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2024年9月22日公開

リリーフ転向で迷走状態に陥りらしさを失ってしまった松本航投手

リリーフ転向に強いモチベーションを見出せなかった松本航投手

松本航投手

今日の試合の松本航投手の敗因は明確だ。一言で言えば、まったく攻めのピッチングをすることができていなかった。内角に投げなかったわけではない。もちろん内角に行ったボールも多少はあったわけだが、全体的に見るとほとんど外角一辺倒とも言える逃げのピッチングになっていた。

そして筆者が考えるに、やはり松本投手は今季は先発〜リリーフ〜先発とポジションが目まぐるしく変わったことにより、明らかに細かな部分でフォームを崩してしまっている。そのためかつて先発時に投げていた質の高いボールを、リリーフ時や先発に戻った後はほとんど投げられずにいる。

これが平良海馬投手のようにリリーフ慣れしている投手の場合は、先発とリリーフをシーズン中にスイッチしてもそれほど大きな影響はない。だがプロ入り後は僅か4試合しかリリーフを経験していなかった松本投手の場合、リリーフに回ったことでフォームに力みが生じてしまい、球速表示がある程度出ている時でさえもストレートに伸びが感じられなくなってしまった。

松本投手の好調時には先発でも150km/h以上のストレートを連発することがあったのだが、今日の最速は147km/hだったと思う。そしてストレートの中には140km/hしか出ていないボールさえもあった。松本投手は高めに伸びのあるボールを投げてフライアウトを稼ぐタイプのピッチャーなのだが、さすがにストレートの球速がアベレージ144km/h程度では、高めに投げても打者には簡単に外野まで運ばれてしまう。

そして今日のピッチングに関しては上述の通りほぼ外角一辺倒だったため、どんなに良いボールを投げても合わされてしまう。例えば今日はストライクからボールになる、外角低めの良いフォークボールを投げた場面もあったのだが、打者が避けたくなるような内角の球がなかったため、打者も臆することなく踏み込むことができ、その良いボールを簡単にヒットにされてしまった。

そのフォークボールを打たれた場面に関しては、マリーンズの藤岡選手に対し内角にも投げていた。だがその内角のボールは打者に腰を引かせるような厳しいボールではなく、死球の怖さもなく難なく見逃せるボールばかりだったのだ。もしこの時カットボールが内角高めの打者の顔に一番近い場所に投げられていれば、ヒットを打たれたフォークボールで空振り三振を取れていた可能性もあった。

やはり松本投手はリリーフから先発に戻って以来、と言うよりはリリーフに回って以来、ずっとらしくないピッチングが続いている。その理由も恐らくは甲斐野央投手の代役としてリリーフに回されたことが響いているのだろう。もしこの時かつて先発だった豊田清投手が、「守護神を任せられるのはお前しかいない」、と説得されてリリーフに回った時のように、「8回はお前にしか任せられない」、という強い言葉を受けてリリーフに回っていたならば、もっと状況は変わっていたのではないだろうか。

リリーフをしている時の松本投手を見ていても、どこを目指してマウンドに登っているのかが感じられない登板が続いていた。いわゆる迷走状態だ。もちろん松本投手としてはひたすらチームのためを思って慣れないリリーフというポジションで投げてくれていたのだと思う。だが外から冷静にその姿を見続けていると、そこには先発時の生き生きとした松本投手の姿はなかった。

なおリリーフ転向の打診は豊田清投手コーチから受けていた。だがこの時もし、豊田コーチではなく松井稼頭央監督から直々に強い言葉で説得を受けていれば、松本投手ももっとリリーフに対し燃えるものを感じられたのではないだろうか。例えば豊田清投手がリリーフに回った際は、まさに当時の東尾監督が監督室に豊田投手を呼び、力のこもった言葉で豊田投手を説得した時のように。

選手たちにモチベーションを与える術に長けていた東尾修監督

豊田投手自身は最初は先発にこだわりを見せていたものの、東尾監督の言葉を聞いているうちにリリーフに対して強いモチベーションを感じ始めた。それがあったからこそ豊田投手はライオンズの絶対的守護神として西武ドームの9回のマウンドに君臨し続けることができたのだ。

東尾修監督は、とにかく人心掌握が非常に巧い監督だった。選手個々のモチベーションの度合いを敏感に感じ取り、高いモチベーションを感じられていない選手に対し、言葉巧みにモチベーションを与えていた。例えば松井稼頭央選手がスイッチヒッターに転向した時、高木大成選手が捕手から一塁手にコンバートした時、さらに言えばドラフト会議前まではベイスターズ入りを強く要望していた松坂大輔投手の心をライオンズ入りに向けて傾かせた時などだ。彼らを説得し、同時に強いモチベーションを与えたのはまさに東尾修監督だった。

東尾監督と比較すると、松井監督は明らかに口下手だ。口下手と言うと大変失礼に当たるわけだが、あくまでも東尾監督と比べた場合は、口数の少ない松井監督はどうしても口下手に見えてしまう。もちろん必要なことはしっかりと選手に伝えていたとは思うのだが、モチベーションという面までケアできていたのかと問われれば、少なくとも筆者にはできているようには見えなかった。

例えばある日の敗れた試合後の会見で、記者が「ミスを犯した○○選手についてどう思われますか?」というような質問をした。だが松井監督は、「そういうことは選手に直接言います」、とだけ答え、記者に対しややリスペクトに欠ける受け答えをしていた。このようなことも松井監督の更迭とは無関係ではなかったはずなのだが、このような言葉を残しているのだから、やはり選手に対しては伝えるべきことは伝えていたのだろう。

だがこの場でも幾度となく書いてきたように、野球というのはゴルフ同様に「メンタル競技」と呼ばれるほど、活躍するためには安定したメンタルや高いモチベーションが必要になってくる。少し大袈裟に話すと、例えば仮に技術レベルはトップクラスではなかったとしても、上手くモチベーションを高めてあげられると奇跡などなくしても実力以上の活躍ができてしまうのが野球というスポーツなのだ。

例えばそれまで6年連続最下位だった大洋ホエールズ(現在横浜DeNAベイスターズ)を率いることになったかつての西鉄ライオンズの名将三原脩監督は、1960年の就任1年目、当時近鉄バファローで監督と揉めてすっかり干されて腐っていた、元祖曲者鈴木武選手をシーズン中に獲得し、その選手に上手くモチベーションを与えて甦らせ、その年のホエールズ日本一の大立役者へと仕立て上げた。

このように監督が巧みに選手たちにモチベーションを与えてあげることができれば、選手たちは面白いように上手く回ってくれるようになるのだ。だがそれができなかったのが松井稼頭央監督だった。そう考えるとやはり、口数が少なく発信力に乏しい人物は監督には不向きと見るべきなのかもしれない。

選手に持ち味を発揮させる術に長けている渡辺久信監督代行

一方松井監督を引き継いだ渡辺久信監督代行も、選手の心に火をつけるのが比較的巧い監督だ。例えば2008年に日本一を達成した際に注目された「寛容力」というのは、1960年にホエールズを日本一に導いた際の三原監督の手法に少し似ている。

三原監督は各選手たちに、スター選手になることは求めなかった。その代わり、自分たちが最も得意とする分野をとにかく更に伸ばすことだけを求めた。つまり短所は捨てて長所を伸ばすことだけに絞ったやり方だ。そしてそれぞれが苦手な分野でミスをしても、監督から責められることはほとんどなかった。そのため選手たちは自分たちがやるべきことを、やるべき場面でしっかりと集中してこなすことができたのだ。

中村剛也選手がまだ駆け出しだった頃、渡辺久信監督は、いくら三振してもいいから時々ホームランを打ってくれ、とだけ中村選手に対し注文を出した。その結果、それまでは三振を恐れて中途半端なスウィングを見せることが多かった中村選手が三振することを恐れなくなり、その結果積極的にバットを振ることを思い出すことができ、あっという間にプロ野球を代表するホームランバッターへと成長していった。

もしこの時渡辺監督が中村選手に対し、「もう少し三振を減らして欲しい」と注文していたならば、今の大打者中村剛也が誕生することはなかっただろう。そしてもし渡辺監督が片岡易之選手に対し、「お前は足が速いんだからもっと転がして内野安打を稼いだ方がいい」と言っていたならば、片岡選手のバッティングはスケールダウンしてしまい、その結果打てるヒットも打てなくなり、4年連続盗塁王にもなれていなかったかもしれない。

現在のチーム成績から渡辺久信監督の手腕を疑問視するライオンズファンも多いようだが、1992年の森祇晶監督以降でリーグ優勝と日本シリーズ制覇を同一シーズンで成し遂げているのは唯一渡辺久信監督だけだ。そして2008〜2013年に監督を務めた際は、2009年に一度4位に低迷した以外は、他の5シーズンはすべてライオンズをAクラス入りさせている。

今ライオンズに必要なのは戦う集団を作り直すことだ。スマートにそつなく野球をする選手ではなく、気迫で相手を上回れる選手を育てることが急務だと言える。それは単純に、同じような実力であれば気迫やメンタルが上回った方が勝負を制するからだ。

例えば今必要なのはオシャレな髪型をしたスタイリッシュな選手ではなく、死球を受けて無意識でガッツポーズできるような選手や、敬遠気味の四球に対しムッとした表情を見せられる選手だ。そしてそのような選手を誕生させるのに、渡辺久信という男以上に相応しい人物など他にはいない。

そして渡辺久信監督代行が来季、前政権時に育て上げた選手たちを今度はコーチとして招聘し戦うことができれば、そのコーチたちが再び渡辺監督を胴上げするために、死ぬ気で若獅子たちを戦える選手へと育て上げてくれるはずだ。だからこそ今は下手に監督を再び代えるよりも、渡辺久信監督を続投させて来季以降も戦って行くべきだと筆者は考えているのである。

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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