HOME > ニュース (97記事) > 誰も予測できなかった鬼のメンタルを持つ仁志敏久一軍野手総合コーチの誕生

2024年10月14日公開

誰も予測できなかった鬼のメンタルを持つ仁志敏久一軍野手総合コーチの誕生

サプライズ人事となった仁志敏久一軍野手総合コーチの誕生

サプライズ人事となった仁志敏久一軍野手総合コーチの誕生

2025年西口ライオンズのコーチ陣用の一部が発表されたわけだが、その名前がビッグネームだったことから驚かされたライオンズファンは筆者だけではなかったはずだ。来季は一軍野手総合コーチとして、仁志敏久氏がライオンズに加わることになった。鳥越裕介ヘッドコーチにしろ、仁志コーチにしろ、これまでライオンズとはまったく縁のなかった名前だっただけに、この人事は意外であるのと同時に大きなサプライズとなった。

また、その他の名前として立花義家一軍打撃コーチ、大引啓次一軍内野守備走塁コーチの名前も加わり、二軍に関しては監督として小関竜也コーチが就任し、投手コーチには渡辺智男スカウト、三軍打撃コーチには田邊徳雄スカウトが就任することになったようだ。

一軍に関してはこれで西口文也監督、鳥越裕介ヘッドコーチ、仁志敏久野手総合コーチ、立花義家打撃コーチ、大石達也投手コーチ、大引啓次内野守備走塁コーチがほぼ確定した状況だ。逆にまだ主要ポストで正式発表に至っていないのは、もう一人の投手コーチ、もう一人の打撃コーチ、外野守備走塁コーチ、そしてバッテリーコーチということになる。

スポーツ紙の報道によれば一二軍の異動も行われるということであるため、その他のポジションに関してはまた近日中に発表されるのだろう。基本的に今回は他球団からの招聘はまだなく、フリー、もしくはフリーに近い状態の人材の中から選ばれている。となると期待したいのはもう一人のフリーとなったばかりの大物打撃コーチの存在だ。

立浪監督の退任とともに、ドラゴンズでは和田一浩打撃コーチの退団が発表されている。ライオンズはベンちゃんこと和田コーチを打撃コーチとして招聘すべきだ。実際ライオンズのOBの中にも和田コーチが来季ライオンズで指導することを期待している人物もおり、現状だけを見れば和田コーチのライオンズ復帰に心理面以外での支障はないと思われる。

和田コーチは非常に有能な指導者だ。自らの打撃理論を選手たちに押し付けるようなことはせず、選手たちの良さを上手く引き出す術に長けている。例えばベイスターズでは泣かず飛ばずだった細川成也選手は、2023年にドラゴンズに移籍して和田コーチの指導を受けることで覚醒し、昨季は24本、今季も23本塁打を放ち、今季に限っては打率も.292と安定していた。

2年間貧打に苦しんでいるライオンズはこの指導力をみすみす逃す手はない。ただ、和田コーチの西武球団に対する心証は非常に悪い。和田一浩選手は2007年までライオンズの不動の五番打者として活躍したスター選手であったわけだが、2007年にFA権の行使を検討していた際、西武球団から冷遇を受けている。つまりその時の西武球団は和田選手に対し、「移籍したければお好きにどうぞ」、というスタンスで交渉の席に就いていたのだ。この出来事により和田選手の西武球団に対する愛情はすっかり冷え切ってしまった。ちなみにその時交渉に当たった球団本部長は前田康介氏だった。

和田コーチのライオンズ復帰に何か支障があるとすれば、この出来事に尽きるだろう。例えば資金難でFA選手の引き留めが難しかったとしても、物には言いようがある。例えば、「あなたのことを引き留めたい気持ちはやまやまなのだけど、今は親会社の粉飾決算事件もあって、どうしても大きな予算を組むことができない。そのため今回はこれだけの額しか提示できず、あなたにFA移籍されても仕方ないと思っている。でもFA移籍したとしても、いつかまたライオンズに帰ってきて欲しい」、とでも言ってくれれば、当時の和田選手も後ろ髪を引かれる思いでライオンズを去ったか、もしくは男気を見せてライオンズに残留していただろう。

だが前田球団本部長は2007年の和田選手に対しても、2010年の細川亨捕手に対しても、2011年の帆足和幸投手に対しても、「出て行きたければお好きにどうぞ」のスタンスを貫いた。前田康介氏はスコアラーとしては天下一品の眼力を持っていた人物であるが、しかし人の上に立つ者の器ではまったくなかった。

メジャー式での二軍監督就任となった小関竜也現二軍野手走塁コーチ

さて、続いては小関竜也二軍監督について書いていきたいのだが、この人事もある意味でサプライズだった。西武球団は渡辺久信二軍監督以降、二軍監督は次期監督候補の育成の場としている。ということは西武球団は将来的には西口監督の次は小関監督というふうに考えているのだろうか。

正直いうと、筆者には小関コーチの指導者としてのこれまでの功績があまり見えていない。もちろん指導者としては有能なのだと思うが、しかし「この選手は小関コーチの指導により一本立ちした」という選手がパッと思い浮かばないのだ。もちろんそれは筆者が知らないだけで、実際には小関コーチはこれまでたくさんの選手を上達へと導いたのだと思う。だがその実績が目立って見えてこないというのは、監督としては少し物足りないようにも思える。

ライオンズはこれまで、三軍の対外試合では小関二軍野手総合コーチが監督を務めていたわけだが、もしかしたら三軍監督として高い評価を受けたことで二軍監督にステップアップしたという、メジャースタイルでの起用だったのかもしれない。メジャーリーグの場合はまずはルーキーリーグの監督として実績を積み、1A、2A、3A、メジャーというように徐々にステップアップしていく。

監督に絶対的に必要な能力は統率力であるわけだが、西武球団は小関三軍監督にはそれがあると判断したのだろう。ちなみに小関選手の現役時代はまさにチャレンジャーだった。2005年オフには西武球団に自由契約を申し入れてメジャー挑戦しているし、その後巨人、横浜を経た引退間際でも再度メジャーを目指している。このようなチャレンジャー精神がもしかしたら統率力に繋がっているのかもしれない。

続いて渡辺智男二軍投手コーチだが、実は渡辺智男コーチは現役引退後すぐスカウトに転身し、その後は28年間一度も指導者経験がない。そのような状況でのコーチ起用ということで、渡辺智男二軍投手コーチの就任もある意味ではサプライズだった。

ただ、これまで担当してきた選手たちに相談されれば、彼ら若い選手たちの「プロ野球界の父親」として様々なアドバイスを送っていたことは間違いない。もちろんコーチのように四六時中選手を見ることはないわけだが、しかしドラフト指名で担当した選手たちというのは、困ったことがあると基本的には担当スカウトに物事を相談する。

若い選手たちが渡辺智男スカウトにピッチングに関して相談し、その結果上手くいくことが多かったのかもしれない。そして選手たちが「渡辺スカウトのおかげで上手く行きました」と話せば、そのようなことは当然球団にも届くようになり、その小さな実績の積み重ねが積もり積もって指導者としての高評価に繋がったのだろう。

ちなみに高知県立伊野商業高校だった渡辺智男投手は三年生の時に初めてセンバツ甲子園に出場し、その際に当時最強軍団だったPL学園の清原和博選手を準決勝で3三振に仕留めるという大金星を挙げ、決勝戦でも帝京を破り見事優勝を果たしている。その後はNTT四国を経て1988年のドラフト1位でライオンズ入りし、快速球を武器に1年目から3年連続で二桁勝利を達成している名投手だった。

名伯楽立花義家コーチの復帰と超サプライズ人事の仁志敏久コーチ

さて、続いては立花義家コーチについてだが、立花選手のプロ一年目はライオンズが西武となる前年、クラウンライターでのキャリアスタートだった。そして1年目から19歳の三番打者として根本陸夫監督に大抜擢され、打率三割も二度マークしている名選手だった。

そして引退後は4年間のサラリーマン生活を経て、ダイエーホークス、オリックスブルーウェーブ、ライオンズ、マリーンズ、イーグルス、韓国の三星ライオンズで打撃コーチを務めている名伯楽でもある。

三度に渡るホークスでのコーチキャリアの中では柳田悠岐選手、長谷川勇也選手、中村晃選手、周東佑京選手の一本立ちをサポートしている、まさに打撃コーチとしては抜群の実績を誇る人物だ。昨季から今季にかけての2年間は韓国のライオンズで打撃コーチを務めており、今季は自由契約にされる7月まではデビッド・マキノン選手とチームメイトだった。

これまで素晴らしい打者を幾人も育て上げてきた実績を考えると、すっかり軟弱化してしまったライオンズ打線を短期間で叩き直すには打って付けの人物だと言える。今季までの2年間は言葉が通じない国でのコーチングでかなりの苦労もあったと思うが、しかし来季からは再び原点である西武ライオンズに戻り、打撃コーチとしての集大成を見せるくらいの気持ちで、若獅子たちを千尋の谷に突き落とすかのような厳しい指導を期待したい。

また、同時に監督退任以降はスカウトを務めていた田邊徳雄氏も三軍打撃コーチとして再びユニフォームを着ることになるわけだが、やはり田邊コーチは監督ではなく、コーチとして生きるタイプの指導者だ。現役時代から「オヤジ」と呼ばれたせいか、まさに好々爺という呼び名がよく似合う。

三軍は基本的には育成選手が中心となるわけだが、田邊コーチには育成からどんどん将来のスター選手たちを育てていって欲しい。例えばかつて中島裕之選手、栗山巧選手、中村剛也選手の駆け出しの頃の指導をしていた頃のように。

さて、最後に書くのはもちろん仁志コーチについてだ。この人事は本当にサプライズだった。鳥越ヘッドコーチの招聘ももちろんサプライズだったわけだが、この仁志コーチの招聘はさらに驚きだった。恐らくこの人事を予測した評論家、ライオンズファンは一人もいなかったのではないだろうか。

現役引退後の仁志氏のコーチとしてのキャリアは、アメリカ独立リーグのアトランティックリーグに所属するサザンメリーランド・ブルークラブスでの臨時コーチとして始まった。その後はU-12の監督を経て日本代表の内野守備走塁コーチや、ベイスターズでの二軍監督を務めている。仁志コーチの指導実績もまた十分だと言える。

ちなみに大引啓次コーチに関しては目立った指導歴はなく、日本ハム球団のコーチとしてテキサスレンジャーズに派遣されたが、コロナ禍もあり僅か1ヵ月で帰国している。その後は日体大で臨時コーチを務める程度だったわけだが、仁志コーチと大引コーチの共通点は引退後に大学に入ってスポーツ科学やコーチング学を学んでいるという点だ。

プロ野球では工藤公康監督や吉井理人監督が引退後に仁志コーチ同様に筑波大学でスポーツ科学を学んでいることがよく知られており、大引コーチの場合は日体大でコーチング学を学んでいる。プロコーチとしての実績も人事には重要であるわけだが、このように「何ができるのか」という側面からコーチ人選を行うことも非常に大切な要素だ。

誰よりもメンタルが強かった仁志敏久コーチが叩き直す野手陣のメンタル

日本の場合は欧米先進国とは大きく異なり、学歴社会と呼ばれているものの実際には大学名社会となっている。就活をする際の履歴書でも、博士号や修士号よりもどこの大学を卒業したのかが重視されている。ちなみに筆者は現在ヨーロッパでコーチ業をしているのだが、こちらは大学名はほとんど重視されず、どのような博士号や修士号を持っているかで判断される。

プロ野球の場合でも、多くの選手がFA権を取得するとジャイアンツに移籍したがるわけだが、これも巨人ブランドを得ておくことにより引退後のセカンドキャリアを少しでも有利にするためだと言われている。大引コーチには上述した通りコーチとしての実績はないに等しい。だが現役時代は守備職人と呼ばれた超一流の内野守備に対する知見と日体大で学んだコーチング学を組み合わせれば、プロコーチ1年目から素晴らしい指導力を発揮する可能性を大いに秘めている。

さすがに1年目から大引コーチが三塁ベースコーチを務めることはないとは思うのだが、しかし源田壮亮主将に続く次世代の遊撃手の育成や、走力アップに関する指導には大きな期待を寄せることができる。

また、仁志コーチに関してもスポーツ科学を学んでいることで、昭和平成でよく行われていた非科学的な指導がなされることはまずないはずだ。そして西口新監督はライオンズの若い選手たちはメンタルが弱いと言い切ったわけだが、仁志選手ほど現役時代にメンタルが強かった選手はいない。

ジャイアンツ時代、仁志選手は塁上からダグアウトに戻る際、ネクストバッターズサークルの清原和博選手に、「あの投手今日はどんな感じや?」、と尋ねられたことがあった。すると仁志選手は「全然大したことないっすよ」と答える。だが実際にはその投手は絶好調で、仁志選手と清原選手の間ではその後も複数回同じやりとりが続き、仁志選手は、「お前のアドバイスはまったく当てにならん!」、と清原選手に叱られたというエピソードがある。

どんな好投手を相手にしても「全然大したことない」という気持ちで打席に立つ強靭なメンタルを持った巧打者、それが現役時代の仁志敏久コーチだった。すっかりひ弱になってしまったライオンズ野手陣のメンタルを強く鍛えるためには、仁志コーチほどの存在はないと言って過言はない。

さて、ここで少し疑問に感じるのが、仁志コーチの野手総合コーチという肩書きだ。これは打撃コーチ兼任という意味になるのか、それとも打撃コーチとはまた別の立場になるのかは今のところはまだハッキリしていない。ただ、12球団中圧倒的に脆弱だった打撃陣を考えると、野手総合コーチ+打撃コーチ2人という形が望ましい。今季もヘッドコーチ兼打撃戦略コーチ+打撃コーチ2人という体制だったため、来季もやはりもう一人一軍には打撃コーチが必要だろう。

そのもう一人が和田一浩コーチになればライオンズファンとしてはまさに百人力の勇気を得られるわけだが、その他の陣容に関してはまた数日以内に発表される公式アナウンスを待ちたい。だがいずれにせよ、ここまでのコーチ人事は非常に良いものになっていると思う。少なくとも2年前に嶋コーチ、高山コーチが打撃担当に就任した際よりも遥かに大きな期待を寄せられるし、今オフはどうやら西武球団もコーチ人事に対する予算はかなり増やしてくれたようだ。

少なくとも仁志コーチや立花コーチ、鳥越ヘッドコーチに関しては年俸1000〜2000万円ではとても雇えないレベルの人材であるため、そういう意味では今オフの球団からのバックアップは確かに強くなっていると言って間違いないだろう。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
⚾️ 筆者カズのTwitter(現X)
⚾️ 筆者カズの野球系YouTube
⚾️ 筆者カズの野球系Instagram
SNSのフォローやいいねもよろしくお願いします🙏

関連記事