2024年1月19日公開
今季プロ2年目となる蛭間拓哉選手はこのオフ、師事している栗山巧選手、そして岡田雅利捕手と共に自主トレを行っている。蛭間選手は今もっとも飛躍が期待されている野手だけに、栗山選手のイズムを継承できれば今季は当然のように昨季の成績を上回って来るだろう。
ここ20年、特に直近10年くらいに関しては野球選手でもプロアマ問わず筋トレ信奉者が非常に増えていることが危惧されている。もちろん筋トレは野球にも必要なトレーニングだ。だが技術力ではなく、筋トレによって飛距離や球速をアップさせようとする選手が非常に多く、それにより理論的なフォーム作りが疎かになり、結果的に怪我に苦しむ選手が非常に多くなっている。
また、筋トレ信奉者でなかったとしても、ひたすらバットを振りまくる、ひたすら打球を追いかけ続けるというような、質よりも数を優先したトレーニングもやはり怪我につながるケースが非常に多い。近年ライオンズで四番を務めていた打者が毎年のように怪我で離脱していたことを、ライオンズファンもよく覚えていると思う。
だが栗山巧選手の場合、もちろんこれまでまったく怪我をしなかったわけではないが、しかしほとんどのシーズンでこれまで怪我することなく今季23年目を迎えている。そのような栗山選手を師事することにより、蛭間選手もこれからさらに素晴らしい選手へを成長していき、近い将来、必ず日本代表のユニフォームを着るようになるだろう。
そして弟子が師を超えていくのは世の常とされている。蛭間選手も、今後間違いなく栗山選手を越えていくはずだ。まず守備に関しては、栗山選手がまだ駆け出しだった頃は守備力が非常に低かった。守備に就くと本当に危なっかしい打球の追い方をしていて、それによりDH起用される試合も多かった。
もちろんそれも練習によって克服していき、栗山選手の守備も徐々に安定していくわけだが、蛭間選手の守備力はすでに、全盛期の栗山選手の守備力を大きく上回っていると言える。もちろんそれでもまだまだ一流の守備とまではいかないわけだが、今後一流になるであろう守備力をすでに見せてくれている。
打率に関しては、栗山選手はこれまで3回規定打席以上での3割をマークしている。しかもその3回いずれでも高い得点圏打率を残している。つまりチャンスメイクもできるし、ポイントゲッターにもなれるということなのだが、蛭間選手もきっと栗山選手のように、チャンスを作りながらも自らも打点を増やしていける選手になっていくだろう。
守備ではもう蛭間選手は栗山選手を超えている。そして数年後にはきっと、蛭間選手は4度目の打率3割をマークし、打つ方でも師匠を超えていくことになるだろう。その根拠の一つとして、左投げ左打ちという要素を挙げることができる。栗山選手は右投げ左打ちの右利きで、蛭間選手は左投げ左打ちの左利きなのだ。
現在プロ野球でも主流になっているステイバックという打ち方では、トップハンドをメインとして機能させることが重要になる。つまり左打者の場合は左手になるわけだが、栗山選手はこのトップハンドが利き手ではなかった分、インパクトでボールをもう一押しすることができず、なかなかホームランを増やすことができなかった。
これに関しては栗山選手自身悩んでいたことを語っていたし、同様にメジャー時代の松井秀喜選手も右投げ左打ちの右利きということで、トップハンドで押し切ることができずに日本時代のようにホームランを量産することができなかった。だが蛭間選手の場合は左投げ左打ちの左利きであり、トップハンドが利き手となっている。そのため今後技術力を高めていくことができれば、ただ打率3割を残すだけではなく、かつての松井稼頭央選手のように3割・30本・30盗塁というトリプルスリーを達成することもできるはずだ。
蛭間選手も今後、スケールが大きな選手となるだろう。それこそ松井稼頭央選手や、秋山幸二選手のように。そして彼らのようなスケールの大きな選手になっていくためにも、まずは師匠である栗山巧選手を超えていく必要がある。
栗山巧選手というのは、とにかく準備に余念のない選手だ。誰よりもしっかりとした準備を整えて毎試合挑んでいる。そしてそれは体の準備だけではなく、心の準備も含まれている。
蛭間選手のコメントを聞いていて筆者が「おっ!」と思ったのは、蛭間選手が一軍に上がって早々に、栗山選手が心身共にしっかりとした準備をしていることに気付き、それを目指そうとしていた時だった。目先の数字だけを気にするのではなく、数字を残すためには何が必要なのかということに、蛭間選手はルーキーイヤーからすでに気が付いていた。
ライオンズでも一部の選手は未だに、ガンガン振ることによってのみレギュラーを目指そうとしている選手が多数いる。もちろん誰よりも多い練習量はレギュラーを掴むためには非常に重要なわけだが、それだけでレギュラーになれるほどプロの世界は甘くはない。
だが蛭間選手の場合はしっかりと練習ができる体の強さもあるし、栗山選手を見習うことで準備の大切さもすでに理解している。言い換えれば、フィジカルはもちろんのこと、メンタル強化にも努めているということだ。それに野球やゴルフは「メンタル競技」と呼ばれており、いくらトレーニングを積んだとしても、メンタルが強化されていなければ安定したパフォーマンスを発揮することはできない。
例えばメンタル強化を蔑ろにしてしまうと、物凄いボールを投げることができるのにパフォーマンスがなかなか安定しない今井達也投手のようなパターンになってしまう。実際今井投手はSNS上で、メンタルトレーニングを否定するようなコメントを残している。
だが蛭間選手の場合はフィジカル・メンタル共に大切にしている。これをまだ2年目で理解し実践しているところに、筆者は蛭間選手の将来性を感じずにはいられないのだ。蛭間選手は近い将来、間違いなく栗山巧選手を追い越し、日本を代表するクラッチヒッターへと成長していくだろう。
そして蛭間選手は怪我をしない体づくりにも余念がない。このオフは退寮して一人暮らしを始めた蛭間選手だが、今季は開幕する前に栄養士と契約をし、食事面から体づくりをしていくことになるようだ。これはプロアスリートとして本当に素晴らしい選択だったと思う。
プロ野球では、未だに喫煙やアルコール摂取をしている選手が非常に多い。ライオンズにも残念ながらそのような選手は多く、4年契約を結んでも近年まったく活躍できなかった野手も喫煙者として知られている。だが栄養士と契約し栄養学を学ぶことにより、蛭間選手は喫煙はもちろんのこと、アルコールがアスリートの体にどのようなマイナス作用を及ぼすのかということも理解していくことができる。
もちろん優勝した時にお酒でお祝いすることを筆者も否定したりはしない。だがシーズン中に関してはアスリートのアルコール摂取など以ての外だ。そのため筆者自身、指導する野球選手に対しては基本的にはアルコールもタバコもやらないように強く指導している。
これらのマイナス要素を、自ら自然と排除していける環境を作り出している蛭間選手は、近い将来、間違いなくスター選手に成長していくことになるだろう。だがそれまでは栗山巧選手もまだまだ老け込むわけにはいかない。
上述した通り弟子は師を超えていくのが世の常であるわけだが、栗山選手としてはそう簡単に超えられないようにまだまだ頑張ってもらいたい。そしていつか、本当に蛭間選手が栗山巧選手が超えられた時が、栗山選手がユニフォームを脱ぐ時であり、背番号1を蛭間選手に継承する時なのだと思う。
だがそれはまだまだ先の話だ。少なくとも今はまだ、栗山選手は蛭間選手に追いかけられる存在で居続けてもらいたい。そして栗山選手が今後も走り続ければ続けるほど、蛭間選手もその分、よりレベルの高い野球選手になっていけるはずだ。そのためにも栗山選手にはまだまだこの先何年も背番号1を背負い続けてもらいたい。