2023年12月23日公開
横浜高校の系譜がまた繋がった。ライオンズではこれまで松坂大輔投手、涌井秀章投手という偉大な投手たちが横浜高校出身として活躍してきた。そして打者では後藤武敏選手という素晴らしい選手もいた。そしてここにまた、杉山遥希投手という横浜高校出身の左腕が加わった。
杉山投手は東京都江戸川区出身で、小学生時代は篠崎アトムズでプレーをしながらジャイアンツジュニアにも選ばれていた。きっとアトムズ時代は江戸川河川敷や篠崎公園、学校の校庭などで週末になると練習に励んでいたのだろう。筆者も江戸川区のまさにこのあたりで生まれ育ったため、アトムズの試合を通りすがりに観戦したこともよくあった。
もちろんその頃の杉山投手のことはまったく知らないし、素晴らしい左腕がいたという記憶も残ってはいない。だが杉山投手はもちろん、中村祐太投手のように筆者と同じく江戸川区出身となると、それだけで無条件で応援したくなるのは日本人特有の人情なのかもしれない。
杉山投手は中学生になると東京の名門、城東ボーイズでプレーするようになり、横浜高校に進学すると一年生からエースとして投げ始めた。筆者の頭の中には、一年生エースとして投げていたこの辺りくらいからの杉山投手に関する記憶が残っている。
杉山投手は一年生、二年生の時にエースとして甲子園に出場しているが、残念ながら三年生の夏は神奈川大会の決勝で慶應高校に敗れて、三年連続での甲子園出場は叶わなかった。ちなみにこの時敗れた相手、慶應高校はこの夏の甲子園で優勝している。
杉山投手を担当されたスカウト竹下潤氏の仰る通り、もし三年生の時も甲子園に出場していたら、杉山投手は3巡目まで残っていることはなかっただろう。もし三年生の時にも甲子園に出場していたら大活躍を見せていたはずで、そうなっていればドラフト1位候補となっていたはずだ。
杉山投手は横浜高校の系譜を辿るだけではなく、ライオンズの左腕エースの系譜も辿ることになった。ライオンズから与えられたのは、黄金時代の左腕エース工藤公康投手が背負った栄光の背番号47だった。
ちなみに工藤公康投手、松坂大輔投手、涌井秀章投手はいずれもプロ1年目で初勝利を挙げている。杉山投手も彼らの系譜を辿っていくのであれば、やはり2024年にプロ初勝利を挙げることになるだろう。
3人のレジェンドの中でプロ1年目からローテーションを守ったのは怪物松坂大輔投手だけだ。工藤投手と涌井投手の1年目はいずれも1勝で終えている。工藤投手の場合は1年目からリリーフで27試合に登板し、4年目から先発を任されるようになり8勝を挙げ、5年目で初めて二桁勝利(11勝)を記録した。
一方涌井投手は1年目から先発として1勝を挙げ、2年目には12勝、3年目には17勝を挙げてすでに最多勝を獲得している。松坂投手に関してはプロ1年目から3年連続で最多勝を獲得しており、この実績はほとんど異次元で比較することは難しい。
そう考えると杉山投手がまず目指したいのはとにかくプロ1年目での初勝利だ。そして2年目から主戦投手としてローテーションに加わり、二桁勝利を目指してもらいたい。高卒2年目での二桁勝利などとても簡単にクリアできることではないが、しかし杉山投手のポテンシャルの高さを見れば、まったく不可能な目標とは言い切れない。
杉山投手のピッチングの特徴としては、まず高校時代の最速は147km/hであり、ストレートは常時140km/h台中盤あたりが出ている。そして得意とする球種はチェンジアップで、ストレート同様に鋭く振られる腕から投じられるこのチェンジアップは、打者としてはなかなか見極めが難しいのではないだろうか。杉山投手自身、このチェンジアップにはかなり自信を持っているようだし、映像を見てもこのチェンジアップは十分プロでも通用するレベルだ。
その他スタイダーとカーブを投げるわけだが、ここにもう一つ、左打者を詰まらせるためのツーシームを投げられるようになると、ピッチングはかなり楽になっていくだろう。もし1年目に時間をかけてツーシームをマスターできれば、プロ2年目で涌井秀章投手のように二桁勝利を挙げられる可能性はかなり高くなると言える。
怪我さえなければ杉山投手はかなり早い段階で一軍で活躍するようになるだろう。そのために必要な強靭な体に関しても、現在181cm/82kgまで体が大きくなってきている。ウェイトトレーニングにも力を入れているとのことだがそれだけではなく、ラプソードを使ってパフォーマンスを見ながら体づくりを行なっているようだ。
そういう意味ではただ体を大きくするだけではなく、しっかりとパフォーマンスとのバランスを考えながらウェイトトレーニングをしているようなので、体を大きくしすぎてその重さに下半身が負けてしまい、怪我が多くなるという心配はなさそうだ。
これでライオンズ期待の先発左腕は隅田知一郎投手、武内夏暉投手、杉山遥希投手の3人となった。彼らが今後期待通りの活躍を見せてくれれば、ライオンズは近い将来左腕王国を築き上げることになるだろう。
一時は本当に先発左腕不足に苦しんだライオンズだったが、今では他球団も羨むような先発左腕トリオを結成するまでに至った。近い将来ライオンズは髙橋光成投手と平良海馬投手がメジャー移籍を目指しチームを去ることが見込まれているが、今オフ武内投手、そして杉山投手が加入したことにより、髙橋・平良両投手がライオンズを去ることになっても、まったく不安が感じられないようなチームになってきた。
ライオンズは今オフ、ドラフトでも外国人補強でもほとんど満点に近い補強を行うことができた。愛斗選手と呉念庭選手の退団はとても残念ではあったが、しかしそれを補って余り得るだけの補強を渡辺久信GMは成功させた。そして筆者は今思う。どうやらライオンズの夜明けは近いようだ、と。