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2024年8月10日公開

西武が勝てないのは投打共に野球ではなくベースボールをしているからに他ならない

北海道日本ハムファイターズ vs 埼玉西武ライオンズ/15回戦 エスコンF
1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
Lions 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 2 1
Fighters 0 0 0 0 0 0 3 2 × 5 4 0

継投●今井達也佐藤隼輔松本航
敗戦投手今井達也 4勝8敗0S 2.45
本塁打外崎修汰(5)
失策野村大樹(2)

大エース西口文也投手と今井達也投手の違いはどこにあるのか?

今井達也投手

残り43試合となり、負け越しもついに40まで膨れ上がってしまった。そして今日も打線は僅か2安打で終えており、外崎修汰選手のソロホームランで1点を取るのが精一杯だった。

試合としては幸先良く1点を先制した形とはなったものの、結果的にその1点を今井達也投手が守り切ることができなかった。ただ、僅か1点の援護のみで堪え続けなければならない今井投手も確かに辛かったと思う。だがエースと呼ばれるためには、このようなタフなゲームを勝利に導けるようになる必要がある。

例えば西口文也二軍監督がエースとして投げていた頃は、1点差ゲームに非常に強かった。もちろん1点差で敗れる試合も幾度も経験しているわけだが、それ以上に多く1点差でチームを勝利に導いている。やはりこれができる投手がエースと呼ばれていくのだろう。かつての西口文也投手と比較をすると、投げているボールの力強さは圧倒的に今井投手の方が上だとは思うが、しかし投手としての格は西口投手には遠く及ばない。

ただ西口投手が非常に面白かったのが、緊迫した試合では素晴らしいピッチングを見せるものの、味方が大量援護をしてくれると緊張感が緩んでしまうのか、大量失点するケースも目立った。このあたりが大一番で好投して来た投手の人間味であり、この人間味がもし僅かでも薄かったとしたら、西口投手は間違いなく200勝していただろう。

さて、その西口投手と今井投手を比較するとマウンド上で見せる表情がまるで違う。もちろん人間が変わればそれは当然であるわけだが、そういう意味ではなく、西口投手の場合は高い奪三振率を誇りながらも、バックを信頼して打たせにいく姿勢を決して崩さなかった。

ただし、まるでフォークボールのように縦に鋭く曲がるスライダーがあまりにも魔球すぎて各打者のバットは空を切り続けた。しかし西口投手自身の奪三振数にこだわるようなコメントというのは、筆者の記憶にもノートにもまったく残っていない。もちろん筆者が聞き漏らしているだけだとは思うのだが、それでもまったく記憶に残っていないということは、言っていたとしても稀だったのではないだろうか。

逆にライオンズナイターのインタビューなどでは、「バックが素晴らしいので」という言葉を使いながら、上手く打たせて取れれば良いというコメントを幾度もしていたのをよく覚えている。このように普段の言葉から、西口投手はバックを信頼しているというメッセージを送り続けていた。

一方の今井投手はどうだろうか。いや、今井投手に限らずライオンズの投手陣の多くに言えることなのだが、今井投手の場合は今日の登板前に「イニング以上の三振を奪りにいく」と宣言していた。その結果6回2/3で8奪三振なのだから有言実行だったと言えなくもない。

しかし投手の「三振を奪りにいく」という宣言は、野手陣からすると「もっとバックを信頼して楽に投げれば良いのに」という感情を生み出してしまうことが多々ある。特に今のライオンズのようにまったく勝てていないチームの場合はなおさらだ。だからこそ今井投手は今日の試合前に、奪三振数にこだわるような発言はすべきではなかったのだ。

もちろん今井投手もバックを信頼していると思う。だが投手の胸の内と、投手の言葉から受ける野手の印象が一致しているとは限らない。特に今日のような試合は、一致していないからこそ上手く援護を引き出せないと考えた方が自然だ。

今井投手が奪三振にこだわりたい気持ちは分かるが、しかしそれは胸の内に秘めておいてもまったく問題はなく、シーズンの最後で結果的に奪三振数が一番多ければ良いのだ。チームが崩壊状態にある今は、エースとしての立場を自覚しているのであれば、今井投手はもっと野手陣を信頼しているというメッセージを送るべきなのだ。

これが、チームメイトから「勝ちを付けてあげたい」と思われる西口投手と、なかなか援護に恵まれない今井投手との違いだと言える。ちなみに現在西口投手タイプの心持ちで投げているのは武内夏暉投手くらいではないだろうか。野手陣も、「武内に勝ち星を付けてあげたい」と思いながら打席に立っていると思う。

ちなみに約20年前、「何とか西口に勝ち星を付けてあげたい」とよく口にしていたのは、西口投手と同期で同学年の高木浩之選手だった。現在高木氏はライオンズアカデミーで指導をされたり、テレビ解説をしたりしているわけだが、盟友である西口文也二軍監督をサポートするためにも、そろそろまたユニフォームを着てもらいたなと筆者は考えている。

ヘッドコーチ候補としてそろそろ現場に戻って来てもらいたい高木浩之氏

現役時代は西口文也投手の盟友だった高木浩之選手は、本当に野球をよく知っている選手だった。視力障害さえなければ、間違いなく14年以上ユニフォームを着ていたはずの名選手だ。

その高木浩之氏は駒澤大学出身で、厳しさも良く知るキャプテンシーを兼ね揃えた選手だった。筆者は個人的には西口文也二軍監督が将来的に監督就任するのにあたり、高木浩之氏をヘッドコーチとして育成すべきだと考えている。

高木氏の野球眼は内野守備走塁コーチにとどめておくにはもったいないほどだ。だが残念ながら2020年を最後にコーチとしてはユニフォームを脱ぎ、編成部入りしてしまった。

現在ライオンズのヘッドコーチは平石洋介コーチが務めているわけだが、しかし松井稼頭央監督が今季このような形で更迭されてしまった以上、平石コーチが来季もライオンズに残留する可能性はほとんどないと言って良い。となると気になるのは将来的なヘッドコーチの名前になるわけだが、その候補の一人として高木浩之氏を挙げても差し支えないだろう。

ライオンズでは今オフは大粛清が行われるはずだ。選手の戦力外通告も例年以上に厳しい目で判断されるだろうし、コーチ陣に関しても現職として留任する者はほとんどおらず、いたとしても僅かだろう。投手コーチに関しては留任で良いと思うのだが、他部門に関しては一新するくらいの再構築が必要になってくるはずだ。

特に打撃部門のコーチと三塁ベースコーチに関しては留任は許されないはずだ。このあたりを留任させて納得するライオンズファンはまずいないだろう。球団的にはもちろん、監督人事にしてもコーチ人事にしても口を揃えて「シーズンが終わってから」と言うはずだ。しかし実際にはもう監督人事もコーチ人事も話はある程度進んでいると思われる。

シーズンが終わってから「監督をお願いできませんか?」と頼んでもし断られた場合、バックアップするのが非常に困難になるためだ。そのため実際には今季のライオンズのように、監督留任の可能性がほとんどない場合は、夏場あたりから監督人事の話はどんどん進められていく。

筆者は個人的には渡辺久信監督代行はGMに専念すべきと考えており、渡辺監督代行自身、来季も指揮を執ることを前提には考えていないように思える。インタビューを聞いていてもGMとしての言葉の方が目立っているし、監督業はあくまでも繋ぎという気持ちで、少しでも良い形で次期監督にバトンタッチしたいという思いで日々采配を揮っているのだと思う。

そんな中で高木浩之氏は将来的にはヘッドコーチ職などで必ずチームに必要になってくる存在だと筆者は考えるため、そろそろユニフォーム組に戻ってくるのではないかと見ている。

野球ではなくベースボールをしているライオンズナイン

今日の試合を見ていても、打者陣の多くは「本当に考えて打席に立てているのだろうか?」と思えるような質の低い凡打が非常に目立っていた。野球で打率を上げたい場合、ヒットを狙いに行かないというのは大原則の一つとして数えられている。

まず、ボール球を振らずに甘い球を見逃さず好球必打で行くというのは、野球経験者であれば誰しも一度は耳にしたことがあるはずだ。そしてもう一つは、凡打の質を上げることにある。後者に関しては実はプロでも疎かにされがちなことだ。

では今のライオンズ打線はどうかと言うと、甘い球を見逃したりミスショットしたりして、難しいボールを上手く打たされてしまっている。そしてその結果、凡打もヒットになりそうな凡打ではなく、打った瞬間諦めたくなるような凡打が非常に多い。

同じアウトになるにしても、強烈なライナーでアウトになったり、フェンスギリギリの大飛球だったり、球足が速いゴロを打ったりと、凡打の質を上げていくことによってヒットが出る可能性を高めることができる。

例えば強烈なライナーが野手の正面を突いたとしたら、僅かでも打球が左右に振れていれば外野の前に落ちるヒットになっていく。だが力ないハーフライナーでは、打球が左右に振れていたとしても内野手が簡単に打球に追いついてしまうため、ヒットになる可能性は限りなく0に近い。

ライオンズの打者陣はもう少し頭を使って打席に立つことにより、まず凡打の質を高めるところから始めるべきだ。今の打線がいきなりチーム打率.270など打てるわけないのである。上を目指すためには、まずは段階を踏む必要がある。その段階が、いきなりヒットを狙いに行くことではなく、凡打の質を高めるということだ。

野球というスポーツは一流打者でも10回中7回はアウトになる。だがその7回のアウトの質が良いからこそ、残りの3回をヒットに繋げていくことができるのだ。だが今のライオンズ打線は凡打の質が低いため、10回中8回はアウトになってしまう。そしてそれは単純に、甘い球を見逃して難しい球を打ちにいく、と言うよりは相手バッテリーに簡単に打たされてしまっていることに原因がある。

つまり今のライオンズ打線に必要なのはしっかりと考えてから打席に立つことであり、それを上手く指導できるのが誰よりも野球をよく知る高木浩之氏だと筆者は思うのである。

今のライオンズ打線に必要なのは意識改革だ。今までのように、まるでバッティングセンターで打っているような気持ちで打席に立っていてはダメだ。もちろん選手たちはそれなりに考えて打席に立っているのだと思うし、誰一人バッセン気分で試合に挑んでいる選手などいない。だがはたから見るとそう見えてしまうのだ。

走者一塁の場面でも、ライオンズの打者陣は簡単にバッテリーの術中にはまり併殺打を繰り返し打っている。このような場面でも、併殺打を打たせようとして来る配球を逆手に取ることがまったくできていないのだ。それは源田壮亮主将にさえ言えることだ。

つまり打線がまったく線になっておらず、まるで個と個の対決を楽しむメジャーリーガーのような野球をやっているのだ。もしかしたら昨年のWBCの優勝によって勘違いしてしまっているのかもしれないが、いくらNPBのレベルが近年上がっているとは言え、NPBはMLBのレベルには遠く及ばない。

ピッチャーにしても同様だ。西口投手のようにチームを一つにできるピッチングをするのではなく、今井投手のようにまるでメジャーリーガー気取りで三振を奪りに行き、その結果四死球で自滅してしまっている。確かに今日は一塁手の失策があり今井投手に自責は付かなかったものの、しかし今日の失点は自滅以外の何物でもない。

このように個に走ってしまっているライオンズの投打を、「ベースボール」ではなく改めて「野球」にしてくれるのが、高木浩之氏のような野球を熟知したタイプの指導者だと筆者は思うのである。

そういう意味では辻発彦氏の監督再登板にも期待が高まるわけだが、しかし筆者の中でどうしても引っかかってしまうのが、特に打者陣に個に走ることを許してしまったのが辻監督だったという点だ。

ここからライオンズを建て直すことは困難を極めるだろう。しかし適切な補強に対し適切なコーチ陣を揃えることができれば、決して5年も10年もかからず、1〜2年でも十分に再建できるはずだ。少なくとも筆者はそこまでチームは壊れてはいないと確信している。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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