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2024年5月 2日公開

27本塁打を打った時の中島裕之選手のようになれる可能性も秘める若林楽人選手

寡黙な中村剛也選手が自ら野手陣を招集して自ら言葉を発した夜

若林楽人選手

2024年4月30日、ライオンズはファイターズに1-2で敗れていた。そしてその試合終了後、中村剛也選手が野手陣を集めてミーティングを開いたと言う。

比較的寡黙な中村選手が自らの声かけでミーティングを開いたというのは、筆者はこれまでほとんど聞いたことがなかった。中村選手はどちらかと言えば言葉よりも背中でチームを引っ張っていくタイプであるわけだが、しかしその中村選手が自ら選手ミーティングを招集したということは、それだけチームが危機に瀕していたと言うことなのだろう。

若林楽人選手のコメントによれば、中村選手は「ピッチャーと対戦できていない。形ばかりにこだわって四球を取ろうとかばかりで、相手からしたら怖さが全然ない」と野手陣を前に語ったらしい。

しかし本来それを選手たちに伝えるのは打撃コーチの役割だ。つまり中村選手も、ここまでは打撃コーチの職域を侵さないようにとしていながらも、さすがにそれではもうダメだと感じ、自らが野手陣に伝えることにしたのだろう。

筆者も正直なところ、これまで不調時における嶋重宣打撃コーチと高山久打撃コーチの存在感をあまり感じていなかった。もちろんチームが打撃不振に苦しむ中、まったく手をこまねいていたというわけではないと思うのだが、しかし打撃不振を打開するために実際にどんな対策をしているのかが、ファンに伝わってくることが全くなかった。

そしてこのミーティングの翌日、ライオンズは若林楽人選手の見事なサヨナラホームランで5月を勝利から始めることができた。もちろんまだまだ打線が復調したと言うことはできないわけだが、しかし少なくとも若林選手に関してはこれまでの不振を吹っ切ることができたようだ。

27本塁打を打った時の中島裕之選手とほとんど同じ体格の若林楽人選手

以前のコラムでも書いた通り、若林選手の走力が注目され始めたのはルーキーイヤーの春季キャンプからだった。50mで首脳陣の予想以上のタイムをマークし、その走力は12球団でもトップクラスのタイムだった。そこから若林選手はリードオフマンとして期待されるようになるわけだが、しかし実はライオンズは、若林選手をリードオフマン候補としてドラフト指名したわけではなかった。

若林選手は大学四年時の秋シーズンで、10試合で4本塁打をマークする強打者振りを見せており、ライオンズはその打力に魅せられてドラフト指名しているのだ。つまり元々はリードオフマンと言うよりは、将来的にはクリーンナップ候補として指名していたということだ。

若林選手の魅力は何と言っても思い切りのあるバッティングだ。だが一番打者を任されたことにより、「初球は振るべきではない」「粘ってでるだけ多くの球数を相手投手に投げさせる」などの制約が発生してしまい、本来の思い切りの良さがすっかり影を潜めてしまった。それが今季スタート時の、二軍に落ちるまでのノーヒット時の状態だったわけだが、しかし中村選手の言葉により若林選手は思い切りの良さを取り戻すことができた。

さて、近年は細身の選手はあまりホームラン打者として見てもらえないことが多くなった。ホームラン打者と言えば体が大きくて腕も太くて、いかにもパワーがありそうな選手がそう呼ばれることが多い。だがホームランを打つ技術さえあれば丸太のような腕を持っていなくてもホームランを打つことは可能だ。

現に黄金時代の清原和博選手も、秋山幸二選手も、どちらかと言えばスリムな選手だった。それでも常人には打てない本数のホームランを打てたのは、ホームランを打つための技術がしっかりと身についていたからだ。逆に近年体が大きくて高校時代には記録を塗り替えるようなホームラン数を打ってきた選手でも、プロレベルでの技術が身につかなければ、プロでホームランを量産することはできない。

若林選手はもちろん自他共に認めるホームラン打者とは言えないだろう。しかしギャップヒッターとして、二塁打三塁打の延長として25〜30本程度のホームランを打てるようになる可能性は高いと言える。

例えば2004年、七番打者として27本塁打放った年の中島裕之選手は、身長180cm/体重77kg、BMI=23.8だった。そして今季の若林選手は177cm/75kg、BMI=23.9と、当時の中島選手と大差ない体格だと言える。

2004年の27本塁打は中島選手としてはキャリアハイとなってしまったわけだが、しかしその後は、ホームラン数こそ減ったものの、ほとんど毎年3割を打つ打者へと進化していった。若林選手もこの時の中島選手のように成長していく可能性が高いのではないだろうか。

まだまだ伸び代に溢れている若林楽人選手

若林選手の技術で筆者が注目しているのは、低めに逃げていく変化球を振る際でも上半身をしっかりと反対打席側に傾けていき、ほとんどヘッドを下げずにその低めのボールを打てるという点だ。もちろんすべてがすべてではなく、他の打者同様に崩されてしまうことも多々あるわけだが、しかし自分のスウィングができている時の若林選手のその技術力の高さは注目すべきだろう。

若林選手は、中村剛也選手のように打球にバックスピンをかけてホームランを打つタイプではない。そのため中村選手のように40本以上のホームランを打てるようにはならないだろう。だが打率.280〜.290程度で、25〜30本塁打程度打てる打者にはなれるはずだ。

そして「怪我後」の新しい左膝に動きがさらに馴染んでいけば、将来的にはトリプルスリーを目指せるタイプの選手にさえなれるだろう。だがそのためには球種やコースによる対応力を今後は身につけていく必要がある。

例えば若林選手は、変化球をやや前で捌いて左中間に持っていくことは上手いのだから、打率を上げるためにはやや速めのボールをセンターから逆方向に打つことも覚えていかなければならない。今はまだ思い切りの良さだけで左中間を狙っていってもいいとは思うのだが、今後主力打者になった時のことを考えると、やはりコースに逆らわないバッティングを覚えていくこともプロでは必要になるはずだ。

ふた昔前の野球教則本を開くと、「六番は意外性がある打者を入れると良い」と書いてあることが多い。そういう意味では意外性のあるパンチ力を秘める若林選手は、まさに六番を打つのに打って付けの選手だと言える。

並外れたかつての走力を考えると若林選手にはリードオフマンとしての活躍も期待したかったわけだが、しかし元々は強打者としてドラフト指名されたことを考えると、本来持つ若林選手の良さを引き出すためには制限の少ない六番で思い切りのあるバッティングを続けさせた方が、本人のためにもチームのためにも良いのかもしれない。

そして明日からはベルーナドームにホークスを迎えての3連戦となる。ここまでライオンズはホークスに対し6戦6敗となっているわけだが、明日からのカードでは3戦3勝するつもりで選手たちには頑張ってもらいたい。そして若林選手が覚醒し始めたことをきっかけに、他の選手たちにもそろそろ目覚めてもらい、獅子の牙と爪を剥き出しにして鷹に襲い掛かってもらいたい!

THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者/カズ
筆者 2010年1月よりパーソナルコーチとしてプロ野球選手のサポートを行うプロフェッショナルコーチ。 選手の怪我のリスクを正確に分析し、怪我をしないフォームに変える動作改善指導が特に好評。 このブログではプロコーチ目線でライオンズについて冷静に、そして愛を込めて書いていきます!
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