2022年9月20日公開
ようやくライオンズの連敗が7で止まり、それを止めたのはエース髙橋光成投手だった。イーグルス打線に8安打を許しながらも8回1失点、しかも無四球による130球の熱投だった。コロナ禍以降ライオンズの投手がここまでの球数を投げるのは非常に珍しいわけだが、エースである上はやはりリリーフ陣を休ませて勝つことが求められる。
今日の試合で髙橋投手は2年連続で11勝となった。来週はおそらくベルーナドームでのホークス戦に先発すると思うのだが、ここで何としてもキャリアハイとなる12勝目を挙げてもらいたい。それが全西武ファンの願いだ。
筆者は常々、今のライオンズには絶対的エースはいないと書いているのだが、その考えは今も変わらない。髙橋投手は確かに現状エースだと思うのだが、例えば他球団の山本由伸投手や、千賀滉大投手のような絶対的エースとは呼べない。絶対的エースというのは、エース対決で負けない投手のことを言う。
昨季の髙橋投手は防御率3.78で11勝9敗、今季はここまで2.24で11勝8敗となっている。11勝を挙げているとはいえ、貯金は3つだけだ。今季山本由伸投手が14勝5敗と、一人で貯金を9つも作っているのとは対照的だ。
もちろん髙橋投手は昨季と比べると飛躍的に防御率が改善し、今季は好投しながらも援護に恵まれずに勝ち星を得られなかったこともあった。だがそれでも、もし髙橋投手が相手投手よりも先に失点していなければ負け数は増えない。
髙橋投手が今背負う番号は13番だ。これはかつての絶対的エースであった西口文也投手が背負っていた番号で、髙橋投手自身西口現2軍監督に師事し技術を磨いていった。だがそれでもまだ絶対的エースの域には至れずにいる。
現時点、ライオンズの最後の絶対的エースは涌井秀章投手だ。岸孝之投手ももちろん素晴らしいエースピッチャーだったわけだが、しかし筆者は岸投手を絶対的エースと見ることはなかった。涌井投手が抜けた後は岸投手がエースとなったわけだが、やはり髙橋投手同様、絶対的エースの域には至らないままイーグルスへと移籍していった。
髙橋投手が絶対的エースになれない理由は、まだボールの力で勝負をしに行くことが多いからだと筆者は考えている。髙橋投手は、平良海馬投手同様にラプソードを個人的に所有している選手なのだが、果たしてその数値をどのように活かしているのだろうか。
ラプソードという測定器を使うと球質を数値化させることができるわけだが、ラプソードはその数値を見て「今日のボールは良い」「今日のボールはあまり良くない」というふうに使ってもあまり意味はない。それはもちろん髙橋投手だって十分分かっているはずだ。
ラプソードで球質を数値化させ、その数値を改善・向上させるための動作改善まで考えていかなければ、ラプソードを本当の意味で活かし切ることはできないのだ。
ラプソードのようなデジタル機器を活用することは素晴らしいことだが、それよりも重要なのは動作改善法だ。ラプソードを持っていても動作改善法が分からなければ意味がないし、ラプソードを持っていなくても動作改善法がしっかりしていれば素晴らしいボールを投げられるようにもなる。ちなみにダルビッシュ投手もラプソードを所有しているようだ。
ラプソードは80万円ほどするのだが、最近はこのラプソードを個人的に所有している高校生もいるほどだ。80万円と言えばちょっとした中古車が買えてしまう価格なわけだが、そのような高価なアイテムを高校球児が持っているということに筆者はとても驚いてしまった。
さて、髙橋投手に話を戻すと、来季以降本当に求められるのは負けないピッチングだと思う。例えば極端な話、15勝したとしても15敗してしまっては仕方がない。絶対的エースへと進化するためには、15勝5敗くらいの数字を残し、一人で貯金を10個くらい作れるくらいになる必要がある。
涌井秀章投手も2009年に16勝6敗という数字を残し、一人で貯金を10個も作った。松坂大輔投手もメジャー移籍前年の2006年に17勝5敗で貯金12、西口文也投手もその前年の2005年に同じく17勝5敗という数字を挙げている。ちなみに岸孝之投手は2014年に13勝4敗の貯金9が最多だった。
ライオンズ最後の絶対的エース涌井秀章投手は、2013年シーズンを最後にライオンズを去ってしまった。涌井投手自身はライオンズへの愛着を感じていたのだが、2014年から監督に復帰した伊原春樹監督の余計な一言のせいでマリーンズへと移籍してしまう。表向きは先発の場を求めての移籍だったわけだが、ライオンズに残留すればもちろんエースとして先発復帰できていたはずだった。
渡辺久信監督の後任に伊原春樹監督を選んでしまったのは、西武球団の完全な失策だった。この監督起用によりまず涌井投手がライオンズを去り、チームも日に日に崩壊していってしまう。ちなみに伊原監督は2002〜2003年に監督になった際にも選手との間に確執を生み出し、その結果デニー友利投手がトレードを志願してライオンズを去ってしまった。
絶対的エースであった涌井秀章投手が在籍していた頃は、たまにBクラスになったとしても2年連続でBクラスに沈むことはなかった。しかし絶対的エースが不在となったあとはどうだろうか。ライオンズは涌井投手が去った2014年からいきなり3年連続でBクラスに沈んでしまった。その間涌井投手はと言うと、マリーンズで最多勝を獲得している。
もし伊原監督が余計な一言で涌井投手を傷つけず、涌井投手がライオンズに残留していたならば、2014年から3年連続Bクラスに沈むなどという屈辱を味わうこともなかっただろう。野球に「たられば」はないとはよく言うが、しかしそれはプレーに関しての話だ。伊原監督の心ない言葉に関しては、本人に自覚があれば100%防げるものだったのだ。
2017年から辻発彦監督が指揮を執り始めると山賊打線が覚醒し出し、2018〜2019年はリーグ連覇を達成した。だが涌井・岸両投手を失ってしまったライオンズの投手陣は崩壊状態で、チーム防御率はダントツの最下位というのが指定席となっていた。
ペナントレースに関しては打ち勝って制してきたわけだが、しかし短期決戦となるとそうは行かない。ライオンズはリーグ連覇を成し遂げるも、CSはホームで戦いながらホークスに手も足も出せずに敗退してしまう。
2011年のCSで、涌井秀章投手と杉内俊哉投手が投げ合った試合を覚えている方は多いと思う。この試合は、筆者が最も好きな一戦だ。熾烈な投手戦で、涌井投手も杉内投手も降板時は悔しさのあまり、人目も憚らずに涙を流している。彼らはそれほどエースとしての誇りを持ってマウンドに立っていたのだ。
だが2018〜2019年にCSでホークスに敗れた時、ライオンズナインの表情は悔しさでいっぱいと言うよりは、ただ呆然としているだけのように見えた。「ペナントレースでは勝てたのに、どうしてCSではこんな簡単に負けちゃったんだろう?」と考えてでもいそうな表情に見えた。少なくとも筆者の目にはそう映っていた。
それが今のライオンズの弱さに繋がっている。今ライオンズが敗れている姿を見ていても、やはり変わらず「どうして勝てないんだろう?」と思っているように筆者には見えてしまうのだ。
しかしもし涌井秀章投手がいたならそうではなかっただろう。きっと普段は見せないような闘志を隠しもせずマウンドに立ち、ナインを背中で鼓舞したはずだ。松坂大輔投手なら圧倒的なパフォーマンスで全打者から三振を奪いにいくような姿勢を見せたはずだ。そして西口文也投手ならば、味方が例え1点も取れなかったとしても、援護を信じて9回でも10回でもノーヒットノーランを続けるくらいの気迫を見せていたはずだ。
だが今のライオンズ投手陣からはそのような姿がまったく見られないのだ。髙橋投手にしても話題になるのは髪型ばかりで、まだまだ圧倒的なパフォーマンスを見せられるようなレベルには至っていない。
今のライオンズからはエース道のようなものがなくなってしまったように筆者には感じられるのだが、これを読んでくださっている皆様は果たしてどう感じられているのだろうか。
髙橋光成投手が絶対的エースへと進化すれば西武は負けなくなる!〜後編〜