HOME > コラム (199記事) > この2年間、山川穂高選手はなぜ打てないのか?専門家が徹底解説!

2021年12月10日公開

この2年間、山川穂高選手はなぜ打てないのか?専門家が徹底解説!

山川穂高選手はなぜ打てないのか?

少しビッグマウスが過ぎるように思う山川穂高選手

松井稼頭央ヘッドコーチは山川穂高選手に対し、2022年は4番を打つつもりで準備をするようにと伝えた。これは至極当然とも言えるヘッドコーチの言葉だと思う。やはり山川選手が打ってくれないようではチームとしては困ってしまう。

だが山川選手は打率を残せるバッターではない。山川選手本人は、来季は12球団ナンバー1の4番打者になって下がった分の年俸を取り返すと公言したが、「将来的には三冠王」という言葉を使って以来、山川選手はややビッグマウスが過ぎるように筆者には感じられるのだが、読者の皆さんはいかがだろうか。

もちろんホームラン王や三冠王を目指すことは素晴らしいことであり、その高みを目指してこそのプロ野球選手だとは思う。だが山川選手の言葉には、あまり強い現実味を覚えることができないのだ。三冠王にしても、12球団ナンバー1の4番にしても、現状の山川選手の成績で簡単に口にして良い重さの言葉ではないと思う。

これが柳田悠岐選手のように、打率もホームラン数もリーグトップレベルなのであれば、三冠王を目指すと公言してもファンとして「不可能ではない」と夢を抱ける。だが今の山川選手が柳田選手や吉田正尚選手を上回れるとは思えない。「12球団ナンバー1の4番」という言葉を使って良いのは、やはり一年間4番を打ち続けた打者なのではないだろうか。

もちろん筆者だって山川選手には12球団ナンバー1の4番打者になってもらいたい。だが野球の動作改善の専門家である筆者にもし言わせてもらえるのならば、山川選手は来季も12球団ナンバー1の4番打者になることはできないだろう。

今季吉田正尚選手の得点圏打率は.400、柳田悠岐選手は今季は.298と数字を落としたが、昨季の得点圏打率は.369で、2018年には.389という得点圏打率もマークしている。一方山川選手の今季の得点圏打率は.172、2020年は.287、2019年は.261と、チャンスで精彩を欠くシーズンが3年も続いている。

山川選手は柳田選手や吉田選手を上回ることを考えるのではなく、まずは中村剛也選手を上回ることだけに集中すべきではないだろうか。柳田選手や吉田選手を越えようと思うのは、ライオンズの4番に定着した後でも遅くはない。

なぜ山川穂高選手は打てないのか?

山川選手はホームラン王になったあと、打率を上げるためにポイントを体の近くに持っていこうとした。これは柳田選手や吉田選手が実践しているステイバックという技術の一環になるわけだが、山川選手はここで大きな間違いを犯しているのだ。

ステイバックとは体重移動はせず、軸脚に体重を乗せ切って体全体で直角三角形を描きながら打つ技術で、その結果ポイントが体の近くに来るようになり、強烈なスウィング速度を維持しつつも、バッティングの正確性を飛躍的に向上させられるようになる。ちなみにステイバックの詳細については筆者が監修しているオンデマンド野球塾のバッティングコーナーにある「ステイバック特集ページ」で、詳しく解説しているので、もしご興味があればご覧になってみてください。

ポイントを体に近付けるのはステイバック特有の打ち方なのだが、山川選手は体重移動をしたままポイントを体に近付けようとしていたのだ。これがそもそもの間違いの始まりだった。

山川選手の打撃フォームにはとにかく無駄な動作が多い。例えば左足の上げ方だけを見ても、左膝を大きく曲げて、サッカーボールを蹴るような動作を入れている。これだけ左脚を大きく動かしていけば、体重を軸脚に乗せ続けようとしてもそれは難しく、その結果ステイバックで打つこともできなくなり、その状態でポイントを体に近付けようとしてもただ差し込まれるだけになってしまう。

山川選手のフォームをよく観察していただきたいのだが、頭が上下前後と色々な方向に動いているのだ。これは体重移動をしていて、フォームに無駄な動作が多い打者の大きな特徴だ。そしてこれだけ頭を大きく動かしては、打てるものも打てなくなってしまう。

今季終盤、山川選手はポイントを投手寄りに戻すことによって少し復調したようだが、これは当然の結果だろう。体重移動をしている限り、ポイントを近付けようとしてもバイオメカニクス的にはチグハグなフォームになってしまう。体重移動をするのなら、ポイントは投手寄りに置かなければ野球動作の科学的には筋が通らないのだ。

現代野球では体重移動をするウェイトシフトでは何年も続けて好成績を残し続けることはできない。毎年のようにタイトル争いに加わっている打者のほとんどが、今は皆ステイバックで打っている。

例えばジャイアンツの坂本勇人選手も駆け出しの頃はウェイトシフトだったのだが、当時の打撃コーチにウェイトシフトを教え込まれた後は、長打力を維持しつつも毎年のように安定した高打率を残せるようになった。熊澤とおるコーチの指導を受けていた浅村栄斗選手も同様だ。

つまり山川選手が12球団ナンバー1の4番打者になるためには、ムーヴィングファストボールやカッターが主流の現代野球においては、ステイバックの習得が不可欠ということになるのだ。だが山川選手はステイバックではなく、今なおポイントを前に置くウェイトシフト(体重移動をする打ち方)で打とうとしている。これでは山川選手が柳田選手や吉田選手を上回れることは、少なくとも来年に関しては可能性は低いだろう。

確かに今季の終盤では調子が良さそうにホームランを打っていたが、しかし調子が悪くなった時にも打てるかどうかが4番打者に問われる資質だ。動作改善の専門家である筆者の意見としては、山川選手は調子が良ければ打てるだろうが、調子が少しでも落ちればパタっと打てなくなりそうだ、というのが正直なところだ。

いや、もちろん打ってもらいたいのだ。山川選手には誰よりも打ってもらいたいのだが、専門家として冷静に見ていくと、悲しいかなこのような意見になってしまうのである。

中村剛也選手、栗山巧選手に技術を叩き込んだ名コーチとは?!

筆者が思うに、山川選手の最大の弱点はその器用さではないだろうか。器用さゆえに手先で上手くバットを扱うことができてしまう。そのためタイミングも下半身で取る形にはなっておらず、グリップを軽く揺らす動作でタイミングを計っているように見える。

この動作は中村剛也選手と類似していると思われた西武ファンの方もいるかもしれない。確かにグリップの動きだけを見れば中村選手と山川選手はよく似ている。だが決定的に違うのは、中村選手は実際には左足でタイミングを計っているという点だ。いや、もっと正確に言うならば、左足でタイミングを計りながら、グリップを揺らすことによって上半身のタイミングを下半身に合わせに行っているのだ。

山川選手は、中村選手のフォームを参考にしてきただけありフォームが中村選手によく似ている。だがメカニクスやモーションといった細かいところを見ていくと、実は山川選手のフォームと中村選手のフォームはまったくの別物なのだ。ちなみに筆者は雑誌で、デーブ大久保コーチに並んで中村剛也選手のバッティングメカニクスを徹底解説させてもらったことがあるのだが、中村選手は本当に理に適った打ち方をしているのだ。

なお中村剛也選手はデーブ大久保コーチの指導によって開花したと思われがちだが、実際中村選手(と栗山巧選手)に細かい動作指導をされていたのは熊澤とおるコーチだ。これに関しては以前、デーブ大久保コーチがそう仰っていた。

熊澤とおるコーチは、筆者がプロコーチとして尊敬している数少ないコーチの一人で、卓越された打撃理論は松井稼頭央選手も信頼し、MLB時代は熊澤コーチが松井選手のパーソナルコーチを務めていた。また、石井貴投手も肩を痛めると、理論派の熊澤コーチに助言を求めたと言う。そんな名コーチである熊澤コーチが、筆者が監修する『よくわかる!投球障害予防改善法-徹底解説ビデオ』を推薦してくださっているのだから、本当に感謝の思いしかない!

さて、改めて山川選手に話を戻すと、やはり山川選手に今必要なのはパーソナルコーチだと思うのだ。客観的かつ理論的に山川選手のフォームを見てくれるパーソナルコーチの存在があれば、こうも長く不振が続くこともなかったはずだ。Going My Wayで突き進むのも悪いことではないが、しかし不振が続いている以上、そろそろパーソナルコーチの力を借りるべき時だとは言えないだろうか。

山川選手の得点圏打率が.300を超えたのは78試合しか出場していない駆け出しだった頃の2017年(.353)と、初めてホームラン王となった翌2018年(.310)のみだ。その他のシーズンの得点圏打率はどれも4番打者に相応しい数字ではなかった。

とにかく山川選手が12球団ナンバー1の4番打者になるための技術的な課題は山積み状態だ。とてもじゃないが、3〜4ヵ月後の開幕戦にそれらすべてが克服されていると思えない。だから来年慌てて12球団ナンバー1の4番打者になろうとして、また力み不振を続けてしまうくらいならば、まずはリラックスしてライオンズの4番打者としての定着を目指すべきだと思う。

果たして山川選手の姿はライオンズの4番打者として相応しい姿なのだろうか?!

さて、最後になったが、筆者は山川選手の契約更改後の会見に違和感を抱いた。もしそう感じたのが筆者だけならば大変申し訳ないのだが、会見に、色は薄めとは言えサングラス(色入り眼鏡?)をかけて臨むのは果たしてありなのだろうか。屋外で太陽が眩しいのなら話は別だが、契約更改後の室内での会見でサングラスを外さないことに、筆者は違和感を覚えてしまった。

もちろんそれを格好良いと思うファンの方も多いのだろうから、これが悪いことだと言うことは筆者にはできない。しかしこの姿をメディアを通して様々な形でファンの元に届けられる。せめてネクタイくらいはもっとしっかりとした形で絞めてもよかったのではないだろうか。

筆者個人としてはややだらしなく感じてしまい、4番打者としての威厳を山川選手から感じることができなかった。もちろんファッションは人それぞれであるのだが、山川選手はもう少し子どものファンも見ているということを意識した装いも必要な気もする。

12球団で最もちびっこファンの多いライオンズの主砲なのだから、親御さんや教師が「山川選手を見習いなさい」と言われるような姿こそが、ライオンズの4番打者としての相応しい在り方ではないかと、筆者は個人的にはそんなふうに考えてしまったのである。

関連記事

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
🐦 筆者カズのTwitter(現X)