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2023年12月24日公開

ソフトバンクの美しくない思惑に翻弄される埼玉西武ライオンズ

ソフトバンク球団が西武球団に対し仕掛ける牛歩戦術

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ライオンズは今、ソフトバンクの"美しくない思惑"に翻弄されているように見える。ホークスでは小久保新監督が「美しい野球を目指す」と宣言しているように、クリーンさと美意識を持ったチーム作りをすると思われていたが、実際はそうではないようだ。

渡辺久信GMのコメントを追っていても、ソフトバンク球団と山川選手に対しては常々困惑しているといった言葉を残している。だが渡辺久信GMには、ソフトバンク球団と山川選手のやり方には決して翻弄されて欲しくない。

どう翻弄されているかというと、まずは山川選手が稚拙な文章を添えてFA宣言したのが2023年11月14日の17時過ぎだった。11月14日というのは今年のFA申請書提出の締め切り日であり、山川選手は弁護士を介してわざわざ締め切り日の業務終了時間の終わりにFA申請書を提出してきた。

締め切り日の業務終了時間になってもFA申請書が届かなかったことから、「山川はどうやらFA宣言しないようだ」と考えた球団職員もいたはずだ。だが球団職員が帰路に就こうとした頃になり、不意打ちするかのように山川選手の弁護士がFA申請書を携え球団事務所を訪れた。まずこのような節操のないやり方に、業務終了時間を迎えた西武球団は大慌てでの対応を強いられることになった。

そして山川選手のFA宣言後、ソフトバンク球団は独自の調査をした上で山川選手の獲得を検討すると言ったきり、そこからほとんど1ヵ月間何も動きを見せず、正式にソフトバンク球団が山川選手の獲得を発表したのは12月18日という年の瀬になってからだった。

この1ヵ月間という時間は、決して調査のためだけの時間ではなかったはずだ。山川選手が起こした性暴行事件の詳細など、担当弁護士に問い合わせればすぐに調書を確認することができるし、そもそもソフトバンク球団が独自調査したところで違う結果が出てくるわけではない。

もちろんファンの反応を伺うリサーチなどもしたとは思うが、こんなリサーチはせいぜい一週間で終えられるだろうし、二週間かかることなんてまず考えられない。このような調査に今時二週間以上もかけるのはITに疎い昔ながらの中小零細企業だけで、ソフトバンクのような世界を代表するIT企業がこの程度のリサーチに長時間費やすはずはない。しかもソフトバンクは今やユーザー数9500万人を誇るLINEも傘下に収めているのだから、リサーチなど数日で十分な結果を得られるはずだ。

それでもソフトバンク球団は山川選手がFA宣言して以来、獲得を公表するまで5週間近くを要している。これはもはや時間稼ぎとしか考えられず、一部の政治家が国会で行なっている牛歩戦術と同じく低レベルの、相手球団に対しまったく敬意を示さないやり方だとしか言えない。

プロテクトリストから漏れそうな武田翔太投手と板東湧梧投手

では一体ソフトバンク球団は何のために時間稼ぎをしているのかと言うと、それはできる限り人的補償で選手を奪われないようにするための時間稼ぎだと考えられる。

多くのスポーツ紙や専門家が予測しているように、ソフトバンクのプロテクトリストからは一部の有力選手や、将来有望の選手が漏れる可能性が非常に高い。これは4軍まで持つ大所帯の宿命とも言えるだろう。

例えば報道でよく耳にする名前は、武田翔太投手と板東湧梧投手の名前だ。武田投手に関しては来季は年俸1億5000万円という先発もリリーフもこなせる実力派投手であり、年齢も来季31歳でまだまだ老け込むほどではない。だがこの高額年俸と便利屋という立場が釣り合っていないと見られることで、リストから漏れる可能性が高いと言われている。

もう一人の板東投手はホークスの中では最も女性人気が高い選手だと言われており、プロ2年目以降からは先発・リリーフで着実に実績を残してきている来季29歳の成長著しい投手だ。だがホークスの28人のプロテクトリストの中に名前を入れられるかと言えば、当落線上で微妙な立場だと言える。

ソフトバンク球団からすると、女性人気の高い板東選手を、女性の敵である山川選手の人的補償として失うことになれば、かなり多くの鷹ガールを失うことになる。ちなみに鷹ガールデーになると観客の75%が女性になるらしく、この多くの鷹ガールたちを敵に回すことは、ソフトバンク球団としては何としても避けたいところで、そのためにも板東投手の流出は何としても防ぎたいのだろう。

そして武田投手を失うことになれば今度は玄人肌のホークスファンを敵に回すことになり、武田投手を失ってまで山川選手を獲得する必要などなかったという声が増えることが考えられる。なにせ武田投手は通算12年間もホークス一筋で頑張ってきた功労者であり、年季の入った武田翔太ファンが非常に多い。その武田ファンを敵に回すこともホークスとしては避けたいはずだ。

さて、そもそも王貞治会長は性暴行事件を起こしたのちの山川選手の獲得には完全に拒否反応を示していた。だが王会長が翻意したということなのだろうか、それとも王会長の意見はただの意見でしかなかったのだろうか。そして孫正義オーナーは山川選手の獲得に関してはどう捉えているのだろう。

孫オーナーは「金は出すけど口は出さない」というスタンスのオーナーではあるが、さすがにコンプライアンスを無碍にするような人物ではないはずだ。だが優勝から遠ざかり始めているチーム状況を踏まえると、背に腹はかえられぬということなのだろうか。

人的補償で選手を失わないように時間稼ぎをするソフトバンク球団

さて、上述の時間稼ぎが何のための時間稼ぎかと言うと、人的補償の獲得には時間制限が伴っており、その時間をギリギリまで使って人的補償による選手の流出を防ぐという、姑息な手段のことだ。

ソフトバンク球団は山川選手の獲得を公表した時点から二週間以内にプロテクトリストを西武球団に提出しなければならない。そして渡辺久信GMは、キャンプ直前になって移籍させるのはホークスの選手が可哀想というスタンスを持っている。

渡辺久信GMのその人情味溢れるスタンスを悪用し、まずソフトバンク球団は、山川選手と合意に至ってからそれを公表するまでにも4〜5日かけている。山川選手の獲得を公表したのは12月18日であって、ここから二週間ということになると、日付はちょうど元旦1月1日になる。

だが仮に1月1日に西武球団側にリストを送付したとしても、西武球団が始業するのは1月4日か5日になるはずだ。するとそれだけで西武球団は考慮する時間を4〜5日失うことになる。

そして西武球団が人的補償を選んで、その選手の獲得手続きを完了するための時間は、ソフトバンク球団が山川選手の獲得を公表してから40日以内と定められている。12月18日から40日を数えていくと、2024年2月2日がその期限となる。

だが2月2日と言えば、西武球団を除く11球団はすでにキャンプインしており、人的補償の手続きに時間を割いている場合ではない。だからこそ渡辺久信GMも、キャンプ直前まで時間を使うことには否定的な姿勢を示している。

ソフトバンク球団は、山川選手の獲得を決めるまでに1ヵ月も要している。山川選手を獲得する可能性があったのであれば、もうこの時点でリストの作成は確実に進んでいるはずであり、それをなかなか西武球団側に提出しないというのは、やはり時間稼ぎ以外の何物でもない。

これがまだ11月中という、来季に向けた補強も過程の段階であれば話も変わる。ソフトバンク球団も山川選手を獲得するかしないかにより、外国人選手獲得の方針も変わってくるだろうし、それによりプロテクトリストの作成がギリギリになることも仕方ないと思う。だがそうなったとしても話が11月中であれば、遅くとも年明け早々には人的補償の手続きは完了させることができる。

しかしソフトバンク球団が山川選手の獲得を発表したのは、争奪戦だったわけでもないのに関わらず年の瀬の12月18日で、各球団、もう補強もほぼ完了という段階を迎えており、ソフトバンク球団としても不確定要素はかなり減っていたはずだ。それでもソフトバンク球団はこのコラムを書いている時点で、今なおリストを西武球団には送付していない。
※ 2023年12月25日、プロテクトリストはEメールで西武球団に送付された(追記)

ソフトバンク球団がすべての決断を後回しにしている思惑とは?

「山川選手は獲得するが、他の選手を人的補償で失いたくない」というのがソフトバンク球団の思惑だろう。そのためにFA宣言から獲得までに1ヵ月を費やし、獲得発表後も速やかに西武球団側にリストを送ってこない。

そしてキャンプインまで日にちが迫れば迫るほど西武球団としては人的補償を選びにくくなり、結局金銭補償のみになる可能性が生じてくる。だが西武球団はここでソフトバンク球団の術中にはまってはいけない。仮に期限ギリギリになったとしても、絶対にソフトバンク球団から選手を獲得し、少しでもソフトバンクの戦力を削がなければならない。

特に先発もできる実力派、もしくは人気者がリストから漏れていたとしたら、これはもう間違いなく獲得しなければならない。仮に武田投手や板東投手を獲得できれば、ライオンズにとっては非常に大きな戦力になるだけではなく、ホークスにとっては大きな痛手となるのだから。

ソフトバンク球団の資金は潤沢だ。そのため金銭補償で失う数億円など痛くも痒くもない。だが選手を失うとなれば話は別だ。仮に武田投手を獲得できたとすれば、西武球団が今オフ山川選手に提示した金額は1億円数千万円程度だったと言われているため、推定年俸1億5000万円の武田投手を獲得できれば、これはFA流出ではなくトレード同然という結果に持っていくことができる。

近年の西武球団は、もちろんソフトバンク球団ほどの予算を持っているわけではないが、親会社の上場が廃止されていた頃と比べると、現在の球団予算はかなり潤ってきている。少なくとも下手な予算削減が必要な状況ではないことだけは確かだ(一部の評論家はライオンズのキャンプ開始が5日遅いことを予算削減だと声高に批判しているが)

だからこそ金銭補償だけではなく、ホークスの力を削ぐという意味でも、人的補償では戦力として最も大きな存在をしっかりと獲得していくべきなのだ。そして来季ライオンズは確実にホークスを上回る戦いをし、リーグ制覇と日本一を達成しなければならない。そしてライオンズファンの多くが思うことになるのだろう、「山川選手がホークスに行ってくれたおかげで日本一になれた」と。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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