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2021年12月28日公開

まだ名将とは呼べない辻発彦監督の来季はセットアッパー役なのか?!

辻発彦

東尾修監督は、野村克也監督のような名将だった

辻発彦監督監督はとても良い監督だと思う。だが名将とは言い難い。これはあくまでも筆者個人の意見でしかないわけだが、筆者が思い描く名将像から辻監督は少し外れてしまうのだ。

もちろん一般的には勝てる監督が名将と呼ばれるわけだが、仮に勝てなかったとしても名将と呼べる監督は大勢いたと思う。例えば日本一にはなれなかったが東尾修監督は名将だったと思うし、平石洋介元楽天監督も名将になり得た監督だった。

筆者が思い描く名将とは、采配や言葉から確かなヴィジョンが見えてくる監督のことで、必ずしも勝てる監督というわけではない。例えば極端な話、名将だったとしても補強が上手くいかなければチームは勝てるようにはならない。例えば渡辺久信監督の時代は補強策が上手くいかず、コーチ側にも選手側にもトラブルが発生し、2009年以降は少しずつチーム内の風通しが悪くなっていた。

ちなみに渡辺久信監督は名将だったと思う。ディフェンスで勝ちに行く野球を目指すというヴィジョンが采配や言葉から見えて来たし、そのヴィジョンに沿った選手育成も徹底していた。例えば先発から守護神に転向させた涌井秀章投手の再生法なども、野手出身監督ではなかなか思い切れなかった名采配だったと思う。

東尾修監督にしても「Hit!Foot!Get!」というスローガンの下、エースを中心として、相手投手の嫌がる攻撃で勝ちに行くというヴィジョンが明確だった。そのためチームがよく1つにまとまっていた。もし東尾監督でなければ、97〜98年のリーグV2もなかったかもしれない。

東尾監督は、野村克也監督のようだった。1995〜2001年の7年間でチームは完成を目前としていた。しかし2001年に3位に甘んじてしまったことにより退任せざるを得なくなってしまう。

だが黄金時代のエースたちがどんどんいなくなっていった投手陣をあっという間に再建し、松井稼頭央選手というスーパースターを育て上げ、中島聡捕手を獲得することで伊東勤捕手を若返らせた采配は、まさに名将と呼ぶに相応しいものだった。

そして東尾監督が完成させたチームを引き継いだのが伊原春樹監督だったわけだが、その完成したチームによって2002年は圧倒的な強さでリーグ優勝を達成する。だが日本シリーズでは、ペナントレースと同じ戦い方に執着したことで巨人相手に4連敗を喫してしまった。

東尾監督が完成させたチームが勇退直後に優勝する姿は、まさに阪神・楽天時代の野村克也監督そのものだ。2002年のライオンズの優勝は、東尾監督にとっては本当に口惜しい物ではなかったろうか。

あちこちで確執を生み続けた伊原春樹監督

さて、東尾監督の後任であった伊原監督は、選手との間に確執の絶えない監督でもあった。デニー友利投手は伊原監督との確執によりトレード志願をしたと言われているし、涌井秀章投手にしても心情を逆撫でされるような言葉を伊原監督から言われ、ライオンズに残る意思もあったにもかかわらず、そのタイミングでライオンズを去ってしまった。

2014年の伊原監督は、渡辺久信監督の辞任を受けての再登板だったわけだが、チーム内で数多くの不協和音を発生させ、チームを空中分解させてしまい、開幕から僅か53試合指揮を執っただけで解任となってしまった。ちなみに伊原監督は鈴木健選手、野村克也監督との間にも確執があった。

渡辺久信GMは、この時のことがしっかりとイメージとして残っていたのだろう。渡辺久信監督が辞任した際、西武球団の当時の鈴木葉留彦球団本部長は次期監督の育成を完全に怠っていた。渡辺久信監督時代の終盤の2軍監督には、将来的に1軍監督になる可能性がまずなかった行沢久隆氏が据えられていた。

次期監督をまったく育成できていなかったことから、西武球団は伊原監督を再招聘するしかなかったというのが実際のところだった。だが鈴木葉留彦本部長のこの登用は完全に失敗に終わる。

間違いなく名将と呼んでいい渡辺久信GM

監督を育成していなかった失敗を反省したのか、その後のライオンズは将来的な1軍監督を見据えて2軍監督を選ぶようになっていく。2013年からの3年間は潮崎哲也2軍監督、そして2016年は横田久則2軍監督を挟み、2017年からはまた2年間潮崎2軍監督となる。潮崎2軍監督は、何度か1軍監督候補として名前が挙がった。

そして2019年からの3年間は、現在の次期監督最有力候補である松井稼頭央2軍監督となり、2022年からは西口文也2軍監督へと継投されていく。

契約更改でも幾度となく選手から反感を買った鈴木葉留彦氏が去り、渡辺久信GMが誕生すると、ライオンズの状況は一気に改善していった。まずフロントと選手間にあった確執がなくなり、主力選手の流出が止まっただけではなく、かつてライオンズを去っていった人たちが引退の場、そして指導者としてライオンズに戻って来てくれるようになった。

監督としては一度しか優勝できなかったが、GMとしての手腕を振り返っていくと、渡辺久信GMは間違いなく名将と呼ぶことができるだろう。そして近い将来、このGMはきっと故根本陸夫のような存在になっていくのだと思う。

今はまだ名将と呼ぶことはできない辻発彦監督

辻監督は選手に近付き過ぎてはいないだろうか。監督というポジションは、必要以上に選手との対話はすべきではないと思う。なぜなら監督と選手が親しくなればなるほど、監督側にその選手に対する情が湧いてしまうからだ。

例えばオークランドアスレチックスのかつてのビリー・ビーンGMは、情が湧いて選手を解雇したり放出したりしにくくならないように、何かを通達する時以外は選手との接触は避けていた。

だが辻監督は練習中などでも選手と談笑していることが多い。ビーンGMほど厳格に行動する必要はないとは思うが、しかし辻監督と選手たちの姿を見ていると、時々学校の先生とその生徒たちという風に見えてしまうことがあるのだ。

果たして辻監督が情に流されていないと言い切ることはできるだろうか。まず、まだオフになったばかりのこのタイミングで来季の4番打者としてもうすでに山川穂高選手を指名しているし、増田達至投手が再び守護神のポジションを目指したいと言った直後に、来季の守護神は平良海馬投手でいくと明言している。

まず、2年以上4番として安定した仕事をしていない打者に対し、この早いタイミングで4番として指名するのはどうかと思う。確かに本塁打王を二度獲得しているが、来季になればもうそれは3年前の話となってしまう。

守護神の指名にしても、確かに平良投手の実績を踏まえれば守護神に据えるのは当然だと思う。だがこれまで素晴らしい実績を残し続けていた増田投手に対し、年も明けないうちから競争させずにセットアッパーだと言い切ってしまうのはやや失礼ではないだろうか。

また、先発志望を持つ平良投手に関しても「2022年は先発はさせない」と言い切った。もちろん「守護神として期待している」という言葉の裏返しではあると思うのだが、しかしその言葉の裏まで読み取れる選手が多いとは思えない。

また、辻監督からは明確なヴィジョンが見えてこない。一体どんな野球を目指し、それに対しどのような戦略を組み立てているのだろうか。辻監督の言葉は希望的観測であることが多い。不振が続く山川選手に対しての言葉も、足首の手術からの退院が傷口からの感染症により大幅に遅れている平良投手に対しての言葉も、監督の期待にまったく応えられずにいる金子侑司選手に対する言葉もだ。

辻監督はもっと緻密な采配や野球を見せてくれると期待していたのだが、ここまでの采配はまるでNo Limit打線の延長線上のようにも見える。打つことによって勝ち、打てなければ勝てないという野球が続いている。

選手たちが調子が良ければ勝てる、という野球をやっているうちはライオンズが再び常勝時代を築き上げることはできないだろう。選手が不調に陥れば、その選手を短期間で復調させる采配を見せなければいけない。

例えば東尾監督が西口文也投手を、渡辺久信監督が涌井秀章投手を短期間で復調させた時のように。だが辻監督は毎年のように山川選手に対し期待をしながらも、2年以上彼を復調させることができていない。

1番打者に関しても、東尾監督があっという間に松井稼頭央選手を育て上げたようにはいかず、秋山翔吾選手が抜けてからは2年も1番打者を固定できずにいる。ただ、1番打者問題に関しては若林楽人選手が解決してくれそうだ。だがそれまでは毎年のように金子侑司選手に期待をしながらも失敗を繰り返している。

もし辻監督が名将と呼べるのであれば、山川選手や金子選手をもっと短期間で再生できていたはずだ。だが辻監督は希望的観測を繰り返すばかりで、未だに二人を再生できずにいる。

さらに言えば、この5年間で絶対的エースも育てられずにいる。メジャーに移籍した菊池雄星投手にしても、上位チーム相手には一切勝てないままだった。

このような観点から、あくまでも現段階での筆者の個人的感想なのだが、辻監督は良い監督だとは思うが、名将ではないと思う。選手とのコミュニケーションの仕方を見る限りでは監督業よりも、監督と選手、監督とコーチの間に立ちパイプ役となるヘッドコーチ職の方が合っているように思える。

おそらく2022年は、辻監督はリーグ優勝をして日本シリーズに進まない限りは勇退となるだろう。仮に圧倒的ゲーム差でリーグ優勝をしたとしても、またもやCSで敗れたならば続投はないはずだ。

2018年にリーグ優勝した際には2年契約となった辻監督だが、その後は1年契約に戻っているのがその一つの表れだと思う。そして辻-馬場コンビに脆弱性が見えたからこそ、渡辺GMは今オフは大胆にメスを入れていった。

着実に進んでいる松井稼頭央次期監督の育成

渡辺久信GMは、松井稼頭央次期監督の育成にはかなり本気で取り掛かっている。まず、将来の1軍監督就任を見据えて引退後すぐに2軍監督に据えているし、2022年に関しては、広岡達朗監督、森祇晶監督、野村克也監督、落合博満監督という名だたる名将に仕えて来た辻発彦監督から帝王学を学ばせるため、辻監督の近くにいることが最も多いヘッドコーチ職に就かせている。さらには松井監督誕生時のヘッドコーチとして、平石洋介打撃コーチの招聘にも成功している。

将来の松井稼頭央監督がどのようなヴィジョンを持ってチーム作りをしていくのかはまだ分からない。だが監督候補がおらず、監督向きではない伊原監督、田邊徳雄監督が誕生した時とは比べ物にならないほど、次期監督の育成が着実に進んできている状況だ。

この流れを考えると、2022年は辻発彦監督は松井稼頭央次期監督に繋いでいくためのさながらセットアッパーということになるのではないだろうか。やはり圧倒的強さで日本一を達成しない限りは、2023年の続投はないように思える。

辻監督自身、来季はセットアッパーであるという自覚を少な必ずお持ちだと思うし、2023年はないという覚悟もあると思う。だがここでレイムダックになってしまうのではなく、そう簡単には松井稼頭央ヘッドコーチに監督の座は禅譲しないという気概を感じさせる、名将としての采配と意地を見せてもらいたい。

そして決して情や希望的観測に流されることなく、辻監督が本当に目指したい野球を来季は見せてもらいたい。だがもしそれが山賊打線の再来であるならば、ライオンズは来季も優勝することはできないだろう。

なぜならば、渡辺久信GMがすでに山賊打線は過去の遺物だと言い切り、それを前提に補強策を進めて来ているからだ。だからこそ辻監督には、かつて自らが仕えて来た名将たちのような緻密な野球を見せてもらいたいし、また山川選手が打てなかったとしても勝てる野球を見せてもらいたいのだ。

このパラダイムシフトさえ可能となれば、2022年の辻ライオンズは圧倒的な強さで日本一を達成できるはずだ。まるで森・広岡ライオンズ、野村スワローズ、落合ドラゴンズのように。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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