2024年1月25日公開
炭谷銀仁朗捕手がライオンズに戻ってきたことで考えられる捕手陣へのプラス要素は計り知れない。だがライオンズファンとしては、それと同じく期待したいことがもう一点ある。それは将来的な涌井秀章投手のライオンズへの復帰だ。
涌井投手と炭谷捕手と言えば、2006年に10代バッテリーを組んでライオンズで大活躍した名コンビだ。その後涌井投手はFAで千葉ロッテマリーンズ、炭谷捕手は同じくFAで読売ジャイアンツに移籍してしまうわけだが、2020年にマリーンズからイーグルスに移籍していた涌井投手に続き、2021年には炭谷捕手も金銭トレードでイーグルスに移籍し、奇しくも名コンビが復活することになった。
しかしその後は、涌井投手は2023年から中日ドラゴンズに移籍し、炭谷捕手は2023年オフにイーグルスから戦力外を受け、ライオンズに復帰した。名コンビは再び別々のチームに移籍することになってしまったわけだが、物語はここでは終わらないと考えたくなるのがライオンズファンの心情だ。
涌井投手はすでにFA権を取得しており、本人の意思次第では2024年オフにFA宣言をすることも可能な状況となっている。その状況をどうやら渡辺久信GMも注視しているようで、もし涌井投手がFA宣言した場合、ライオンズが手を挙げる可能性が非常に高くなっているようだ。
現在ライオンズには、若手先発陣を引っ張っていけるベテラン先発投手の存在がない。このオフに関してはその役割を期待し、人的補償として松坂世代の和田毅投手を指名したわけだが、結果的にそれは実現しなかった。だが和田投手のライオンズ入りが実現しなかったことは、これは涌井投手の将来的なライオンズ復帰への布石となる可能性も生まれて来たと言える。
ただし、涌井投手がFA宣言する前に西武球団が涌井投手に対しその内容で接触することはルール違反となる。だが炭谷捕手が元同僚として「またライオンズで一緒にやりましょうよ」と涌井投手に話すことは問題ない。当然炭谷捕手は涌井投手の連絡先を知っており、いつでも連絡が取れる状況にはなっているはずだ。
もちろんベテランになった炭谷捕手は駆け出しの頃以上に周りに目を配れる選手になっているため、あからさまに移籍を求めるような話し方はしないだろう。おそらくはそのような話をするにしても、上手く仄めかすような言い方をしていくはずだ。
もし和田投手の西武入りが実現していたら、西武球団が涌井投手の獲得に動く可能性はほぼなくなっていただろう。だが和田投手の西武入りが実現しなかった今、西武球団は先発陣を引っ張り、自らの経験値を若手投手たちに伝えて投手陣の底上げをしてくれるであろう涌井秀章投手の獲得を目指すことが可能になった。
もちろんそれは、今オフ以降に涌井投手がFA宣言してからの話になるわけだが、涌井投手も願わくば盟友である炭谷捕手とともにもう一度日本一を経験したいはずだ。涌井投手は2008年にライオンズで日本一を経験しているのだが、残念ながらそれ以降は優勝には恵まれていない。
マリーンズで2回、イーグルスで1回クライマックスシリーズには進出しているものの、日本シリーズという晴れ舞台で投げた経験はまだ一度だけだ。高卒で入団して僅か4年目でエースとして日本一を達成できた幸運には恵まれたものの、日本シリーズで投げた経験は今のところそれが最初で最後となっている。
涌井投手もプロ野球選手である限りは、やはり日本一になりたいはずだ。そう考えると今季の戦力を考えると、優勝に近いのは、ドラゴンズファンには申し訳ないが、現時点で言えばドラゴンズよりもライオンズだと言える。
ちなみにドラゴンズには今季から中島宏之選手も加入している。実は西武球団もこのオフに中島選手の獲得に動いていたのだが、コーチ兼任選手としての契約を打診した西武球団に対し、中島選手が求めたのは現役一本だった。そのため現役一本でオファーを出してくれたドラゴンズに移籍することになった。
ナカジこと中島選手にももちろんライオンズに帰ってきてもらいたいわけだが、しかし涌井投手にはそれ以上に帰ってきてもらわなければ困る。打撃陣に関しては大ベテランとして栗山巧選手と中村剛也選手の存在がある。だが投手陣に関しては日本一を知る選手がいないのだ。
2018〜2019年にライオンズはリーグ連覇を達成したわけだが、しかし残念ながら2年ともクライマックスシリーズではホークスに手も足も出ない形で敗れており、日本シリーズには駒を進めることができなかった。そのため今のライオンズ投手陣には、中村祐太投手のように移籍前の球団が日本シリーズに進出したという経験を持つ投手はいるものの、実際に日本シリーズをしっかりと経験した投手となると実はいない。
だからこそライオンズには、ライオンズでの日本一を経験している涌井秀章投手の存在が必要なのだ。そして渡辺久信GMと言えば、涌井投手がライオンズに入団した時の二軍監督であり、2008年は渡辺久信一軍監督の指揮のもとでライオンズは日本一を達成している。
一時は不振に陥っていた涌井投手をクローザー起用したことで、先発にこだわりを持つ涌井投手と渡辺監督の間に確執が生まれたとも言われているが、そもそもクローザー起用は涌井投手も納得してのことだった。そのため渡辺久信GMと涌井秀章投手の間に今なお確執があると語る情報は、真実ではないと言って間違いない。そもそも涌井投手がライオンズをさったのは地元千葉でプレーしたいという思い以上に、当時の伊原春樹監督の涌井投手に対する心ない挑発が誘因となったと考える方が自然だ。そのため渡辺GMと涌井投手の間には確執など微塵もなく、涌井投手がFA宣言したとすれば、渡辺久信GMが獲得に動く可能性はまず間違いないだろう。
デーブ大久保氏によると、渡辺久信GMは選手の幕引きまで考えて行動するGMとのことで、それは本当にその通りだなと見ていて思う。現に松坂大輔投手には最後の最後で、多和田真三郎投手が自律神経失調症により育成契約に切り替わっていたことで空いていた18番を着用させて引退の花道を作ってあげている。しかもこの時松坂投手はドラゴンズからのライオンズ復帰1年目で、引退試合以外では1試合も投げられずにユニフォームを脱いでいる。
そしてこのオフには上述の通り中島宏之選手にオファーを出し、引退への花道と引退後の指導者手形を提供しようとした。このような渡辺GMのやり方を考えると、今オフもし涌井投手がFA宣言をすれば確実に獲りにいくだろうし、戦力外となった場合でも合同トライアウト未参加でも獲りにいくだろう。
ちなみに松坂投手は41歳で引退し、涌井投手は今年38歳になる。涌井投手もだいたい松坂投手と同じ年齢で引退がちらつき始めるとすれば、やはり最後はライオンズのユニフォームを着て終えるのが最善ではないだろうか。本当にドラゴンズファンの方には大変申し訳ないのだが、やはり涌井投手には松坂投手同様、2年間のドラゴンズ生活の後、ライオンズに戻ってきてもらいたいというのが多くのライオンズファンの正直な気持ちだ。
ドラゴンズに移籍した昨季、涌井投手は21試合に先発をして5勝13敗、防御率3.97という数字を残している。3.97という防御率は、涌井投手が先発として不調に陥り、守護神起用された頃の防御率と同水準となる。当然だが今年38歳になる涌井投手は、以前のライオンズ時代のような活躍をすることは難しい。
だが西口文也投手、松坂大輔投手、涌井秀章投手と継承されてきたライオンズのエース道を後進たちに受け継いでもらうためにも、もう一度ライオンズのユニフォームを着てもらいたい。しかも現時点でかつて涌井投手が背負った18番は空き番号となっている。松坂投手の背中を追った涌井投手も、最後は松坂投手同様、ライオンズの18番を纏って選手としての最後を迎えるべきではないだろうか。
そして横浜高校繋がりということで言えば、今季は高卒ルーキーとして杉山遥希投手が加入した。杉山投手自身、春季キャンプでは高校の先輩である松坂大輔氏から色々教わりたいと話しているし、仮に一年後に涌井投手もライオンズのユニフォームを着ることになれば、ライオンズに脈々と生き続ける横浜イズムも継承されることになるだろう。
涌井投手はこれまで沢村賞1回、最多勝4回(パ・リーグタイ記録)、ゴールデングラブ賞4回と、これ以外にもこれまでいくつものタイトルを獲得してきた。そして現在ライオンズ投手陣のタイトルホルダーとなると、セーブ王1回の増田達至投手と、最多ホールド1回の平良海馬投手のみとなる。残念ながら先発陣にはタイトルホルダーが1人もいないのが現状だ。
だが野球の試合の流れを決めるのは先発投手だ。先発投手が試合を作れればセットアッパーや守護神に繋いで行けるし、先発投手が崩れれば、ビハインドで登場する投手は基本的には主戦投手ではないため、大敗の可能性がより高まってしまう。そして日本一になれるチームには必ず絶対的エースの存在がある。
ライオンズが日本一になった2008年は、涌井投手自身は10勝11敗とらしくない成績に終わってしまったが、前年には17勝、翌年は16勝を挙げて最多勝を獲得している。今後ライオンズにおいて新たな絶対的エースを育て、新たなタイトルホルダーを先発陣から毎年のように出していくためには、やはり涌井投手の力が必要だ。
もし渡辺久信GMが現段階で涌井投手に接触した場合はタンパリングとなり、西武球団はNPBより罰せられることになるわけだが、筆者がこの場を借りて自由に書く分にはもちろん問題ない。ただし涌井投手は今はドラゴンズの選手であるため、ドラゴンズファンの方には書きながらも大変申し訳なく思っている。だがそれでも書かなければならないほど、ライオンズにも涌井投手が必要なのだ。
そういう意味でも炭谷捕手には今後、涌井投手の盟友として、オフレコで何となく涌井投手にライオンズへの復帰を仄めかすメッセージを発信してくれたら、ライオンズファンとして筆者の心は幸福感で満たされることになるだろう。