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2024年6月12日公開

女神2人が見守る中、西武打線を甦らせたのは栗山巧選手の試合前の言葉だった

埼玉西武ライオンズ vs 広島東洋カープ/2回戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9 R H E
Carp 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 0
Lions 0 0 0 0 5 0 0 0 0 5 7 1

継投○隅田知一郎
勝利投手隅田知一郎 4勝5敗0S 3.18
失策隅田知一郎(1)

埼玉西武ライオンズvs広島東洋カープ2回戦ハイライト

貧打に苦しむライオンズ打線を甦らせたのは栗山巧選手の一言だった

4月30日の試合後、中村剛也選手は選手を集めて緊急ミーティングを開き、「ピッチャーと対戦できていない。形ばかりにこだわって四球を取ろうとかばかりで、相手からしたら怖さが全然ない」と語った。そして今日の試合前の声出しで自ら名乗り出たのは栗山巧選手だった。

栗山選手はそこで「勝ち負けや結果にびびっていたら良いプレーできないよ。勝つか負けるかはゲームセットになるまで分からないんだから、それまでは自分たちのプレーにしっかり集中してやろう。俺が来てからまだ1回も勝ってないよ。俺はずっと気にしているよ」と、若手選手の緊張を解きほぐすような冗談も交えながら、消極的なプレーが続いていた若手選手たちを鼓舞した。

中村選手が緊急ミーティングを招集した翌日からライオンズは3連勝し、そして今日栗山選手が選手を鼓舞するとライオンズは1イニングで5点を奪う猛攻で連敗を8で止めた。やはり困った時のベテラン選手だ。生え抜きとしてライオンズでプレーし続けている彼らだからこそ、その時の状況に応じた的を射た言葉を発することができる。

ちなみに栗山選手は今月4日に一軍復帰したわけだが、そこから初勝利まで一週間以上を要してしまった。しかしそれでも今日の1勝は大きかったと思うし、ライオンズが息を吹き返すには十分な切っ掛けとなる1勝となるのではないだろうか。しかも打ち崩した相手は一軍半レベルではなく、23イニングス連続無失点中で、前回点を失ったのは5月22日だったという森下投手だ。

森下投手はルーキーイヤーから二桁勝利を達成するなど、カープ栄光の背番号18番を背負うエース格の投手だ。そのピッチャーからライオンズは5回に6安打を集中させて一気に5点を奪った。しかもこの回の攻撃で非常に好感を持てたのは、昨日までのようにコースに逆らって引っ張りにいくようなバッティングではなく、コースに逆らわずに打ったヒットを5本集めた点だ。

左手首を負傷した佐藤龍世選手の代打としてこの回最初のヒットを放った滝澤夏央選手も、高めやや外寄りのボールに逆らわずにレフト前に転がしていった。7球粘ってのヒットだったことも森下投手に与えたダメージを大きくした。

元山飛優選手

だが犠打と内野ゴロで二死三塁となってしまい、ツーアウトになってしまったことで「また得点ならずか」、という気持ちに筆者もなってしまった。しかしそれは昨日までのライオンズで、今日のライオンズはまるで昨日までのチームとは別物であるかのようだった。二死三塁で打席に入った元山飛優選手は、昨日の試合ではエラーをして懲罰交代をさせられていた。その元山選手が真ん中低めのカットボールを上手くセンターへと弾き返し、これが実にライオンズでは36イニングス振りのタイムリーヒットとなった。

懲罰交代となった昨日の試合、元山選手はそこで落ち込んでしまうのではなく、交代となった直後からベンチで大声を出してチームをサポートし続けた。その姿はパ・リーグTVにも映し出されており、渡辺久信監督代行も当然それに気付いていた。だからこそ渡辺監督代行は今日のスタメン発表時、「今日はお前が頑張れ」とグータッチをしって元山選手をグラウンドに送り出していた。それにより今日の元山選手はいつも以上に意気に感じグラウンドに立っていた。

このような人心掌握術は渡辺監督代行特有のやり方で、松井稼頭央前監督時代には見られなかったことだ。もちろん人には得手不得手があるわけだが、このように力強い言葉で選手を奮い立たせるのが上手いのが渡辺久信という監督だ。元山選手は渡辺久信GMがトレードで獲得して活躍する機会を与えられた選手であり、そのような経緯もあって今日の元山選手はいつも以上に燃えていた。

チーム36イニングス振りのタイムリーヒットを放った際には一塁塁上で雄叫びを挙げ、試合後にも、今日の声出しに名乗り出ていた栗山選手を引き合いに、「ああいうすごい偉大な方がお話しされると締まった試合になる」としみじみとコメントしていた。この元山選手がまたオープン戦の時のような元気を取り戻してくれれば、ライオンズ打線は今後ますます繋がっていくだろう。

今日のビッグイニングは源田壮亮主将の送りバントが生み出した

さて、今日の5回に関しては褒め称えるべきはヒットを打った選手たちだけではない。先頭の滝澤選手が出塁した後、1球でしっかりと送りバントを決めた源田壮亮主将も評価すべきだろう。ここ最近のライオンズにおいては、ヒットで出る走者というのは非常に貴重な存在だった。その貴重な走者を確実に二塁に送る犠打というのは、いつも以上に力が入りやすいし、失敗もしやすくなる。だが源田主将は見事1球で犠打を決めて見せた。

セイバーメトリクス的には犠打は有効な戦術ではないと言われることも多い。実際メジャーリーグでは犠打を多用するチームはほとんどない。だが筆者個人としては犠打は得点力を上げるためには有効な戦術だと考えている。ただしそれはファーストストライクの1球で犠打を決めた場合に限る。

犠打を決めたとしても、1〜2球ミスをしたあとだと実は流れが良くなることはないのだが、犠打を1球でしっかりと決められた場合は流れが良くなることが多いのだ。そしてその良い流れを源田主将は1球で決める犠打で作って見せた。これは何てことない送りバントに見えるようでも、実は5点を叩き出すためには効果的な犠打だったと言える。

昨日の試合では進塁打さえ打てず、最後の打者としてアウトになった際にはヘッドスライディングした後、悔しくてすぐには立ち上がれなかったのほどの源田主将だったが、今日の試合で1安打、1犠打と、バッティングでもしっかりとチームに貢献して見せた。それでも打率は.234にとどまっているため、源田主将に関してはしばくらは七番九番あたりで楽に打たせてあげるのが良いのかもしれない。

昨日までのライオンズであれば、二死となった時点で得点する気配はほぼ0になっていた。だが今日のライオンズは、今季まだ2点以上奪われたことがなかった森下投手から、二死から5安打を放ち、打者一巡の猛攻を見せた。二死三塁から九番元山選手がセンター前ヒット、一番長谷川信哉選手もセンター前ヒットで続き、二番西川愛也選手は三塁打、栗山選手が四球で歩いた後は中村剛也選手が投手ゴロを打つも激走して内野安打にし、さらには好調陽川尚将選手もセンター前ヒットで続いた。

確かに5回の森下投手のボールはやや甘いコースが多かったかなとも思えたが、しかしそれを見逃さず、結果に臆することなくバットを振り抜いて6安打を集中させたライオンズ打線は、本当に見事だったと思う。欲を言えば6〜8回がノーヒットに終わっているため、ここであと1〜2安打出ていればもっと良かったが、だが今日作ったビッグイニングは、明日以降にも繋がる良い内容の攻撃だった。

5点の援護を受けてマダックスを達成した隅田知一郎投手

今日ライオンズは良い形で勝つことができた。打線は好投手から5点を奪い、投げては先発の隅田知一郎投手がマダックス(100球以下での完封勝利)を達成した。今日の隅田投手からは果敢に攻めていく姿勢が見られ、それによってストレートが走っていた分チェンジアップも効果的に落ちていた。

隅田投手は時々置きにいくようなストレートを見せてしまうのだが、それをやってしまっている日はほぼ確実に先制点を奪われ敗戦投手になっている。これはルーキーイヤーから、減っているとは言え変わってはいない。しかし今日の隅田投手はしっかりと腕を振ってストレートを投げ込み、ほとんど常時ストライク先行でどんどん打者を追い込んでいった。

そして追い込まれてから投げられる隅田投手のチェンジアップを打つのは非常に難しい。特に普段隅田投手と対戦することのないカープ打線の場合、今日のようにストレートが走っていて攻めのピッチングをしている時の隅田投手のチェンジアップを見極めるのは本当に難しかったはずだ。

その証拠に今日のカープ打線の多くの打者が、ストレートのタイミングでチェンジアップを空振りしていた。つまり隅田投手がしっかりと腕を振って投げていたため、チェンジアップを投げた時でも「ストレートが来る」と打者が感じていたということだ。これこそが勝てる投手が見せる姿であり、隅田投手にしても今日のような攻めのピッチングを続けていければ、開幕ローテ二番手投手の名に相応しい活躍を今後は見せていくことができるだろう。

先週末、渡辺監督代行は「甲子園には魔物がいると言いますが、女神はいませんでしたね」と、コメントしていた。しかし今日のベルーナドームでは猪狩ともかさん、新川優愛さんという二人の女神がライオンズを応援してくれていた。女神が二人もいたのだから、今日ライオンズが勝てたことはまったく不思議ではない。だが明日からは、女神が現地にいなくても勝っていかなければならないのだ。

栗山選手は昨日の敗戦後、「明日どういう姿を見せるかが大事」というコメントをしていた。本当に栗山選手の言葉通りだと思う。今日一つ勝っただけで安心することはできないし、選手たちも満足してはいられない。なぜならライオンズはまだ、5位バファローズとの間に9.5ゲーム差もあり、首位ホークスとは20.5ゲーム差もあるのだから。

しかし幸運なことにまだ84試合も残っている。逆襲を見せるのに遅すぎることはないし、ここからしっかり勝っていけばまだまだAクラス入りできる可能性も残っている。そのためにも大切なのが先発投手がとにかく簡単に先制点を与えないことだ。点を取られたとしてもそれが先制点でなければ、攻撃が後手後手になることもない。今日は勝てた。だが本当に大事なのは今日勝った明日の試合だ。だからこそ明日、ボー・タカハシ投手には決してカープに先制点を与えない攻めのピッチングを見せてもらいたい!

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THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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