2024年1月15日公開
さて、今回のコラムでは2024年ライオンズのブルペン状況を考えていきたいと思う。そしてこれについてまず気になるのは今季、一体誰が守護神を務めるのかということで、その候補は下記の通り例年になく多い。
【守護神候補】
増田達至投手、アブレイユ投手、田村伊知郎投手、豆田泰志投手、甲斐野央投手
まずは筆頭候補としては当然増田投手の名前を挙げなければならないだろう。ただしこれまでのように、よほどではなければ無条件で守護神を任せるという状況ではもうない。200セーブまで6つというところまで来ている増田投手であっても、昨季のようにコンディションに不安がある場合は開幕一軍でさえも危うくなるはずだ。
以前『名守護神たちでさえも越えられなかった35歳の壁』というコラムでも書いたとおり、これまで名守護神と呼ばれて来た誰しもが35歳の壁に阻まれて来た。増田投手も昨季が35歳のシーズンであり、まさに過去の名守護神たちと同じ運命を辿ってしまったことになる。
ただし現代では現役期間をより長くするためのトレーニング法も進化しており、現にバファローズの平野佳寿投手は増田投手よりも年上であるにもかかわらず、守護神としてバファローズを三連覇に導いている。その平野投手の姿を見ていると、ここからは増田投手が再び円熟みのある輝きを見せる時期に入ったと期待したくもなる。
続いて守護神候補として名前を上げることができるのは、アルバート・アブレイユ投手だ。年俸1億5000万円のメジャー経験者で、後藤高志オーナーの「守護神候補となる外国人選手を獲る」という号令のもと獲得された投手だ。
アブレイユ投手は昨季はヤンキースで45試合に投げている。メジャーリーガーとしての数字は決して華々しいものではないのだが、しかし日本人離れした力のあるボールを投げることができる。そのため9回を任せれば日本人打者が相手であれば、無難に守護神の仕事をこなしてくれるはずだ。
田村投手と豆田投手も虎視眈々と守護神の座を狙っており、ふたりともそこを狙いに行くことを公言している。田村投手に関しては非常にクレバーなピッチングが特徴で、球速表示以上に感じるストレートの伸びや、投球術のレベルの高さは守護神争いに加わる資格が十分にあると言える。
しかも今季はメジャー兵庫という兵庫県の中学生3年生代表チームの後輩である甲斐野央投手もライオンズに加入し、後輩に負けたくないというモチベーションもさらに高くなかったはずだ。
豆田投手にしても昨季から育成契約から支配下契約に切り替わり、山本由伸投手を参考にしたフォームで鮮烈な一軍デビューを果たした。ストレートの伸び、変化球のキレは共に抜群で、もし今季21歳の豆田投手が守護神に抜擢されることになれば、今後10年間は守護神に困ることがなくなるだろう。
そして守護神候補として最後に名前を挙げたいのが、このオフ人的補償でライオンズ入りした甲斐野央投手だ。実は松井稼頭央監督も甲斐野投手に関しては守護神候補であると明言しており、甲斐野投手の160km/hのストレートと空振りを奪れるフォークボールには大きな期待が寄せられている。
ホークスでは2022年オフに人的補償で移籍した田中正義投手が、2023年はファイターズで守護神を務めたという前例がある。そういう意味ではやはり人的補償で移籍した甲斐野投手がライオンズの守護神を務めるようになれば、これは非常に面白いニュースになるし、ホークスファンとしては歯痒い思いでいっぱいになるだろう。
そして狙って三振を奪れるというのが甲斐野投手の最大の魅力だ。甲斐野投手のデビュー戦は2019年ライオンズとの開幕戦の延長10回だったのだが、その時甲斐野投手は2イニングスを投げて山川選手・森捕手・外崎選手からの三者連続三振も含め、合計5つの三振を奪っている。その鮮烈なデビューを飾った対戦相手に今年は移籍してくることに、何か運命めいたものを感じてしまうライオンズファンも多いのではないだろうか。
続いて見ていきたいのはセットアッパー候補たちだ。ただしその候補は下記の4人だけではなく、上記守護神争いで敗れた投手たちもセットアッパー候補に加わってくることを忘れてはならない。
【セットアッパー候補】
平井克典投手、水上由伸投手、佐藤隼輔投手、ジェフリー・ヤン投手
まずセットアッパーとして今年も安定した働きを見せてくれるであろうベテランが、平井克典投手だ。平井投手はこのオフにFA宣言をしてライオンズと2年契約を結んでいる。本来であれば4年契約を結んでいたとしても不思議ではない投手なのだが、4年契約に関しては金子侑司選手の失敗例を踏まえ、2023年は平井投手にも一時的にコンディション不良が見られたということもあり、もしかしたら渡辺久信GMもやや慎重になったのかもしれない
ただし平井投手はベテラン投手に相応しいペースで起用してあげれば、年間を通して安定したパフォーマンスを見せられる投手だ。例えばいつマウンドに登るか分からないスクランブル状態にしておくのではなく、7回なら7回、8回なら8回と固定してあげて、その上で連投も極力避けるというある程度のルールを設けた上での起用となれば、平井投手もブルペンで必要以上に肩を作らなくても良くなる。
ベテラン選手の場合、どんな選手であっても体の回復力がどんどん低下していく。これはイチロー選手であっても同様で、年齢が上がれば上がるほど、スタミナを多く消耗した後の回復力が大幅に低下する。そのためベテラン選手を常時良いコンディションで起用するためには、疲労度を常時50%以下にしておくことが重要なのだ(理想的には30%以下とも言われている)。
つまりどんなに疲れていても疲労度が50%以下であれば体の回復速度が低下することもなく、平井投手はまだまだ年間を通して活躍することができる。だが逆に疲労度が50%を超えていくほど回復力が低下していき、なかなか疲労度50%以下まで戻すことができなくなる。するとコンディションもどんどん低下していき、常に疲労が残った状態で投げなければいけなくなり、パフォーマンスもどんどん低下して行ってしまう。だからこそ平井投手や増田投手といったベテラン投手は、スポーツ科学的には決して疲労度が50%を超えないように起用してあげることが重要になってくるのだ。
続いて水上由伸投手だが、2023年は2022年の疲労を上手くクリアさせることができず、前年の疲労を抱えたまま投げることになってしまった。そのため開幕から球速が130km/h台にとどまり、無失点に抑えた結果よりもその内容が良くなかったということですぐに二軍落ちしてしまった。
だが後半戦になって戻って来た時は、2022年のような勢いのあるボールをまた投げられるようになっていたため、水上投手に関してはコンディショニングさえ上手く行うことができれば、新人王を獲得した2022年のような快投を披露してくれるだろう。そして独自にメンタルトレーニング法を学んでいる水上投手の場合、どんな場面でも動じることなく冷静に投げられるため、将来的には守護神候補に入ってくることも考えられる。
貴重な左腕リリーバーである佐藤隼輔投手に関しては、昨季は指先の血行不良のような状態で一時的にコンディションを落としてしまったが、その心配がオフの治療等でもしなくなっていれば、今季もリリーバーとして安定したピッチングを披露してくれるだろう。
佐藤投手はもともと先発投手であり、ピッチャーとしては田村投手同様にクレバーなタイプだ。つまり力一杯投げて力でねじ伏せるというタイプではなく、投球術を用いて相手打者を翻弄することができるタイプということだ。言い換えると、ストレートを球速表示以上に速く見せることができ、変化球を球速表示以上に遅く感じさせることができるということだ。
佐藤投手にしても田村投手にしても、彼らの若さでその投球術をすでに身につけているというのは立派だとしか言えない。そして彼らのようにクレバーなピッチングができる投手の選手生命は得手して長くなるものだ。佐藤投手にも田村投手にも、ぜひ息の長い野球選手としてライオンズのブルペンを支え続けてもらいたい。
そして最後に名前が挙がってくるのが新外国人投手であるジェフリー・ヤン投手だ。ドミニカ出身のこの左腕リリーバーは、一部では奪三振マシンとも呼ばれるほど奪三振率が高い。投げるボールも非常に速く、左腕から投じられる豪速球とスライダーは日本人打者たちをかなり翻弄することになるだろう。
また、ヤン投手の特徴としてはとにかく陽気で、マウンド上でド派手なガッツポーズを見せることが多々ある。そのガッツポーズを良い目では見ない相手選手もいるわけだが、しかしそのド派手なガッツポーツは今季以降、ベルーナドームの一つの名物となるだろう。
まだまだ完成された投手ではなく荒削りな部分もあるわけだが、日米のストライクゾーンの違いに戸惑いを見せず、四球で自滅するようなことにならなければ、ヤン投手は必ずライオンズの日本一奪回の大きな戦力となってくれるはずだ。
ここまで書いて来たように、今季のライオンズのブルペンにはかなり大きな期待を寄せて良いと言うことができる。過去これまでは守護神に関してはほぼ増田投手一択だったわけだが、今季は増田投手も含めて少なくとも5投手が横一線で、守護神争いレースがかなり熾烈な状況になって来ている。
その守護神争いを勝ち抜いた2024年ライオンズの守護神は、間違いなくリーグを代表する守護神として名乗り出ることになるだろう。ファンとしては増田投手に名球会入りとなる250セーブを目指して欲しいとも思うわけだが、しかし日本一を奪回するためには増田投手でさえも特別扱いすることはできない。
そしてセットアッパー候補たちに加え、守護神争いで敗れた守護神レベルの投手たちがセットアッパーに加わってくれば、ライオンズのブルペン陣はリーグ屈指になるどころか、球界屈指の強さを見せつけることになるはずだ。
このオフに関しては12球団を見渡しても、ライオンズ以上に完璧に近い補強ができた球団はないように思える。そういう意味でも近年ではあまり見られなかったほど、新チームの戦力は充実して来ている。そのため仮に期待値をやや下回る結果になったとしても、間違いなく優勝争いに絡む戦いは見せてくるはずだ。
もちろん筆者はライオンズファンであるため、戦力がどんなに整っていなかったとしても「優勝争いに加わって欲しい」という趣旨のことを書く。だが今年に関してはライオンズファンじゃなかったとしても、ライオンズを優勝候補の筆頭に挙げることになるだろう。
その中でも特にブルペン陣の充実さは群を抜いているため、今季ライオンズは7〜9回にかけてセットアッパー以降の勝ちパターンの投手が出て来た場合は、滅多に失点しない試合が昨季以上に増えていくのではないだろうか。
昨季は増田投手の不調に悩まされたチームではあったが、今季は増田投手もしっかりと状態を上げて来てくれるだろうし、新戦力の顔ぶれを見ても、本当に充実したブルペン陣となってきた。そのため6回までリードを保つことができれば、今季ライオンズが逆転負けを喫することもほとんどなくなるだろう。そして強化されたそのブルペン陣の活躍により、秋には久しぶりの日本一のビールかけを楽しめるはずだ。