和田毅投手の指導で隅田知一郎投手も開幕投手に名乗り出るか?!

2024年1月16日公開

球界でもキツいと評判の和田塾に入塾した隅田知一郎投手

隅田知一郎投手

2023年オフ、隅田知一郎投手は初めてホークス和田毅投手と話をする機会があった。そこで初対面ながらも隅田投手は、このオフ和田投手の自主トレに帯同させて欲しいと願い出て、和田投手から快諾を得ていた。

そして今隅田投手は故郷長崎で、大所帯となっている和田毅投手の自主トレに参加し、和田投手の指導を仰いでいる。筆者は隅田投手がまだルーキーだった2022年のシーズン中から、隅田投手は和田投手から技術を盗むことができれば、すぐにでも一軍でしっかりとした成績を残せる投手になれると書いて来た。それが今実現していることで、3年目を迎える隅田投手に対する筆者の期待は今まで以上に大きくなって来ている。

隅田投手のルーキーイヤーは1勝10敗、そして2年目の昨季は9勝を挙げて飛躍したものの、ルーキーイヤー同様に10敗を喫している。隅田投手の場合、ここぞと言う時になかなか強い球を投げられなかったり、ウィニングショットを決めることができなかった。そのため勝負どころで痛打されてしまうケースが多かったわけだが、その弱点を克服すべく今、隅田投手は和田塾に入塾している。

和田投手の合同自主トレは非常にキツいことで有名だ。基本的には投手が集まるのだが、打者が参加した時でも投げる・打つだけではなく、ピラテスなども導入しながら体幹から鍛え上げ、体の芯から強くしていくという内容になっている。ちなみにライオンズでは髙橋光成投手が毎年オフになると、青山のスタジオを訪れてピラテスの指導を受けている。

筆者はピラテスの専門家ではないのだが、しかし仕事でプロアマ選手を指導する際にはトレーニングの一環として、ピラテスのメニューを入れていくことがよくある。ピラテスは一般的には女性向けのトレーニングと捉えられており、一部ではヨガと混同されることも多いのだが、ヨガとは似て非なるものだ。ピラテスはまさに体の芯から鍛えていくもので、その緩やかな動きの見た目以上に、やってみるとキツいトレーニングとして知られている。

隅田投手は和田投手から、もっと体幹と股関節を使って投げるように今指導を受けている。和田投手はこれを易しく「お腹とお尻」と表現しているようだが、体幹と股関節に関してはピッチングでもバッティングでもとにかく重要な部位だ。筆者も選手を指導する際は投手でも打者でも、とにかく股関節を上手く使えるように指導していく。

股関節を使えていなかった選手が股関節を使えるようになるだけでも、下半身で作り出すエネルギーの多くが上半身まで通るようになり、驚くほどパフォーマンスが良くなっていく。もちろん隅田投手の場合はレベルが高いところにある選手であるため、劇的にパフォーマンスがアップすることは考えにくい。だが勝負どころで今までは使えていなかった股関節や体幹を上手く使えるようになれば、今季はピンチで痛打されることも確実に減っていくだろう。

プロ野球の世界にもいる、楽をして活躍したいと考える三流選手

それにしても現代の野球選手は本当に心が広い。筆者のように指導する側の人間からすると、例えばライオンズのトッププレイヤーたちには他球団の選手と一緒に自主トレをしてもらいたくはない、という思いがある。なぜならライオンズのトッププレイヤーが指導することで、他球団の選手がさらにレベルアップしてしまうからだ。

もちろん切磋琢磨という意味では、ライバルがレベルアップすれば自らもレベルアップせざるを得なくなる。この相乗効果がしっかりと機能してくれれば良いのだが、技術だけ盗まれてしまうケースも多々ある。例えば誰かが他球団の選手の自主トレに参加しても、僅か一年だけでやめてしまった場合、何か技術を盗むことができたことで、翌年はまた別の選手の自主トレに参加して、別の選手の技術を盗もうとするのだ。

もちろん通常は、ほとんどすべての選手は指導してくれた他球団の選手にリスペクトを示している。例えばライオンズで言えば、中村剛也選手が2017年以降ジャイアンツの岡本和真選手と合同自主トレを行い、岡本選手を指導している。その結果岡本選手は2年連続二冠王を獲得するレベルの選手となり、2023年のWBCでも大活躍を見せてくれた。

中村剛也選手と岡本和真選手のように、しっかりと絆のある師弟関係が結ばれているのならば良いと思う。しかもそれがセ・リーグの選手ならなお良い。だが一部の選手はあちこちの自主トレに顔を出し、話を聞いたり指導を受けたりしても結果が出ない場合、翌年はすぐに別の選手と自主トレをするようなことをしている。だが結果が出ないのは指導内容のせいではなく、本人が身につくまでしっかりと繰り返し練習をしないためだ。

筆者もそのような三流選手が実際にいるということを、パ・リーグのとある選手から聞いたことがある。悪く言うと技術だけを盗んでいく恩知らずという言い方になってしまうわけだが、相手をリスペクトできないプロ野球選手も少なくないことだけは確かだと言える。

だが和田塾の場合はキツくて有名だ。そのためリスペクトのない中途半端な選手は、なかなか和田塾のようなキツいところには行かない。なぜなら彼らはできるだけ楽をして活躍できるようになりたいと考えているからだ。筆者は2010年以降プロ野球選手をサポートする仕事をしているわけだが、そのような楽をして活躍したいと考えている三流選手が、実はプロの世界でも少なくというのを時々感じて来た。

和田塾でバイオメカニクス的指導を受けている隅田知一郎投手

隅田投手自身、当然和田塾のトレーニングがキツいということは耳にしていたはずだ。だがそれでも隅田投手はためらうことなく、ようやく初対面が叶った2023年オフにその場で和田塾への入塾を直談判した。つまり隅田投手も3年目に向け、それだけの覚悟を持っているということだ。

ホークスにバイオメカニクスチームが設置されるのは2024年シーズンからなのだが、和田毅投手はまだホークス入りする前、早稲田大学時代からバイオメカニクスに触れている。

筆者もこれまで多数の早大野球部員の個人指導を行って来たわけだが、早大は学生トレーナーが活躍できる場が他校よりも多い。ただし近年に関してはスポーツ科学が発展して来たこともあり、全国的に学生トレーナーが活躍できる場が増えて来てはいる。しかし和田投手が早大でプレーしていた頃はまだ、学生トレーナーの存在はまだそれほど認知されてはいなかった。

和田投手が早大時代からコンビを組んでいるパーソナルコーチは土橋恵秀氏(馬原孝浩投手のパーソナルコーチも務めていた)という方なのだが、筆者と同学年の日本を代表するレベルの理論派コーチだ。筆者も土橋コーチの著書はすべて拝読させていただいているのだが、他のコーチとはやや違った視線で独特な理論を展開することがあるのだが、しかしその理論は確かに納得できるもので、なぜ和田投手がプロ野球選手としては比較的恵まれていない体格でも、ここまで素晴らしい活躍をできたのかがよく分かる。

和田投手は早大時代から土橋コーチの理論のもと、バイオメカニクスに触れて来た。そしてライオンズも数年前からバイオメカニクスチームの強化に力を入れており、この科学的動作改善法を導入したことにより、これまで多くの投手たちが開花して来た。打者に関してはまだ大きな変化は見られないが、底上げされた投手陣に関しては特筆する必要もないほどだ。

育成のライオンズで常勝時代を築き上げるために加わった二人のバイオメカニクスの専門家

つまり今隅田投手が受けている和田投手の指導法は、易しい言葉を用いながらも実は科学的根拠満載の理論的指導となっているのだ。経験則や、今までみんなそうしてきた、というようなまったく根拠のない指導法とはまるで異なる。ちなみに12球団には未だに野球科学を理解できないコーチがたくさんいることも書き加えておこう。

そのような科学的理論を持たないプロ野球の一部コーチたちとは異なり、和田投手の指導には必ず根拠がある。だからこそ隅田投手も和田投手に関し、「根拠がある練習というか無駄のない練習をされていて、自分でできるようになりたいと思った。いつやめられるか分からないので、現役のうち、一年一日でも早く聞いておきたかった」とコメントしている。

ちなみに隅田投手が今季目標に掲げているのは規定投球回数のクリアと、奪三振のタイトルであるようだ。昨季奪三振のタイトルを獲得した山本由伸投手は、164イニングスを投げて169個の三振を奪い、奪三振率は9.27となっている。一方隅田投手は131イニングスを投げて128三振を奪い、奪三振率は8.79となる。

隅田投手が和田投手の投球術をわずかでも盗むことができれば、今季の奪三振率は確実に9点台に乗るようになり、その上で規定投球回数を大きく上回り200イニングスにできる限り近づけていけば、奪三振のタイトルにも十分手が届くようになるだろう。そして隅田投手が奪三振のタイトルを獲得した時、ライオンズの日本一奪回もより現実的になってくるはずだ。

そして今年の秋に隅田投手がタイトルを獲得するためにも、隅田投手にはスピードガン表示にこだわるのではなく、150km/h弱のストレートをいかにして打者に速く見せるか、という打者の体感速度をより意識してトレーニングを続けてもらいたい。140km/hのストレートを打者に150km/hのように感じさせたり、100km/hのカーブをより遅い80km/hに感じさせるのが投球術というものだ。

仮に160km/hのボールを投げられたとしても、打者が155km/h程度にしか感じられないボールでは意味がない。これでは球速表示が160km/hを超えていたとしても、勝てる投手にはなれないだろう。ルーキーイヤーの隅田投手はまさにそのような状態だった。だが昨季から少しずつ投球術を磨いて来ており、このオフは球界屈指の投球術を持つ和田投手の教えを受けている。

和田投手の投球術をこの自主トレで少しでも盗み取ることができれば、隅田投手が今季開幕戦のマウンドに立っていたとしてもまったく不思議ではない。ちなみに師匠となる和田毅投手はこれまで、斉藤和巳投手、杉内俊哉投手、攝津正投手ら好投手が揃っていた時代に4回開幕投手を務めており、3勝0敗という抜群の成績を収めている。隅田投手にはぜひいつかこの和田投手の数字を追い抜いて欲しいし、実際にいつか追い抜けると筆者は確信している。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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