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2024年1月24日公開

【人的補償を考える】選手会もNPBもファンの知恵をもっと借りるべき

人的補償制度がFA制度の足枷となっている

人的補償問題を考える

このオフ、西武球団はホークスにFA移籍した山川選手の人的補償として和田毅投手を指名した。だがそれを受け和田投手が引退すると言い始めてしまったため、ソフトバンク球団は急遽西武球団に泣きつく形で再指名を要望し、最終的には甲斐野央投手がライオンズに移籍することになった。

大問題となったこの出来事をきっかけに、プロ野球選手会は今、今まで以上に人的補償の撤廃を声高に叫び始めた。筆者個人としても最終的には人的補償制度はなくなるのが望ましいと考えているが、しかし選手会が求めるように今すぐ撤廃するとなると、ハードルはかなり高いのではないだろうか。

やはり日本の場合問題となっているのが、FA制度そのものがまったく活発になっていないという点だ。そのためFAで主力選手が他球団に移籍してしまった場合、補償金を受け取れたとしてもFA市場に選手が残っていない可能性が非常に高い。

そうなると外国人選手に頼るしかなくなるわけだが、残念ながらベンチ入りできる外国人選手は4人までと制限されている。つまり外国人選手枠に余裕を持たない球団の場合、FAで主力選手を失うと戦力を失いっぱなしになってしまい、その穴を埋めることができないのだ。

筆者はこの問題点を解決する案が出て来ない限りは、人的補償制度を早急に撤廃すべきではないと考えている。ただし繰り返すが、最終的には人的補償制度はなくなることが望ましい。

現時点のFA制度ではFAで選手を失った場合、移籍先の球団からは人的補償か金銭補償、もしくはその両方という3つの選択肢しかない。この選択肢が少な過ぎることが第一の問題点だとも言える。もしここでメジャーリーグのようにドラフト指名権を譲渡できる制度が誕生すれば、人的補償制度も撤廃しやすくなるだろう。

例えば今回西武球団は山川選手をFAで失ったわけだが、その補償として2024年ドラフト会議で、ソフトバンク球団のドラフト1位指名権を譲り受けるのだ。つまりそうなると、ライオンズは同一のドラフト会議で、ドラフト1位を2人獲得できることになる。

これがFAランクAの選手ならドラフト1位の指名権、ランクBならドラフト2位の指名権、ランクCであればドラフト3位の指名権を補償として受けられる制度にすれば、FA市場も今まで以上に活性化されることが考えられる。

なぜなら「自分がFA移籍することによって、他の誰かが人的補償の犠牲になるくらいならFA宣言したくない」と考えている選手が少なくないからだ。つまり人的補償制度がFA制度の足枷になっていることは疑いようがない。

選手会も人的補償の撤廃をただ要求するだけではいけない

ちなみにメジャーリーグの場合、外国人選手枠というものが存在しない。日本のプロ野球では、日本のドラフト会議を経て入団した日本国籍もしくは在留資格を持つ選手以外の場合、ベンチ入りできる人数は投打2人ずつの4人までと制限されている。

しかしメジャーリーグの場合はそもそも「外国人」という概念が薄い。メジャーリーガーたちの国籍を見ていってもアメリカ、カナダ、ドミニカ、キューバ、ベネズエラ、イタリア、日本、韓国などなど、国籍は多岐にわたる。そのためFA移籍で主力選手を失ったとしても、どこかから必ずその穴を埋める選手を連れてくることができるのだ。

日本のプロ野球が本気でメジャーリーグと対峙していきたいと考えているならば、まずは外国人選手枠を緩和するべきだろう。これに関してもいきなり撤廃となると様々な障害や問題が出てくるため、例えば現在投打2人ずつの最大4人というベンチ入り人数を、投打3人の最大6人に増やすだけでも、人的補償制度は撤廃させやすくなるはずだ。

ちなみに選手会はこの人的補償をすぐにでも撤廃して欲しいと要求しているわけだが、しかしただ要求するだけではなく、その解決案も提示しながら撤廃を要求すべきではないだろうか。ただ撤廃を要求するだけでは、それは国会における野党の野次とほとんど同レベルとなってしまう。

ここまで報道で伝えられていることだけで判断をすると、選手会はまず人的補償制度の撤廃を要求しており、人的補償を継続した場合でもプロテクトリストの透明性や、違反をした際の罰則に関しては言及している。だが人的補償を撤廃した際の代案に関しては、あまり具体的な言葉は聞こえて来ない。

もちろん筆者はジャーナリストではなくプロコーチであるため、すべての報道をチェックしているわけではない。そのため筆者が聞き漏らしていることも多々あるとは思うが、しかし選手会も撤廃を強く要求するのであれば、その代案や解決法も同時にファンの耳にしっかり届くようにアウトプットしていくべきだろう。

筆者が考える人的補償撤廃に対する代案

筆者が考える人的補償撤廃時の代案として、いくつか例を挙げておきたいと思う。
(1) ドラフト指名権の譲渡。FAランクAの場合は1位指名権、Bの場合は2位指名権を譲渡する。
(2) FAで選手を失った場合、1〜2年限定でその球団の外国人選手枠を緩和する。
(3) ホーム球場3連戦の開催権を譲渡する。
(4) 3連戦の先攻後攻の選択権を与える。
(5) FAで選手を失った場合、1〜2年限定で支配下選手枠の人数を1つ増やす。
(6) FAで選手を獲得した場合、1〜2年限定で支配下選手枠の人数を1つ減らす。
(7) FA権を獲得した選手は自動的にFAとし、FA市場そのものを活性化させる。
(8) メジャーのようにぜいたく税を導入する。ただしそこで得た金銭は使わなかった分は返還し、使った分の用途はファンにも公開する。

などなど、数分考えただけでもこれだけの案を素人でも出すことができる。それならばこの問題を専門的に考えている選手会やNPBであれば、時間と労力を使うことでもっと良い案をたくさん出して来られるはずだ。だがそれをせずに「撤廃しろ」「撤廃しない」をぶつけるだけになっているから、いつまで経っても問題が解決しないままになっている。

NPBも選手会も国会を反面教師として利用し、もっと建設的にお互い歩み寄るアイディアを出していくべきではないだろうか。自分たちの要求を突きつけるだけでは、それは玩具屋さんの前で駄々をこねる5歳児となんら変わりない。

そして選手会も「起こるべくして起こった」などと当たり前のことを後出しジャンケンのように言っていないで、具体的にどうすれば同じことが起こらなくなるのかということを、もっとNPB側にプレゼンして説得していくべきだろう。そしてその話し合いは密室で行うのではなく、ファンの意見も反映していくべきだと思う。

一流と呼ばれる人は、「素人のように考えて、プロとして行動する」とよく言われている。この人的補償問題を解決していくためにも、ある意味この問題に関しては素人ではあるが、誰よりもプロ野球を愛しているファンの知恵も借りていくことにより、早急な解決へと向かっていくのではないだろうか。ファンが素人として考え、選手会やNPBがプロとして行動すれば、問題ももっとスピード感を持って解決されるのではないだろうか。

彼らは常々「ファンあってのプロ野球」と口にしている。だがこのように何か問題が発生すると、いつもファンが置き去りにされているような印象を受けている野球ファンは、果たして筆者だけなのだろうか。いや、きっとそんなことはないと思う。多くのプロ野球ファンが同じように感じていると思う。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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