2024年10月26日公開
ドラフト1巡目指名を受けた齋藤大翔選手にはスケールの大きな選手になってもらいたい。例えば石毛宏典選手や、松井稼頭央選手、中島裕之選手らといったプロ野球を代表するような大型ショートストッパーへと成長していって欲しい。そして金子侑司選手が引退した今、西武球団はこのドラフト1位ルーキーに対し背番号3番や7番を与える可能性もあるのではないだろうか。
そしてこの齋藤大翔選手の入団に際し危機感を抱くであろう二人が源田壮亮主将と外崎修汰選手の不動の二遊間コンビだ。今シーズンが始まる前のライオンズでは、この二人だけが現状ではレギュラーであると松井稼頭央前監督からは評価されていた。確かにこの二人の守備力はまさに鉄壁であるわけだが、しかしバッティングに関しては「不動のレギュラー」と言えるほどの数字は残せていない。
源田主将に関しては前半戦は.200少々の打率で低空飛行が続いていたが、7月に入ると月間打率を.354まで上げ、最終的には今季通算打率を.264まで上げてシーズンを締めくくった。もちろんこれが.270、.280を超えていればもっと良かったわけだが、最低限の数字はクリアできたと言えるだろう。
それでも昨日のドラフトでライオンズは高校ナンバー1ショートストッパーを1巡目指名しており、源田主将の後継者とも目されている。さすがに高卒ルーキーの野手が1年目から源田主将からレギュラーを奪うような活躍をすることは難しいと思う。まだ線の細い齋藤選手は、まずは体づくりから始めなければならないからだ。
齋藤選手は、西口文也新監督の評価によれば守備はすでに一軍で通用するレベルであるようだ。このあたりに関してはまさに入団当初の浅村栄斗選手によく似ている。そのためここからはまずはプロで通用する怪我をしない体づくりを行い、一軍レベルの強いストレートにも力負けしないようなスウィング力を身につけていく必要がある。
そしてそのためには最低でも1シーズンは要すると思われるため、2025年シーズンは一軍デビューを果たしたとしても、トノゲンコンビのレギュラーの座を脅かすほどの活躍をすることは難しいだろう。だがもしトノゲンコンビが躓くようなことがあれば、西口監督も「仮にどちらも打てないのであれば将来性が豊かな齋藤を使おう」という判断にもなってくる。
近年のライオンズではトノゲンコンビを脅かす存在はまったく現れていない。そのため最後に.270台に打率を乗せたのが2021年の源田主将と、2019年を最後に誰もが納得する打撃成績を残せていない外崎選手が不動のレギュラーとなっている。外崎選手は昨季こそ打率.260、盗塁26までは上げてきたものの、それでも不動のレギュラーと言えるほどの成績ではないし、そもそも2020〜2022年と今季に関してはバッティングの安定感がなさすぎた。
要するにこれまでのトノゲンコンビは下からの突き上げをほとんど受けていない状態だったのだ。それが齋藤大翔選手の加入により状況は一変してくる。例えば今季の打率が.227だった外崎選手に対し、仮に齋藤選手が.240打つことができたとすれば、西口監督は齋藤選手をセカンドとして起用するだろう。このような危機感が生まれたことにより、来季の源田主将と外崎選手は目の色を変えて打力アップに取り組んでくるものと考えられる。
上述した通り、齋藤大翔選手にはスケールの大きなショートストッパーになってもらいたい。近年ライオンズに入ってきている二遊間の選手の多くは小兵タイプであり、かつての松井稼頭央選手や中島裕之選手のようなダイナミックさがほとんどなかった。
もちろん小技をしっかりと決めてくれる仕事人タイプの選手も必要ではあるが、やはり相手投手からするとホームランがほとんどない小兵タイプの選手よりも、一歩間違えばフェンスオーバーしてくる打者の方が神経を使う分スタミナの消耗も激しくなり、攻撃する側からすれば早めにマウンドから引き摺り下ろしやすくもなる。
ライオンズはとにかく今は和製大砲の育成が急がれる状況だ。齋藤選手にはホームランキングになるほどではなくとも、トリプルスリーを達成できるようなバランスの良いスター選手になってもらいたい。そして西口監督の言葉通り源田主将の後継者というよりは、源田主将からポジションを奪うような選手になってもらいたい。
齋藤選手はハズレのハズレの1位指名となった選手ではあるが、しかし結果的には将来を嘱望された素晴らしいショートストッパーを指名できたのだから、もしかしたら西口監督がクジを二度外したことは逆に良かったのではないかとも思えるほどだ。
そして今年のドラフトでは西武球団は多くのスラッガー候補を獲得した。1位指名の齋藤大翔選手のみならず、2位では大阪商業大学の渡部聖弥選手、4位では台湾出身の巨漢林冠臣選手、7位では千曲川硬式野球クラブの古賀輝希選手を指名した。
その彼らの育成を来季任されたのが田辺徳雄コーチ、鬼崎裕司コーチ、木村文紀コーチ、辻竜太郎コーチ、大島裕行コーチらの面々であり、この中でも最も大きな存在が田辺徳雄コーチの現場復帰だ。監督退任後はフロントに入っていた田辺コーチであるが、ようやくコーチとして現場に戻ってくることができた。
田辺コーチは中島裕之選手、栗山巧選手、中村剛也選手らを一本立ちさせた名伯楽であり、打撃指導に関しては誰よりも信頼できるコーチだ。本来であれば田辺コーチはずっとユニフォームを着て若手打者の育成に携わって欲しかったわけだが、しかし伊原春樹監督の尻拭いをさせられるような形で本来の役割を全うすることができなくなってしまった。
来季の一軍は立花義家コーチ、仁志敏久コーチという大物二人が指導を担当するわけだが、この大物コーチの招聘に加え、田辺コーチの現場復帰はこれは大型補強に匹敵するほどの人事だと言える。そもそも近年ライオンズでスラッガーが育っていなかったのは、田辺コーチが打撃指導から離れていたせいだったと言っても過言はない。
田辺コーチの役職は三軍野手コーチということになっているわけだが、三軍とは言わず、田辺コーチには二軍三軍両方の選手の指導に当たってもらいたい。三軍は基本的には育成選手がメインとなり、アマチュアチームとの練習試合が主なアピールの場となる。だがライオンズには一軍にいても一軍レベルには至っていない打者が非常に多い。田辺コーチにはファーム全体を見ながら、是非とも一人でも多くの和製スラッガーを育て上げてもらいたい。
齋藤大翔選手も田辺コーチの指導を徹底して受けることができれば、思った以上に早く一軍デビューを飾れるかもしれない。ちなみに中島裕之選手の場合はプロ1年目にショートにコンバートし、2年目はイースタンリーグ全試合に出場し、3年目に少し一軍に定着し始め、4年目の2004年に一軍で七番ショートとして全試合に出場し、打率.287、本塁打27本、打点90という素晴らしい活躍をし、その年の日本一に大きく貢献した。
齋藤大翔選手にはこの中島選手のような道を歩んでいってもらいたい。なお中島選手はドラフト5位指名だったこともあり背番号は56番から始まり、レギュラーとなった2004年に3番に変更された。この中島選手の系譜を辿るのであれば、齋藤選手には3番を与え、昨年まで3番を背負っていた打者が汚したこの背番号を、フレッシュでクリーンな番号へと再び昇華させてもらいたい。
齋藤選手の場合は中島選手と同じく高卒ルーキーではあるが、しかしドラフト1位ということを考えると、1年目から良い番号をもらえることは確かであるはずだ。12月中にはルーキーたちの背番号も発表されてくると思うが、この齋藤選手が果たして何番を与えられるのか、今から非常に楽しみだ。
そして現在のライオンズはかつてライオンズで主力を務めたOBやコーチたちが嘆くほど練習をしなくなっている。ライオンズは昔から12球団で最も多くの練習をこなすのが伝統となっていたわけだが、2025年からとは言わず、この秋からこの伝統を復活させなければならない。
練習量が足りていないことが今季の打力不足を招いたことは誰の目にも明らかであるため、西口監督も打撃コーチ陣も、秋季キャンプは打撃陣を徹底的にしごき上げに来るはずだ。特に黄金時代を知る田辺コーチと立花コーチは、近年のライオンズでは考えられないくらい選手たちにバットを振らせるだろう。そして若いコーチたちはそんな田辺コーチや立花コーチからスラッガーを育てる方法を学んでもらいたいし、完全な外部招聘である仁志コーチや辻コーチにもこれまでの経験を生かし、これまでライオンズにはなかった野手の育成方法をシェアしてもらいたい。
今季はピッチャーが投げる速いボールに打ち負ける場面を数え切れないほど見させられた。だがこれは他球団のピッチャーたちが他の球団相手にも常に同じように好投をし続けていたわけではなく、ライオンズ相手の時だけに続け様に好投をすることが多かった。ということはやはりこれは、ライオンズの打者陣に力がなかったとしか言いようがない。
だがそのような力負けするばかりの場面を見せるシーズンは今季が最後となるだろう。田辺コーチ、立花コーチ、仁志コーチらが徹底的に打撃陣を叩き上げることで、来季のライオンズ打線は今季とは比較できないほど強力になっているはずだ。あとは打線の軸を任せられる外国人スラッガーを上手く補強できれば、来季優勝争いに加わったとしてもまったく不思議ではない。そしてライオンズファンが求めているのは、ドラフト会議が終わってもまだライオンズの試合を楽しめる状況にある未来だ。つまり2008年以来の日本シリーズへの進出だ!