2024年10月10日公開
今夜仙台において、ライオンズは2024年のすべての戦いを終えた。この歴史的低迷を極めた苦しいシーズンも、49勝91敗3分という数字でようやく終わったわけだが、やはり最終戦も勝ち切れずに引き分けとなり50勝に届かなかったというのは、ある意味では今季を象徴したとも言える。
そしてライオンズが首位から40ゲーム以上離されたのは、1971年に阪急ブレーブスに43.5ゲーム差を付けられた時以来の出来事となるらしい。今季ホークスとライオンズの差は42ゲームで、これはパ・リーグでは2005年に楽天イーグルスが創設年に首位ホークスに51.5ゲーム差を離された時以来の屈辱的敗戦となるようだ。
だがそんな暗く辛いシーズンもようやく終え、最終戦後には西武球団から渡辺久信GM兼任監督代行と松井稼頭央監督の退団、そして西口文也新監督の就任が発表された。退団はそれぞれ2024年12月31日付で、新監督の就任は2025年1月1日付となる。だがフェニックスリーグではすでに西口文也監督が指揮を執っているため、もはや西口新監督の就任は周知の事実となっていた。
なお同時に、平石洋介ヘッドコーチの退団も決まっている。西武球団は平石コーチの慰留に努めたようだが、ご本人の強い意志もあり退団という形となった。そして来季代わってヘッドコーチを務めるのは鳥越裕介氏だとスポーツ紙では伝えられているが、これに関してはまた西武球団からの正式なアナウンスを待ちたい。
今季はすべてのライオンズの関係者とファンにとっては悔しいシーズンとなってしまったわけだが、ここで落胆している暇はない。今季143試合の戦いでライオンズのウィークポイントは浮き彫りになった。これは渡辺久信GMが仰っている通り、まず打者は相手投手の速いストレートを打ち返す技術と力がなく、同時にバントやヒット&ランなどのチームバッティングを決める技術もなかった。そのため秋季練習、秋季キャンプでは僅か5日間の休みを挟むのみでこのあたりの強化を目指していくことになるようだ。
さて、ここからは松井監督について書いていくわけだが、やはり松井監督としても我々の想像を絶するほどの悔しさを味わったシーズンだったはずだ。今季はまだ監督2年目だったにもかかわらず、交流戦を前にして成績不振を理由に更迭されてしまった。
なおこの監督交代劇は球団主導で行われ、渡辺久信GMによる人事ではなかった。渡辺GMは球団側から代行監督の就任を依頼され、当初は固辞したものの最終的には球団からの強い説得を受け受諾する形となっていた。渡辺GMとしては、自分が連れて来た監督の後釜を自分が務めることに強い違和感を感じていたと言う。
松井監督の敗因は、やはり優しすぎたことだろう。選手に対し良い人過ぎたことで、選手を信用し過ぎてしまったことにあったと思われる。監督という立場では、選手のことは信頼すべきだが、信用すべきではない。「やってくれるだろう」と期待しながらグラウンドに送り出しながらも、同時にその起用が上手く行かなかった時のバックアッププランは常に用意しておかなければならない。だが選手を過信したことでそれができなかったのがライオンズの松井監督であり、逆にできていたのがホークスの小久保監督だったと言える。
もちろん選手層に関してはライオンズとホークスとでは比較にならない。ホークスは金満球団として、大枚を叩いて他球団からどんどん主力選手を引き抜いていく。もちろんこれが悪いことだとは思わない。それができるのであればやるべきだし、同時にだからと言ってそれが上手くいくとも限らない。現に今季こそホークスはリーグ優勝を果たしたが、昨季まではバファローズが三連覇を果たしている。
もちろんオリックス球団も、西武球団に比べれば資金力のある球団だ。だが2024年の平均年俸で見ると12球団中1位のソフトバンク球団6806万円に対し、オリックス球団は5位4538万円となっており、9位の4116万円の西武球団とは大差はない。毎年のように主力をFAで失ってきた西武球団に対し、オリックス球団が近年FAもしくはポスティングで流出させた1億円以上の高額年俸選手が2018の西投手と昨オフの山本投手のみと考えると、ソフトバンク球団ほどお金に物を言わせているとは言えないだろう。
ただし西武球団もFAによる選手の流出をただ手をこまねいて見ていたわけではない。今季はヘスス・アギラー選手とフランチー・コルデロ選手を獲得して打力の低下をしっかりと補っている。ただこの二人が機能しなかったのは痛手であり、さらに言えばこの二人を機能させられなかった打撃コーチ陣の能力不足は松井監督にとっても計算外だったのではないだろうか。
嶋打撃コーチにしても外国人打者に対しては、すでに不振に苦しんでいるのにもかかわらず基本的に彼らのスタイルを尊重し、コーチ側から何かを言うことはないと明言している。つまりこれは、アギラー選手やコルデロ選手が不振で喘いでいるのに何もしなかったのと同じことであり、まずこのような打撃コーチの能力不足は松井監督にとっては不運としか言いようがなかった。
投手陣に関しては、リリーフ陣こそやや不安定な面も一時期は露呈していたが、最終的には平均以上の投手力だったと言って良い。だがその投手陣も打線の援護を得られないことで我慢し切れなくなり落としたゲームも多く、もしアギラー選手かコルデロ選手、もしくはアンソニー・ガルシア選手の一人だけでも機能していたならば状況はまったく変わっていただろう。
松井監督が更迭されるまで、筆者はこの場で松井監督はシーズン途中で代えるべきではないと書き続けた。その理由は松井監督は想像以上の策士であるためだ。もし打撃陣のレベルがもう少し高ければ、我々はもっと明確な形で「松井野球」を見ることができたはずだ。だが打撃陣に松井野球を体現する実力が伴っていなかった。
それでも今季、来季と徹底的に叩き上げていけば、きっと松井野球もある程度の形を見せてくるはずだと筆者は考えていた。例えばファイターズの新庄野球のように。だが西武球団には松井監督を信じ続ける忍耐力がなかった。更迭される直前には後藤高志オーナーが直々に松井監督にはこれからも指揮を執ってもらうと公言した矢先での解任劇だったため、筆者は西武球団のスタンスに対し強い疑問を抱いた。
そして同時に代えるのであれば監督ではなく、打撃部門で結果を出せていない打撃コーチ陣が先であるとも書いた。これこそ球団主導で真っ先に行うべきことだったと筆者は今なお揺らぐことのない確信を持っている。ただし渡辺GMに関しては、球団が松井監督を更迭する前にコーチの入れ替えを断行すべきだったとは思う。
松井監督に落ち度があるとすれば、敗戦の責を常に自分一人で背負い続けたことだろう。これはビジネス界でも共通する話であるわけだが、勝てるリーダーというのは人を使うのが非常に巧い。そして部下に対しても適度な責任感を与え、それを全うさせることができ、そうさせるために上手く尻を叩くこともできる。
だが松井監督はどの部門が上手くいかなくてもその責を一人で背負い込み、敗戦後には選手やコーチに対し小言一つ言うことさえしなかった。そしてミスをしてもそれほど責められることのないその甘い環境こそが、ライオンズの若手選手を軟弱にしてしまったと言うことはできる。松井監督の敗因として最も大きかったのはこの点ではなかっただろうか。
なお松井監督は選手時代に大金を稼いでいるスター選手であるため、仮に今後ずっとフリーでいたとしても、一般的なプロ野球を辞めていった選手たちのようにセカンドキャリアで苦労することはまったくない。これは松坂大輔氏にも同じことが言え、そのため彼らが今後急いでユニフォームを着たがるということはないだろう。
西武球団は松井監督に対し、外国人選手を発掘するフロント職として慰留したがそれは職種的にも収入的にもまったく魅力あるポジションとは言えず、松井監督が固辞したこともよく分かる。
松井監督は、監督としてはほとんど勝つことができないまま終わってしまった。だがそれは松井監督に能力がなかったわけではない。昨季は四番打者が下半身のスキャンダルでシーズンをほとんど全休し、さらには不動のセットアッパーが先発に回ったことでブルペン陣の層が一気に薄くなってしまった。そして今季に関しては外国人打者がまったく機能することがなく、和製スラッガーの育成もFA流出のペースにはまったく間に合わず、追い討ちをかけるようにして2年連続で選手に下半身スキャンダルが飛び出した。
もし松井監督が率いたのが10年前のまだ安定感があった頃のライオンズであれば、松井監督は間違いなくライオンズを日本一に導いていたはずだ。だが去年今年のライオンズでは、どんな名将が率いたとしても勝つことはできなかっただろう。そういう意味では松井稼頭央監督は悲運の将と呼ぶことができるのではないだろうか。
話変わって渡辺久信GMについてだが、渡辺久信投手は筆者がまだプロ野球選手を目指していた頃に最も憧れた野球選手だった。筆者が子どもの頃には球場でサインを書いてもらったこともある。そして今のライオンズを作ったのはまさに渡辺久信GMであるわけだが、しかし渡辺久信GMがGMとして実力不足だったために今季の現状を招いたわけではない。
もちろん結果だけを見れば渡辺GMと松井監督の責任となってしまうわけだが、しかしそもそもFA流出に歯止めがかからない現状を生み出したのは西武球団だ。もし渡辺久信GMの存在がなければ、FAで流出した選手はもっと多くなっていただろう。だが渡辺GMが選手ファーストで交渉を進める方向にフロントを転換させたことで、複数年契約で生涯ライオンズを貫く選手たちが増えていった。これは本当に渡辺久信GMの最大の功績だと言って良い。
ちなみに渡辺久信GMの前任者は鈴木葉留彦球団本部長で、その前は前田康介球団本部長だった。とにかくこの二人が選手たちから不評で、この二人はFA残留交渉にことごとく失敗した。例えば渡辺久信監督時代の正捕手であった細川亨捕手を例に挙げると、2010年にFA権を取得していた細川捕手はシーズン終了後にFAについて話し合おうと言われて球団事務所を訪れた。だがその席で鈴木球団本部長から伝えられた言葉は「現状維持」というもので、FAの話し合いどころか僅か10分間簡単な説明を受けただけだった。
これに対し細川捕手は呆気に取られてしまい、気持ちはどんどん移籍へと傾いていってしまう。もしこの時鈴木球団本部長がもっと細川捕手の捕手としての能力を適切に評価していれば、この時ライオンズが正捕手を同一リーグのライバル球団に奪われることはなかったはずだ。
故野村克也監督は生前、今名捕手と呼べるのは細川亨だけだと評価するほど、細川捕手の捕手としての能力は非常に高かった。だが鈴木球団本部長はそれについてまったく評価することなく、2割にも届かなかった打率を重視し、まるで現状維持が高評価であるかのように細川捕手に受け取らせてしまった。
そしてその細川捕手が、現時点ではライオンズにとっては最後の名捕手となってしまっている。もちろん森友哉捕手は出場試合数的には正捕手と呼ばれたわけだが、しかし捕手としての能力は細川捕手、もしくは炭谷銀仁朗捕手よりも圧倒的に劣り、森捕手の捕手としての能力で勝てた試合というのは決して多くはない。もちろん打者としての森捕手は素晴らしかったが。
細川捕手の移籍後は炭谷捕手がどんどん名捕手の域に近付いていったわけだが、しかしいよいよ素晴らしい捕手になってきたなという途端、炭谷捕手もまたFA移籍をしてしまった。そしてその後のライオンズの捕手力の衰退は目を覆いたくなるほどで、もし今季炭谷捕手がライオンズに復帰していなければ、今季のライオンズはもっと悲惨なことになっていただろう。そしてその炭谷捕手の慰留にも、主砲だった浅村栄斗選手の慰留にもあっさりと失敗したのが鈴木球団本部長だった。
渡辺久信GMは2019年から、エースも正捕手も主砲も流出してしまった綻びだらけのライオンズをGMとして託された。そして前任者たちが努力さえ怠ったFA選手の慰留や、一度はライオンズを去った功労者たちのライオンズ復帰に次々と成功し、何とかライオンズを少しずつ立て直していった。
だが渡辺久信GMにも限界はある。どうしても地元に帰ってプレーすることに拘った選手や、下半身のスキャンダルにより球団に居づらくなった選手を慰留することはさすがにできない。そもそも選手の下半身スキャンダルの予防などGMの職域には含まれてはいないし、しかもそれが去年今年と2年立て続けに起こったのだから、これはもう問題を起こした選手たちに呆れ、その人間性を疑うより他はない。
松井監督が悲運の将であるならば、渡辺GMもまた悲劇のGMだった。もしこの二人がプライベートで問題を起こす選手がおらず、選手から信頼されるフロントを持つ普通のチームを率いていれば、今季のライオンズとは比べ物にならないほど強いチームを作れていたはずだ。こうして少し考えるだけでも筆者は悔しくて仕方ない。渡辺GMも松井監督も本当に優れた人物だ。だがそれぞれの職域において不可抗力とも言えることに翻弄され続けてしまったのだ。
渡辺GMに関しては、今日の試合後のコメントの通りしばらくはゆっくりされるのではないだろうか。かつて自らが背負った背番号41番と同じ、41年間プロで戦い続けてきたのだから年齢的にももうゆっくりされても良いと思う。だが松井監督はまだまだ若い。例えば現時点では来季の監督が白紙状態になっている古巣イーグルスで監督を務め、監督としての能力を遺憾なく発揮しイーグルスを勝たせ、自らを更迭した西武球団を見返すということもできる。
とにかく渡辺GMにしろ松井監督にしろ決して無能な人物ではないどころか、それぞれの職域において誰よりも高い能力を持っていた。ただ率いたチームの内状が酷過ぎただけだった。世間はこのトップ二人を責め立てることで何とか今季をやり過ごしたいのかもしれないが、しかし筆者は、本来の正解は来季も渡辺GM-松井監督体制を続けることだったと今なお信じている。
そして筆者は長年ライオンズに尽くしてくれたこの大功労者二人に対し、心からの「ありがとう」を伝えたい。また同時にこの大功労者二人を犠牲にしてしまったことで、西武球団そのものが変わらなければライオンズが変わることもまたないということを、そろそろ球団や親会社には目を覚まして気付いてもらいたいと心の中で叫びつつ、この記事を締めくくりたい。