズを去っていった名選手たちが続々とライオンズに戻ってきてくれるようになり、その中でも豊田清コーチのライオンズ復帰は非常に大きな出来事だったと言える。もし豊田コーチの存在がなければ、今のライオンズの強力な投手陣を形成することもできなかっただろう。

そして辻発彦監督を誕生させたのも、渡辺久信シニアディレクターの手腕だったと言われており、その辻監督は日本シリーズ進出こそ叶わなかったものの、見事ライオンズをリーグ二連覇に導いている。つまり何を言いたいのかと言うと、西武球団は監督代行を渡辺GMに押し付けたことで、渡辺GMという大きな存在を失ってしまったということだ。

渡辺GMは、監督代行に就任したと同時に今季を限りにライオンズを退団する覚悟を決めていた。もちろん監督代行になっていなかったとしても、漢気ある渡辺GMが、松井稼頭央監督だけを犠牲にしたということはなかっただろう。だがもし松井監督をあれだけ早く更迭せず、まずは3年間はしっかりと様子を見る忍耐力を西武球団が見せていれば、大功労者である渡辺GMも、スター性十分の松井監督も西武球団は失わずに済んだはずだ。

はっきり言うとこれまでの西武球団のフロントの判断を振り返ってみると、本当に上手くいったというのは二軍監督としてじっくりと手塩にかけた渡辺久信監督の誕生くらいではなかっただろうか。ちなみに東尾修監督に関しては、当時の堤義明オーナーが気に入っていた人物として森監督の後任に選ばれたと伝えられている。

なお現在の球団本部長である飯田光男氏は元々は鉄道マンで、2017年に突然西武鉄道から西武球団の役員に就任するまでは野球とは無縁の人物だった。そして鈴木葉留彦氏の後任として2019年に球団本部長となるわけだが、もしかしたら前田康介氏や鈴木葉留彦氏のように下手にプロ野球経験がある人物よりは、プロ野球経験がなくフラットな目で選手を見ることができる飯田氏のような人物の方が、客観性と選手に対するリスペクトを持ってチームを強化できるのかもしれない。

ただし渡辺久信GMのようなパイプは持っていないため、今後の現場の人事に関しては苦労されることも出てくるかもしれない。そして西口文也二軍監督が誕生したということは、飯田球団本部長がGOサインを出したということでもあるため、恐らく飯田球団本部長は西口二軍監督誕生に対しては反対派ではなかったのだろう。

渡辺久信GMが誕生する以前の西武球団のフロントは、とにかく選手たちに評判が悪かった。和田一浩選手もFA移籍交渉時に西武球団からは冷遇されており、それを和田選手から伝え聞いていた細川亨捕手もやはり、当時のフロントから冷遇されたことでホークスへとFA移籍してしまった。このような負の流れを断ち切った功労者が渡辺久信GMだったわけだが、飯田球団本部長にはこの渡辺GMのやり方を踏襲しながらライオンズの強化に当たって欲しいと期待を寄せたい。

かつて憧れた渡辺久信GMの手によって監督となった西口文也新監督

さて、話をもう一度西口文也監督に戻すと、学生時代の西口投手は渡辺久信投手に憧れてプロ入りを目指していた。そして後にライオンズに加入する岸孝之投手は、西口文也投手に憧れてプロ入りしてきた投手だ。このようにライオンズには細身のエースの系譜とも言えるものが存在していたわけだが、残念ながらその系譜は今は絶たれてしまっているように見える。

監督就任会見ではらしさ全開で変わらず飄々とした姿を見せていた西口新監督だが、しかし内心は燃えるものを持っているはずだ。なぜなら西口コーチを二軍監督に推薦し、一部フロント職員たちの反対を押し切ってまで二軍監督に就任させたのが自らが憧れた渡辺久信という人物であり、さらには野球人生を賭してまで監督代行を務めて泥を被った渡辺久信監督代行の後任として、今度は自らが一軍監督に就任することになったのだから。

西口文也監督の誕生は、まさに渡辺久信GMの最後の大功績だと言える。西武球団がスター性を重視して選んだ松井稼頭央監督は残念ながら上手くいかなかったが、渡辺久信GMが勝負師としての顔を見抜き、フロントの反対を押し切ってまで誕生させた西口文也監督は果たしてどのような結果をライオンズにもたらしてくれるだろうか。

ちなみに筆者は西口文也監督に対しては非常に大きな期待と好感を寄せている。その理由は、二軍監督時代からサインはすべて自ら考えて出しており、それを一軍でも続けると明言しているからだ。実は松井監督よりも、周囲に対する発信力に関しては西口監督の方がずっと上なのだ。松井監督は口数が少なく、監督の野球感を周囲が理解することが難しかった点も否めない。だが西口投手は現役時代から「自分は意外とお笑いが好き」と公言するくらい、インタビューなどでも西口節で発信することが上手かった。

そのような違いを見ても、今後のライオンズは監督が振るタクトによって選手全員が同じ方向を向けるようになるのではないだろうか。残念ながら松井監督の下ではチームが一つの方向を向いて戦うまでには至らなかったわけだが、発信力のある西口監督が上手くタクトを振ることができれば、鳥越裕介ヘッドコーチとの剛柔のバランスによってチームは短期間で良い方向へと向き出すかもしれない。

良い人というキャラが完全に被ってしまった松井監督-平石ヘッドコーチのコンビよりも、厳しいながらも大らかな西口監督と鬼軍曹にもなれる鳥越ヘッドコーチの方が、飴と鞭ではないがバランスもメリハリもあって良いのかもしれない。筆者個人としてはもちろん松井稼頭央監督の下で日本一を達成してもらいたかったわけだが、しかしこれからは西口文也新監督に期待を寄せ、2025年は前年の悪夢からの日本一という大下剋上を演じてもらいたいと思う。

世間では今のライオンズの弱さは渡辺久信GMが招いたと言われることも多いわけだが、筆者はまったくそのようには思わない。それどころか渡辺GMがいなければライオンズはさらなる暗黒時代に突入していただろうし、西口文也監督の誕生さえも実現していなかったのだ。来季以降ライオンズが快進撃を見せたならば、西武球団や世間は改めて渡辺久信GMの功績を実感することになるだろう。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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