2024年10月27日公開
楽天球団では一年前にGM兼任監督を退任していた石井一久氏が、2025年から再びGMに復職することになったようだ。他球団のことをとやかく言うつもりはないが、石井一久GM時代のイーグルスはそれほど芳しい成績を収めてはおらず、5年間で3位が二度、4位が三度という成績だった。
一方渡辺久信GM時代のライオンズはリーグ優勝が一度、3位が二度、5位が一度、6位が二度となっている。ただし実際には2017年からシニアディレクターとして編成トップに立っているため、その2年間を加えると、1位が二度、2位が一度となる。この数字だけを見ると渡辺GMの方が石井一久GMよりも好成績を残しているのがよく分かる。
だが渡辺GMの場合、直近4年間で二度の最下位があり、しかも今季は歴史的大敗を喫したということでケジメをつけなければならない状況になってしまった。それでもGMとしての能力は贔屓目なしでも石井GMよりも渡辺GMの方が高かったと言えるのではないだろうか。
渡辺GMはシニアディクレター時代から、フロントと選手の間に生じていた亀裂の修正に尽力した。つまり選手に対しあまりリスペクトがなかった西武球団の体質を完全に変えて見せたのだ。その尽力もあり、FA権を行使して生涯ライオンズを貫いてくれる選手が増えていった。
ではなぜ能力を評価すべき渡辺GMが率いたライオンズは近年まったく勝つことができなくなってしまったのか。これはもう親会社の経営体力の違いとしか言いようがない。渡辺GMがライオンズを率いた時代というのは、親会社である西武HDがようやく目に見えた立ち直りを見せ始めたというタイミングで、かつてのコクド時代と比べるとライオンズに費やせる予算は大幅に縮小されていた。
その結果渡辺GM時代にFA補強した選手が0人であるのに対し、国際的IT企業を親会社に持つ楽天球団の石井GMはFAや金銭トレード等を含めると浅村栄斗選手、鈴木大地選手、涌井秀章投手、牧田和久投手、田中将大投手、炭谷銀仁朗捕手と主力級の選手を次々と獲得していった。
もし西武HDにもう少しライオンズに費やす予算があれば、ライオンズもここまでチーム力を落とすことはなかっただろう。渡辺GMはFA補強も主力級の金銭トレードも認められず、許されたのは小規模なトレードのみだった。主力選手たちはFAで次々と抜けていくのに、その補強をすることが許されなかったのだ。
そして見方を変えると、主力級の選手を続々獲得していった石井GMは3位よりも上にチームを押し上げることはできなかったが、渡辺GMは大型補強が許されない中でもチームをリーグ優勝に導いている。だがさすがに補強が許されないという状況下では、FAで選手が出ていくペースに育成がまったく間に合わなくなってしまい、本来であればもっと育て上げてから一軍でプレーさせるべき選手たちを、一軍半の状態で一軍の試合に出さざるを得なくなり、その結果今季の歴史的大敗を招くことになってしまった。
一部のライオンズファンは渡辺GMの投手偏重ドラフトを批判しているが、これはお門違いだ。例えばもし増田達至投手や平井克典投手がFA移籍し、逆に森友哉捕手や浅村栄斗選手がライオンズに残留していた場合は今季のような投高打低とは真逆の、打高投低となっていた可能性もある。そもそも有力スポーツ紙で西武球団のドラフト戦略に低評価を与えた記者はここ10年はいなかったはずだ。少なくとも筆者は有力スポーツ紙がドラフト会議翌日に書く記事で、西武球団はバランスよく必要な選手を指名できなかった、と書かれたものを読んだ記憶はない。
そして選手が育っていくペースというのはドラフト指名時点ではほとんど予測することはできない。そのため思ったよりも早く一軍に対応し始める選手もいれば、思った以上に一軍に対応するまでに時間がかかる選手もいる。このあたりは本人の野球に対する取り組み方や、コーチ陣との相性もあるため蓋を開けてみなければ分からない。
だが人柄に関してはある程度正確に見抜くことができる。例えば一年前にFAでライオンズを去った打者や、渡部健人選手というのは実はアマチュア時代の素行が悪いことで有名だった。チャラチャラした選手ということで言えば森友哉捕手もその部類には入るが、森捕手の場合はただヤンチャなだけで素行が悪かったわけではない。そのため週刊誌に攻撃されたことはあれど、致命的な問題を起こすことは一切なかった。
しかしアマチュア時代から素行が悪かった2選手に関しては共に生々しい内容のスクープを出されている。そのため個人的には「これは失敗だった」と思える渡辺GMのドラフト戦略は、渡部健人選手を1位指名したことだと筆者は考える。ちなみにDeNA球団も渡部選手を地元の選手として上位指名を検討していたが、素行の悪さが原因で指名を回避している。渡辺GMのドラフト戦略に関するミスはこれくらいだと言えるのではないだろうか。
渡辺GMが実質編成のトップとなった2017年以降のドラフト1位の選手たちの名前を見てみると、2017年齊藤大将投手、2018年松本航投手、2019年宮川哲投手、2020年渡部健人選手、2021年隅田知一郎投手、2022年蛭間拓哉選手、2023年武内夏暉投手という面々となる。この中で一軍の主力となっているのは3人、一軍半が1人、二軍が1人、トレードで出された選手が2人となっている。
つまりドラフト1位で指名した選手の42.8%が一軍の主力となっているのだから、これは戦略的に間違っていたとは言えないだろう。ただし野手に関しては2017年以降では、全指名選手の中で不動のレギュラーとなっている選手は1人もいない。だがこれに関しては上述の通り、選手がしっかりと育つ前に一軍で起用せざるを得ない状況だったため、ドラフト戦略のミスというよりは、西武球団の状況がそうさせたと考える方が正しい。
そもそも渡辺久信GMはGM就任時に投手力を中心に守り勝つ野球を目指すと宣言している。そういう意味ではしっかりと宣言通りに投手陣をしっかりと整備したのだから、これはまさに有言実行と言うべきだろう。涌井秀章投手、岸孝之投手、牧田和久投手、菊池雄星投手らのエース級投手たちを次々と失いながらもリーグ屈指の投手陣を作り上げたのだから、これは渡辺GMの戦略が正しかった証となるはずだ。
2007年オフ、石井一久投手は「新しい友だちを作りにいってきます」と言ってスワローズを去り、ライオンズにFA移籍してきた。そしてその宣言通りライオンズで新しい友だちをたくさん作り、楽天球団のGM就任後には次々とかつてのライオンズのチームメイトたちを獲得していった。その結果「楽天ライオンズ」と揶揄されることもあったわけだが、しかし少なくともそうやって選手を呼び寄せられたのは石井GMの人脈がなせる技だ。そしてアメリカンナイズされた考え方を持つという意味では、楽天の三木谷オーナーと石井GMは馬が合うのだろう。
渡辺久信GMももし西武HDからもっとFA補強資金を与えられていれば、間違いなく常勝球団を再建できていたはずだ。確かに近藤健介選手の争奪戦には参戦したが、しかし金満球団であるソフトバンク球団を相手にして太刀打ちできる西武HDではなかった。だが今オフこそは西口文也新監督と広池浩司新球団本部長をサポートすべく、西武HDは確実にFAで日本人スラッガーを獲得できるだけのバックアップをしなければならない。渡辺GMはFA補強を一度も実現させることはできなかったが、しかし今オフに関してはFA補強をしないという選択肢はまずあり得ないと西武HDは考えるべきだろう。