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2021年12月11日公開

かつてのカブレラ選手を彷彿させるブランドン選手の打撃フォーム

ブランドン

ブランドン選手と渡部健人選手のフォームの相違点

ライオンズはそろそろ次世代の4番打者を育成していく必要がある。メディアの上ではその急先鋒は今季ファームで二冠に輝いた渡部健人選手であるようだが、筆者はそうは考えていない。

筆者が次世代の4番打者として推したいのはブランドン選手だ。しかし現時点でのブランドン選手の数字を見ていくと、ファームでも得点圏打率は.234とチャンスでは振るわず、2軍コーチが自信を持って1軍に推薦できる数字ではなかった。にも関わらず筆者がブランドン選手を次世代の4番打者として推したい理由は、そのバッティングフォームにある。

ブランドン選手のバッティングフォームは、まだ完成度は高くないとは言え、ステイバックであると言える。ステイバックで打っているバッターは真横から見ると、インパクト時の体の形が直角三角形に見えるのが特徴なのだが、ブランドン選手はそうなっていることが多いのだ。

一方渡部健人選手はステイバックであるとは言い難く、真横から見ると二等辺三角形に見えるスウィングが多い。それはファームでホームランを打っている際のフォームでも同様だ。

ステイバックに関して詳しく説明すると膨大な時間がかかってしまうため割愛するが、もしご興味があれば筆者監修のオンデマンド野球塾のステイバック特集ページでご確認いただければ幸いです。

ブランドン選手のステイバックはまだ完成形ではないのだが、これから習熟度を上げていければ、メジャーリーガーのような完成度の高いステイバックでホームランを連発していくこともできるだろう。

ステイバックで打てるようになると、正確性を失うことなく長打力をアップさせることができる。つまり柳田悠岐選手のように、高い打率でホームランも量産できるバッターになれる可能性を、ブランドン選手は秘めているのだ。

そしてもう一点ブランドン選手と渡部健人選手とで大きく異なるのはテイクバックだ。渡部選手はグリップをあらかじめ深いところに置いておき、そこから上半身のパワーで振っていく。一方ブランドン選手は頭とグリップの距離を遠ざけながらラギングバック(いわゆる割れのこと)を上手く活用してスウィング速度を上げている。

渡部選手のようなテイクバックだと、少しでもタイミングを外されるとそこから対応し直すことができなくなる。だがブランドン選手のようなテイクバックができると、多少タイミングを外されてもそこから対応し直すことができるのだ。専門的に話すと難しくなってしまうため簡潔に言うと、泳ぎにくくなる、ということだ。

ブランドン選手のようにステイバック打法でラギングバックを上手く使えると、打つポイントを自然と体の近くに持って来れるようになり、バッティングの正確性を飛躍的に向上させることができる。

ではなぜ今季のブランドン選手はそれでも1軍ではレギュラー並みの活躍ができなかったのか?その理由はまず、ステイバックの完成度がまだプロレベルではないという点と、1軍レベルの配球に付いて行けなかったという主に2点を挙げることができる。

ステイバックに関しては、この先また1〜2年かけて習熟度を上げていけば良いと思うし、1軍レベルの配球に関しても、1軍の試合でしっかりとノートを使って各バッテリーの配球を学んでいけば、すぐに数字は上がり始めるだろう。

ブランドン選手に重なるカブレラ選手のイメージ

ファームでの成績を見ると渡部選手は90試合で打率.228(得点圏.310)、19本塁打で、ブランドン選手は66試合で打率.273(得点圏.234)、10本塁打と、打率と本塁打数の両方を見るとほとんど互角だったと言える。

だが実際のパフォーマンスで見ていくと、ブランドン選手は1軍レベルの球速や変化球にもルーキーイヤーからある程度は付いて行けてたのに対し、渡部選手はそれに付いていくことができなかった。それがブランドン選手が1軍で32試合、渡部選手が6試合という差になって表れた。

もしブランドン選手の熱中症による登録抹消や、若林楽人選手の前十字靭帯の大怪我がなければ、もしかしたらこの2人が今季のライオンズ打線を牽引していた可能性だってあっただろう。そして今季に関してはこれが「たられば」になってしまうわけだが、来季に関してはそうはならないと多くのライオンズファンが確信しているはずだ。

筆者が思い描くブランドン選手の将来像はアレックス・カブレラ選手のような姿だ。中村剛也選手のようにアオダモのバットをしならせ、ボールにバックスピンをかけて打つホームランではなく、メープルやハードメープルを金属バットのように振り抜き、無回転に近い弾丸ライナーのホームランを打つイメージだ。

今季ブランドン選手がどのようなバットを使っていたのかは分からない。だが打者としてのタイプを見るとアオダモやバーチ、ホワイトアッシュではなく、メープルやハードメイプルが合っているように見える。

ちなみにアレックス・カブレラ選手ももちろんステイバックで打っていたため、高い打率でホームランを量産することができた。そして当時まだ日本にはほとんど入って来ていなかったステイバックという技術を、カブレラ選手のフォームの中でブラッシュアップしていったのが金森栄治コーチだった。ちなみに金森コーチは来季2022年はイーグルスの育成打撃コーチを務めるようだ。

金森コーチは2001〜2002年、つまり今から20年前にライオンズの打撃コーチを務めていたのだが、2002年オフに金森コーチがライオンズを去ることになった時、金森コーチを慕っていたカブレラ選手がその退団に大反対をしたというエピソードが残っている。

渡部選手よりも四球が多く、長打率が高いブランドン選手

ブランドン選手はカブレラ選手のようなスラッガーになれる資質を持っていると筆者は見ている。もちろんカブレラ選手のように55本もホームランを打つことは並大抵のことではないわけだが、しかし3割40本というラインを越えていくことはできるバッターだと思う。

その根拠が上述したステイバックとテイクバックの形にあるわけだが、来季のブランドン選手はもしかしたら開幕サードの座を射止めるのではないだろうか。中村剛也選手をDHに追いやるだけの能力がブランドン選手には備わっていると思う。

1年目はただ我武者羅にプレーをしていたブランドン選手だったと思うが、2年目はプロの水にも慣れ、もっと泰然と落ち着いたプレーを見せられるようになるのではないだろうか。

そして今季は一時消極的なスウィングを見せたこともあったブランドン選手だが、これは選球眼の良さが仇となってしまった結果だと言える。ブランドン選手はボールをよく見ることができるバッターで、ファームでは247打席立ち22四球(8.9%)だった。ちなみに渡部選手はファームで347打席立ち27四球(7.7%)だった。

消極的になっていた時のブランドン選手はファーストストライクを見逃したりミスショットし、カウントを悪くしてからウィニングショットで簡単い打ち取られるケースが多かった。だが来季は同じ失敗はしないだろう。ファーストストライクを積極的に振っていき、空振りをした時でさえ、バッテリーを恐れさせるような見事な空振りを見せてくれるはずだ。

ブランドン選手本人は現在は打率にこだわっているようだが、しかし来季は1軍でたくさんのホームランを見せてくれるはずだ。今季ファームでの長打率を見ても、渡部選手の.466に対し、ブランドン選手は.481だった。ブランドン選手にはこの長打率を、高い打率を維持しながら.600、.700というカブレラ選手のレベルに少しずつ近付けていってもらいたい。

そう遠くはないであろうドラフト6位が1位を上回る日

ライオンズには体重と長打力を直結させて考えているバッターが二人いる。山川穂高選手と渡部健人選手だ。中村剛也選手は違う。編成部の潮崎哲也ディレクターが「だんご三兄弟」と呼ぶこの三人だが、中村選手に関しては筋の通った技術が身に付いている打者で、仮に細身だったとしてもホームランを打つことができただろう。

ブランドン選手には体重ではなく、中村選手やカブレラ選手のように技術でホームランを打つバッターになってもらいたい。そしてカブレラ選手にとっての金森コーチのように、中村選手にとっての熊澤コーチのように、ブランドン選手も確かな理論を持っているコーチの指導を仰いで欲しい。

ステイバックに関しては栗山巧選手や中村剛也選手に教わることもできるだろう。この二人のベテランは熊澤コーチやデーブ大久保コーチという理論派コーチたちの指導を受けているため、バッティングフォームを分解して見ていってもそのフォームが本当に理に適っていて美しい。ブランドン選手も将来的には、このベテラン二人のフォームのような、アートレベルのアーチストになっていってもらいたい。

さて、今回の記事では渡部選手よりもブランドン選手の方が上である、という流れで書いて来たが、しかしこれは渡部選手がブランドン選手に及ばないという意味ではない。ブランドン選手という同期が1軍で活躍することで、渡部選手も1軍で活躍するためには何が必要なのかを知るようになるはずだ。

そしてこの同期二人がライバル関係となり、1軍で競演するようになれば、近い将来訪れる打線の世代交代もスムーズに進んでいくはずだ。渡辺久信GMも、きっとそこまで将来をイメージしながら2020年は野手を多めにドラフト指名したのだろう。

いずれにしても2月1日には、ブランドン選手は一回りも二回りもレベルアップして春季キャンプに臨むはずだ。2020年のドラフト6位のブランドン選手が、同1位の渡部選手を凌ぐ活躍を見せるというのも、プロ野球の醍醐味だと思う。

ブランドン選手にはドラフト1位だった渡部選手よりも多くの生涯年俸を稼ぐ選手になってもらいたい。そして渡部千sにゅにも追い抜かれないように頑張ってもらいたい。このオフの契約更改では渡部選手は現状維持の推定1,600万円、ブランドン選手は200万円アップの推定900万円だった。1年後にこれが逆転していたとしたら、ドラフト戦略というのは本当に面白いものだと、我々ファンは改めて実感することになるのだろう。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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