2024年10月25日公開
2024年ドラフト会議で、ある意味最も注目された選手は清原正吾選手だった。彼は慶應大学で四番ファーストを務め、父親は言わずと知れた清原和博氏だ。この清原正吾選手は育成であれば話題性スター性が抜群なことから、どこかが指名するのではないかと言われていたが、残念ながら清原選手を指名する球団は最後まで現れなかった。
プロ球団がドラフト会議で指名する可能性がある場合、その球団はだいたい夏休み中、遅くとも9月中旬までにはその選手に対し調査書と呼ばれる、アンケート用紙のようなものを送付する。すると選手はプロ入りの意思がある場合はその調査書を記入し球団に返送するわけだが、清原選手にはこの調査書がまったく届いていなかった。報道によればドラフト会議直前になって3〜4球団が調査書を送ったらしい、という情報もあったが、これも定かではないため実際のところは我々ファンには分からない。
慶應大学での四年間の成長を見る限り、ドラフト下位、もしくは育成であれば指名する価値は十分にあると筆者は考えていた。例えばライオンズではかつて松坂フィーバーが巻き起こったわけだが、それ以来の清原フィーバーが起こっても不思議ではなかった。
ただ、やはりバッティング技術ということになると六大学の四番打者としては物足りなかった。ヒットやホームランを見ても技術で打っているというよりは、身体能力で打っている感じの方がまだ強く、プレーに安定感がなかった。そのような姿を見ると、スカウト陣も育てるのには時間がかかると感じ、大卒選手にそこまで長い育成期間を設けるわけにはいかないと考えたのだろう。
中学高校世代の野球において日本とアメリカで大きく異なるのが、日本では一年中野球だけをするのに対し、アメリカでは一年中野球をする選手は逆にレアで、春から夏は野球、寒い季節はアメフトやサッカーやスキー、テニスなどをする選手が多い。もし日本の高校でもマルチ競技制度が成り立っていれば、清原選手もバレーボールやアメフトをしながらも野球を続けることができ、大学で大きく出遅れたスタートを切ることにはならなかっただろう。
清原正吾選手は将来的には日本でのこのマルチ競技制度の発展をサポートしたいという趣旨のコメントをしているが、不可能ではないが限りなく不可能に近いだろう。なぜなら日本の高校野球は「週に一度は練習の休み日を設ける」という文科省のガイドラインさえ守ることができないのだ。そのような世界でマルチ競技制度が受け入れられるとは思えない。
また、ドラフトで指名する側の12球団からすると、やはり清原正吾選手を獲得すると清原和博氏もセットで付いてくるという懸念があったはずだ。清原和博氏は周知の通り覚醒剤による犯歴がある。ライオンズファンとしては今は心を入れ替えている清原氏を受け入れてあげて欲しいという気持ちが強いわけだが、しかし企業判断となるとわざわざ犯歴がある家族を持つ者を受け入れるリスクは犯したくないというところではないだろうか。
確か警察官になるためには身辺調査があったと思う。警察官として採用される前には家族に犯歴がないかとか、交友関係に不審な点はないかなどを徹底的に調査されると聞いたことがある。もちろん警察とプロ野球ではまったくの別物となるわけだが、しかしそれに近い形で12球団が清原正吾選手の指名を見送ったと考えることもできる。
だが清原正吾選手の野球人生はここで終わったわけではない。プロ野球という意味ではオイシックスやくふうハヤテの2球団もまだ残っているし、独立リーグや社会人野球という選択肢だってある。大卒の場合は年齢的にドラフト指名されるには最大でも2年程度の猶予しかないわけだが、もし清原正吾選手のプロという目標が本物であるならば、それらの道を再度父子鷹で目指してみてもいいのではないだろうか。
さて、ライオンズはと言うと今年は支配下選手を7人、育成選手を7人指名した。14人の新入団選手ということになると、第二次戦力外通告期間ではもう数人がリリースされることになるのだろう。そして予想通り今年は野手中心のドラフト指名となった。
西武球団はまず明大の宗山塁内野手を指名したわけだが、西口文也新監督が残念ながらクジを外してしまい宗山選手の交渉権は楽天球団が獲得した。そしてハズレ1位として指名したのは花咲徳栄高校の石塚裕惺選手だったわけだが、ここでも西口監督が再びクジを外し、ハズレのハズレでようやく1位指名できたのが金沢高校の齋藤大翔内野手だった。
三度目の正直ではあったが、高校生ナンバー1ショートの呼び声も高い齋藤選手を指名できたのだから、結果的には良かったのではないだろうか。なお西武球団が高校生を1巡目指名したのは2016年の今井達也投手以来で、1巡目指名のクジで同一年で2連敗したのは、西武球団初の出来事となった。
このあたりで運に恵まれないというのは、現役時代にノーヒットノーランや完全試合をあと一歩で逃してきた西口監督らしいと言えばらしいのではないだろうか。西口監督としては即戦力リリーバーを獲得できればさらに良かったと言っているわけだが、それ以外では今年も非常に良いドラフト指名になったのではないだろうか。
今年のドラフト指名選手の特徴としては、いわゆる小兵と呼ばれる選手の指名がほとんどなかったことだ。一番小柄な選手であっても育成5位指名の京都国際高校澤田遥斗選手の170cm、68kgだ。あとは体格がしっかりとした選手の指名が多く、いわゆるぽっちゃり系の指名もなかった。
彼らの指名を見るだけでも、西武球団がどれだけ和製大砲の育成を望んでいるかがよく分かるドラフトとなった。なお支配下4位指名の台湾出身で日本経済大学の林冠臣選手は195cm、105kgという巨漢で、レオのガリバーこと村田怜音選手の196cm、110kgに引けを取らない体格だ。もしこの二人が近い将来一軍のスタメンに名を連ねるようになれば、ライオンズ打線の迫力は物凄いことになりそうだ。
なお支配下1巡目指名の齋藤大翔選手は181cm、76kgと、高校生であることからまだやや細身ではあるが、イメージとしてはかつての浅村栄斗選手に近いのではないだろうか。守備力は高校時代の浅村選手同様に抜群で、プロレベルの体を作ることができれば将来的には大型ショートストッパーとして活躍できる可能性を秘めている。まさに源田壮亮主将の後継者となりうる選手だ。
源田選手が元気なうちは齋藤選手にはセカンドを守らせていいのではないだろうか。浅村選手も本来はショートストッパーだったが、プロ入り後にセカンドに転向している。齋藤選手には将来的にはショートを守ってもらいたいわけだが、しかしそれまではバッティングの波が大きすぎる外崎修汰選手の代わりセカンド起用し、二遊間の選手として英才教育をしてもいいのかもしれない。
いずれにしても今年のドラフトは、ライオンズの貧打を解消すべく未来を見せてくれたとても良い内容だったと筆者は感じた。そしてこのルーキーたちの突き上げを受けながら、今季一軍でプレーしながらもなかなか打撃で結果を残せなかった選手たちには一段階ではなく、二段階三段階の成長を期待したい。そして一年後のドラフト会議は、まだライオンズの試合が残っている状態で迎えてもらいたい。