HOME > ゲームレビュー (97記事) > 渡辺久信監督代行になり明らかに変わって来たライオンズナインの戦う姿勢

2024年5月29日公開

渡辺久信監督代行になり明らかに変わって来たライオンズナインの戦う姿勢

中日ドラゴンズ vs 埼玉西武ライオンズ/2回戦 バンテリンD
1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
Lions 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 5 0
Dragons 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 0

継投○隅田知一郎Sアルバート・アブレイユ
勝利投手隅田知一郎 3勝4敗0S 3.38
セーブアルバート・アブレイユ 1勝4敗10S 2.84

配球に今までにはあまり見えなかった意図が感じられた隅田-古賀バッテリー

渡辺久信監督代行2戦目にして、ライオンズは渡辺監督代行に初白星をプレゼントすることができた。そのウィニングボールは渡辺監督代行に渡されたが、渡辺監督代行曰く、プロ初勝利のボールや日本一になった際のウィニングボールももう持っていないらしく、特にウィニングボールに対してはこだわりはないようだ。それでも監督代行としての初勝利のボールはユニフォームのポケットにしっかりとしまわれていた。

1-0の勝利は、内容のある非常に良い勝ち方だったと思う。もちろん完璧な内容での勝利ではなかったが、しかし先発隅田知一郎投手が攻めのピッチングで8回を零封し、打撃陣も5安打にとどまりながらも随所で勝利への執念を感じさせるプレーを見せてくれた。

今日は特に隅田投手のピッチングが素晴らしかった。まさに攻撃こそが最大の防御とも言えるようなどんどん攻めていくピッチング内容で、まずは投げる前に気持ちで負けてしまうことだけは避けていたような気迫溢れるピッチングだった。しかも7回の打席では足をつっていたと言う。それでも8回のマウンドに登って見事抑えて見せた。

配球に関しても今季ここまでの内容とは少し違うと感じさせるもので、それもあってドラゴンズ打線も的を絞り切れなかったのだろう。古賀捕手自身自らの配球のせいで打たれていたことを自覚しているため、この試合では隅田投手と古賀捕手の間でしっかりとしたコミュニケーションが取られていたらしい。

松井監督の頃には投手と捕手のコミュニケーションが良く取られているような配球はあまり見られなかったため、あまり目立つポイントとは言えないが、これも渡辺久信監督代行に代わったことによる効果と言えるのではないだろうか。

だが筆者は隅田投手のコメントに対し一つ引っかかる点があった。それは「姿勢とか行動じゃなくて、結果で変えないといけない」という言葉だ。確かにプロの世界は結果がすべてとも言えるわけだが、しかし交流戦前までのライオンズは姿勢や行動が変わらないから結果が伴っていなかったと見る方が適切ではないだろうか。

逆を言えば、姿勢や行動が変わるから結果も変わるという考え方が一般的には正しいとされる。そのため筆者はこの隅田投手のコメントに引っかかりを感じたわけだが、しかし実際には隅田投手自身、この試合では今までにない形で古賀捕手とのコミュニケーションをしっかり取るというように行動を変えたことで、8回零封という素晴らしいピッチングを披露することができた。

筆者はここまで古賀悠斗捕手の配球をかなり酷評して来たわけだが、しかし今日の配球に関しては意図を感じさせてくれる配球も多かったため、試合を見ていても「おっ!」と思うことが多々あった。古賀捕手には今後もしっかりと投手とコミュニケーションを取ることによって、もっと投手の良さを引き出し、もっと意図を感じさせてくれるロジカルな配球を見せてもらいたい。そうすれば名実ともにリーグを代表する捕手へと進化していくことができるだろう。

バントの基本動作が身に付いていない岸潤一郎選手の痛いバント失敗

さて、打線の方ではまず岸潤一郎選手について書かなければならない。岸選手は今日もしっかりと1安打放っているわけだが、3打席目のバント失敗はいただけなかった。このバント失敗は前の打席のヒットを帳消しにしてしまうほどのミスだったと言える。

岸選手がバントしたのはほぼど真ん中の142km/hのストレートだった。バントをするにはもってこいの絶好球だったわけだが、しかしバントした打球が、バントを絶対に捕らせてはいけない捕手が捕れるところに転がってしまい、二塁フォースアウトとなってしまう。

セイバーメトリクス的には簡単にバントをして一死を献上すべきではないというセオリーもあるわけだが、しかしそれでもバントは効果的な作戦であり、バントをファーストストライクでしっかりと決めることによって打線の流れが良くなっていくケースが多々ある。これはセイバーメトリクスだけでは量り知ることのできない要素だ。

そういう意味でも岸選手はファーストストライクでしっかりと1球でバントを決めなければならなかったわけだが、しかし初球のほぼ真ん中の132km/hのストレート系のボールをまずファールにしてしまった。この初球の半速球はまさに「バントをしてください」とでも言っているようなボールだった。

そして2球目はボールとなって3球目にバントを失敗してしまったわけだが、岸選手はバントの特訓が必要そうだ。右打者がバントをするのが最も難しいのは、外角低めに逃げていくスライダーだ。逃げていくボールを追いかけながらバントするというのは本当に難しく、これは熟練のバンター、例えば岡田雅利捕手のような名バンタークラスでないと、ランナーが安心して進塁できる良いバントを決めることは難しい。

だが上述した通り岸選手がバントミスをしたのは2球ともほとんど真ん中のストレートだった。この2球で失敗してしまうというのは、技術不足以外の何物でもない。具体的には今日のバントシーンで、岸選手は両足をほとんど同じライン上に置いてバントの構えを見せていた。だがこれは正しいバントフォームとは言えない。

右打者が一塁線にバントを転がしたい場合、右足をやや後ろに引いて構えるのが鉄則だ。こうすることで右肘の後ろにスペースができ、打球の勢いを無理に殺そうとしなくてもほどよく勢いのない打球を転がせるようになる。また、右足を後ろに引くことによってバットを一塁線側に向けやすくもなる。

ちなみに三塁線にバントをする際は右足をもっと後ろ側に引く。バントなどの小技も求められている岸選手がこのようにバントの基本を身につけていないというのは、これはライオンズにはバントを教えられるコーチがいないということなのかもしれない。確かに打撃を担当する嶋コーチ、高山コーチは両者ともに現役時代はバントをする選手ではなかった。このあたりの小技を徹底して指導できるコーチがいないのも、これまで打線が繋がってこなかった原因と言えるのかもしれない。

早速ファイティングポーズを見せてくれた蛭間拓哉選手と佐藤龍世選手

蛭間拓哉選手

そしてその岸選手が辛うじて併殺にはならなかったバント失敗をした6回だが、まず先頭の源田壮亮主将がセンター前ヒットで出塁した。そしてバント失敗があり、三番外崎修汰選手のヒット&ランがかかった状態での二塁内野安打で一死三塁一塁。だが中村剛也選手が三振に倒れ、ライオンズファンの間では「またチャンスで無得点に終わるのか」という雰囲気も流れ始めた時、蛭間拓哉選手が気迫の一塁ヘッドスライディングを見せてくれた。

蛭間選手が打ったのはハーフバウンド気味の完全に打ち取られたサードゴロだったわけだが、打球に勢いがなかったのが奏功してタイムリー内野安打となった。ドラゴンズベンチからはリプレイ検証のリクエストが出されたが、球審がビデオで確認した後もセーフの判定は覆らず、待望の先取点挙げることができた。

筆者は常々一塁へのヘッドスライディングは怪我をするリスクが尋常でないほど高いためすべきではないと言い続けている。実際ヘッドスライディングをするよりも、そのまま駆け抜けた方が一塁への到達も早いケースがほとんどだ。だが一塁へのヘッドスライディングがセーフになると、ベンチが勢いづくことも否むことはできない。実際蛭間選手の気迫のヘッドスライディングで先制点をもぎ取った際は、ライオンズベンチのボルテージも一気に上がっていった。そしてこの蛭間選手のヘッドスライディングに加え、佐藤龍世選手がカメラマン席に突っ込みながらもファールフライをアウトにしたプレーも大きかった。

残念ながら追加点には至らなかったが、しかし今日の隅田投手にはこの1点で十分だった。8回までこの虎の子の1点を守り続け、最終回はアルバート・アブレイユ投手が四死球でピンチを招きながらも、最後は内角へのツーシームで詰まらせて見事ピッチャーへの併殺打で試合を締め括った。

今日の1点はたかが1点ではなく、されど1点だ。確かに5安打で1点となると数字的にはかなり寂しいわけだが、しかし今日のライオンズベンチの雰囲気は明日の戦いに繋がる雰囲気だったように筆者には感じられた。とにかく渡辺監督代行が仰る通り、今日の初勝利にはそれほどの意味はない。大事なのは明日も勝って3連戦を2勝1敗で終えることだ。

とにかく2勝1敗以上のペースで勝っていけば、8月までには負け越しもなくなり、9月にCS争いに加われるようにもなる。だからこそ今日勝っただけで喜ぶことは許されず、最低限明日勝たなければ今日の勝利も意味をなすことはない。そして明日はルーキー武内夏暉投手が先発マウンドに登る。武内投手の場合はこれまで通り淡々と自分のボールを投げ続ければ、炭谷銀仁朗捕手が必ず勝利へと導いてくれるはずだ。だからこそ明日も先発左腕の快投に大きな期待を寄せたい。

関連記事

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
🐦 筆者カズのTwitter(現X)

Latest Articles - 最新記事