2020年11月 6日公開
11月に入り、外崎選手の状態が本当に上がっている。今日の試合も、1打席目は四球、2打席目は三振だったわけだが、筆者が注目したいのは3打席目の二塁打だった。二死一塁で、一塁走者は俊足の源田選手。岸孝之投手の初球は低めに決まるチェンジアップだった。ボール球にはなったが、非常に良いボールだったと思う。いわゆる「岸チェ」と呼ばれるほとんどシュートしないチェンジアップで、非常に打ちにくいボールだ。これが仮に低めのストライクゾーンに行っていたとしても、簡単に打つことはできなかっただろう。
そして2球目、3球目は、初球チェンジアップで低めに外崎選手の意識を持っていっていたこともあり、2球続けて高めにストレートを投げ込んできた。2球目はファールとなり、3球目は内角高めのボールゾーンで、ここで源田選手が盗塁を成功させる。カウントはこれで2-1。外崎選手の状態が上がっていることは、当然岸投手の頭の中にもあったはずだ。ボール先行になったからといって、ここで不用意にストライクを取りにいくことはできない。
楽天バッテリーが選んだ4球目は外角低めいっぱいの、わずかにストライクゾーンを外れたカーブだった。これでカウントは3-1となる。この時点でイーグルスは3点リードしていたため、岸投手の頭の中には1点は仕方ないという考えもあったはずだ。そして気をつけたいのは四球によって下手に走者を溜めてしまうことだ。3点差のこの場面、下手に四球で走者を溜めてしまうよりは、しっかりと勝負をしにいって打たれてしまった方が後に引きずらずに済む。
そこでイーグルスバッテリーが選んだのは4球目のカーブ同様、外角低めへのストレートだった。これがファールとなりカウントは3-2となる。この時点で外崎選手の頭の中は次は変化球が来るという考えが強くなったはずだ。この打席、チェンジアップもカーブもしっかりと低めに決められていたからだ。配球的には、イーグルスバッテリーは4球目のカーブで仕留めたかったはずだ。外崎選手も打席でそう感じていたと思う。4球目はボールにはなったが、申し分のないコースへのカーブだった。
3-2というカウントで、恐らく外崎選手は外角へのカーブを予測したのではないだろうか。もちろんフルカウントであるため、カーブだけに的を絞ることはできないわけだが、しかし最後の球の打ち方を見る限り、カーブを予測していたようなスウィングだったように見えた。だが岸投手が投じたのは外角、やや甘い高さへのストレートだった。高さ的には中途半端なボールになり、この打席では最初の甘い球だったと思う。
外崎選手は完全にタイミングを外され、スウィングとしてはかなり振り遅れてしまった。遅いボールを待っていたところに来た142kmのストレートだったため、それも当然だろう。だが外側に意識を持っていたことが外崎選手にとっては幸運だった。タイミングはかなり振り遅れたが、外角に甘い高さのボールを投げて来てくれた。失投とまでは言えないが、最後の最後で岸投手が投げてしまった甘いボールだった。
そのストレートを外崎選手はライト線ギリギリのところへ弾き返した。もし1ヵ月前の不調時の外崎選手であれば、最後に甘い球が来ることはなかっただろう。恐らくは早いカウントで見逃したボールが甘かった、というパターンになっていたはずだ。よく「投打が噛み合う」という表現を使うが、打席でも噛み合う、噛み合わないということがある。この打席の外崎選手は、見逃したボールと振りに行ったボールが、スウィング上でしっかりと噛み合っていた。つまり見逃したボールはしっかりとボールになり、振りに行ったボールが甘く入ってくるパターンだ。打者にとってこのような形で噛み合い出すと、調子はどんどん上がっていく。
この試合、ライオンズは結果的に敗れてはしまった。しかし岸投手のピッチングが素晴らしく、2失点の完投勝利だったのだ。ライオンズが低調だったわけではなく、今夜の試合に関しては岸投手が上回っていたというだけだ。もし岸投手が6回か7回でマウンドを降りていたら、恐らくライオンズ打線は逆転していただろう。だがイーグルスの三木監督は、今はブルペン陣よりも岸投手を続投させた方が確率が高いと見たようで、結果的に35歳のベテランに123球も投げさせた。恐らく岸投手にとっては、今夜の登板が今季最終登板だったこともあるのだろう。
筆者個人としては、6回の外崎選手と岸投手の対戦は本当に見応えがあったと思う。仮に最後のストレートがあとボール1個分低ければ、結果は違っていただろう。だが外崎選手の好調さと、しっかりと噛み合ったバッティングが岸投手に最後に甘い球を投げさせてしまった。そして今夜の試合で外崎選手の11月の打率は.428まで上がってきた。
今夜の敗戦によりライオンズはマリーンズと同率2位という形に後退してしまったが、しかし外崎選手がこれだけ好調であれば、先発投手がしっかりと試合を作ることさえできれば、2位を死守できる可能性は非常に高いと思う。明日の先発は今井投手のレギュラーシーズン最終登板となるわけだが、今季は全体的に不甲斐ない内容となってしまった分、最後の先発は何としてでもCSに繋がる今季最高のピッチングを披露してもらいたい!