2020年11月 2日公開
2020年のドラフト会議、ライオンズは大学ナンバー1左腕と呼ばれた早川隆久投手を1位指名した。しかし4球団競合によるクジで敗れ、早川投手との交渉権は石井一久GM率いるイーグルスが手にした。ライオンズとしては喉から手が出るほど欲しかったサウスポーだったが、こればかりは仕方がない。
サウスポー不足のライオンズはこの20年で5人のサウスポー投手をドラフト1位で獲得した。2003年の山崎敏投手、2005年の松永弘典投手、2008年の中崎雄太投手、2009年の菊池雄星投手、そして2017年の齊藤大将投手だ。しかしこの中で大成したのは菊池雄星投手ただ1人で、齊藤投手も今季は飛躍が期待されたが、思うような活躍をできずに2軍生活が長くなっている。
ライオンズとしてはどうしても、この先何年間もローテーションを任せられる若いサウスポーが欲しいところでの早川投手の指名だった。ただ今季に関しては、2019年のドラフト2位の浜屋将太投手が期待以上のピッチングを見せてくれている。このまま順調に伸びていけば、2021年は年間を通して先発ローテーションを守れる投手になれるかもしれない。期待は大きいところだ。
その他の先発左腕の名を挙げるとノリン投手、内海哲也投手、そして榎田大樹投手ということになる。しかしノリン投手は故障により1軍ではほとんど投げておらず、おそらく契約は今季限りとなるのだろう。そして2021年の契約更改も確実となっている内海投手に関しては、復調の兆しを見せて来ている。彼にとっては怪我なく投げられているということが何よりで、コンディションさえ良ければ、もう年間を通してローテーションを守ることは難しいだろうが、谷間でしっかりと試合を作ってくれるはずだ。
榎田投手に関しては、もう少しベテランらしい投球内容が見られるようになると良いと思う。ライオンズに移籍して11勝を挙げた2018年以降は、コントロールミスにより痛打されるケースが多くなっている。球威やウィニングショットがない投手なだけに、やはり制球力が生命線となる。その制球力がもう少し安定してくれば、榎田投手ももう一度輝くことができるだろう。
さて、話が先発左腕中心になってしまったが、ここで2020年のドラフト1位、渡部健人選手の話も付け加えておきたい。ライオンズは早川投手の抽選に外れたら、渡部選手を1位指名することを最初から決めていたようだ。つまりライオンズとしては、早川投手の抽選は外してしまったが、プラン通りに上位指名できたドラフト会議だったと言える。
「おかわり3世」との呼び声も高い渡部選手だが、2021年から即1軍で活躍することは難しいだろう。もちろん将来的にはライオンズの4番を打つポテンシャルを持っていると思う。だが大学時代のバッティングを観察していくと、まだまだ手を使ってバットの上下をコントロールしているように見える。筆者の個人的な感想からすると「おかわり3世」というよりは「山川穂高2世」と呼ぶ方が現状では相応しいような気がする。
だがプロに入り、より高いレベルの技術を身に付けることができれば、1軍でホームランを30〜40本打てる選手にはなっていくだろう。ただ、176cmで112kgという体型はやや気になる。走力は50m6.3秒とのことだが、果たして年間を通して、プロの厳しい戦いの中で、渡部選手の足腰がどれだけこの体重に耐えられるか、という点を無視することはできない。
大学時代と同じ練習量では、プロでは1軍の舞台に立つことはできない。誰よりも厳しい練習を課して行かなければ、一流選手になることはできない。その厳しい練習のことを考えると、コンディションングという意味で膝への負担をもう少し減らしておいた方が渡部選手にとってはベストになるのではないかと筆者は見ている。
かと言って、スリムになれとは思わない。ライオンズもこの体型を承知で獲得しているのだから、90kgまでダイエットしろとは決して言わないだろう。だが体重が重い選手は本当に下半身を怪我しやすくなる。その中でも特に膝と足首には気をつけたいところだ。この2つの関節を使えなくなると、バイオメカニクス的には手打ちをせざるを得なくなる。そしてそうなるとプロでは当然良い成績を残すことは不可能だ。
渡部選手のバッティングフォームを観察すると、まだまだ下半身を上手に使えているとは言えない。大学野球では通用していたかもしれないが、プロ野球ではまだすぐには通用しないだろう。だがライオンズも当然慌ててはいない。山川選手がベテランになった頃に出て来てくれれば良いのでは、というくらいに考えているはずだ。
そう考えると、少なくとも2〜3年は1軍と2軍を行ったり来たりしながらレベルを上げていくことになるのだろう。大学ではファースト、サード、ショートを守っていたようだが、176cmという決して大きくはない身長を考えると、ファーストではなくサードの方が良いのではないだろうか。身長的には山川選手と同じなのだが、やはりファーストはもう少し身長が高い方が内野手としては的が広くなり、より安心して投げられるようになる。そしてフットワークが良いという前評判もあるのだから、やはり渡部選手は現状では将来の三塁手候補として育てていくのがベターだと筆者の目には映っている。
ライオンズにはかつて「細身のエース」という系譜があった。そして今は「ぽっちゃりスラッガー」の系譜が生まれつつある。渡部選手としては、中村剛也選手、山川穂高選手という最高のお手本を間近で見ることができ、本当に良いチームに選ばれたと感じているのではないだろうか。
ライオンズとしては2002年の後藤武敏選手以来の内野手のドラフト1位誕生ということになった。この20年、ライオンズのドラフト1位は投手と捕手のみだった。その中で、内野手としてドラフト1位指名されたということは、ライオンズの渡部選手への期待がそれだけ大きいということなのだろう。渡部選手はぜひその期待を一身に受け、慌てずに腕を磨き、将来はチャンスに滅法強いスラッガーとしてライオンズの4番を張ってもらいたいと思う!