和田毅投手・甲斐野央投手のような被害者を二度と出さないための解決方法とは?

2024年1月13日公開

人的補償制度を撤廃できない日本プロ野球界のもどかしさ

和田毅投手

日本プロ野球もそろそろFA制度を見直す時期に来ているのではないだろうか。このオフ、ライオンズからは性暴行という不祥事を起こし公式戦出場停止処分中だった山川穂高選手がFAでホークスに移籍したわけだが、その人的補償においてまた大きな問題が引き起こされた。

ソフトバンク球団は2023年も年末ギリギリのところになってからようやくプロテクトリストを西武球団に送り、そこから年末年始の休みを挟み、西武球団は2週間程度で人的補償として指名する選手をソフトバンク球団に伝えた。その選手はもうすでに多く報道されている通りホークスの大功労者、和田毅投手だった。

だが性暴行事件を起こしている山川選手を獲得し、同時に人格者で抜群の人気を誇る和田毅投手を放出ということに対し、多くのホークスファンがソフトバンク球団にクレームを入れた。そしてそのクレームの数は尋常ではなかったらしい。そこで慌てたソフトバンク球団が西武球団に泣きつき、人的補償選手を和田毅投手から甲斐野央投手に変更してもらうという、悪しき前例を作ってしまった。

このような前例が生まれてしまったことにより、今後他球団が人的補償選手を指名した際、人的補償を出す側の球団が「ソフトバンク・西武間ではこのような前例がある」と言い出し、人選の再考を促す事例が今後再び出て来ないとも限らない。そういう意味でソフトバンク球団は今回、本当にお粗末な対応をしたとしか言いようがない。

この人的補償制度に関しては、プロ野球選手会は撤廃を強く望んでいる。筆者個人としてもこの制度はないに越したことはないというスタンスだが、しかしNPBの現状を考えると、人的補償の早急な撤廃は難しいのではないだろうか。

現状、NPBではFA制度がほとんど機能していないと言える。これは人的補償制度があるから、と言うこともできるわけだが、FA市場に出る選手の人数があまりにも少なく、毎年数人程度なのである。この状況ではFAで選手を失った側の球団は、人的補償制度がなければ日本人選手枠の選手をただ失うだけにになり、最悪の場合2軍の試合運営さえ難しくなるケースも出てくるだろう。

実際埼玉西武ライオンズでも特にコロナ禍以降は、選手が足りずに2軍の試合が中止になるということもあった。この1〜2年に関してはコロナ禍の影響はほぼなくなったと言えるわけだが、それでも埼玉西武ライオンズではアマチュア球団、もしくは独立リーグとの練習試合に関しては何試合も中止されている。

過去のライオンズのようにFAで毎年のように選手を失ってしまう球団の場合、やはり現状では人的補償制度がないと球団運営そのものが苦しくなるため、いくら選手会が強く撤廃を求めたとしても、近々で人的補償制度が撤廃されることはまずないだろう。

人的補償・金銭補償以外にも増やす必要があるオプション

FAによる人的補償制度に関しては、他のオプションを増やすことである程度の解決は望めるのではないだろうか。例えばメジャーリーグの場合、トレードの対象としてドラフト指名権を利用することができる。つまり選手を他球団から獲得する代わりに、ドラフト指名権をその相手球団に譲渡するというものだ。

これはNPBでも早急に導入すべきだと思う。今回の場合山川選手がホークスに移籍した補償として、ソフトバンク球団が西武球団に対し2024年のドラフト1位指名権を譲渡したとすれば、和田毅投手も甲斐野央投手も、誰も傷付かずに済んだ。

ちなみに和田毅投手に対しては、報道された前日にはすでにソフトバンク球団から人的補償で指名された旨が通達されていたはずだ。なぜなら人的補償での移籍を報道で知らせることほどを選手を傷つけることはないからだ。そのため和田投手自身、西武球団に移籍する覚悟はある程度固めていたと思うし、一方ではプロテクトされなかったことでプライドはかなり傷付けられたはずだ。

だが一転、その翌日には自身ではなく甲斐野投手がライオンズに移籍することになってしまった。それを知り果たして和田投手はどう感じただろうか。もはやソフトバンク球団に対する不信感が募るばかりではなかっただろうか。そして自分の身代わりとして移籍していく甲斐野投手に対しては、本当に居た堪れない心境であるはずだ。

このような被害者とも呼べるような選手たちを再び生み出さないためにも、やはりドラフト指名権の譲渡や、ホーム球場での開催権の譲渡、さらには1〜2年限定で外国人選手のベンチ入り登録枠を1つ増やせる権利や外国人選手枠そのものの撤廃など、人的補償に代わるオプションを増やしていく必要がある。ちなみにMLBの場合は外国人選手枠というものは存在しない。

現時点のNPBの制度では、FAに際しての補償は人的補償と金銭補償の2つしか選択肢がない。しかし金銭補償を得たとしてもFA市場には選手はほとんど出て来ないし、外国人選手を多く獲得したとしても、ベンチ入りさせられるのは4人までとなっている。そのため基本的には金銭補償にはほとんど魅力がないと言っていいだろう。

一時期、西武球団はFA流出時の補償として金銭補償を選ぶケースが続いた時期があった。だがそれは親会社である西武グループの上場が廃止されており、球団運営が非常に苦しかった時期の話だ。現在では西武ホールディングスは再上場しており、西武グループ全体の再編も上手く機能し、西武HDがライオンズを運営していくのが厳しいという事情はない。そのため渡辺久信GMもこのオフに関しても、早々に人的補償を選ぶことを明言されていた。

お飾りでしかない日本プロ野球のコミッショナー

NPBにFA制度が導入されたのは1993年で、それからもうすでに30年が経過している。30年経ってもFAが活発化されないというのは、やはり制度そのものに問題があるためだ。

やはりNPBでも複数年契約を結んでいない限り、FA権取得時に自動的にFAとなるシステムが必要なのではないだろうか。メジャーリーグではそのようなシステムになっているため、FAで活路を見出す選手の人数はNPBとは比較できないほど多い。

だがこれにはデメリットもあり、選手の年俸が急高騰しやすいのだ。メジャーリーグの場合は複数オーナー制度で球団を運営することが可能となっており、それにより運営資金も捻出しやすい状況にある。だがNPBでは複数オーナー制度は認められていないため、例えば埼玉西武ライオンズの場合、西武HD一社によってライオンズを運営していかなければならない。

そのためFA権を取得すると自動的にFAとなるシステムを早急に導入してしまうと、恐らく今後球団を手放す企業が続出することになるだろう。そのような事情から簡単に導入することはできないわけだが、しかしある程度の複数オーナー制度をNPBでも導入していければ、それらの問題もすべて解決することになり、和田投手や甲斐野投手のような被害者を二度と出さずにも済む。

今回の人的補償問題に関しては、西武球団はルールに則って和田毅投手を指名した。一方ソフトバンク球団は西武球団に泣きつき、ルールをねじ曲げてまで指名選手の変更を求めた。ここだけを見るとソフトバンク球団の対応の悪さだけが目立つわけだが、しかしまともなFA制度の改革をしてこなかったNPBが元凶となっていることを忘れてはならない。

ちなみにFA制度は上述の通り1993年に導入され、2003年と2008年に制度改正が行われている。つまり前回制度改正が行われてから、もう16年も手付かずの状態になっているということだ。これはNPBやコミッショナーの怠慢とは言えないだろうか?

NPBのコミッショナーは、ファン目線からするとまったくのお飾りにしか見えない。MLBのコミッショナーのように権限が与えられているわけではなく、山川穂高選手が起こした性暴行事件に対してもほとんど静観しているだけだった。このようにコミッショナー職がまったく機能していない現状では、FA制度が見直されることなどまず期待できないだろう。

ソフトバンク球団においては山川問題以降、王貞治会長が矢面に立たされることが多くなっていた。だが王会長はホークスさえ良ければあとはどうでも良い、というようなお人柄ではなく、山川選手の獲得を主導したのはあくまでも三笠GMであったはずだ。

王会長はもはや、ホークスに留まるべき人ではないのではないだろうか?王会長のように球界全体のことを考えられる人こそ、コミッショナー職に就くべきではないだろうか?コミッショナー職が天下り先にも近い状態となっている今、NPBが全体的に発展していくことは非常に難しい。

お飾りで職に就いたコミッショナーではなく、本当に球界を愛する王貞治会長や、故野村克也監督、故星野仙一監督、さらには東尾修氏や田尾安志氏のようにまだまだ活発的に動ける方々がコミッショナー職を務めるべきではないだろうか?やはりプロ野球を本当に愛する者がコミッショナーを務めない限り、NPBがこれ以上発展していくことは想像しにくい。そう考えるプロ野球ファンは、果たして筆者だけだろうか。

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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